二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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父親として

喧嘩を売ってきた妖狐族を返り討ちにした後、俺は1人である場所に向かった。

そこは、リヒトが使っている天幕だ。

グレンさんと話したから、というだけでもないが、思い出してみたらリヒトとサシで話し合ったことはあまりなかったというのと、やはりこの作戦で唯一の魔人族であるリヒトがどういう扱いを受けているのかが気になったことから、ティアたちとは別行動にしてもらって俺だけでリヒトのところに向かうことにした。

リヒトの天幕が用意されているのは城の裏手だ。余計な問題やわだかまりを防ぐために人族や亜人族の天幕からは離れたところに設置されている。

だからといって、リヒトがここにいるとは限らないが・・・。

 

「リヒト、いるか?」

「む?峯坂ツルギか。どうした?」

 

どうやら、運よくいたようだ。

リヒトと一緒に昇華魔法の訓練をしていた坂上は「リヒト?どこにいるかなんて知らんぞ」とか言われたし、だからと言って他の兵士に聞くのもはばかられるし。

 

「いやなに、ちょっと話でもと思ってな。今は大丈夫か?」

「問題ない。入ってくれ」

 

リヒトの許可を得たところで、天幕の中に入った。

中に入ると、極端に物が少なかった。

あるのは、小さめの食卓と寝床らしき布が1枚だけ。

あれ?実はかなり嫌われてたりすんの?

 

「なぁ、さすがに物が少なすぎないか?」

「これだけあれば十分だろう。別に私は娯楽をたしなんでいるわけではないからな。無論、食事も不自由しない程度には持ってきてもらっている」

 

ん?実はリヒトって脳筋が混じってたりするのか?少なくとも、日本の武人でも多少の趣味や娯楽はあるもんだと思うけど・・・。

 

「いや、寝床とかどうしてるんだ?さすがに布きれ1枚だと休まらないと思うが・・・」

「睡眠をとる分には寝床は必要ない。あったらあったでいいのだろうが、私にはこれで十分だ」

 

やばい、今になって俺の中にすっげぇ罪悪感が湧いて出てきた。

俺とか、城の客室のベッドでティアとイズモに挟まれたり、雫がティアに連れてこられたりしてるんだもんな。

いや、リヒトがこれでいいって言ってんならいいんだろうけどさ、さすがに申し訳なくなってくるというか・・・連合軍の野営の方がもっと環境がいいぞ。

一応、姫さんはリヒトから必要なものを聞いて用意させるって言ってたけど、絶対用意した人は困惑してたと思うぞ。自陣に味方と伝えたとはいえ、敵の大将の1人に何が必要か尋ねたら小さい食卓と寝れるだけの布1枚だけでいいって言われるんだもん。俺でも耳を疑うね。

 

「それで、ツルギは何を話しにきた?まさか、俺の扱いを心配していたのか?」

「いや、まあ、それもないわけではなかったというか、むしろ思った以上に無欲で罪悪感が湧いたというか・・・ともかく、別に特別な用事があったわけじゃない。実はついさっき、イズモの父親と話してな。それで、リヒトと2人で話したことがないと思って来ただけだ」

「そうか・・・たしかに、今までは敵同士だったわけだからな。こうして話し合うのは初めてか」

 

一応、肉体言語なら話したといわなくもないが、こうしてゆっくり言葉を交わすのは初めてだな。

 

「そういえば、坂上の方はどうなんだ?ここに来る前に会ったが、手ごたえは掴めていそうだったが」

「あぁ。ツルギの言っていた通り、龍太郎は“天魔転変”と相性がよかったようだ。本来は変成魔法の中でも高難易度なのだが、この短期間で発動までこぎつけることができた。今のままでは効果と時間、共に実戦では十分とは言い難いが、南雲ハジメの()()があれば中村恵里やその傀儡兵、いや、屍獣兵(しじゅうへい)相手でも通用するだろう」

 

屍獣兵。中村の傀儡兵に魔石を埋め込むことで魔物の特性を取り組ませてさらに強化したってやつか。そのおかげで、亜人族のような身体能力に加えて、人間族や魔人族と同等の魔法を発動することができるということらしい。

たしかに、魔人領で見た傀儡兵には獣耳や尻尾が生えていたと思っていたが、そんなことになっていたのかと聞いてから思った。

まぁ、神域に行かない俺には関係ない話だが。

 

「そうか・・・連合軍の方もハジメのアーティファクトがなじんできたみたいだし、戦力としては問題なしだな。そういうリヒトはどうなんだ?」

「私の方も、空き時間を利用して鍛錬している・・・本当に、あの者のアーティファクトは尋常ではないな。私の知る限り、これほどのアーティファクトは存在しないぞ」

「まぁ、それもそうだろうな」

 

あいつのアーティファクトは地球のなんちゃって科学や漫画・ゲームのロマンを元にして作られているからな。

科学や創作物の発展が乏しいトータスではあいつのアーティファクトに敵うはずが・・・いや、オスカー・オルクスなら敵うか。ちょいちょいハジメと価値観が一致してるし、何よりハジメと違って他の魔法も人並みかそれ以上に使える。

もし、ハジメとオスカーが相対したらどうなるか、興味と悪寒が半々といったところだ。

そこで、俺とリヒトの会話が途切れてしまう。

今度は何を話そうかと思い・・・ふと、今まで気になっていたことを尋ねることにした。

 

「・・・そういえば、1個聞いておきたいことがあるんだが」

「なんだ?」

「リヒトは・・・ティアのことを、どう思っているんだ?」

「・・・」

 

俺の質問に、リヒトは黙ってしまう。

たしかに、俺が魔王城で言ったように、リヒトはティアを逃がすために、自分を憎むように仕向けたという推測をたてた。あの時、俺が言ったことはだいたい合っているということはリヒトの反応でわかる。

だが、そのためとはいえ、嫌がる自分の娘に無理やり魔石を生成して魔物化させたリヒトの心境は、どのようなものなのか。

ティア自身、あの時は涙を流していたが、それでも胸に抱えるわだかまりは解けていないようだった。今までにリヒトと積極的に話そうとしていないことからもそれがわかる。

俺が1人でここに来た理由の1つにも、ティアがリヒトと話すことに乗り気ではなかったことがある。

俺の問い掛けに、リヒトはしばらく口を閉ざし・・・再び話し始めた。

 

「・・・()()のことは、当然、私の娘だと思っている。だが、今になって私が父親面できるはずがないだろう。私の目的のために、私を恨ませるために、一方的に酷な思いをさせたのだ。今さら、()()を大切な娘などと言えるはずがない、言って許されるはずがない。もはや、名前を呼ぶことすら憚られるのだからな」

 

道理で、ティアのことはわざわざ「彼女」なんて言い換えたのか。この感じだと、なんなら敵対してた時の方がまだ話せてた気がする。

ただ、それはティアにも同じようなことが言えるわけだが。

王都侵攻の時にあんな堂々と決別宣言した手前、今さら味方になったからといって「はい、そうですか」と割り切れるはずもない。

これは、かなりめんどくさいことになっているが・・・幸い、俺からも口出しできる。

 

「なるほどな・・・だが、その辺りのことなんて、考えたところでどうしようもないと思うぞ」

「なに?」

 

断言する俺に、リヒトが訝し気な表情になる。

 

「たとえ何を考えようとも、リヒトとティアは親子だってことだ。どれだけお互いが気まずかろうが、過去に許されない出来事がろうが、その事実は絶対に変わらないし、一生ついて回ってくる。いや、どっちかが死んだとしても同じか」

 

それは、俺自身が証明している。

俺の場合はかなり特殊だが、それでも10年経った今になっても死んだ母さんのことを忘れたことは片時もない。

ハジメだってそうだ。今のハジメになったそもそもの動力源は、日本にいる家族に、知り合いに再び会うためであり、そのために何が何でも日本に帰ろうと足掻いていたのだから。

 

「あんたもティアも、あれこれ理由をつけて避けている様だが、いつまでもそのまんまというわけにもいかんだろう」

「だが・・・」

「ついでに言うなら、別に大事にするだけが愛情ではないと思うぞ。なんなら、俺だって実の母親に殺されそうになったわけだし」

「そうなのか?」

「まぁな。もちろん、親だって人間だから、中にはどうしようもないクズの親もいるだろうが・・・リヒト、あんたはその限りじゃないだろう」

 

たしかに、方法としてはあまり褒められたものじゃないだろうが、逆に言えばそこまでしなければティアがエヒトの傀儡になっていた可能性もあったし、俺と会うこともなかったから、悪いことばかりじゃないだろう。

 

「そういうことだ。だから、別にあんたの実力を疑うわけじゃないが・・・決戦の前に心残りは残しておきたくない。存分に話し合ってくれ」

 

そう言って、俺はゲートをティアの後ろに開いて手を突っ込み、ティアの首根っこを掴んで引きずりだした。

 

「きゃっ!?ちょっ、ツルギ!?」

「んじゃ、俺はこれで」

 

悲鳴と困惑の声を挙げるティアをスルーして、俺はゲートに潜り込んでさっさと閉じた。

ティアがいたのは、どうやら休憩室だったようで、イズモや、雫、ハジメたちの姿もあった。

もし、これでティアが更衣室で着替えの真っ最中とかだったら決戦前に社会的に死んでいたところだったから、運がよかったな、ハハハ。

みんなもゲートの先にリヒトがいたのが見えていたのか、俺の行動の理由を察してくれているようだ。

 

「ツルギ・・・その強引なところ、ハジメ殿に似てきたぞ」

「そうですねぇ。私もまぁ、あまり人のことは言えませんが、それでも指摘してしまいたくなるくらいにはツルギさんも変わりましたよね」

「うむ、妾たちと会ったときの方が、まだいろいろと気遣いができておったな」

「でも、地球にいた頃はむしろツルギの方が力ずくで解決しようとしたことが多かったわよね?」

「言われてみりゃあ、檜山たちのこともよく実力行使で黙らせてたよな」

「そう考えると、今のハジメ君が昔のツルギ君に似たのかな?」

 

・・・察してくれたうえで、いろいろと心外なことを言われた。

俺がハジメと同じだと?やめてくれよ。

ハジメの方も、なんかすごい嫌そうな顔をしてるし。

俺も似たような顔になってるんだろうなぁ。

 

 

* * *

 

 

「・・・」

「・・・」

 

一方、ツルギによって急に無理やり親子で2人きりにされたティアとリヒトは、ガチガチに緊張した慣れないお見合いのように視線も合わせずに黙りこくっていた。

いろいろと悩んだり複雑な気持ちでいたところに、心の準備も何もなしに強引に2人きりにされたのだから、当然と言えば当然だが。

このまま黙っているわけにいかないのはわかっているが、どうやって切り出せばいいのかまるで分らない。

そんな微妙な雰囲気になっている中、最初にしゃべり始めたのはリヒトだった。

 

「ティア」

「っ、な、なに?」

 

いきなり話しかけられて、思わずティアも声が強張ってしまうが、対するリヒトの言葉は簡単なものだった。

 

「すまなかった」

「え?」

「あの時、ああするしか他に方法になかったとはいえ、今更謝ったところで、とうてい許されることではないとわかっている。だが、それでも・・・そうしてでも、ティアには、ティアの道を歩んでほしかった。そのためなら、私も恨まれてかまわないと思っていた。それこそ、親子の縁が切れることになったとしてもだ。だが・・・」

 

そう言って、リヒトは苦笑を浮かべた。

 

「本当に、峯坂ツルギは大した男だ。私も詳しく聞いたわけではないが・・・親に殺されそうになったというのに、歪ながらも己を持って生きてきた。ツルギとティアが出会ったのは、私としても幸運だったようだ。まさか、私が年下の、それこそティアと同い年の男から諭されることになるとは思わなかったな」

 

リヒトの言葉は、独白とも、ティアへの言葉とも受け取れるものだった。

だから、ティアは静かにリヒトの言葉に耳を傾ける。

 

「思えば、私もあの時から、ティアから逃げてばかりだったのだろうな。たとえ覚悟していても、自分の娘から非難や罵倒の言葉を浴びせられるのは怖かったのかもしれん。だから・・・」

「もう、いいわよ」

 

そこで、ティアはリヒトの言葉を切り上げ、そっともたれかかった。

 

「たしかに、お父さんのしたことは、周りからすれば許されないことだったのかもしれない。でも・・・それでも、あの時はそうやって守ってくれた。そうでしょ?だって、わざわざ私を逃がしてくれたんだから。それに・・・私のお父さんは、1人だけだから」

「・・・そうか」

「私たちには、いろいろなことがあったけど・・・でも、ゆっくりでいいから、私は父さんと一緒にいれるようにしたい。だって、またこうやって、2人で話せるようになったから」

 

ティアの言葉に、リヒトは今までの重荷が降りたかのような、朗らかな表情をしていた。

元々リヒトは、()()()()()()()()()()()()()()()()

ティアにも、人間族にも、そうすることでしか償うことができないと思っていたから。

だが・・・死ねない理由ができてしまった。

こう言われてしまっては、自分だけ勝手に死ぬことはできない。

もちろん、人間族から今までの罪の清算を求められるだろうが、その辺りはリリアーナが今回の大戦を引き合いに便宜を図ってくれるだろう。根っこに腹黒い部分はあるが、それくらいの優しさはある、に違いない・・・はずだ。

 

(あぁ、やはり私は、負けられない理由があった方が戦える類のようだな)

 

もちろん、さっきまでも微塵も手を抜くつもりはなかったが、さっきまでよりも体の、魂の奥底から力が沸き上がってくる。

ここまでお膳立てしてくれたツルギには、礼を言わなければならない。

そうして、リヒトは内心でさらなる戦意をみなぎらせながら、しばらくぶりのティアと2人の家族の時間を過ごした。




あらすじを見てもわかりますが、一応こっちでも言っておこうかなと。
最近になって、ハーメルン用のTwitterアカウントを作りました。
詳しいことは自分のユーザーページの方に書いてあるので、そちらをご覧ください。

いい感じに煮詰まってきたところで、次回からはいよいよ決戦に移ります。
ツルギ組はもちろん、城防衛組や対恵里・光輝組のオリ要素有りストーリーを考える必要があるので大変になりますね。
もちろん、アンケートでやると決めた以上は頑張ります!

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