二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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苦労人にはなりたくない

『峯坂さん、このスナイパーライフルなんですが、反動が強くて・・・』

『峯坂さん、防壁の配備場所は、このような設計で問題ないですか?』

『峯坂様、各隊との打ち合わせが終わりました。新しく入ってきたメイドたちも、問題なく動けます』

『峯坂!こっちの物資が足りなくなってきたから、こっちに多めに回してほしいんだが!』

『峯坂君!新しい訓練場の場所を確保しておきたいんだけど、どこにすれば・・・』

 

準備を始めてから2日目も後半に差し掛かり、ハジメの作ったアーティファクトが配備されてくると、様々な場所で質問やら指示の催促やらが多くなった。

中には、明らかに俺に聞くようなことじゃないものも混じっている。

だが、

 

「反動は抑え込むんじゃなくて、受け止めるようにしろ。肩で支えるようにして構えるんだ」

「それだと複数人でスナイパーライフルを構えるには少し狭い。出入口付近を階段状にしてスペースを確保できるか?」

「わかった。なら、余裕があるなら連携の確認もしておいてくれ。この戦争、少数精鋭であるお前たちに大きな役割がある。できるだけ動きの自由度を確保するんだ」

「それに関しては今、姫さんに連絡する。すぐに調整されるはずだ。それまでは余計な消耗は抑えるようにしろ」

「訓練の場所は戦場の外周を簡単に整地して確保してくれ。そこなら、多少荒れようが関係ない」

 

そのすべての返答を、同時にこなす。

八咫烏越しなら、魔力のパターンで言葉を送って指示をだすことができる。そのラインを維持するのは骨が折れるが、慣れてしまいさえすれば後は楽だ。

だが、

 

「つーか、俺の配分、やけに多くないか?専門外のことまで聞かれるんだが」

 

物資のこととか、どう考えても姫さんに聞くことだと思うが。

これは、あれか?体のいい無線通信機みたいになってないか?

そう思ったが、ティアと雫から呆れ混じりで説明された。

 

「ツルギの八咫烏が近くにあるからでしょ。今の八咫烏の数、たしか200を超えていたわよね?」

「それに、ツルギの説明とか指示ってすごい的確だから、他の人に聞くよりもわかりやすくていいんだって」

 

なんと、そうだったのか。的確な指示もここまで来たら、いっそ余計なものなのかもしれない。

俺としては、口出しは最低限に抑えたいのが本音なんだがな・・・めんどくさいし・・・。

 

「ていうか、肝心の姫さんはなにをしているんだ?」

「いろいろと話し合いをしているそうよ」

「規模が大きくなって、いろいろとすり合わせが大変らしいわ」

 

そういえば、竜人族と妖狐族を除いた戦力が、ついさっき集まったところだったな。

俺は現場での指示・指導に専念していたから詳しいことは知らないが、カムとアルフレリックはすでに現地入りしてて、各トップが立ち会った上で姫さんと愛ちゃん先生で避難の誘導も済ませているらしい。

やっぱ、王国のお姫様と豊穣の女神のダブル演説は効果絶大だったようで、避難に関しては特に問題なさそうだと聞いた。

・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()

あれ、完全に洗脳されてる側の人間だったよ。絶対参考にならないやつだったよ。間違いなく周りからドン引きされるような光景だったに違いないよ。

 

「ツルギ?どうかしたの?」

「さっきから遠い目をしてるけど・・・」

「いや、なんでもない」

 

思わずその光景を想像して、ティアと雫に心配をかけてしまった。

頭を振って浮かんだ光景を振り払ったところで、姫さんの方から八咫烏を通じて通信が入ってきた。

 

『ツルギさん。兵士の配備について相談したいことがあるので、こちらに来てもらっても構いませんか?』

「了解した。転移でそっちに向かう」

 

野村と王国や帝国の職人の尽力あって、作戦本部はすでに出来上がっており、外壁についても十分な猶予を持って間に合うくらいには進んでいる。

だから、姫さんを始めとした各トップもそこで作戦会議をしている。

ぶっちゃけ、本体が行かなくても問題ないのだが、軍としての体面を考えれば行った方がいいだろう。

 

「そういうわけだから、行くぞ」

 

俺は2人に声をかけてから、あらかじめ設置しておいたマーカーを基点にしてゲートを開いた。

ゲートをくぐれば、姫さんと愛ちゃん先生に、ガハルドやランズィ、ビィズ、イルワ、バルス、キャサリンがいた・・・のだが、

 

「・・・ちょっと待ってくれ。なんでクリスタベルがいるんだ?」

 

なぜか、ブルックの服屋の店主であるクリスタベルまでいた。

いや、戦力として見ていなかったわけではないが、それにしてもどうしてここにいるんだ?

その答えは、姫さんからもたらされた。

 

「えっとですね、クリスタベルさんには漢女の方々の部隊長を務めていただくことになっているので、作戦の概要を報せるために・・・」

 

そういえば、ハジメとユエの影響で漢女が大量生産されたときに、そのほとんどがクリスタベルによって改z・・・鍛えられているらしいという話を、ハジメから聞いたっけな。

さらに、マリアベル自身も元々金ランクの冒険者であり、ハジメが遭遇したマリアベルと名乗った漢女も現役の金ランクの冒険者を瞬殺したらしいし・・・。

 

「・・・クリスタベル。集まった漢女の人数と1人当たりの実力は?」

「そうねぇん。集まってくれたのは50人ちょっとで、最低でも金ランクの冒険者と同じくらいの実力は保証するわよん♥」

 

これが50人か・・・まぁ、優秀な戦力が増えたくらいに考えておこう。

それ以上は深く考えない方がいいかもしれない。

俺も親父の部下で少しは慣れているが、大勢を目の前にしたらどうなるかはわからん。免疫のないハジメは特に。

 

「それで、姫さん。俺に相談したいことってのは?」

「はい。いくつかありますが、まずはそのクリスタベルさんたちのことについてです」

 

姫さん曰く、戦力であることに違いはないのだが、正直自分たちでは持て余し気味だから、俺に決めてほしいということだった。

まぁ、気持ちはわからんでもない。さっきからチラッチラッとあちこちからクリスタベルに視線が向けられているし。

だからと言って、俺が扱いに慣れているみたいに思われるのは心外なんだがな・・・。

 

「そうだな・・・クリスタベルたちは、できるだけ均等に、薄く配備しておこう。等間隔に距離をとって。人数も、3~4人程度でいい」

「それでいいのですか?数としては少ない気もしますが・・・」

「クリスタベルの話が本当なら、ハジメのアーティファクトによる強化も込みで、それで十分だ。それに・・・こう言ってはなんだが、5人以上は味方がもたない」

 

後半の部分は、クリスタベルに聞こえないように姫さんの耳もとに囁くようにして言った。

なにせ、ゴリゴリの筋肉がきわどいフリフリのワンピースを身に纏って動き回るのだ。この非常事態でなければ、並の人間では1分も直視できないと考えていいだろう。

そして、クリスタベルら漢女たちは、その自覚はあってもすべてを許容しているわけではないから、この理由はあまり大っぴらに言わない方がいい。

姫さんもなんとなく察したようで、「あっ、はい、そうですね・・・」と若干クリスタベルから目を逸らしながら同意した。

他のトップたちも、俺の言いたいことがなんとなくわかったのか、戦慄の表情を浮かべながらも頷いた。

とりあえず、漢女についてはこれで終わりにして、次の話に移る。

 

「こほんっ。それで次ですが、亜人族たちの配備です」

「そうか・・・そういえば、カムとアルフレリックは?」

「すでに呼んでいますので、すぐに来ると思います」

 

姫さんがそう言った直後、扉が開く音が響いた。

そちらを振り向けば、カムとアルフレリックが案内役の兵士に連れられてやってきたところだった。

その時に、ちらっと兵士の顔色を見たが、姫さんの近衛騎士だったようで、あまり嫌悪の表情は浮かべていなかった。

 

「来たか、カム、アルフレリック」

「お久しぶりです、兄貴」

「久しいな、峯坂殿」

 

俺が挨拶をすると、カムは敬礼しながら、アルフレリックは頭を下げながら返してきた。

 

「そういえば、2人は国民の避難を始めた時には、すでにいたんだったか?」

「えぇ。顔合わせという名目もあって、同胞よりも先に現地入りしやした」

「兵士たちも、今日の時点ですでに全員集まっている。細かい配備については、今から決めるということで呼ばれた」

「なるほどな」

 

亜人族は人間族と比べれば数は少ないとはいえ、この前の奴隷解放によって増えた分も含めて、かなりの数がいる。そのため、移動にそれなりの時間を要してしまったのだろう。

そんなことを考えていると、ふと思い出したかのようにガハルドが俺に尋ねてきた。

 

「そういやぁ、国民の避難で思い出したんだが、お前さんたちは豊穣の女神とリリアーナ姫にどういう頼み方をしたんだ?」

「あ?どういう・・・」

 

どうしたそんなことを聞くのかと思ったが、ここに来る前の不安を思い出して言葉を止めてしまった。

よく見れば、ガハルドはもちろん、カムと当事者の2人以外はまるで嫌なものを見たかのような顔をしていた。

カムは不敵な笑みを浮かべて俺に親指を立てており、姫さんと愛ちゃん先生は軽く目を逸らしていた。

 

「・・・ずいぶんとひどかったようだな?」

「皇帝になってから、今までで一番ドン引きしたぜ」

 

やっぱ、後でハジメにも責任をとらせようか。

とりあえず、ガハルドの問いに答えるとするならば、

 

「それは、あれだ。愛ちゃん先生の呼び方と姫さんの態度で察してくれ」

「あん?まさか、そういうことなのか?」

 

「マジか?」といった様子のガハルドに、俺は頷きを返す。ティアと雫も、ガハルドに視線を向けられて気まずげに目を逸らした。

ガハルドも2人の様子と愛ちゃん先生からたまに漏れる『ハジメ君』呼び、そして姫さんの以前の照れ照れした態度から察したようで、納得した様子で下がった。

そして、視線の集中砲火を浴びた姫さんは、再び咳ばらいをしてから本題に入った。

 

「それでですね、亜人族の兵士は人間族の兵士から分かれるように配備すると決めてはいるのですが、ハウリア族の方々をどうするかを決めかねておりまして。なので、私たちより彼らのことを理解している峯坂さんに相談しようという話になったのです」

 

なるほど、言われてみればたしかにそうだ。この世界の(知識的な意味での)一般人に、このヒャッハー兎共の扱いを丸投げさせるというのは苦というものだろう。

ぶっちゃければ、俺とハジメもだいぶ持て余し気味になっているが、姫さんたちよりはまだマシな方だ。

とりあえず、ここは姫さんの頼みを聞いておくことにしよう。

 

「そうだな・・・ハウリア族は、漢女たちの穴を埋めるような形でバラバラに配置しよう。ハウリアに限れば、今さら人間族の兵士から何かしら思われたところで動揺する玉じゃないし。とはいえ、念のため亜人族への差別が少なめなところに配備できるようにはしておこう。それと、ハウリアの何人かは狙撃部隊だな。狙撃部隊の選抜はカムに任せる」

「了解しやした」

 

ハウリア族には、パル君を始めとした優秀な狙撃手が何人かいる。その辺りはカムたちに任せれば問題ないだろう。

もちろん、細かい部分は姫さんたちの方に丸投げするが。

とりあえず、ハウリア族に関しての相談はこんなもんでいいだろう。

そして、姫さんがここからが本番だと言わんばかりに、深呼吸をしてから口を開いた。

 

「そして、最後の相談なのですが・・・」

「なんだ?」

「その・・・『義妹結社(ソウルシスターズ)』のことで・・・」

「知らん」

「そこをなんとか!」

「だから知らん。あのバカ共は潰れたままにしておけばいいだろう」

 

この一大事に後ろから刺されたくないから重力魔法で死なない程度に潰して生かさず殺さずにしているのに、なんで自分から面倒ごとに首を突っ込まにゃならんのだ。

だが、姫さんの意志も固いようで、必死に食い下がってくる。

 

「峯坂さんに苦労をかけさせてしまうのはわかっているのですが、やはり今は少しでも戦力が欲しいので・・・」

「そうは言うがな、姫さん。俺だけならともかく、ガハルドも狙われることになると思うぞ?前も今も雫に求婚したからってことで敵認定されているからな。それに、あいつらが暴走して一番苦労するのは現騎士団長殿だと思うんだが?」

「あ・・・」

 

そう、問題なのは、もはや俺1人だけの問題ではないということだ。

今、義妹どものヘイトは俺に集中しているが、だからと言ってガハルドにヘイトが向かないという保証はないし、俺にしろガハルドにしろ、暴走した義妹共の抑止に一番苦労するのは現騎士団長であるクゼリーだ。

 

「この一大事に、騎士団長がいらん苦労かけて疲れた姿を晒す方が、士気に直結する分、よっぽど問題だからな。それに戦力については、義妹共の分は香織とリヒトで十分穴埋めできるだろう。だから、あのまま大人しくしてもらった方が好都合だ」

「それは、そうでしょうが・・・」

 

俺の言い分に姫さんも言い返せないでいる。

これでこの話は終わりだと切り上げようとしたが、横から雫がくいッと俺の袖を引っ張ってきた。

 

「なんだ?」

「ねぇ・・・リリィのお願い、聞いてあげて?」

「え?」

「雫?」

 

姫さんも意外だったのか、目を丸くして雫の方を見ている。

というか、雫も義妹共と無関係どころか、むしろ中心人物だというのに。

とはいえ、なんとなく想像はついている。

おそらく、いつもの世話焼きだろうな。ここでばっさり切り捨てるようなら、最初から義妹なんて生まれていない。

 

「・・・本気か?」

「えぇ。ツルギの言ったことも尤もだけど、やっぱり戦える人は1人でも多い方がいいでしょ?私がなんとかするから・・・」

 

申し訳なさそうにしながらも、断固として引くつもりがないのは明らかだ。

やはり、この根っからの苦労人気質は変わりようもないし、変わるはずがないか・・・。

 

「はぁ、わかったわかった。だが、俺も行かせてもらう」

「え?」

「氷雪洞窟であぁ言った手前、雫1人にやらせるわけにはいかねぇよ。まぁ、なるようになればいいさ」

「ツルギ・・・」

 

俺の言葉に、雫は瞳を潤ませて腕にしがみついてきた。ティアもそんな雫の頭をよしよししている。

恨めしそうな視線を向けてくるガハルドを睨んで黙らせながら、この後のことについて考えておく。

とはいえ・・・俺は苦労人になるつもりはないんだがなぁ・・・。良くも悪くも、雫の影響を受けてしまったか。

だが、自分で言ったことの責任は取るとしよう。




え~、「できるだけ元の速さに戻したい」とか言っておきながら、休憩期間を更新してトップクラスに投稿が遅くなって申し訳ありません。
途中あたりから、執筆しようにもまったく指が進まなくて、かれこれ1週間以上は手つけずな状態が続き、手をつけようとしても文章が思い浮かばなくて100文字とか200文字で中断という流れが続きました。
最終的に、もっと書きやすい形にしようとして、途中まで書き上げた分の3分の2を書き直すことにして、ようやく投稿できるようになった、ということです。
結果として、前話からちょっとごり押し気味の展開になってしまいましたが、ご愛敬ということで。

ぶっちゃけた話、最近になって鬱病の症状がひどくなってきて、思うように指が動かない(いい文が思い浮かばない。特に長い文)のが現状なんですよね。
もう片方の方は1話当たりの文字数が本作と比べてもかなり少ないので投稿を続けていますが、もう5000文字も難しくなってきてしまって・・・。
とりあえず、次からは無理のない範囲で、できるだけ1~2週間以内に投稿できるように頑張ります。

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