二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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やりすぎだバカ野郎

「は!やぁ!」

 

フェアベルゲンでの話し合いが終わった後、俺たちは三手に分かれた。

一つ目は、ハジメとハウリア族ほぼ全員。

ハジメがハウリア族に訓練をつけている。

理由は、今回の案内が終わればハウリア族を守るものは今度こそいなくなる。そうすれば、今のままではハウリア族は再び蹂躙されることになる。

そこで、俺たちがいなくても自分の身を守れるように、ハジメが直々に戦闘訓練をつけることにしたのだ。

ハジメは、単身でオルクス大迷宮の奈落から帰還した。生き残る術に関しては誰よりも秀でている。そのため、ハジメが訓練をつけることにした。

二つ目は、ユエとシア。

こちらは、ユエがシアの魔力操作の鍛錬に付き合っている。

何やら賭け事をしているみたいだったが、特に問題はないだろう。

最後に、三つめが俺とティア。

俺たちは、ハジメたちとは別に戦闘訓練をしている。

戦闘技術を身に付けるだけならハジメたちと一緒でよかったのだが、ティアが俺と二人での訓練を望んだのと、ハウリア族に施しているのはあくまで生き残るための訓練であって、戦うための訓練ではないことから、俺がティアにマンツーマンで指導することにした。

内容は、主に魔力操作と近接戦闘の技術だ。

魔力操作は、主に魔法の発動の速度と精度を引き上げることに重点をおいた。

ここで、ティアも魔法の発動に魔法陣がいらないことが判明した。どうやら、ティアの体内にある魔石を通すことで、魔物の固有魔法と同じように魔法陣、詠唱なしで魔法を発動させることができるようだ。

これを知った俺は、またユエが出番を取られそうになると言っていじけるだろうなぁ、と思ったが気にしないことにした。

近接戦闘に関しては、俺が日本で学んだ武術の基礎と、戦いの中においての駆け引きを主に教えた。

ここでも驚いたのが、ティアはなかなかに近接戦闘、とくに体術のセンスがあった。武器の扱いはいまいち要領をつかめていないものの、その分、徒手格闘においては深く鋭い踏み込みと強烈な拳を俺に浴びせてくる。

だが、やはり経験はまだ乏しいようで、

 

「甘い」

「きゃあっ!?」

 

俺は簡単に芯をずらしてティアの拳をいなし、足をかけて転ばせる。

 

「踏み込みの速度はピカイチだが、自分でもあまり制御できてないみたいだな。ただ真っすぐに踏み込むだけじゃ、そんじょそこらの雑魚はともかく、俺には当たらないぞ」

「うぅ、ずるいわよ、躱してばかりで」

「真正面から殴り合うだけが戦いじゃない。戦いの中での読み合いが上手ければ上手いほど、相手に攻撃を与えることができる。別に真っすぐ踏み込んで攻撃するのが悪いとは言わないが、それはあくまで相手の知覚を振り切ってこそだ。ティアじゃ、その領域にはまだ踏み込めていない。だったら、その読み合いを身に付けろ」

「身に付けるって、どうやって?」

「こればかりは経験としか言いようがないな。ま、戦いながら身に付けろ。それに相手の知覚を振りきれるだけの動きを身につけるまでの辛抱だ」

「わかったわ」

「それじゃあ、そろそろハジメのところに戻ろうか」

 

幾度となく鍛錬と模擬戦を繰り返してきたが、ティアは確実にそのすべてを吸収していった。実力的には問題ないだろう。

それに、今日は大樹に行く日だ。どのみち、戻る必要がある。

俺はティアを立ち上がらせ、ハジメのもとに向かった。

 

 

 

 

 

「お、ツルギとティアも来たか」

「おう、戻ったぞ。んで、これはどういう状況だ?」

 

ハジメたちのところに行くと、すでにユエとシアもいた。

のだが、その様子がどうもおかしい。

ユエは今まで以上にむっすりしているし、シアは見ただけでも上機嫌だとわかるくらいに笑顔を振りまいていた。

俺が問いかけると、ハジメが疲れたような表情で簡単に説明した。

 

「えっとな、シアも連れて行くことになった」

「・・・あぁ、察した。それがユエとシアの勝負の賭けの内容か」

 

どうやら、この10日間でシアがユエに傷をつけたら俺たちの旅に同行する、という賭けをして、見事に勝ったらしい。

 

「えへへ、そういうことなので、これからよろしくお願いします、ツルギさん!」

「ったく、よろしくな、シア」

 

まぁ、真剣勝負の末の結果なら、俺が口を挟むことでもないか。

とりあえずユエとシアの方の状況は話したため、今度はハジメが俺たちに問いかけてくる。

 

「それで、そっちはどうだ?」

「あぁ、なんというか、やばいな」

「やばい?悪い意味でか?」

「いや、いい意味だ」

 

この十日間、ティアの鍛錬をしながら“看破”を使ってティアのステータスを考察していたが、なかなかにとんでもないことになっていた。

 

「端的に言うと、将来的にはハジメに近いステータスになるかもしれない、いや、ある意味、ハジメの上位互換だな」

「どういうことだ?」

「まず、ティアには尖った才能はないし、天職も持ってないが、弱点がない。技能の方はわからないが、ステータス値は今のところオール2000台、それもレベルで言えばまだ前半だ。まだまだ伸びるな」

「マジかよ・・・」

「これだけじゃないぞ、ティアはおそらく適正属性こそないが、すべての魔法属性を問題なく使えるし、詠唱はもちろん、魔法陣も必要ない。近接戦闘も、うかうかしてたら、素手での勝負なら俺でも厳しいかもしれないな」

「・・・マジ?」

「マジ」

 

俺自身、最初はこの考察に「いやいや」と頭の中で首を振ったが、何回考えてもこの結論に至った。

レベルに関しては、ハジメと同じく俺の“看破”で見れなかった。だが、今回の鍛錬でもかなりの成長を見せたのだ。まだまだ伸びしろはあると考えていいだろう。

俺の評価に、ハジメは絶句していた。

ちなみに、シアの方は魔法適正こそないものの、その分身体強化が化け物じみており、強化した値はだいたい6000程とのことだ。

どうやら、俺たちのパーティーは着々と化け物パーティーに仕上がっているようだ。

 

「んで、ハジメの方はどうなんだ?近くにいないようだが・・・」

「あぁ、今は魔物を狩りにいってるところだ。もうそろそろ戻ってくると思うが・・・」

 

最後に、俺がハウリア族について聞くと、ちょうどそのハウリア族が戻ってきた。

のはいいんだが、

 

「ボス。お題の魔物、きっちり狩ってきやしたぜ?」

「ぼ、ぼす?」

 

前に出てきたカムの口調が、それはもう変わっていた。

思わず「お前だれだ?」と聞きそうになったくらいに。

シアの方も、思わぬ変化に戸惑っている。

 

「俺は1体だけでいいと言ったはずだが・・・」

 

そうこうしているうちにも、カムたちからバラバラと、優に10体分の魔物の牙や爪などが広げられていく。

 

「ええ、そうなんですがね?殺っている途中でお仲間がわらわら出てきやして。生意気にも殺意を向けてきやがったので丁重にお出迎えしてやったんですよ。なぁ?みんな?」

「そうなんですよ、ボス。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした」

「きっちり落とし前はつけましたよ。1体たりとも逃してませんぜ?」

「ウザイ奴らだったけど・・・いい声で鳴いたわね、ふふ」

「見せしめに晒しとけばよかったか・・・」

「まぁ、バラバラに刻んでやったんだ、それで良しとしとこうぜ?」

 

不穏な言葉のオンパレードだった。

正直、元の温厚だった兎人族の気配はどこにもない。

この豹変ぶりに、俺は一つ心当たりがあった。

戦うための技術を身につけるのではなく、戦うための精神を作り上げる、あの伝説の訓練法を。

 

「・・・ハジメ」

「・・・なんだ?」

「まさかお前、ハー〇マン方式でやった、とかじゃないよな?」

「・・・・・・」

 

正解だった。

気まずげに目を逸らすハジメの態度が、如実に答えを物語っている。

 

「ね、ねぇ、ツルギ。ハー〇マン方式ってなに?」

 

そこに、ハー〇マン方式を知らないティアが若干引きつつも俺に問いかけてきた。

 

「簡単に言えば、これでもかってくらいに罵詈雑言を浴びせて、殺すつもりとしか思えないような訓練を施すことで戦うための精神を身に付ける、俺たちの世界の訓練法なんだが・・・」

 

正直、効果覿面を通り越すどころか、副作用の方がより強く出ている気がする。

例えるなら、治療のために薬を服用したらハイになってしまった、って感じか。

それが、成人くらいの男だけならともかく、老若男女問わず、小さな子供までもが豹変しているのが、なおたちが悪い。

こうしている間にも、ナイフを見つめてうっとりしたり、「この世の問題の九割は暴力で解決できる」などと言いだしている。

・・・あれ?兎人族ってなんだっけ?

 

「ボス!手ぶらで失礼します!報告と上申したいことがあります!発言の許可を!」

「お、おう?何だ?」

 

そこに、一人の少年がほれぼれするような敬礼と共に報告をした。

どうやら、熊人族の集団が大樹へのルートに待伏せしようとしているらしく、その相手をハウリア族にやらせてほしい、というものだった。

 

「う~ん、カムはどうだ?こいつはこう言ってるけど?」

「お任せ頂けるのなら是非。我らの力、奴らに何処まで通じるか・・・試してみたく思います。な~に、そうそう無様は見せやしませんよ」

 

話を振られたカムは、にやりと笑って頷き、他のハウリア族も同じように好戦的な表情を浮かべる。

あ、シアが絶望した顔になってる。

 

「・・・できるんだな?」

「肯定であります!」

 

元気よく発言したのは、先ほどの少年だ。

それを確認したハジメは、一度瞑目し深呼吸すると、カッと目を見開いた。

 

「聞け!ハウリア族諸君!勇猛果敢な戦士諸君!今日を以て、お前達は糞蛆虫を卒業する!お前達はもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない!力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる!最高の戦士だ!私怨に駆られ状況判断も出来ない“ピッー”な熊共にそれを教えてやれ!奴らはもはや唯の踏み台に過ぎん!唯の“ピッー”野郎どもだ!奴らの屍山血河を築き、その上に証を立ててやれ!生誕の証だ!ハウリア族が生まれ変わった事をこの樹海の全てに証明してやれ!」

「「「「「「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」」」」」」

「答えろ!諸君!最強最高の戦士諸君!お前達の望みはなんだ!」

「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

「お前達の特技は何だ!」

「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

「敵はどうする!」

「「「「「「「「「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」」」」」」」」」

「そうだ!殺せ!お前達にはそれが出来る!自らの手で生存の権利を獲得しろ!」

「「「「「「「「「「Aye、aye、Sir!!」」」」」」」」」

「いい気迫だ!ハウリア族諸君!俺からの命令は唯一つ!サーチ&デストロイ!行け!!」

「「「「「「「「「「YAHAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」」」」」」

「ツルギ、怖い・・・」

「大丈夫だからな、ティア」

 

ハウリア族の気迫にティアがすっかりおびえて、俺の胸にしがみついてくる。

そんなティアの頭を撫でて慰めながらシアの方を見ると、シアが泣き崩れて、ユエがシアをポンポンと俺と同じようにして頭を撫でている。

ちなみに、先ほどの少年は自分のことを「必滅のバルトフェルド(本名:パル)」などと名乗って、シアはしくしくと泣き始めてしまった。

 

「・・・ハジメ」

「・・・正直、俺もやり過ぎたと思ってる。反省も後悔もないけど」

 

俺のもの言いたげな視線にさすがのハジメも気まずそうにしているが、そこまで気にした様子はなかった。

・・・結局、面倒ごとは俺の担当になるんだな。

 

「いや、ハジメ、きっちり反省はしてもらうぞ」

「なんでだ?」

「・・・とりあえず、後をつけるぞ」

 

そう言って、俺はハジメたちを連れてハウリア族の後を追っていった。

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

「「「・・・・・・」」」

「はぁ、やっぱりか・・・」

 

ハウリア族の後を追ってみると、その先にあったのは地獄だった。

 

「ほらほらほら!気合入れろや!刻んじまうぞぉ!」

「アハハハハハ、豚のように悲鳴を上げなさい!」

「汚物は消毒だぁ!ヒャハハハハッハ!」

 

ハウリア族が、それぞれ得物を振り回しながら熊人族をなぶり、

 

「ちくしょう!何なんだよ!誰だよ、お前等!!」

「こんなの兎人族じゃないだろっ!」

「うわぁああ!来るなっ!来るなぁあ!」

 

熊人族は突然のことに逃げ惑うことしかできず、すでにかなりの数の死体が積み重なっていた。

目の前の現実にハジメ、シア、ティアは呆然とし、俺は深い、それはもう深いため息をついた。

唯一、冷静を保っているユエが俺に問いかけてくる。

 

「・・・ツルギ、やっぱりって、どういうこと?」

「いやな、あいつらはこれまでひたすらハジメに追い立てられて戦うための精神を身に付けたわけだが、実際に人殺しをしたときに精神が無事でいられるのか?って思ったわけだが、案の定だったな・・・」

 

今回、ハジメがハウリア族に訓練を施したわけだが、もともとハジメには何かを『教える』経験などなく、手加減も容赦もなしにしごいた。

それに、本人はとくに問題がなかったから無視していたのだろうが、初めての人殺しに対するショックと言うものを完全に度外視していた。

その結果、ハウリア族は完全に羽目を外してしまって暴走してしまったのだ。

 

「ハジメ?」

「・・・はい」

 

俺の抑揚を抑えた声に、ハジメは完全に『やらかした・・・』とでも言いたげな表情を浮かべていた。

 

「俺が何を言いたいのか、わかるな?」

「・・・はい、今回はやりすぎていまいました」

「なら、どうするべきかもわかるな?」

「・・・はい、わかってます・・・」

 

どうやら、しっかりと反省しているようだ。

 

「そういうわけだ。シア、止めに行ってこい。あいつらの顔が完全に帝国兵と同類になってるからな」

「っ、わかりました!」

 

俺が呼びかけると、シアは巨大な戦槌を担いでハウリア族のところに飛び込んだ。

 

「さてと・・・」

「・・・(ビクッ)」

 

完全に据わった俺の目にハジメがビクリッ!!とふるえるが、とくに気にすることなく俺はこれからのことを考えた。

今回の件、たしかに完全にハジメの失敗だが、いいことがまったくないわけではないのが救いか。

 

「うし、行くぞ。あいつらも頭が冷えたみたいだからな」

「・・・わかった。ほら、ハジメ」

「おう・・・」

「あ、待って!」

 

完全にうなだれているハジメをユエが慰めながら歩き、ティアが慌てて俺の後についていく。

とりあえず、

 

「っと、逃げるなよ」

「グエッ!!」

 

いつの間にかこそこそと逃げようとしていた熊人族の男に、俺は剣製魔法の鎖で締め上げて無理やり連れてくる。

 

「勝手に逃げようとするなよ?そこでおとなしく正座でもしてろ」

「・・・わかった」

 

鎖で縛りつけられている時点で逃げようはないが、とりあえずで釘を刺す。

熊人族の男も、抵抗する気はないようでおとなしく従った。

 

「おら、ハジメ、言うことがあるだろ」

「・・・おう」

 

俺に声をかけられたハジメは、おとなしく俺の言葉に従って前にでてくる。

ハウリア族の面々は、見たことのないハジメの態度に若干困惑しているが、

 

「あ~、まぁ、何だ、悪かったな。自分が平気だったもんで、すっかり殺人の衝撃ってのを失念してた。俺のミスだ。うん、ホントすまん」

 

まさかの素直な謝罪に、ハウリア族はもちろん、シアも口をぽかんと開けている。

 

「ボ、ボス!?正気ですか!?頭打ったんじゃ!?」

「メディーック!メディーーク!重傷者一名!」

「ボス!しっかりして下さい!」

 

見たことのないハジメの態度にハウリア族が半ば錯乱する。

この反応にハジメは頬を引きつらせるが、結局はハジメの自業自得でしかないのでドンナーに伸びる手を必死に抑える。

それを見てから、俺は熊人族の男の近くによって黒刀を首筋に突き付ける。

 

「お前、名前は?」

「・・・レギン、熊人族の次期長老候補だ」

「んで?潔く死ぬのと生き恥さらしてでも生きるのと、どっちがいい?」

 

俺の問い掛けに、レギンは意外そうな顔をする。どうやら、問答無用で殺されるとでも思ったようだ。

ハジメは俺が何をしようとしているのか分かったようで、特に口を挟まずに事態を見ている。

 

「・・・どういう意味だ?我らを生かして帰すとでも言うのか?」

「あぁ、帰りたきゃ帰りな。ただし、条件がある」

「条件、だと?」

「あぁ、条件だ。フェアベルゲンに戻ったら、長老衆にこう伝えろ」

「・・・伝言か?」

 

俺の提案にレギンは拍子抜けしているが、次の俺の言葉に凍り付く。

 

「『貸一つ』」

「ッ!?そ、それは!」

「んで?引き受けるのか?」

 

俺の提案にレギンは怒鳴りそうになるが、俺は構わず答えを待つ。

『貸一つ』。

ようは、襲撃者たちの命を救う見返りにいつか借りを返せ、ということだ。

今回、俺たちとフェアベルゲンは相互不干渉の方針をとったが、これから先でフェアベルゲンに用ができないとは限らない。特に、目的が七大迷宮ならなおさらだ。

それなら、何かしらの“貸”を作っておいた方が、後々に面倒ごとを減らせるだろう。

長老衆の方も、今回の件は熊人族が暴走した結果返り討ちにあっただけで、そのうえで命を見逃してやっているのだから、長老衆の威厳にかけてこの提案を無下にはできない。もし断ろうものなら、それこそただの無法者だ。

つまり、レギンたちはここで死ぬか、自国に不利な条件を持ち帰って生き延びるかのどちらかを選ばされている、ということだ。

生き残る方を選んだのなら、文字通り生き恥だ。

レギンが表情を歪めているところに、俺はさらに追い打ちをかける。

 

「あぁ、そうそう。お前の部下の死の責任はお前にもあることをしっかりと周知しておけよ。ハウリア族に惨敗した事実も含めてな」

「ぐっ・・・!」

「ほら、さっさと決めろ。戦場での判断は迅速が基本だ。決められないのなら、5秒ごとに一人ずつ殺していくぞ。早くしろよ。ほら、ご~、よ~ん、さ~ん・・・」

「わ、わかった!我らは帰還を望む!」

「それでいい」

 

予断を許さない状況に追い込み、自分たちに有利な提案を提示して受け入れさせる。これこそ交渉だな、うん。

念のため、鎖を解除しながらレギンたちに釘を刺しておく。

 

「わかったなら、さっさと帰りな。伝言もしっかり伝えろ。もし、そのときにとぼけでもしたら・・・わかるな?」

「わ、わかっている!」

 

殺気を乗せての俺の問い掛けに、レギンや他の熊人族はコクコクとうなずくことしかできず、おとなしくフェアベルゲンに戻っていった。

熊人族はこれから苦労するだろうが、自業自得だ。

 

「さて、今回はきちんとお前の尻拭いをしてやったわけだが、毎回あると思うなよ?」

「わ、わかった」

 

俺の据わった声音に、ハジメは即座にうなずいた。

よし、とりあえずはこれで一件落着・・・

 

「「「「「あ、兄貴!!」」」」」

「え?」

 

だと思ったのに、なんだかハウリア族がやたらと目をキラキラと輝かせて俺に詰め寄ってきた。

ていうか、

 

「えっと、兄貴ってどういうことだ?」

「あの鬼畜で残酷なボスを相手に対等どころか、上から物を言うだなんて!さすがボスの御友人!」

「あの外道なボスを言いくるめるだなんて、あんたこそ俺らの兄貴にふさわしいです!!」

「ぜひ、俺を舎弟に!!」

「いや、俺こそ!!」

「わたくしを!!」

 

なにやら、俺はハウリア族にとって『自分たちにトラウマを植え付けたお方のさらに上のお方』ということになったらしい。すっかりテンションが上がっている。

 

「なんというか、さすがはツルギさんですぅ」

 

シアの方も、完全に俺に尊敬の視線を送っている。

だが、シアやハウリア族は気づいていない。

その言葉の節々にある余計な一言に、何気にキレている人物がいると。

 

「おい」

「「「「「はい、兄貴!」」」」」

「そうやって俺を兄貴と呼ぶのはいいんだが、その前にまずは自分の身を心配したらどうだ?」

「え?」

「それって、どういう・・・」

「お前ら」

「「「「「「・・・・・・」」」」」

 

ハウリア族の顔から、サァと血の気が引いていった。

後ろを振り返ってみれば、そこにはなぜか満面の笑みを浮かべているハジメが立っていた。

 

「ボ、ボス?」

「うん、ホントにな?今回は俺の失敗だと思っているんだ。短期間である程度仕上げるためとは言え、歯止めは考えておくべきだった」

「い、いえ、そのような。我々が未熟で・・・」

「いやいや、いいんだよ?俺自身が認めているんだから。だから、だからさ、素直に謝ったというのに・・・随分な反応だな?いや、わかってる。日頃の態度がそうさせたのだと。しかし、しかしだ・・・このやり場のない気持ち、発散せずにはいれないんだ・・・わかるだろ?」

「い、いえ。我らにはちょっと・・・」

 

それで、ハウリア族たちは察した。「あ、これやばい。キレていらっしゃる」と。

その瞬間、シアが一瞬の隙をついて逃亡を図った(ハウリア族の男の盾付き)が、

 

ドパンッ!!

 

「はきゅん!」

 

ハジメがドンナーを引き抜き、盾にされた男の股下を通し、そこからせり出していた木の根っこに反射させてシアの尻を撃ちぬいた。シアは尻を突き出しながら痛みにふるえている。

何事もなかったようにハジメはドンナーをホルスターにしまい、笑顔から般若へとシフトして怒声とともに飛び出した。

 

「とりあえず、全員一発殴らせろ!!」

「「「「「「「「「「わああぁぁぁぁ!!!」」」」」」」」」」

 

ハウリア族が蜘蛛の子を散らすようにして樹海の中に逃げていき、ハジメがその後を追う。

その後、しばらくの間、樹海中から悲鳴と怒号が響き渡った。

その間、

 

「・・・・・・(ピクピク)」

「・・・いつになったら行くの?」

「もう、やだ・・・」

「えっと、ツルギ、大丈夫?」

 

シアは地面に突っ伏し、ユエは首を傾げ、俺がへこんでいるところをティアが慰めてくれた。

・・・もう、疲れた。




ハー〇マン方式、やばいですよね。

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