エヒトから予告された決戦の日までの、最後の夜。
だからといって兵士や俺たちの間で特に何かが変わっているわけでもなく、各々思うように過ごしている。
とはいえ、自然と緊張感が増していることもあって、仮眠をとっている人間はほとんどおらず、武器の習熟に努めているのがほとんどだ。
かくいう俺は、暇だしどうせだからハジメと話でもしておこうと思っていたのだが、
「あれ?峯坂君、そんなところでどうかしたの?」
壁にもたれかかりながら立っていると、横から声をかけられた。
声をかけられた方を向けば、園部を始めとしたクラスメイトが集まっていた。
「あ~、まあ、ちょいとハジメと話をしようと思ったんだがな・・・」
そう言いながら、ハジメの方に視線を向ける。
そこには、ひっきりなしに訪れる来客に、長椅子に座りながらなんやかんやで対応してるハジメの姿があった。
ハジメと話をしようと思っていたが、先客が多すぎて諦めた形だ。
「あの調子じゃ、もうちょい時間がかかりそうだからな。この辺りで待つことにした」
「そっか・・・なんだかんだ言って、あいつの周りって人が絶えないのよね・・・」
園部の言う通り、性格や状況の良し悪しを別にすれば、ハジメの周りには割と人がいた。
俺もそうだし、香織たちや檜山たちもそうだ。
「こっち来て、奈落に落ちてからのあいつには余裕が無かったから、基本的に突っぱねることが多かったが・・・こうして、めんどくさそうにしながらも相手をしてる辺り、少しでも前のあいつは戻って来てると思うな。それがわからずに、一方的に敵視してたお前らの目は節穴だったってことになるが」
「まぁ、それに関しちゃ言い訳のしようもねぇな」
俺の言葉に坂上は苦笑しながらも同意した。
「・・・勝てるよね?南雲っも、峯坂っちも」
そこで、宮崎がふとこぼしたようにつぶやいた。
その言葉に、クラスメイトから俺に視線が集まる。
その問いに、俺は肩を竦めながら答えた。
「さぁな。だがまぁ、なんとかなるだろ。今までだって、そうしてきたからな」
大迷宮攻略だって、悪食戦だって、魔王城での一戦だって、一歩間違えていたら死んでいたかもしれない。そんな綱渡りを今まで繰り返してきて、今ままで生き延びてきた。
当然、物事には、特に戦いには絶対と言えるものは存在しない。が、だからといって『できない』と言う理由はどこにも存在しない。
それに、この時のために、向こうからわざわざ4日も用意してくれたわけだ。だったら、負ける方が難しいというものだろう。
「それにな、人の心配よりも、自分たちの心配をしたらどうだ?やばいのはそっちだって同じ・・・いや、相対的に考えれば俺たちよりもやばいだろ」
なにせ、道中や取り巻きを除けば、俺たちの目的がそれぞれ1人ずつなのに対して、地上組が相手をするのは無数の魔物と神の使徒だ。しかも、単純なステータスで言えば香織とリヒト以外は使徒と比べて大きく劣っている。
この世界の人間はもちろん、召喚組でさえも話にならない。魔王城にあっさり幽閉されたことからも、実力の差は歴然だ。
そんな俺の言葉に、クラスメイトたちは力強い笑みを浮かべて返した。
「なに言ってんのよ。南雲があんな激を飛ばしたのに、私らが無様にやられるわけにもいかないでしょ」
「それに、そのためにいろいろと準備したのは俺たちだって同じだし、南雲にお膳立てもしてもらったんだ。だったら、意地でも負けるわけにはいけねぇぜ」
それは、他の者も同じなようで、全員が力強い笑みを浮かべて頷いている。
どうやら、以前に使徒にいいようにやられた時の敗北感はいい具合に消えているらしい。その表情には、欠片も絶望の色はない。
「ならけっこう。なに、俺の方もさっさと終わらせて、お前らの救援に行ってやるさ。せいぜい、その時まで死ぬんじゃねぇぞ」
俺の軽口にも、力強い笑みは崩れない。
これなら、俺も余計なことを考えずに、俺の敵に集中できそうだ。
* * *
ハジメへの来客が途切れたのは、もうすぐ夜が明けるかどうか、といった頃合いだった。
ハジメに尋ねてきている人がいないことを確認してから、俺はハジメに近づいた。
さっきまではシアたちの姿もあったが、今はハジメしかいない。
気を利かせているのかは知らないが、いつの間にか少し離れたところに移動していた。
「よう。ずいぶんと人気だったな」
「ツルギか。そりゃ、あの時の意趣返しのつもりか?」
「お前の場合、俺と違って自分のツケが回ってきただけだろ」
ハジメを尋ねていたのは、主に漢女や竜人族の面々だ。一応、ユンケル商会のモットーやその娘らしき女性、亜人族からギルやレギン、マオの姿もあった。
ユンケルや亜人族の面々はともかく、漢女軍団はおよそ半分ほどがユエやハジメの股間スマッシュによって誕生したらしいし、ティオの関係で竜人族の男たちやティオの乳母という女性がハジメと腹を割って話したがっていたみたいだし。
「それを考えれば、俺の方がまだ平和的だったな」
「決闘を申し込まれた時点で、平和とは言い難いと思うけどな・・・」
そういうハジメも微妙にげんなりしている辺り、ずいぶんと苦労したようだ。
「にしても・・・まさか、こんなことになるなんてな。日本にいた頃じゃ、欠片も想像できなかった」
「たしかにな。向こうじゃ、魔法とか魔物なんて創作物の中だけの話だったわけだしな。だが、ツルギの家系からして、案外そんなこともなさそうだが」
「だな。案外、俺たちの知らないところで蔓延ってるのかもしれんな」
少なくとも、俺の母さんか父さんのどっちかが魔法使いの家系であることは間違いない。
だとしたら、実は俺たちの知らない裏の世界にはそれなりに魔法の技術や文明が存在している可能性もある。
「だが、それを確認するのはエヒトをぶっ殺してからだ・・・ハジメの方は問題ないか?」
「はっ、当然だろ。そういうツルギこそ、微調整とやらは済んでいるのか?」
「とっくにな。どうやら、互いに準備は万端のようだな」
「あぁ」
俺も、ハジメも、「勝てるか?」なんて野暮なことは問わない。
互いに、やれるだけの準備を整えた。
後は、結果を出すだけだ。
「長年世界を裏から操り続けていた神に、その神と同等かそれ以上の力を持った人形。どっちもわずかにも油断できない、今まで最も尋常ならざる相手だ。だが」
「あぁ。俺たちのやることは変わらねぇ。俺はふざけた神モドキをぶっ殺してユエを救うし、ツルギも人形を黙らせて体を取り戻す」
「今までも、道理や理不尽、不可能を蹴っ飛ばして先に進んできた。だったら、恐れることもない」
「やることはただ1つ。邪魔なものは全部ぶっ飛ばして、何が何でも奪われたもんを取り戻す。ふざけたクソ神は殺すし、何一つあいつの思い通りにはさせやしねぇ」
絶対に目的を達成する誓いを立て、俺とハジメは拳を打ち合わせた。
「ねぇ、なんだかあの2人、いい雰囲気になってない?」
「うぅ、私たちですら、あの2人の間には入れないですぅ・・・」
「いや、本人たちも否定しとる・・・いや、意固地になって認めないだけなのじゃろうか?」
「まぁ・・・ここまでくると、あながち否定もしきれないですね」
「だ、大丈夫だよ!あれもきっと友情なんだよ!多分、きっと!」
「香織こそ、ちょっと自信なくしてるじゃない・・・」
後ろから、ちょ~っと看過できない声が聞こえてきた。
あれほど、俺とハジメはホモじゃないって言ってんのに、ま~だ疑惑がでてくるのかね。
「ったく、あいつら・・・」
「あぁ、きつく言っておかねぇとな」
大きくため息を吐きながら、俺とハジメは立ち上がってティアたちのところに向かった。
この後、小一時間ほど俺とハジメはそういう関係じゃないと釘を刺しておいたが、結局疑惑の目が晴れることはなかった。
* * *
精神的にちょいと疲れたものの、あれこれ弁明したところで簡単に疑いは晴れそうにないと判断して、この話はまた今度ということになった。
どうしたものかと悩んでいると、とうとう最後の日の出を迎え、神山から覗く太陽が空を朝焼けのオレンジに染める。
同時に、
「・・・来たか」
世界が、赤黒い色に染まった。
まるで、魔物の眼のような、見る者の不安感や恐怖心を煽るような、禍々しい色だ。
太陽もただの黒い点に成り果ててしまい、自然と人々の注目が神山上空に集まる。
そして、
「空が、割れる・・・」
誰が呟いたのか。
だが、実際に空には蜘蛛の巣のような亀裂が入り、限界を超える圧力を受けたガラスのような音を立ててひび割れていく。
遂に、神にとっては世界に、人類にとっては弄ばれた歴史に終止符を打つための戦いが、ここに始まった。
今回はだいぶ短めです。
どちらかと言えば、間章に近いですかね。
キリの良さを考えると、どうしてもこうならざるを得なくて。
あと、最近は夏バテもひどくて・・・。
次から本気になります。