二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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今回はいつもと比べてかなり短めです。
キリがよかったというのもありますが、最近になって文章を考えるのがしんどくなってきたこともあるので、無理のない範囲で投降を続けていく予定です。


飴と鞭は使いよう

作戦本部を後にした俺と雫、ティアは、義妹共が未だに潰れているであろう謁見の間に向かった。

正直、行きたくない気持ちが勝っている俺は最後の抵抗として、転移は城の出入り口の前までで、それからは徒歩での移動にした。

2人も俺の気持ちはなんとなくわかっているのか、それについて文句を言うことはなかったが、2人揃って「仕方ないんだから」みたいな視線を向けられたのは少しだけ辛かった、

 

「ねぇ、ふと思ったんだけど・・・」

 

しばらく歩いていると、ティアがそういえばと俺に尋ねかけてきた。

 

「その義妹って人たちって、ツルギが重力魔法で潰してたわよね?」

「そうだな。それが?」

「・・・まさか、うっかり死んじゃったりってことはない?20倍の重力なんでしょ?」

 

たしかに、普通の人間なら20倍の重力は場合によっては即死レベルだ。

さらに義妹共には騎士もいるから、甲冑も込みで重さはさらに跳ね上がる。

それをこの2日かけられ続けているのだから、普通に考えたら死んでてもおかしくない。

だがしかし、だ。

 

「ティア。お前は義妹共を甘く見ている。あいつらなら、これくらいでは死なないはずだ。なにせ、1匹見つけたら30匹は確実にいるような奴らだからな。生命力もそれなり以上ににある」

「ツルギ、それはちょっと言い過ぎじゃない?」

 

俺の評価に雫がたしなめてくるが、俺にはその確信があった。

 

「だったら、実際に見て確認するとしよう」

 

幸か不幸か、ちょうど謁見の間にたどり着いた。

俺の予想が正しければ、未だに重力に抗おうとしている義妹共がいるはずだ。

 

「それじゃあ、開けるぞ」

 

軽く深呼吸をしてから、俺は謁見の間の扉を開け放った。

次の瞬間、

 

「覚悟でありますぅ!」

 

俺の頭上から、殺気と共に叫び声が聞こえた。上を見れば、短剣を逆両手で持って強襲してくる義妹筆頭の女騎士の姿が。

とりあえず、

 

「てめぇは逆戻りしとけ」

「ぶぇッ、ぎゃんっ!?」

 

軽く頭を振って短剣を避けてから、顔面を鷲掴みして超重力エリアに投げ飛ばした。

重力場に投げ返された女騎士は、重力場に入った途端にほぼ90度に軌道が曲がって床に激突した。

 

「な?大丈夫だっただろ?」

「たしかに、そうね・・・」

「むしろ、ツルギの予想を超えてたわよね」

 

俺としても、まさか20倍の重力場から抜け出してたとは思わなかった。

さらに恐ろしいことに、完全に抜け出していたのはさっきの奴だけだったが、他の輩もあと少しで抜け出せるというところまで這いずっていた。

こいつら、とてつもないスピードで進化してやがる・・・!

 

「お前ら、どういう身体能力をしてるんだよ」

「こっ、これくらいっ、お姉様を思えば当然でありますぅ!とはいえ、抜け出せたのはついさっきでありますがっ」

 

どうやら、抜け出したはいいものの、俺を襲撃しに向かうより先に、俺たちが、というか雫がここに来ていることを察知して、傍にいるだろう俺を強襲するために天井でスタンバっていた、ということか。

こいつらは、何を目指しているんだ?

というか、もはや人間じゃなくて義妹って生き物になってないか?

 

「・・・なぁ、やっぱ、こいつらを開放すんのはなしにしないか?マジで厄介な存在になっているんだが・・・」

「で、でも、この子たちが戦力になったら心強いでしょ?」

「敵意と殺意その他諸々がすべて俺に向けられてるんだから手に負えないんだよ」

 

たしかに、20倍の重力に耐えうるというなら、戦力としては申し分ない。

申し分ないのだが、それらがすべて俺に向けられるというのだから、この大戦において邪魔でしかない。下手をすれば、ストッパーであるクゼリーが機能しなくなる恐れすらある。

だから、このまま放置で・・・いや、それを言ったら、こいつらなら冗談抜きで20倍の重力に適応しかねない。ならいっそ30倍にしようかとも考えたが、このタイミングで人死には出したくないし、30倍重力にまで適応されたら目も当てられない。

どうしたものか・・・。

どうすべきか悩んでいると、雫が先に女騎士に話しかけた。

 

「ねぇ、あなたは今の状況をどれだけ知っているの?」

「何も知らないのであります!」

「ティア、離せ!こいつを殴れない!」

「今は雫が話してるところだから、もうちょっと我慢して!」

 

「やめて」ではなく「我慢して」と言っている辺り、あとで殴るのはいいのか。

だが、雫はいったい何をしようとしているのか・・・。

いまいち雫の意図を掴めずに考えている中、雫はだいたいのあらまし(いくらかフィクションの入った大衆向け)を説明した。

その上での、義妹たちの反応は、

 

「そんなこと、知ったこっちゃないであります!ですが、お姉様が危ないのであれば、私たちが盾になるのであります!」

「他の奴らなんてどうでもいいですが、お姉様が傷つくわけにはいきません!ですから、お姉様は後ろに下がっていてください!」

「その間は、私たちが全霊をかけてお守りします!いっそ、今からでもお姉様を狙う害虫を排除しなければ!」

「ティア、止めないでくれ。こいつらは1,2回死ななきゃ変わらない類なんだ」

「ツルギ、もう少し辛抱して、気持ちはすごいわかるから」

 

半ば予想していた「お姉様以外はどうでもいい!」だったが、ここまで明言されるともはや殺意すら覚えてしまう。

さすがの雫も、だいぶ頬が引きつってるし。

マジで、こいつらはいない方が世の中のためになるんじゃないか?

俺としては、もうさっさと排除したいくらいなんだけど。

だが、それでも根気よく話を続けようとする雫に免じて、今はまだ堪えてやろう。

それはそうと、雫はこのどうしようもない連中をどうするつもりなのか・・・。

 

「えっとね、お願いだから、今はみんなと協力してくれない?あなたたちの力が必要なの」

「うぅ、お姉様のお願いなのであれば、わかったのであります・・・」

「ですが、やはり危険分子をお姉様に近づけさせるわけには・・・」

「特に、そこにいる峯坂ツルギと皇帝陛下は要注意しなければ・・・」

「・・・・・・」

「えっと、ツルギ?元気を出して?」

 

そうは言うがな、ティア。俺は一体、何をどうすればいいんだ?

俺としては、こいつらは野放しにすると絶対に碌なことをしないからさっさと始末したいってのが本音なんだけど、雫の手前あまり過激な手はとれないし、そもそも雫の世話焼きによって生まれる存在だからどうあがいても絶滅しない。

つまり、根本的な解決策はない、ということだ。

できることはと言えば、襲われた時の自衛と、雫の対処しかない。

ただ、雫の性格的に、いつも折れるのは雫の方だから、雫の対処はあまり期待できないわけで・・・。

とはいえ、今はこれ以上にない有事だ。さすがに妥協はしないはず。

 

「あのね、今回の戦いは、私たちみんなが力を合わせなければ勝てないほどに強大なの。だから、今は力を貸して。この戦いが終わったら、その後のことは好きにしていいから」

「っ!?」

「本当でありますか!?」

 

この雫の発言には、俺はもちろん、義妹共も驚愕の表情を浮かべた。

雫の言ったことはつまり、義妹の今後の活動を容認とはいかないまでも、あれこれ口出ししないことにした、ということだ。

今まで、雫は義妹の活動については肯定も否定も言わなかった。

自他問わず迷惑なときもある・・・いや、むしろ迷惑なことがほとんどか。まぁ、迷惑なことも多々あるし、年齢の垣根を余裕でぶっ壊して「お姉様」なんて言ってくるから割と困ってはいたものの、あくまで好意からくる行動だと複雑ながらにわかっていたのと、生来の人の良さから強くNoと拒絶できなかったのが、ここに来て「Noとは言わない」と明言したのだ。

こうなったら、義妹の行動は早かった。

 

「よっしゃあ!こうなったらとことんやってやるでありますぅ!!」

「神様とやらが相手だろうが、私たちのお姉様への愛の前には紙切れ同然です!」

「すぐに待機している義妹結社のメンバーに連絡を!」

 

「お姉様の期待に応えるであります!」とやる気をみなぎらせて、戦いに参加するための準備や連絡を始めていく。

その様子を、俺は右腕に雫を引っ付けながら、呆然と見ていることしかできなかった。

 

「・・・やってくれたな」

「わ、悪いとは思ってるわよ。ただ、あの子たちを動かすには、こうするしかなくて・・・」

「・・・まぁ、こうなった以上、俺も無理にやめろとは言わん」

 

それに、責任感第一で動いてきた雫が、ちょっとは自分にわがままになったのだと考えれば、別に悪いことばかりではないだろう。

そのとばっちりが、主にクゼリーとガハルドに飛んでしまうわけだが、大して親しいわけでもないからいいか。

まぁ、とはいえ、だ。

 

「・・・ガハルドに、念入りに忠告しとくか」

 

すぐに雫から手を引かないと、20倍の重力に適応した超人と化した義妹共が襲い掛かってくるぞ、と。

あと、クゼリーさんに専用のアーティファクトを贈るようにハジメに進言しとくか。

両方とも、戦争の最中はもちろん、終わってからもいなくなられたら困るし。




義妹がもはやサイヤ人と化してしまっている・・・。
いったい彼女たちはどこに向かって突き進んでいくのか、自分でもわからなくなってきました。
こうなったらいっそ、超サイヤ人ならぬ超義妹にまでしてみましょうかね。

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