転移した場所は、ヌルのちょうど真上。
下手をすれば自分の魔法に当たりかねないが、こっちの方が
「さっさと落ちやがれ!」
空中戦闘の手段が乏しいティアとイズモのためにも、地面に引きずり下ろすために100倍の重力場を展開した。
砦の外壁から乱れ撃ちしてた魔法がちょうどいい撹乱になったおかげで、難なくヌルを地上に叩き落すことができた。
だが、ヌルの身体能力も相当高いようで、地面に衝突する前に体勢を立て直して着地し、すぐに重力場から抜け出した。
「なるほどなぁ。こいつは相当な難物だ」
「たしかに、100倍の重力からあっさり抜け出すなんて・・・」
「ツルギ。お前の眼には、あれのステータスはどう見える?」
「俺が想像してた数倍はやばい」
だいたいのステータスが30万ほどあり、魔力・魔耐に至っては100万を超えている。
おそらく、これこそが神とやらのステータスなのだろう。あるいは、身体能力で言えばユエを媒体にしているエヒトを超える可能性すらある。
「とはいえ、ステータスの差で負けるつもりもない。ティア、イズモ、他の有象無象の相手は頼んだ」
「えぇ、任せて」
「あぁ、任された」
2人を遠くから向かってくる魔物や使徒に向かわせ、俺は両手に二振りの“無銘”を握った。
当初の予定では、3人でヌルを追い込むつもりだったが、予想以上にヌルのステータスが高かったこと、いくらかの魔物と使徒が俺たちの方を狙っていることを鑑みて、最初のところは俺が1人でヌルの相手をしてティアとイズモに魔物と使徒の相手をさせることにした。
できれば、隙を見て2人を俺の方に来させたいところだ。
「愚かなことだ。神たる私を相手に、1人で挑もうなどと」
対するヌルは、他の使徒と同じ人形のような無機質な表情と声で話してくる。
「人の身でありながら限りなく神に近しい器を用いて、我が主の至高の術によって作り出された私は、他の使徒とは格が違う。本来であれば、私1人だけでもこの世界を終わらせることはできるが、それでは主の余興にならない。だからこそ、主の余興を邪魔立てするなど・・・」
「あーもう黙れ。それ以上、てめぇの声を聞きたくない」
俺の体を使っているから、声もまるっきり俺そのままなんだよな。
それなのに、エヒトに忠誠を誓っているかのような・・・いや、事実忠誠を誓っている言葉なんて聞きたくもない。
まったく、我ながらとんだ油断をしてしまったものだな。こうも気色悪い相手と戦う羽目になってしまうとは。
とはいえ、どっちにしろエヒトは近接戦闘は弱いと高を括っていた俺の落ち度であることに変わりはない。
「神だ何だとバカの一つ覚えみたいに。よくもまあエヒトは数千、もしくは万年も続けられるもんだ。そういう
この際、あまり贅沢は言っていられない。
身体を取り戻した後、自分のできる限りでエヒトがいじった部分を書き換えるしかないだろう。
その俺の宣言に、ヌルは不快な表情を隠そうともしないで双大剣を構えた。
「・・・創造主たる我が主が作ったものに手を加えるなど、万死に値する不敬。貴様はここで必ず仕留める」
「できるもんならやってみろ、木偶人形」
これ以上の問答は必要ない。
俺とヌルは同時に踏み込み、刀と剣を衝突させた。
“斬る”という概念を収束した“無銘”であれば、たとえ分解の光を纏った大剣であっても即座に斬り落とす。
そう思っていたが、
「無駄だ」
「ちっ、結局こうなったか」
僅かな抵抗もなく両断すると思っていた大剣は、刃を合わせて拮抗していた。
こうなってしまった原因は、ヌルが持つ双大剣が纏っている光だろう。
あれはおそらく、俺の“無銘”と同じ“斬る”概念に限りなく近い魔法の光だ。
俺の魂魄はここにあるから剣製魔法そのままを使っているわけではないだろうが、それに近い魔法は使えるのだろう。
そして、今の俺の5倍近くある魔力で無理やり概念を作り出しているというわけか。
こんなやつ、ますます砦付近の戦場に行かせるわけにはいかなくなった。
こんな化け物が砦の戦場に現れたら、たとえ香織やリヒトがいても速攻で蹂躙されかねない。
幸い、ヌルの目的は俺に向いているようだから、俺が負けない限りはヌルもここを離れない。
逆に言えば、ここで俺が負ければそれでジエンドなわけだが。
俺は弾き飛ばそうとするヌルの動きに逆らわずに身を任せ、衝撃を受け流しつつ距離をとった。
ヌルもすかさず距離を詰めて斬りかかってくるが、その圧倒的なステータス差を、今までの死闘で身に着けた直感と5手6手先を読む眼ですべてを捌き切る。
とはいえ、俺の方から攻撃をすることは難しく、防戦一方のままだ。
それで余裕が出てきたのか、ヌルは大仰に口を開いた。
「これ以上の抵抗は無駄なことである。我々使徒の軍勢は無限、矮小な軍などいずれ破滅する。そして、たとえ化け物に堕ちていようとも、人の身で神たる我が主に敵う道理はない。さらには、フリードやナンバーズ、使徒と化した中村恵里と天之河光輝、そして死を恐れない屍獣兵。我々が負ける道理はどこにもなく、貴様らが敵う道理もまた存在しない。貴様もしぶとく生き残っているようだが、果たしてそのあがき、いつまで続く?」
「はっ。話になんねぇな。ハジメに、俺たちにそんな道理は通用しねぇ。俺たちは、我を通すために何が何でも無理を押し付けてやるさ」
それに、
「あながち、不可能ってわけでもねぇさ」
「なに?」
ヌルは僅かに眉を顰めるが、俺は視線を向けずとも、意識を傾けずともわかっていた。
少なくとも、俺の近くにいる2人は、連中の言うくそったれな道理を捻じ曲げていると。
* * *
ツルギとヌルが衝突した時、ティアとイズモはまだ残っていた魔物の群れと使徒の軍勢と相対した。
「私たちが全部やる必要はないって言っても、さすがに多いわね」
「だが、ここで素通りさせてツルギの邪魔をさせるわけにもいかない。ならば、相手をするしかないだろう。そのために、ハジメから新しい装備をもらったのだからな」
そう言うイズモの両手には黒を基調とした1対の鉄扇が握られており、ティアの両腕両足にはフェンリルとは装飾が異なる黒い籠手と脛当てを身に着けている。
ティアは両手の拳を打ち合わせて闘志をむき出しにし、イズモも鉄扇を広げて静かに構える。
「「「神の裁きを」」」
先に仕掛けたのは神の使徒だった。
銀翼をはためかせ、一直線に2人の下に飛翔する。
それは、イズモが狙った通りだった。
「“紫炎壁”、“紫炎弾・爆”」
イズモは鉄扇を振るって紫炎の壁を生み出し、さらに壁から無数の紫炎の弾を放つ。放たれた紫炎は対空兵器のように爆裂し、何体かの使徒を飲み込んだ。
さらに、
「なっ、これはっ」
使徒が紫炎を浴びた部分は、即座に炭化してボロボロと灰のようになって崩れていく。
それでも、後続の使徒は爆発に巻き込まれた前衛の使徒を盾代わりにして、なおも突撃を続ける。
そこに、イズモからさらに追撃が加わる。
「“紫炎弾・爆・誘”」
障壁として展開していた紫炎を分裂させ、数百の紫炎弾を生み出した。さらに、そのすべてに爆発とホーミング機能がついているため、的確に使徒を落としていく。
イズモ専用鉄扇型アーティファクト“
当然、出力も大幅に上がるため、1万を超える
だが、使徒の対応も早かった。
「ですが、それほどの威力、全方位には展開できないでしょう。ならば、後ろから近付けばいいだけの話です」
使徒を軽く殲滅するほどの威力の魔法弾の弾幕を、広範囲かつ長時間ばらまき続けることはさすがに難しいはず。
ならばと、およそ3分の1ほどの使徒が弾幕の外から回り込むように大きく迂回し、背後から襲い掛かってくる。
「ティア、後ろは任せた」
「えぇ、任せて」
それは当然、2人も承知していたため、あらかじめ示し合わせていたティアがイズモの背後をかばうようにして立つ。
「“烈波”!」
ティアが思い切り拳を突き出すと、拳から空間が波打つように衝撃波が放たれ、使徒の動きが止まる。
「“
続いて、ティアが上空に向けて回し蹴りを放つと、その軌道にいた使徒の体が前触れもなく消滅した。
「“烈進”!」
そして、再びティアの拳から放たれた衝撃波は、今度はドーム状に広がることなく一直線に使徒へと襲い掛かり、1発ごとに使徒の頭部や胸部を消し飛ばす。大剣や分解の光を纏った銀翼で防御しようとしても、防御もろとも消し飛ばして使徒を消滅させていく。
ティア専用籠手・脛当て型アーティファクト“ハティ”。従来の“フェンリル”と同じ武装に、ティアが生み出した概念魔法“全テヲ喰ラウ獣”が込められた鱗を粉末状にしてすり込んだものだ。そのため、“ハティ”を用いた魔法攻撃は相手の肉体はもちろん、魔法すらも喰らえるようになり、喰らった分だけ魔力を使用者に還元・強化するようになる。
概念魔法によって変異していたとはいえ、ティアの体組織を用いて作成したため、ティア以外が使えば使用者本人が喰われる恐れもある物騒な代物で、攻撃範囲が広すぎると相手によっては直撃しても喰らえない、魂魄魔法を用いても対象の指定が難しいといった欠点はあるが、実質防御は不可能で攻撃するたびに使用者を強化するこのアーティファクトは、対多戦闘で一度暴れだしたら、たとえ神の使徒でも止めることは難しい。
「かかってきなさい。絶対に、イズモにも、ツルギにも近づけさせないんだから!!」
気合一拍、戦意をむき出しにして吼えたティアは、脛当ての“空力”の機能を使って空中に飛び出し、使徒の大軍に突撃して片っ端から使徒を屠り始めた。
「まったく。できれば、さっきのまま私の後ろにいてほしかったのだがな・・・」
戦意が旺盛なのはいいが、ハッスルしすぎるのは困るとイズモはため息をついた。
だが、元々ティアの本分は、シアのように圧倒的ステータスを生かした肉弾戦だ。
得意分野を殺して戦力を下げてでも一緒にいてもらうよりかは、いっそ得意分野を思う存分生かして暴れてもらおうと考え直すことにした。
それに、
「私の方も、特に問題ないしな」
イズモの紫炎弾は、燃やしたものに宿った魔力を魔素としてそのまま空間中に充満させる。
鉄扇には周囲の魔素を自動的に収束する機能があるため、このまま燃やし続けていれば、よっぽど魔力に困ることはない。
やろうと思えば、全方位無差別攻撃もできないことはない。
だが、そうすると序盤の魔力に困ることが容易に想像できるから、正面のみの攻撃に専念したのだ。
「こちらも、実戦を通して新しいアーティファクトが馴染んできたところだ。ここからは正真正銘、全力でやらせてもらおう」
そう言うと、イズモは軽やかに舞を踊るように鉄扇を振るう。
だが、その直後、イズモの放つ紫炎弾は倍以上に膨れ上がり、先ほどよりも多くの使徒を消し炭にする。
傍にティアがいなくなったことで使徒がイズモに近付くことができても、無数の紫炎弾によって行く手を阻まれてしまい、その手数と威力によって分解の装甲もイズモにたどり着く前に剥がされてしまう。
まさに死の妖舞を舞うイズモは、何も知らない人が見れば美しく見えただろうが、使徒からは自身の死を体現するかのように見えた。
そして、それを証明するかのように次々に使徒が落とされていく。
3人程度、すぐに倒すことができると踏んでいた使徒たちは、それが濡れた紙のように脆い願望であったと気づくのにそれなりの時を要してしまい、多くの使徒が無駄死にして散っていった。
* * *
「これは・・・」
現在進行形でティアとイズモに迎撃されている使徒の情報を共有したのだろう。ヌルは呆然と呟く。
「てめぇらの馬鹿な主が、4日もくれたんだ。まさかその間、俺たちが何も対策しないはずがないだろう?砦の連中や、神域に突撃していったハジメたちもそうだ。そうやって調子に乗っていると、あっさり寝首をかかれるぞ?」
剣戟を交わしながら、今度は俺がヌルに挑発的な態度をとる。
「・・・主の決定に従わず、醜く足掻くなど、不敬にもほどがある。すぐに貴様を始末して、粛清をしなければなるまい」
「お前にできるものならやってみろ・・・!“魔導外装・展開”!“
激しい剣戟の中で、俺は“魔導外装”を素早く展開、接続した。
この間、0.1秒ほどしか経っておらず、出力も今までで最高だ。
一瞬、昇華魔法によってステータスを5倍以上跳ね上げ、思い切りヌルを弾き飛ばした。
驚愕を隠せないヌルに、俺は“無銘”の切っ先を向けて宣言した。
「神の木偶人形ごときが、人間を舐めんなよ・・・!!」
YouTubeで映画の切り抜きとか見てて、戦艦とかの対空砲撃のシーンにすごいロマンを感じるのは自分だけではないはず。
戦闘機があぁいう弾幕をすり抜けて敵船に爆撃するシーンとか最高にかっこいい。
やっぱり、完全オリジナルを書くのは自分には難しいですね・・・。
ぶっちゃけ、自分でもいい感じに書けてるか不安な部分がどうしても抜けないというか。
それでも、やれるだけ頑張ります。
最後に、1週間で投稿したいとか言いながら予定より遅くなって申し訳ありません。
たぶん、今後もこんな感じになると思います。
それと、UA30万突破ありがとうございます。
これからも頑張っていきますので、応援よろしくお願いします。