二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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腕試しも兼ねて

「おい、ちょっと待て」

 

姫さんやグレンさん、アドゥルさんが作戦や配置を伝えるために会議室に連れて行って姿が見えなくなったところで俺もその場を離れようとしたのだが、後ろから声をかけられて動きを止めざるを得なくなった。

声の主は、先ほど俺に敵意を向けていた妖狐族のうちの1人だ。

尻尾の数は3本で、雪のような銀色の毛並みをしている。

これは、さっそくか?

 

「あんたは?」

「俺の名前はライ・ギンセツだ。峯坂ツルギ、イズモ嬢をかけて勝負しろ!」

 

案の定というか、俺がイズモと付き合っているのを快く思っていない類だった。

それよりも、

 

「イズモ嬢?イズモって実はお嬢様だったりするのか?」

「気にしないでくれ、向こうが勝手に言っているだけだ」

 

イズモが後ろから俺にもたれかかりながら否定の言葉を返した。

まぁ、竜人族のお姫様の付き人だから、お嬢様と言えなくもないが、家柄自体は特別ってわけでもないしな。

イズモはため息を吐きながら、諭すようにライに話しかけた。

 

「ライも、あまり嫉妬に駆られるものではないと思うが?私はツルギのことが好きで、ツルギも私のことを受け入れてくれている。ツルギにはティアもいるが、むしろ仲良くやれているよ。父上だって、そのことを踏まえた上でツルギのことを認めてくれている。今さら、ライが口を挟む余地はないだろう?」

「ぐっ・・・」

 

イズモがつらつらと並べた事実と正論に、ライは口を紡ぐ。後ろにいる面々も似たような感じだ。

まぁ、ティアとイズモの仲がいいっていうのは事実だしな。良くも悪くも。

・・・これから増える可能性については見て見ないふりをするが。

だが、ここまで言われてもライは引き下がらなかった。

 

「ですが、その男はすでに死んでいるのでしょう!それに、肉体もエヒト神に奪われたと聞いています。だったら・・・」

 

あぁ、なるほど。死人と付き合ったって幸せになれるはずがないって考えているのか。

まぁ、今は不必要な器官を省いたただの魔力体だからなぁ。何がとは言わないが、できることも限られる。

俺からすれば、「まぁ、言われればそうだよなぁ」くらいにしか考えていなかったが、イズモにとってはそうではなかったようで、声のトーンを低くしながら口を開いた。

 

「それで?だったらお前に何ができるという?」

「そ、それは・・・」

「たしかに、あの時ツルギの肉体は死に、エヒトに奪われた。だが、ツルギの魂はここに在る。そして、ツルギは自身の肉体を必ず取り戻すと言った。なら、過去にツルギが死んだという事実も、今のツルギの肉体も些事だ。私はツルギが元の体を取り戻すと信じているし、私もそのために力を尽くす」

「・・・・・・」

 

イズモの信頼と覚悟が込められた言葉に、ライはぐぅの音もでなくなってしまった。

なんか、イズモがここまでキレるところを見るのは初めてな気がする。

今までだって、怒るにしても基本的に諭すような感じだし、そもそも怒ること自体が少なかった。

そう考えると、こういうイズモは何気にレアだな。

まぁ、それはそれとして。

 

「そういうわけだから、ツルギと私のことは・・・」

「イズモ云々はともかく、手合わせ自体は別に構わんぞ」

 

イズモの台詞を遮って、俺はライの申し出を部分的に承諾した。

 

「は?」

「イズモを賭けての勝負は受け付けられないが、単純な力比べならやってもいいと言っている」

「あ、あれ?ツルギ、ここは追い返すところではないのか?」

「別に、ここで追い返すことにこだわりはないな」

 

むしろ、戦力把握できるいい機会だ。これを参考にして姫さんたちに配備を助言することもできるだろうし。

ただ、向こうは「イズモは賭けない」という部分に勘違いする形で反応した。

 

「ふっ、なんだ、自信がないのか?」

「それ以前の問題だ。そもそも、自分の恋人を賭けの対象にすること自体が間違ってるに決まっているだろ」

 

漫画とかアニメでは主人公が恋人を賭けてライバルと勝負するシーンがあったりするが、俺からすれば理解できない。

恋人があっけなく攫われたりするのも問題だが、そもそも大切な存在なら、たとえどんな真剣勝負でも賭けの対象にするのは間違っているだろう。

必要なのは、恋人を賭けて勝負する意気込みではなく、必ず恋人を守るか奪い返す覚悟。それができないなら、俺はそもそもこの場に立っていないし、ハジメもまた同じだ。

「そんなこともわからんのか?」と視線を向ければ、ライはもっともなことを言われたことに対する羞恥からか顔を赤くした。

 

「そういうことだから、俺はイズモを賭けた勝負をするつもりは微塵もない。とはいえ、戦力把握はしておきたいから、手合わせならしてやってもいいって言っているんだ。それがわからないなら、そこで大人しくお座りでもしとけ。相手をするだけ無駄だしな」

「ツルギ・・・」

 

俺の言葉に、イズモが照れながらも嬉しそうに抱きつく腕に力を込めた。ティアと雫も微笑ましい表情をしている。

たしかに、俺にとっての1番はティアだとかなんだとか言ったが、大事にしない理由にはならない。俺の手の届くところにいる限りは、何としてでも守るしできるかぎりのフォローもする。

 

「・・・わかった」

 

対するライは、顔を真っ赤にして俯きながらも、絞り出すような声で俺の申し出を受け入れた。

あぁ、そうだ。

 

「そうそう、他に俺のことが気に入らない奴がいるなら、まとめてかかってこい。そっちの方が手間が省ける」

 

そう言うと、もはや殺気と呼べるほどのすさまじい視線が後ろの輩から飛んできた。

完全に舐め切っていると思っているらしい。

俺の言葉に反応して前に出てきたのは5人。

ライを含めれば6人の相手をすることになる。

 

「なぁ、大丈夫なのか?」

「ん~、大丈夫だろ。戦意が折れない程度にボコすくらいでちょうどいいだろうし」

 

イズモとしては俺のことが心配だったのだろうが、俺はあえて相手の心配をしているという風に解釈して返した。

そうすれば案の定、6人の妖狐族は青筋を浮かべて敵意も倍増しになった。

あくまで挑発の姿勢を崩さない俺にイズモは軽くため息を吐き、ティアと雫も「しょうがないなぁ」という感じになりつつも微妙な表情になる。

こうして、急遽俺と6人の妖狐族による模擬戦が行われることになった。

さて、どうやって身の程を知らせようかね。

 

 

* * *

 

 

作戦本部前だと十分なスペースがなかったから、訓練場として使っている森方面の空き地に移動した。

そうして移動している間に、俺と妖狐族が模擬戦をすることになったという話が兵士たちの間に広がり、目的の場所に着くころにはそこそこの数のギャラリーが集まっていた。

そこにはハジメたちはもちろん、姫さんやガハルド、グレンさんの姿もあった。

 

「・・・グレンさん、作戦会議はどうしたんですか?」

「お前がうちの奴らと模擬戦をするって聞いたからな。実際の実力を見て配備を変更する可能性もあるし、どうせならそれを見てからでもいいだろう。アドゥル様からも許可をもらったし」

「ガハルドは・・・」

「ただの興味本位だ。妖狐族もそうだが、今のお前の力も見ておきたい」

「なるほど」

 

今回の作戦、総司令は姫さんだが、戦場で兵を率いるのはガハルドだ。兵を預かる者としても、この模擬戦は見逃せないんだろう。

あとは、

 

「ハジメ。何をそこでニヤニヤしている」

「いやぁ、やっぱお前も苦労人だなと思ってな」

 

他人事だからやたらとウザイ絡み方をしてくる。シアたちも、口にはしないが似たような感じだ。

ハジメの方は魔王丸出しで手を出そうとするやつがいないからなぁ。ティオがああなっちゃったってのもあるだろうが。

 

「にしても、実際問題、お前の方は大丈夫なのか?さすがにあの妖狐族相手に1対6はどうかと思うんだが・・・」

 

まぁ、それが普通だよな。

だが、

 

「ならお前は、竜人族相手に1対6は勝てないのか?」

「はっ、まさか」

「つまりは、そういうことだ」

 

相手がなんだろうと、みすみす負けるつもりはない。

そもそも、俺たちがこれから戦うのは【解放者】や竜人族、妖狐族をして結果的に手も足も出なかった神と、それに限りなく近い力を持つだろう人形、そして数えきれないほどの使徒、あるいは他にも強化された魔物なんかが出てくる可能性も高い。

たかが6人相手にてこずっていては話にならない。

だから、俺の方はなんら問題ない。

そこに、今度は姫さんから疑念の声が挙がった。

 

「ですが、この模擬戦で士気が下がる可能性はないのでしょうか。お相手もそうですが、他の兵士たちも」

 

姫さんは、妖狐族がボコボコにされることで他の兵士の士気に影響しないかを心配しているようだった。

たしかに、大戦の前に士気を下げてしまうのは本末転倒もいいところだが、もちろんその辺りのことも考えていた。

 

「あぁ、その辺りに関しては問題ないと思う。ライたちには派手にやっても構わないって言っておいたからな。俺に負ける形になっても、十分に力を見せつけられれば逆に士気が上がるだろう。ライたち自身に関しては・・・」

 

そう言いながら、俺はグレンさんに視線を向けた。

グレンさんは、俺の考えていることがわかったようで、苦笑しながら口を開いた。

 

「あいつらは、今回参加する者の中でも若い方だからな。ついでに言えばイズモにフラれた連中でもあるが。そういうことだから、ここで1回痛い目を見るのも悪くないだろうし、後から来る奴らもイズモを狙おうとは思わなくなるだろうさ」

 

やはりというか、ライたちはイズモと比べれば竜人族や妖狐族の矜持がまだ身に染みていない方だったようだ。良くも悪くもまだ若い。

もちろん、俺もグレンさんもそのことを責めるつもりはないが、このままにしておくつもりもない。

 

「そういうことだから、あいつらのことは死なない程度は好きにしても構わないぜ」

「どうも」

 

内心、「別に魂魄魔法と再生魔法があるから1回くらいは・・・」と思ったが、余計な魔力を使うこともないと考え直した。香織にもハジメから専用のアーティファクトを渡されたようだが、俺から言った以上、香織を巻き込むのも気が引けるし。

そういうわけだから、痛い目にあわせる程度にしよう。

審判は、グレンさんがやることになった。

 

「それじゃ、審判は俺が務めさせてもらう。ルールは致死性の攻撃の禁止のみ。多少の怪我や欠損程度ならどうにでもなるそうだ。勝敗は、俺が戦闘続行不可能と判断するか、どちらかが降参するかで決めるものとする。他に質問は?」

「俺は特に何も」

「自分たちもありません」

 

グレンさんの簡単な説明に、俺とライたちは頷きを返す。

 

「双方、準備はいいな?それでは、始め!」

 

グレンさんの合図と同時に、俺は()()()ライたちに近づく。

俺の無防備な姿に向こうも戸惑うが、すぐに気を取り直して6方向から俺を囲む。

 

「さすがのお前でも、全方位からの攻撃には対応できないだろう!」

 

ライが若干フラグっぽいことを言った後に、4人の妖狐族が同時に飛び掛かってきた。他の2人は魔法の準備をしている。

飛び掛かってきた4人の妖狐族は両手に短刀を持っている。こうして見ると、衣服と相まってマジで忍者に見えなくもない。

そんなことを考えながら、冷静に短刀の軌道を見切って攻撃を躱したりいなしたりして、合間に放たれる炎弾は障壁で防ぐ。

隠れ里で相当訓練していたのか、6人の連携には一切のよどみがなく、隙も少ない。魔法も前衛の邪魔にならないように調整されており、時折闇魔法で生み出したらしき幻影も混じっている。

グレンさんはまだ若いと言っていたが、相当な手練れであるのは間違いない。

まぁ、洗練されている分、俺には4人の動きが手に取るようにわかるし、魔法も“魔眼”でまったく問題ないが。

6人は攻撃できない俺が手も足も出ないと思っているのかだんだんと攻撃を苛烈にさせていくが、それでも涼しい顔をしてすべての攻撃を捌く俺にだんだん焦りの表情を浮かべ始める。

 

「くそぉっ!」

「あっ、おい待て!」

 

一番初めにしびれを切らしたのは、やはりライだった。

本来なら後ろに下がるだろうタイミングで、やけくそ気味に突貫してきた。

仲間の1人が止めようとするが、もう遅い。

俺もそろそろ反撃に回ることにしようか。

 

「シッ!」

「あぐっ」

 

躱しざまに顎に掠らせるように拳を放てば、ライは脳震盪によってもうろうとした意識の中で倒れた。

 

「くそっ、いったん距離を・・・」

「取らせるかっての」

「なっ、これは!?」

 

俺から離れようと飛びずさろうとした3人の妖狐族を、重力魔法によって無理やり俺の方に引きつける。

飛び上がってしまった3人の妖狐族は踏ん張れるはずもなく、なすすべなく俺に向かって飛んできた。

 

「せ~のっ!」

「「「ぎゃあっ!」」」

 

向かってくる途中でさらに重力を強くすれば、ちょうど俺の真上で顔面から正面衝突し、そのまま落下して顔を抑えてうずくまる。

 

「さて・・・」

「ひっ、ま、参った!」

「降参!降参だ!」

 

残りの2人はどうしてやろうかと思っていたら、向こうが先に降参宣言をしてしまった。

 

「勝負あり!勝者、峯坂ツルギ!」

「「「おおおっ!」」」

 

グレンさんが俺の名前を宣言し、周囲からもざわめきの声が挙がる。

俺としては、ちょっと不完全燃焼なところがあるが、勝敗が決まった以上、手を出すわけにもいかない。

 

「ふぅ・・・」

「おう、余裕だったな」

 

あっけなく終わった模擬戦に一息つくと、ハジメたちが近づいてきた。

 

「これくらいはな。むしろ物足りないくらいだ」

「そりゃそうだろうな。今の、本気の半分も出していなかっただろ?」

「連携は悪くなかったが、思った以上に短気だったもんなぁ」

 

俺としては、もうちょいあの連携を受けて体を動かしたかったが、ライの我慢の限界が早すぎた。あそこで攻めてきたから、俺も反撃せざるを得なくなったし。

 

「はっはっは!あいつらを赤子扱いとはたいしたもんだ」

 

そんなことを話していると、グレンさんが拍手をしながら近づいてきた。

 

「これくらいは当然です。まぁ幸い、あれ程ならアーティファクトの強化込みで使徒とも十分戦えるでしょう。戦力としては申し分ないです」

「そう言ってもらえて何よりだ。それに、俺としても強い男が娘についてくれるとわかって一安心だな。そんじゃ、俺はあいつらを叩き起こしてくる」

 

そう言って、グレンさんはライたちが寝転がっている方に向かっていった。

そこで、ふと気になることが。

 

「そういえば、グレンさんの実力はどんなもんなんだ?隊長なんだから、少なくともあいつらよりは強いのか?」

 

この俺の疑問には、イズモが答えてくれた。

 

「あぁ。父上もその気になれば、さっきのツルギと同じようなことができるだろう。それに、乱取り稽古もしょっちゅうしていたしな」

「なるほど」

 

つまり、妖狐族の中ではイズモを除けば最も強いってことになるのか。

というより、経験面では俺でも普通に負けそうだ。

まっ、イズモのことはすでに認めてもらえているから、余計な心配はいらないか。




ありふれ11巻を買いましたが、赤面する優花ちゃんと日常を除けばお初のレミアさん(お風呂場)がもう・・・。
やけに新巻が遅いな~と待ちわびていたんですが、思った以上に加筆修正が多くてびっくりしつつも、新巻の出版の遅さなんてどうでもよくなりました。
竜人族?彼らは犠牲となったのだ・・・変態化したティオ、その犠牲にな・・・。

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