二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

131 / 186
頼れる援軍

「そうか、そっちの作業はもう終わったか」

『あぁ。谷口もいろいろと魔物を従えることもできたし、俺たちもそっちに向かおうと思う』

 

義妹共に半ば取り返しがつかない約束を取り付けてからしばらく、姫さんたちと義妹共の配備について話しているところで、ハジメたちが作業を一区切りさせてこっちに向かっていると連絡が入った。

 

「あぁ、それで大丈夫だ。思った以上に時間に余裕ができたとはいえ、休めるだけ休んで損はないからな」

『それはそうと、そっちはどんだけ進んでるんだ?ずっとオルクスに籠ってたから、そっちの情報はあまり伝わってねぇんだ』

「こっちも、あらかた作業は終わりつつある。後は細かい配備の調整と、休憩をとりながら練兵をして武器の練度を上げるくらいだな。とはいえ、まだ来てない戦力もいるが」

『・・・竜人族と妖狐族だな?』

「あぁ」

 

準備を始めてから2日目も終わり3日目に差し掛かってきたが、ティオとイズモが言っていた隠れ里とやらはよほど遠いらしく、未だに来る気配がない。さらに、距離の関係上、イズモたちには連絡手段がないこともあって、今どのあたりにいるのかすらわからない。

こんなことなら、遠距離通信のアーティファクトも作っておくべきだったか。基本的に離れることがあっても一つの街の中だったから、念話石だけで十分だったしな。

とはいえ、俺が心配していることは別にある。

 

「あの2人に限って途中でくたばっていることはないだろうが、現状が分からない以上、どうしようもないんだよな」

『だが、2人には移動速度を上げれるアーティファクトを持たせただろ?』

「それが問題なんだよ。いや、ティオに贈った疑似限界突破のペンダントはまだいい。だがな、なんでイズモに昇華魔法を付与した鞭を持たせてんだよ」

 

そう、ティオの飛行速度を上げれるアーティファクトの中に、“ご主人様の愛(仮)”というのがあり、これを対象に叩きつけることでステータスを上昇させることができる。ティオの“痛覚変換”と合わせれば、相乗効果によってさらにステータスが上昇するという、対ティオ専用アーティファクトなのだが・・・。

これを受け取って説明を受けた時のイズモの表情、くっきりと俺の脳裏に張り付いてるんだよ。

煮つけの魚の目の方がまだ生気があったぞ、あれ。

一応、まだ製作途中のアーティファクトであることもあって、イズモに貸し出すのは今回だけという話になってはいるが、それでもその鞭でティオを叩かなければならないイズモの心労は計り知れない。

ティオの変態化はある程度受け入れることができていても、自分の手で何度も叩くとなれば話は別だ。

とりあえず、すでにイズモが戻ってきたら思い切り甘やかそうと心に決めている。

 

『そんな問題だったか?イズモも、ティオの変態化については、すでに割り切ってただろ?』

「イズモに手を下させるなって言ってんだよ。イズモはどうであれ、お前がティオを喜ばせることについては割り切ってるが、あいつ自身が手を下すのは許容の範囲外なんだよ」

 

というか、実際はイズモも完全に割り切っているわけではない。あくまで、「最初と比べて割り切れるようになった」だけだ。

だから、今でも時折、ティオがハジメから折檻を受けて恍惚の表情を浮かべているのを見て悲し気な目になることが多々ある。

そして、そのたびに俺やティアが甘やかすことで、なんとか心の均衡を保ってきたわけだが・・・今は、俺もティアもイズモの傍にいない。

おそらく、というか十中八九、イズモの心はボロボロになっているに違いない。

・・・本当に、イズモが心配になってきたな・・・。

 

「そういうわけだから、イズモたちが戻ってきたら、俺はティアと雫と一緒にイズモのフォローに入るから、少なくとも竜人族の相手はお前に任せるぞ。ていうか、ティオのこともあるんだから、その責任もきちんととれよ」

『わ、わかったっての・・・』

 

ハジメに強めに釘を刺しておいたあとは、軽く合流場所を決めてそこに向かった。

 

「ねぇ、ツルギはいつくらいに帰ってくると思っているの?」

 

その道中、ティアがイズモの帰還がいつになるかを尋ねてきた。

 

「さぁな。隠れ里の具体的な位置がわからんから何とも言えん。一応、隠れ里とやらから北の山脈につくまでに見つからないように移動して数日かかったって話だったから、アーティファクトの強化で真っすぐ帰るなら、2,3日で着くとは思う。帰りはゲートキーで一発だしな」

 

だが、あくまで予測だし、向こうの状況説明や出発準備もある。

先の迫害で相当の数を減らしたとはいえ、戦闘要員としては竜人族と妖狐族合わせて100人前後はいるだろうから、スムーズに移動とはいかないだろう。

そんな感じで、竜人族と妖狐族についてのあれこれを考えていると、今度は雫の方から声をかけられた。

 

「ねぇ、ツルギ。ふと思ったのだけど、妖狐族ってことは、全員イズモみたいにキツネ耳と尻尾があるってことよね」

「一応、キツネ耳と尻尾に関しては狐人族もあるけどな。ただ、妖狐族は尻尾は必ず複数あるらしい」

 

以前、イズモから聞いたことがあるのだが、妖狐族の尻尾は必ず2本以上あり、尻尾の数が多いほど優れた力を持っているという。

その中でも、イズモの9本が今までの中でも一番多い数であり、里ではその優秀な才能と本人の並ならぬ努力もあってティオの付き人になった、ということらしい。

ついでに言えば、ティオ共々、同族の中では高嶺の花であった、とも。

イズモは、まぁ、わかるんだが、ティオはなぁ・・・。

一応、真正のお姫様とはいえ、俺たちの前じゃドMの変態の姿がもっぱらだからなぁ・・・。

そう考えると、竜人族の方々、とくに親族と男性陣の心傷が心配だな。

それに、妖狐族の人たちだって、ティオのことを尊敬している人は少なからずいるだろうし。

なのに、2人が戻って来て最初に見るのは、イズモに鞭で叩かれて興奮するティオとか・・・。

・・・最悪、土下座も視野に入れよう。

直接的な原因はハジメにあるとはいえ、止められなかった俺も十分同罪だ。

・・・まぁ、胃が重くなる案件はさておき、雫がそう尋ねたくなる気持ちもわからなくはない。

 

「言っておくが、欲望に身を任せるようなことはするなよ」

「わ、わかってるわよ。私も、イズモから浮気するつもりはないわ」

 

雫の言い方はあれだが、ちゃんと自重してくれるなら俺からは何も言わない。

雫の言う通り、妖狐族にはもれなく全員、モフモフのキツネ耳と尻尾がある。

だが、それは男女両方ということでもあり、イズモ以外は初対面だ。

もし初対面の男の尻尾に飛びつこうものなら、いったい何を言われることか・・・。

万が一の時は、鎖でぐるぐる巻きにしてでも止めよう。

そんな感じで、俺の中でいろいろと決意を固めながら歩いているうちに、ハジメとの集合場所である作戦本部の広間にたどり着いた。

 

「失礼するぞ」

 

一言言ってから近付くと、なにやら微妙な空気になっているところだった。

 

「おう、ツルギ。遅かったじゃねぇか」

「転移するには近くて、歩いてきたからな。んで、これはどうなってんだ?」

「あぁ、先生と姫さんはやっぱすごかったって話をしてたところだ」

「あ~」

 

そりゃ、こんな微妙な空気になるか。

とりあえず、俺が来て全員揃ったということで本格的に会議が始まった。

と言っても、どちらかと言えばオルクスにこもっていたハジメへの説明が主で、竜人族と妖狐族が来てからの会議もあるからということで、会議自体は割とすぐに終わった。

そんなときに、ランズィがしみじみと言ったように口を開いた。

 

「それにしても、我が公国の英雄が、遂には世界の英雄か・・・やはり、あのときの決断は間違いではなかったようだ」

「初めてうちに来たときから、何か大きなことをやらかしそうだとは思っていたけれどねぇ。でも、まさか世界の命運を左右するまでになるなんて・・・流石のあたしも、予想しきれなかったよ」

「そうですね。フューレンで大暴れしてくれたときは、まだまだ何かやらかすだろうとは思っていましたし、あるいは世界の秘密に関する何らかの騒動に関わるだろうとは思っていましたが・・・それが世界の存亡をかけた戦いとは。はぁ、胃が痛い。もう“イルワ支部長の懐刀”なんて肩書きは恥ずかしくて使えませんね」

「あらん?私は最初からわかっていたわん。ハジメちゃんとツルギちゃんなら、いつか魔王だって倒すって。それに、ハジメちゃんがいつも漢女を贈って来てくれるのは、来るべき日に備えておけっていう意味だって、私、ちゃ~~んと分かっていたわ。いい漢女は、察しもいいのよん!」

 

ランズィに追随するようにキャサリン、イルワ、クリスタベルが口を開くが、クリスタベルのバチコンッというウインク付きの言葉にはいろいろと反論したい。

別に、ハジメにそういう意図はまったくないから。ただただ、自分の女に手を出されそうになってキレてただけだから。好きで漢女を増やしてるわけじゃないから。

あと、魔王に関しては暴走したティアが食い散らかしちゃったわけだから、厳密には俺やハジメがやったわけではない。

ハジメもクリスタベルの言葉には頬を引きつらせるが、他の重鎮たちはその瞳に悲愴とも同情ともとれる複雑な色を宿していた。

そういう俺も、クリスタベルが明るく振舞うようにしている理由も察しがついている。

要するに、最愛の女をとられたハジメと、殺された上で死体を好き勝手改造されている俺を気遣っているというわけだ。

もちろん、ハジメもその心中はついているようで、その上で不敵な笑みを浮かべながら返した。

 

「別に不思議でも何でもないだろう?空気の読めない馬鹿な自称神が、俺の女に手を出した。だから、死ぬ。それだけのことだ。あんたらも、この程度の戦い、余裕で生き残ってくれよ?ユエを連れ帰ったら、もう一度くらいあんたらの町に遊びに行くからよ。今度は冒険なしに、のんびりと観光でな」

 

今回の戦いは、言葉通り簡単な戦いではない。それこそ、この世界の歴史にも類を見ない、世界規模の大戦だ。

だが、だからこそ、そううそぶくハジメの言葉はランズィたちにとって励ましの言葉にもなる。

そして、それは俺も同じだ。

 

「そっちが気にしなくても、これは俺の戦いだ。さっさと終わらせて加勢しに行ってやる。せいぜい、それまで頑張ってくれ」

 

俺の方も、今回はほとんど1対1に近い。

他の使徒の横槍も、ティアとイズモに任せれば問題ない。

そんなことを話していると、前触れなく外が騒がしくなった。

重鎮たちは何事かと緊張感をにじませたが、慌てて駆けこんできた兵士の期待と畏怖が混じった言葉によって変わった。

 

「ひ、広場の転移陣から多数の竜が出現!竜の背中には人影も確認しました!助力に来た竜人族と妖狐族とのことです!」

 

どうやら、最後の援軍と頼れる仲間が戻ってきたような。

それを聞いて、俺はイズモのことを心配しながら、ハジメは口元を釣り上げながら立ち上がって会議室を出た。




およそ2か月か3か月ぶりに長いお出かけをしました。
いつもは必要な買い物か、10~20分くらいしかとどまらない外出くらいでしたからね。
まだコロナの影響が治まりきったわけではないとはいえ、ちょうどいいリフレッシュになりました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。