二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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一通りの作戦

翌朝、俺はティアと雫が目覚める前に元の体に戻った。

なんだか、すごい不満気な表情になっていたが・・・。

 

「・・・なぁ、なんでそんなに不機嫌なんだ?」

「・・・べつに」

「・・・なんでもないわよ」

「? そうか・・・」

 

どっからどう見ても何かある感じだが、これ以上探るのは地雷な気がするから、ここでは放っておくことにしようか。

微妙な雰囲気のまま訓練場に向かうと、そこにはすでに選抜された指揮官が並んでいた。その中には、ガハルドの姿もある。

ハジメのアーティファクトもすでにいくつか用意されている。

すると、ガハルドは俺に気づいて振り向いた。

 

「おい、峯坂ツルギ。朝っぱらから女2人を侍らせながら来るとは、いい度胸をしてるなぁ、あ?」

「で?それが?それで終わりなら、ちょっと引っ込んでろ」

「・・・ちっ。ちっとも悪びれねぇのかよ」

 

雫をとられたことが気に入らないのか、単純にマウントをとろうとしているのか、ガハルドがやけに喧嘩腰で突っかかってくるが、そこまで強気になってくることはない。立場を理解しているようでなによりだ。

ちなみに、雫をついてこさせるようにしているのは、わざとだ。ガハルドが事あるごとに雫にちょっかいを出すようになるくらいなら、最初からこうした方がいい。

 

「さて、自己紹介は姫さんと先生から話があっただろうから省くが、俺たちでこのアーティファクトの使い方を教えていく。あんたらに教えた後は、他の兵士への指導も手伝ってもらうから、そのつもりで頼む」

 

俺の説明に、ここに集まっている指揮官たちが眉をひそめた。

ありゃ?もしかして、本当は話が通ってなかったやつか?いや、俺のことはすでに話したって、姫さんから直接聞いた。

となると、あれか。単純に俺のことが気にくわないないのか、それとも口調の方が気に入らないのか。

まぁ、王都侵攻の時は助けたとはいえ、指揮官と言えど兵士の人間にはエヒトの真実は聞かされていないし、それ以前に国王と教皇の射殺未遂もあるから、当然と言えば当然かもしれない。

だが、この事態でそういう風に思われるのは、ちょっと良くないんだけどな・・・。

どうしたものかと思っていると、意外にもガハルドの方から助け舟が出た。

 

「あぁ、俺の方はそれで構わねぇ。だから、さっさとそいつらの使い方ってのを教えろ」

 

人間族の迎撃軍の中では、まず間違いなく最強であろうガハルドから俺を受け入れると公言したおかげで、他の指揮官も内心はともかく、表面上は俺の言うことを聞く気になった。

やはり、弱肉強食の国のトップに立つ人間なだけあって、兵士の扱い方はかなり上手い。

それなら、今回はガハルドには存分に頑張ってもらうことにしようか。

 

「わかった。なら、まずはこいつからだな」

 

そう言って、俺は並べられている武器の中から、1本のバスターソードを持ち出した。

 

「見た目は、ただの長剣にしか見えないが?」

「見た目はな。こいつは“高速振動剣”ってやつでな。ギミックを起動させると、刃が高速で振動するようになっている」

 

そう言って、俺は刃を縦に立てて、ギミックを発動させた。

よく見れば、刃が細かく振動していることがわかる。

 

「なるほどな。だが、これに何の意味があるってんだ?」

「単純に、切れ味が上がる。試しに、そうだな・・・ティア、そこの石レンガを持ってきてくれ」

「はいはい」

 

ティアに指示を出すと、返事をしながら近くにあった石レンガを持ってきてくれた。

ちなみに、なぜティアに頼んだのかと言えば、その石レンガは普通なら持ち上げることはできない、そりに乗せてようやく運べるかどうかというサイズのものだからだ。おそらく、筋力トレーニング目的のものだろう。

その軽く数百㎏はあるだろう石レンガを、ティアはひょいと持ち上げて俺の前に置いた。

 

「・・・さて、この石レンガだが、こいつを一般兵士が斬れると思うか?」

「・・・無理だな。ちっせえのを斬れる奴ならそれなりにいるかもしれんが、このサイズだと俺やメルドでもやっとってところだ」

「だろうな。だが、こいつを使えば・・・」

 

言いながら、俺はバスターソードを石レンガの上に軽く乗せる。

それだけで、長剣はバターのように石レンガを切り裂き、すぐに刃が地面に着いた。

これには、ガハルドたちも驚きをあらわにする。

 

「こんな感じで、簡単に切れる」

「・・・お前は、何も特別なことはしていないんだな?」

「あぁ、ただ乗せただけだ。なんなら、自分で試してみるか?」

 

そう言って、俺は高速振動剣をガハルドに投げ渡した。

 

「うぉい!危ねぇぞ!」

「今はギミックを起動させていないから大丈夫だ。刃自体は、丸太程度なら斬れる、少し薄い普通の刃でしかない。ギミックは、柄についているボタンでオンオフができる」

「丸太を斬り落とせる時点で、普通ではないがな・・・」

 

辟易しながらも、ガハルドはギミックを起動させて、刃を軽く石レンガに乗せた。当然、先ほどと同じように石レンガをスライスしていく。

それで、このバスターソードが本物だと理解したのか、ガハルドは興奮気味に眺める。

 

「お~、こいつはいいな!おい、峯坂ツルギ!」

「やらんぞ」

「・・・まだ何も言ってないだろうが」

「てめぇが何を考えているかくらい、すぐにわかるっての」

 

もっと言えば、ハジメ製のアーティファクトは今回の戦いが終わったらすべて廃棄する予定なのだが、それはまだ言わない方がいいだろう。

ここで変に拗ねられても困る。

あまりこの話題を続けないためにも、俺は機能の説明を再開した。

 

「あー、そうそう。この振動なんだが、魔力そのものにも効果が及んでいる。使徒に攻撃するときは、このギミックを忘れずに起動させるようにしろよ」

「なぜだ?」

「使徒には、分解っつー固有魔法がある。こいつの前には、並みの魔法も武器も通用しない。なにせ、物体・魔法どちらにも関わらず、触れた瞬間に塵にされちまうからな。だが、他の鎧なんかもそうなんだが、これらのアーティファクトなら、それを軽減することができる。お前らが使徒と戦う場合、これは必須だ」

「なるほどなぁ・・・ちなみに、参考までにどんなもんか、聞かせてもらっても?」

「多分だが、王都侵攻の時と同じままなら、単騎で王都の結界も余裕でぶち抜くぞ。ほぼ無限に出てくることも考えたら、出てくる数によっては3枚同時抜きもあり得るか」

 

俺の推測に、さすがのガハルドも顔を引きつらせる。

改めて、自分たちが戦う敵の規格外さを認識したようだ。

 

「当然、問答無用で虐殺されないように策は練るし、相応のアーティファクトを用意する。まぁ、その辺りを考えるのはハジメだけどな。もちろん、俺も協力する。それじゃ、こいつの使い方の説明に戻るが、コツとしては斬るときには、できるだけ力を抜いたほうがいい。ハジメが作ったアーティファクトだからちょっとやそっとじゃ壊れないだろうが、それでも消耗は早くなるだろう」

「そいつはわかった。なら、二刀流なんかにするのもありなのか?」

「できるっちゃできるが、今回はやめた方がいいだろう。使徒のステータスは最低でもすべて1万オーバーだ。弱体化の目途も立っているとはいえ、それでも数千はくだらない。受け止められることが前提なら、両手で持った方がいい」

「なるほどな・・・逆に言えば、確実に斬る自信があるなら片手持ちでも構わないってことだな?」

「自信があるならな。まぁ、その辺りのことはおいおい決めていこう。次に、こいつだな」

 

次に、俺は黒い鎧と兜を持ち上げた。

 

「今から説明する4つは身に付けるだけでいいから簡単な説明で済ませるが、鎧には常時発動型の“金剛”と、触れた瞬間に発動する“衝撃変換”が付与されている。どっちも防御に特化した機能になっているから、簡単には壊されないし、死にもしない。こっちの兜には“瞬光”が付与されていて、知覚を拡大させる。これで使徒の動きが目で追えなくなるようなことは少なくなるはずだ」

 

それだけ言って、鎧と兜を適当な場所にポイっと放り投げた。

どっちも丈夫にできてるし、機能も切ってあるから問題ないだろ。

次に、籠手と脚甲を取り出した。

 

「こっちの籠手には“豪腕”が、こっちの脚甲には“豪脚”が付与されている。今説明した5つのアーティファクトが、()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

「あ?基本装備?」

「あぁ、基本装備」

 

なに同じことを繰り返しているんだ?今になって頭か耳がおかしくなった、なんてことはないだろう。

そう思っていたが、ガハルドや他の面々が気になっていたのは、そこではないらしい。

 

「っつーことは、あれか?今説明したやつよりもすごいのが、まだ控えているってことか?」

「そういうことになるな」

 

とはいえ、俺もまだハジメから構想を聞かされたくらいでしかないから、詳しいことはわからないが。

それに、

 

「まさかとは思うが、この程度の装備で倒せる相手と思っていたのか?まだまだあるぞ」

「それは、いつもあいつが使っていた兵器の類か?」

「もちろん、それもある。だが、それとは別に切り札も用意しているらしいぞ」

「・・・てめぇらがどんなものを用意すんのか、むしろ怖くなってきたぞ」

 

なんだ、むしろ喜ぶべきだと思うが?あいつが私情を多分に混じらせて、かつ今回限りとはいえ、見ず知らずの大勢にアーティファクトを大盤振る舞いするなんて、前にも後にもないことだぞ?

 

「ちなみに、試作品ならいくつかここにあるぞ」

 

そう言って、俺はポケットから1つの赤い宝珠のついたペンダントを取り出した。

 

「こいつも、ゆくゆくは全員に配備する予定だ」

「そいつは、どういうアーティファクトなんだ?」

「名前は“ラスト・ゼーレ”。平たく言えば、装着者に“限界突破・覇潰”を付与させる」

「「「はぁ!?」」」「「えっ!?」」

 

俺の簡単な説明に、ガハルドたちだけでなくティアと雫も素っ頓狂な声を上げた。

そう言えば、これはまだ2人に見せてなかったな。

だが、そこまで驚くことか?

 

「おいおいおい、“限界突破”はただでさえ使えるやつが限られる、希少なスキルだぞ?」

「ハジメも“限界突破”は使える。だったら付与できてもおかしくはないだろう」

「それはそうだが、そうじゃなくてだな!」

「仮にも神様と戦争しようっていうんだ。限界の1つや2つ超えてもらわなきゃ困るぞ?」

 

そう言うと、ガハルドは一応は引き下がって落ち着いた。

そこに、雫が別の疑問を投げかけてきた。

 

「でも、ただでさえ“限界突破”は負荷が大きくて、なおかつ時間制限も付いてるわ。それが“覇潰”ならなおさらよ。いくら使徒が相手とはいえ、リスクが大きすぎないかしら?」

 

雫の言うことも、最もではある。

それに、身に付けるのは一般人がほとんどだ。消耗はハジメよりも激しいだろう。

もちろん、その辺りのことも考慮されている。

 

「こいつの特徴は、いきなり“覇潰”の強化を施すわけじゃなくて、段階を踏まえて強化されていくってところだ。もちろん、活動限界はあるが、体になじんでから強化する分、普通よりも長い時間もつぞ」

「・・・本当に、何でもありだな」

 

本当は、もっとやばいやつもあるが、それはガハルドたちには関係ないことだ。ここで言うことでもない。

 

「他にも支給するやつはあるが、ここにいる面子が使うのはこんなもんだ。他のアーティファクトは、使うやつに重点的に教える」

「それは構わん。が、どういうやつなのかは俺たちにも説明しろ。概要くらいは知っておきたい」

 

ガハルドの言うことも尤もだ。あまり関係ないとはいえ、教えて損はないだろう。

 

「まず、愛ちゃん先生に持ってもらうアーティファクト、“豊穣神の加護(ブレス・オブ・フレイヤ)”は、愛ちゃん先生を信仰する人物を強化する、というのが原形だったが、ハジメの改良で、信仰していなくても対になるアーティファクトを持つことで、信仰によって得られた力を全員に等しく分配できるようにしたそうだ。理論上は、“ラスト・ゼーレ”の効果時間を倍にできるらしい」

 

詳しい仕組みは知らないが、ノリノリで改造したハジメの姿が容易に想像できる。

たぶん、愛ちゃん先生も結果的にノリノリで使うことになるんだろうな。

 

「それと、“覇堕の聖歌”と王都の結界をさらに強化する。だが、結界の方は戦場よりも聖歌隊を重視させる。“覇堕の聖歌”があって初めて、使徒と対等に渡り合えるからな。代わりと言ってはなんだが、戦場には重力場の結界を使う。飛んでいる奴らを叩き落せば、戦いやすくはなるだろう。アンチマテリアルライフルやミサイルなんかも、大量に配備する」

「・・・ここまで説明してもらってなんだが、本当に用意できるのか?たしかに、今も大量に送られているが、数十万も用意できるとは・・・」

「それができる魔法はある。ハジメなら、そいつのアーティファクトを作れるだろう」

 

そう、再生魔法は時間に干渉できる魔法だ。

そして、香織はすべての神代魔法を取得していないものの、適性の高さと努力の甲斐があって、限定的にだがその領域に達している。

おそらく、時間を引き延ばす空間を作るくらいならできるはずだ。

それでもギリギリになるだろうが、ハジメなら間に合うはずだ。

 

「そういうわけだから、アーティファクトに関しては問題ない。そもそも、ハジメにしかできないことだしな」

「それもそうだな。それでだが・・・あいつが神域ってところに突っ込む作戦は聞いているのか?」

 

おそらく、これが最後の質問だろう。

その問いに、俺は軽く首を横に振った。

 

「それは知らん。そもそも俺は、地上に残るからな。ユエ奪還に動くハジメたちとバカ勇者と中村を連れ戻す雫たちに関しては、俺は関与するつもりはない。なにせ、俺の方も大仕事になるだろうからな」

 

俺の体を使った使徒の創造。

どれくらいのスペックになるのか、まったく想像がつかないが、神の力に目覚めており、なおかつ1日も時間をかけている以上、最低でもアルヴと同等以上と考えていいだろう。

だったら、他に世話を焼きっぱなしにしている暇はない。

俺の方も、できるだけコンディションを仕上げなければ。

 

「そういうわけだ。ここからお前らも忙しくなるぞ。まずは、こいつらの使い方をマスターするところから始めようか。最終的には、最低でもハウリアと同じくらい戦えるようになってもらうからな」

 

そう締めくくると、なぜか微妙な顔をされた。特にガハルドに。

ティアと雫からも、「大丈夫なの?」みたいな視線を向けられている。

別に、変な指導をするつもりはないからな?ハジメと一緒にするなよ?




えー、盛大に遅くなってしまってすみません。
モチベーションが上がらなくて、文章もネタも思いつかずにゲームとか他作品の執筆をやってたら、ずるずるとここまで引っ張っちゃいました。
免許も無事取得し終えたので、少しはペースを元に戻すように頑張ります。

後ですね、かな~り今さらなんですが、“峯坂剣”だと、名前が漢字でいろいろとめんどくさいことになってきたので、いっそ“峯坂ツルギ”に変えようかと検討しています。
それについてのコメントもいただけたら幸いです。

最後に、アンケートをこれで締め切らせていただきます。
ちゃんと、原作パクリにならないように、内容を考えていかなければ・・・。

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