俺とティアがハジメとユエの旅に同行することになった後、ハジメの境遇をシアも交えて話したり、それにシアが号泣してまた旅の同行を願い出るもきつめの言葉で返されたりしながら、俺たちはハルツィナ樹海にたどり着いた。
「それでは、ハジメ殿、ユエ殿、ツルギ殿、ティア殿。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。お二人を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下でよろしいのですな?」
「あぁ、聞いた限りじゃあ、そこが本当の大迷宮と関係していそうだからな」
「まぁ、言われてみればそうだな」
ハジメの説明に感心しながら、俺はハルツィナ樹海の方を見渡した。
外から見た限りはただの樹海だが、中に入ると霧に覆われており、それが亜人族や樹海の魔物以外の感覚を狂わせるという。
ちなみに、シアの父親でハウリア族の族長であるカムやハジメのいう“大樹”とは“ウーアアルト”と呼ばれており、ハルツィナ樹海の深部に根差している。カムが言うには、亜人族たちからは神聖視されており、滅多に近づかないらしい。
「ねぇ、どうして樹海が大迷宮じゃないってわかるの?」
そこに、いまいち理由がわからなかったらしいティアが俺に尋ねてきた。
「考えてみろ。本当の大迷宮ってのは、神代魔法を手に入れるための試練だ。この樹海がその大迷宮なら、亜人族なら行き来し放題だろ」
「あ、そうね」
「そもそも、奈落の魔物がうろつくような魔境なら、亜人族が住めるわけもないからな。なら、どこか別の場所に迷宮の入り口があると考えた方が自然だ」
横からハジメの説明も加わり、ティアも納得顔を見せる。
ちなみに、今のティアの姿は髪色はそのままに、肌色や耳の形を俺たちに似せてある。
カムたちハウリア族は帝国兵から助けてくれたこともあって割かし受け入れられているが、他の亜人族はそうもいかないだろうし、町に入るにしてもいろいろと不便だ。
そこで、ハジメにピアスの変装のアーティファクトを用意してもらって、それをティアに付けさせている。
このアーティファクトは、魔力を流している間は、例えばシアが付けたとすると、ウサミミが見えなくなるだけでなく感触も誤魔化せるという優れものだ。
これで問題なく町に行けるだろう。
あと、俺も黒塗りの鞘に納められた刀をハジメから譲り受けている。
どうやらライセン大峡谷にも七大迷宮の一つがあるらしく、その攻略のためにハジメに刀がないか尋ねたところ、鍛練の一環で作ったという黒い刀(命名:黒刀)をもらった。
この世界で一番硬い鉱石を圧縮して作ったらしく、素人が適当に振っても鉄を斬り裂ける切れ味をもつとのこと。また、魔力を直接流すことで風の刃(風刃の固有魔法)を発生させたり、鞘には針を仕込んでいて、こちらも魔力を直接流すことで射出できるとのことだ。
刀身はこちらも漆黒で、小烏造り(刃紋がない、僅かな反りがある、先端から少しの間が両刃になっているなどの特徴を持つ刀)になっている。
余談だが、これもハジメが漫画を元に作った武器で、俺はもらったあとにその事で再びハジメを弄り倒した。
「ハジメ殿、できる限り気配は消しもらえますかな。大樹は神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々はお尋ね者なので、見つかると厄介です」
「ああ、俺とユエはある程度隠密行動はできるが・・・」
「俺は大丈夫だ」
「わたしも大丈夫」
ハジメは若干不安気に俺たちの方を見たが、問題ないと答える。
俺は武術を習った関係で気配の操作もできるし、ティアも曲りなりに戦闘訓練をしているからできるようだ。
そして、それぞれ俺たちは気配を隠していくが、
「ッ!?これは、また・・・ハジメ殿、ツルギ殿、できればユエ殿とティア殿くらいにしてもらえますかな?」
「ん?こんなもんか?」
「っと、こんな感じか?」
「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな」
カムたち兎人族は全体的にスペックが低い分、聴覚による索敵と隠密行動にすぐれているが、俺とハジメの隠密はレベルが高すぎて兎人族たちでも見失いそうになったようだ。
「ていうか、ハジメ。いったいどういうからくりだ?俺でも見失いかけたんだが・・・」
「“気配遮断”の技能だ。それを言えば、ツルギの方がおかしいぞ?なんで技能もないのにそこまで気配を消せるんだよ・・・」
俺とハジメは、互いに互いの性能のおかしさを指摘するが、視線を感じて振り返ってみるとユエがジト目で俺の方を見ていた。
「ユエ、どうかしたか?」
「・・・べつに」
俺の方からユエに問いかけても、そっけなく返されるだけだった。
そんなこんなで俺たちは大樹に向かったが、
「“風刃”」
その道中、隠れて襲おうとした猿の魔物にユエが風魔法の“風刃”で細切れにした。あからさまにオーバーキルだ。
どこか、いら立ちをぶつけるようにも見えたが・・・あ(察し)。
「・・・もしかして、気配操作で俺に負けたのが悔しかったのか?」
「・・・・・・べつに」
完全にふてくされていた。どうやら当たりみたいだ。
一応、他にも魔物はいたが、そのすべてをユエが“風刃”で必要以上に切り刻んでいった。
「完全に悔しがってるなぁ・・・」
「もしかしたら、自分の立場がとられそうになってると思ってるんじゃないか?ほら、お前って魔法も体術も両方レベル高い、っていうかチートレベルだし」
「あぁ・・・」
俺が遠い目をしながらつぶやくと、横からハジメが理由を言ってきた。
言われてみれば、俺は魔力や魔耐のステータス値こそユエより低いが、技術はおそらく同等で固有魔法持ち。しかも、ユエと違って接近戦もこなせる。
ユエがふてくされるのには十分な理由だ。
それからも、何度か襲ってきた魔物をユエ(ときどきティア)がすべて倒していき、数時間ほど歩いた。
すると、今度は魔物ではない気配が無数に俺たちの周りに現れた。
数もそうだが、殺気も連携の練度も魔物の比ではない。
もっと言えば、カムが苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべ、シアにいたっては顔を青ざめている。
それで、俺たちは相手が何者なのかを察した。どう考えても面倒な予感しかしない。
「お前たち、なぜ人間といる!種族と族名を名乗れ!」
声がしたと思うと、正面から筋骨隆々の虎人族の亜人がやってきた。
格好を見る限り、兵士だろう。
「あ、あの、私たちは・・・」
カムがなんとか誤魔化そうとするが、その前に虎人族の兵士の視線が俺たちの後ろのシアに向けられ、その目が大きく見開かれた。
「白い髪の兎人族、だと?貴様ら、報告のあったハウリア族か!亜人族の面汚し共め!長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは!反逆罪だ!もはや弁明など聞く必要もない!全員この場で処刑する! 総員か・・・」
「ぎゃあっ!」
「ぐあっ!?」
虎人族の兵士が攻撃命令をかけようとした瞬間、周りからぞくぞくと悲鳴が聞こえてきた。
そのことに、虎人族の兵士が混乱したように視線をあちこちへと向ける。
「ハジメ、とりあえずこんな感じでいいか?」
「まぁ、俺が撃ってもよかったんだが、べつにこれでもいいか」
俺とハジメは何でもないように会話するが、俺の手には淡紅色の魔法陣が展開されていて(魔法陣の色は俺の魔力の色になる。淡紅色が俺の魔力の色)、そこから無数の鎖が飛び出ている。
それを思い切り引っ張ると、周りから続々と鎖で拘束された兵士たちが引きずられてきた。
「な、な・・・」
「とりあえず、これで全員か?言っておくが、これを力ずくで解除する、なんてことはできないからな」
俺が放った鎖は剣製魔法で作られたもので、光魔法の“縛光鎖”よりも早く、強度と操作性を増して使用できる。
虎人族の兵士はうろたえながらも再び武器を構えるが、それよりも早くハジメがドンナーを抜いて頬を掠めるようにして撃つ。
さらに、魔力を直接放出して相手に物理的な圧力を加える“威圧”を放って動きを止めさせる。
「今の攻撃は、刹那の間に数十発単位で連射出来る。お前らのいるところはすでに俺のキルゾーンだ」
「な、なっ、詠唱が・・・」
虎人族の兵士は未知の攻撃に怯え、半ば戦意を失っていた。
「お前たちに勝ち目はない。それでも襲い掛かるというなら、俺たちは容赦なくお前たちを殺す」
「だが、この場を引くというのなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか」
俺とハジメの宣言に虎人族の兵士は武器を落としそうになるが、なんとか気を取り直したようで俺たちに問いかけてくる。
「・・・その前に、一つ聞きたい。何が目的だ?」
これに、ハジメが俺たちの目的と、大樹が怪しいということを告げる。
これを聞いた虎人族の兵士は思案顔になるが、すぐに結論をだした。
「・・・お前たちが同胞に危害を加えないというなら、大樹に行くくらいはかまわない、と俺は判断する。だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。長老方なら、お前たちの話を知っておられるかもしれないからな」
「わかった。なら、はやく伝令を出してくれ。それくらいは待つ。もちろん、今言ったことを曲解なく伝えろよ?」
「無論だ。だから、ひとまずは同胞たちを開放してもらおう」
「ほらよ、これでいいか?」
俺が鎖を解除すると、虎人族の兵士がザムと呼んだ兵士を伝令に向かわせて、ハジメもドンナーをホルスターにしまう。
とりあえず、この場は落ち着いたようだ。
その後、伝令の兵士が来るのを待っている間にユエがハジメにちょっかいを出してシアがそれに参加しようとするもユエが関節技をかけたりするなど、若干カオスなことはあったが、およそ一時間ほどたったところで、伝令の兵士が数人の新たな亜人を連れて戻ってきた。
その中でも、中央にいる金髪の初老の男に目が行く。ティアとも違う、尖った長耳を持っていることから森人族だろう。
その人物の纏う雰囲気は、他の誰とも違う威厳があった。
ということは、おそらく長老なのだろう。
その男が、俺たちの前にでてきた。
「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている」
とりあえずは、これ以上面倒なことにならないのを祈るばかりだ。
* * *
「・・・なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か」
今、俺たちはフェアベルゲンの長老会議に使われる部屋に案内された。
本来ならさっさと大樹のところに行く予定だったが、大樹の周りは樹海よりもさらに深い霧に覆われており、亜人族でも感覚を狂わされてしまうらしい。それが薄くなる周期が10日後になるということで、それまではこの辺りに滞在することになった。
ちなみに、カムはこのことをすっかり忘れており、責任の押し付け合いをした他のハウリア族共々、ユエの“嵐帝”(竜巻を発生させる風属性魔法)で吹き飛ばされた。今は階下の部屋に待機している。
そして、ハジメがオルクス大迷宮の奈落の最下層にある『オスカー・オルクス』の隠れ家で得た情報を伝えていった。
この世界の神の話を聞いたアルフレリックは、とくに顔色を変えたりはしなかった。本人が言うには、「この世界は亜人族にやさしくない、今さらだ」とのことだ。
アルフレリックの話によると、長老衆にのみ伝わる口伝に、七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたら、その者に敵対しない、もし気に入れば好きな場所へと案内させる、というものがあるらしい。
これは、ハルツィナ樹海の大迷宮の創始者である『リューティリス・ハルツィナ』が残したものだそうだ。
その大樹の下にそれぞれの七大迷宮を示す紋章が刻まれた石碑があり、ハジメが示したオスカーの遺品である指輪がそれと合致してたとのことだ。
「つまり、ハジメはその資格を持っていて、仲間である俺たちも同様に扱われる、ということでいいか?」
「そうだ、だが・・・」
今のところ、アルフレリックとの話し合いは主に俺が行っている。理由は簡単で、ハジメが「事情は説明するが、後はめんどいから任せた」などと言ってきたからだ。俺としてはこれくらいなら構わないが。
俺の確認に、アルフレリックが若干難しい顔をしたところで、階下の様子が騒がしくなっていることに気づいた。
俺とハジメがため息を吐きつつも下に向かうと、そこには大柄な熊人族や虎人族、狐人族、翼人族、土人族が剣呑な眼差しでハウリア族を見ていた。
よく見れば、シアやカムの頬が腫れていることから、どうやら一悶着あったらしい。
すると、今度は鋭い眼差しを俺たちとアルフレリックに向けてきた。
その中で、熊人族の男が怒りを押し殺した声で発言してきた。
「アルフレリック。貴様、どういうつもりだ。なぜ、人間を招き入れた?こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど、返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」
熊人族だけでなく、他の亜人族も俺たちをにらみつけてくる、アルフレリックは飄々としたまま受け答えする。
「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」
「何が口伝だ!そんなもの眉唾物ではないか!フェアベルゲン建国以来、一度も実行されたことなどないではないか!」
「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」
「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか!敵対してはならない強者だと!」
「そうだ」
あくまで淡々と返すアルフレリックに、熊人族の男が信じられないと言わんばかりに俺たちをにらみつけてくる。
どうやら彼らも長老衆で、だが口伝に対する認識は違うようだ。
森人族は他の亜人族と比べて長寿(平均200歳ほど、他の亜人族は100歳ほどらしい)なため、その分価値観に差があるようだ。
「ならば、俺が今、この場で確かめて・・・!」
熊人族の男が鼻息荒く俺たちに突っかかろうとしたところで、俺は黒刀を一閃させた。
もちろん、斬ったのは熊人族の男ではなく、その足元の床だ。
「な・・・」
「今の攻撃が見えなかったというなら、やめておけ。俺たちには勝てない。それと、それ以上踏み込んでくるというなら、安全は保証しないぞ」
どうやら今の一閃が見えなかったらしく、熊人族の男はたたらを踏むが、それでも俺たちに向かって突撃してきた。
「ツルギ、俺がやる」
「わかった」
ハジメが俺に声をかけて、一歩前に出た。
熊人族の男が大きく腕を振り上げ、周りがこの後の悲惨な光景を想像して息をのむ。
だが、次の瞬間に起こったありえないことに凍り付いた。
ズドンッ!!
衝撃と共に振り下ろされた拳は、しかしハジメが左手であっさりと受け止めていた。
「温い拳だな。だが、殺意を持って攻撃したんだ。覚悟はできてるだろう?」
そう言って、ハジメは義手に込める魔力を増幅させて力を増す。
熊人族の男は必死に振りほどこうとしているが、ハジメはピクリとも動かない。
ハジメは無言のまま魔力を注ぎ、一気に力を込めた。
すると、バギンッ!という鳴ってはいけない音が、熊人族の男の腕から鳴り響いた。
それでも悲鳴をあげないのは、さすが長老衆ということだろう。
だが、腕を折られた痛みと衝撃で硬直した隙を、ハジメは逃がさない。
「ぶっ飛べ」
正拳突きの要領で引き絞られたハジメの左腕は、“豪腕”の技能と義手に内蔵されているショットシェルの勢いも合わさって放たれ、熊人族の男は吹き飛ばされて壁に激突した。
誰もが言葉を失い硬直している中、ハジメは殺気を宿らせた目で問いかけた。
「で?お前らは俺の敵なのか?」
これに答えられるものは、誰もいなかった。
その後、アルフレリックが取り直したおかげで、なんとかハジメによる蹂躙は避けられた。
だが、場の雰囲気はあまり改善されなかったようで、敵意を向けてくる者もちらほらいた。
ちなみに、先ほどの熊人族の長老であるジンは幸い命に別状はないが、二度と戦えない体になったそうだ。
「で、あんたらはどうしたいんだ?こっちは大樹の下に行きたいだけだから、邪魔をしなければ敵対することもない。だが、亜人族としての意見をひとつにまとめてくれなきゃ、いざって時に
俺の言葉に、長老衆の面々が体をこわばらせる。
その中で、土人族のグゼが苦虫をかみつぶしたような表情で呟いた。
「こちらの仲間を再起不能にさせておいて、第一声がそれか。それで友好的になれるとでも?」
これに対し、俺は呆れるようにした答える。
「何を言ってるんだ?先に手を出してきたのはあの熊人族の男だし、俺もわざわざ忠告までした。そのうえで襲い掛かってきたんだ。再起不能になったのはあいつの自業自得だ」
「き、貴様!ジンはな!ジンは、いつも国のことを思って!」
「それが、初対面の俺たちをいきなり殺しに来ていい理由になるのか?」
「ぐっ、だが、しかし!」
「勘違いするなよ。俺たちが被害者で、ジンってやつが加害者だ。長老衆ってのは罪科の判断も下すんだろう?なら、長老のあんたがそれを履き違えないでくれ」
長老衆というのは、亜人族の中でも力のある種族の長老が集まったもので、長老会議を開くことでフェアベルゲンの取り決めを行ったり、裁判なども行う。
だからこそ、頭の中ではわかっているのだろうが、感情面では納得しきれないらしい。おそらく、ジンとグゼはとくに仲が良かったんだろうが、俺としてはとくに重要なことではない。それは、必要のない感情だ。
「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。彼の言い分は正論だ」
アルフレリックもグゼをなだめ、とりあえずは落ち着いたようでそのまま椅子に座り黙り込んだ。
その後は、他の長老衆もそれぞれ思うところはあるようだが、とりあえずは俺たちを資格者として認めた。
だが、この後のことが問題だ。
「峯坂ツルギ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんたちを口伝の資格者として認める。故に、お前さんと敵対はしないというのが総意だ。可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。しかし・・・」
「絶対じゃない、だろ?」
「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな・・・」
「で?」
アルフレリックの話を聞いても、俺はとくにどうとも思わない。
俺たちは必要なことをしただけで、必要なことをするだけだという意思を視線に乗せる。
アルフレリックもそれを理解したようで、同じく瞳に意思を宿らせて告げる。
「お前さんたちを襲った者を殺さないでほしい」
「殺し合いで手加減をしろと?」
「そうだ。お前さんたちの実力なら問題ないだろう?」
「できるかできないで言えば、できる。だが、するつもりはない。俺たちは、とくにハジメは、そっちの事情に興味はない。それに、手加減して変に図に乗られるのもめんどうだ。お仲間を死なせたくなかったら、そっちが全力で止めてくれ」
ハジメが奈落の底で培った、「敵は殺す」という価値観は根底に染み付いているし、俺もこの世界であれば必要なら殺す。少なくとも、今回の場合は襲ってきた者を殺した方が、後々に襲撃者は減るだろう。
だからこそ、俺たちがアルフレリックの頼みを聞く必要はない。
だが、そこでグゼが口をはさんできた。
「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」
「こっちは、案内はハウリア族にさせるつもりなんだが?」
「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」
グゼの言葉に、シアが必死に寛恕を乞うが、カムはこの決定を受け入れており、グゼも決定事項だとして聞き入れず、俺たちに挑発するようにしてどうするのか問いかけてくる。
これに俺は、ため息をついた。
「はぁ・・・お前ら、揃いもそろってアホかよ」
「な、なんだと!」
俺の言葉にグゼは目を吊り上げるが、それに対してハジメが自分たちの考えを告げる。
「俺たちは、お前らの都合なんか関係ないって言ってるんだ。俺らからこいつらを奪うってことは、結局、俺たちの行く道を阻んでいるのと同じことだろうが」
そう言いながら、ハジメは泣き崩れているシアの頭の上にポンと手を置き、
「俺からこいつらを奪おうってんなら、覚悟を決めろ」
「ハジメさん・・・」
ハジメの言葉に、シアは心を貫かれたようで、顔を赤らめながらハジメを見上げている。
「ま、そういうことだ」
「本気かね?」
「当然だろ」
「フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」
「いらない。もともと、ハウリア族を助ける代わりに大樹に案内させてもらうって約束したからな」
「その約束は、もう果たされているのではないのか?報酬として案内を受けるだけなら、他のものが案内しても変わらないと思うが?」
「何度も言わせるな。大樹に案内するまで身の安全を確保するっていうのが、ハウリア族との約束だ。それを放り出して、途中で案内役を鞍替えするなんて、格好悪いことはしねぇよ」
俺やハジメは、目的のためなら躊躇なく人を殺す。
であればこそ、殺し合い以外の仁義くらいは守る。
それこそが、人殺しになっても外道にならないために、必要なことだ。
「それに、シアが魔物と同じ特徴を持つから処罰する、なんて言ってるが、そんなことは今さらだ」
「どういうことだ?」
俺の言葉にアルフレリックが疑問を持つが、俺が魔法陣も詠唱もなしに手の上に火球を発生させると、その目を大きく見開かせた。
「俺とハジメ、あと、ユエとティアもシアと同じように魔力を直接操作することができるし、固有魔法も使える。要は、お前たちの言う化け物だ。だが、口伝では“それがどのような者であれ敵対するな”ってあるんだろ?口伝に従うなら、あんたらはその化け物を見逃すことになる。なら、シア一人くらいなら今更だろう?」
俺の言葉に強直した長老衆だったが、すぐにひそひそと話し合い、シアとハウリア族を俺たちの身内とみなす、資格者である俺たちに敵対はしないがフェアベルゲンへの出入りを禁止する、俺たちに手を出した場合は自己責任とする、ということになった。
「これでいいか?」
「あぁ、構わない。むしろ、それなりに無茶を言ってる自覚はあるからな。理性的に判断してくれてありがたいくらいだ」
「そうか、なら早々に立ち去ってくれるか。ようやくあらわれた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが・・・」
「わかってる。別に、無理に歓迎されることもないからな」
俺の言葉に、アルフレリックはわずかに苦笑いし、他の長老衆は「さっさと出て行ってくれ!」とでも言わんばかりに俺たちの方を見てくる。
それに肩をすくめながら、俺はハジメたちのもとに戻る。
「はぁ、疲れた・・・」
「ツルギ、お疲れだな」
「誰のせいだと思ってるんだよ。まぁ、とりあえずこんな感じでいいか?」
「あぁ、構わない・・・これからも、交渉はお前に任せるか」
「お前も手助けと意見くらいはしてくれよ」
「わかってる。んで、お前らはいつまで呆けてるんだ?さっさと行くぞ」
いつの間にか追放処分だけで済んでいることにハウリア族は呆然としていたが、ハジメの呼びかけで我を取り戻して俺たちの後についていく。
そして、門を出たところでシアが恐る恐る問い掛け、ユエが安心させるように話しかけたことで実感が湧いたようで、思い切りハジメに抱きついた。
それを皮切りに、他のハウリア族も実感が湧いたようで、隣同士で生き残ったことを喜び合った。
ユエは、ハジメに抱きついているシアを不機嫌そうに見ているが、まぁいいかとそのままにしておいた。
「・・・ツルギ」
「・・・言ってやるな」
そんな中、ティアに言われてちらりと後ろを振り返ってみれば、長老衆が複雑そうな目でこちらを眺めており、中には憎悪に近い感情を向けてくる者までいる。
とりあえず、面倒ごとにならないことを祈るばかりだった。
長ぁい・・・。
詰め込めるだけ詰め込んだ結果がこれです。
途中、ティアが空気になりましたが・・・まぁ、ユエも同じ感じだし。
剣に八重樫属性が付与されてきましたが、はてさて、この先どうなることやら・・・。