二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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差し伸べる手

結果的に言えば、“抜き足”は光輝に対して十分以上に効果を発揮し、光輝は成すすべなく雫に斬られた。

だが、初撃ではエヒトの供給を断ち切ることはできたものの、“縛魂”は魔力によって守られていたため斬ることができなかった。

そのため、雫は再び“魄崩”を発動し、未だに都合のいい夢を見たままの光輝を“縛魂”から解放した。

 

「光輝、どう?これで洗脳は解けたはずよ。自分が何をしていたのか。今、何が起きているのか・・・分かっているわね?」

「・・・」

「まぁ、何だ。取り敢えず、ド反省しやがれ。後はさっさと南雲達を追って、クソ神をぶっ飛ばして、地上で戦ってる連中を助けて・・・・・・帰ろうぜ、光輝」

「・・・」

 

ようやく終わったと、光輝を連れ帰るために雫と龍太郎は声をかける。

だが、対する光輝は四つん這いになったまま顔を上げず、ずっとうなだれたまま、何かをぶつぶつと呟く。

 

「光輝?」

「・・・・・・嘘だ、有り得ない。こんなのおかしい。絶対、間違ってる。だって俺は正しいんだ。ただ、洗脳されていただけなんだ。俺が敵だなんて・・・雫に・・・龍太郎に・・・なんてことを・・・こんなはずじゃなかったのに・・・ただ正しく在りたかっただけなのに・・・ヒーローになりたかっただけなんだ・・・じいちゃんみたいに・・・ただ、それだけで・・・どうしてこんなことに・・・全部奪われて・・・雫も香織もあいつらが奪ったから・・・龍太郎もあいつらの味方を・・・」

「お、おい。光輝!」

「そうだ・・・これは罠だ。卑劣な策略なんだ・・・あいつらが仕組んだんだ・・・俺は嵌められただけ・・・俺は悪くない。俺は悪くないんだ。あいつらが俺の大切なものを全部奪ったから。悪いのはあいつらだ。あいつらさえいなければ全部上手くいったんだ。なのに、香織も雫も龍太郎も鈴も、皆、あいつらを・・・裏切りだ。俺は裏切られたんだ。俺はっ、裏切られたんだ!お前等に!」

 

そう言って、バッと顔を上げた光輝の顔には憎悪の表情が浮かび、()()()()()()負の感情で飽和しきって完全に恐慌状態に陥っていた。

その姿は、まるで子供のようにも見えるが、光輝が内包する力はそれどころではなく・・・

次の瞬間、光輝の体から天を衝くほどの莫大な魔力が放出された。

この魔力は、エヒトや周囲の魔素によるものではない。それらの繋がりは雫が斬った。

つまりこれは、光輝自身が魂や生命力を犠牲に無理やり生み出されたものであり、このまま放置すれば碌でもないことになるのは目に見えている。

雫と龍太郎が戸惑っている間にも、光輝は周囲に破壊をまき散らしながら魔力を収束させていく。

その光景を前に、龍太郎は険しい表情を浮かべながらも、覚悟を決めて雫に告げた。

 

「・・・おい、雫。神威は俺が抑える。光輝を頼むぜ」

「正気?あの神威、さっきまでのそれより遥かに危険よ。トレント形態でも吸収しきれないわ・・・死ぬわよ」

「へっ、死なねぇよ。あいつの手で殺されてなんてやるかよ。死ぬわけにはいかねぇから、俺は絶対に死なねぇ!」

「この脳筋。理屈も何もないわね・・・でも、いいわ。今は理屈が必要なときじゃない。あの不貞腐れて自棄を起こしている馬鹿が泣いて謝るまで、ぶっ飛ばすわよ!」

「応よっ!」

 

そう言うと、龍太郎は獰猛な笑みを浮かべ、足を力強く地面へと叩きつける。すると、ハジメから渡されたブーツは脛当ての部分を残してバラバラにはじけ飛び、爪が鋭く尖った黒い素足があらわになった。

その直後、2人に光輝から絶叫と共に放たれた神威が強襲する。

絶望的な光景を前にして、それでも龍太郎は上等だと言わんばかりに雄叫びを上げ、両腕を正面にクロスさせて迎え撃った。

凄まじい衝撃と共に神威が龍太郎に直撃し、周囲に破壊をまき散らしながら、それでもなお龍太郎は踏みとどまり、1歩ずつ、それでも確実に光輝へと近づいていく。

まさか受け止められると思っていなかった光輝は驚愕に目を見開き、龍太郎の必ずそこに行くという意思を込めた眼差しに貫かれて思わず後ずさりした。

そして気づけば、もうすでに間近に近づかれていた。

 

「く、来るな!来るんじゃない!それ以上、来たら、本当に殺すぞ!たとえ、龍太郎でも、本当に殺すぞ!」

 

今にも泣きそうな表情で錯乱しながら叫ぶ光輝の前には、ほとんど無傷に近い龍太郎の姿がある。

ところどころ血を流してはいるが、攻撃の威力から考えたら明らかに軽すぎる傷だ。

そんな中で、不敵な笑みを浮かべながらまた1歩前進する龍太郎に、とうとう光輝の中で限界を迎えた。

 

「あ、あ、あぁああああああっ!」

 

もはや自分でも何をしたいのか分からず、ただ目の前の現実を否定したいがために絶叫しながら力を振るう。

神威の奔流は巨人として明確な形を作り上げ、龍太郎に向けて恒星のごとき拳を龍太郎に振り下ろす。

龍太郎もまた、その拳を前に一歩も引かずに立ち向かい、次の瞬間、すさまじい衝撃と轟音とともに鉄槌が振り下ろされた。

 

 

 

訓練場からさらに離れた更地で、ツルギは龍太郎に対する指導を行っていた。

 

「さて、お前にも奥の手を教えるわけだが、お前にはあの2人とは違って防御の技だ」

「防御って、できることなら俺だって光輝を殴り飛ばしたいんだが・・・」

 

龍太郎は基本的に脳筋だが、友情の面では人一倍熱い。

だからこそ、不甲斐ないことになっている光輝に何発でもぶちかますつもりでいたかった。

ツルギも、そんな龍太郎の思いを理解した上で理由を述べた。

 

「たしかに、お前の気持ちもわからなくはない。だが、天之河と中村を相手にするにあたって、まず間違いなく谷口は中村とやり合うことになる。そうなると、坂上と雫の2人で光輝を相手にするわけだが、ここで1つ問題が出てくる」

「問題?」

「谷口の防御支援がなくなるんだよ。頑丈なお前ならまだしも、防御面で言えば雫は他と比べてかなり脆い。だから、いざというときはお前が肉壁になる必要があるんだよ」

「峯坂もはっきりと肉壁って言いやがったな・・・だが、言われてみればたしかにそうだな。だから、俺に防御の技を教えるってわけだな?」

「そうだ。それに、上手く使いこなせれば、お前の“天魔転変”とも相性がいい」

「おう!だったら、早く教えてくれよ!」

 

自分の役割を説明された途端にやる気になった龍太郎に、ツルギは内心で「単純なやつ」と思いながらも指導を始めた。

 

「わかった。っと、その前に」

 

そう言うと、ツルギは靴を脱いだ。

脱いだというよりは、消したという方が近いが。

 

「なんで靴を脱いでんだ?」

「それが前提の技なんだよ。さて、さっそくだが、思い切り殴ってみろ。口で説明するより実際に見せた方が早い」

「そういうことなら、おらぁ!!」

 

早く技を教わりたい龍太郎は「それなら遠慮なく!」と言わんばかりに、最短距離を詰めて拳を放った。

空手を習っている龍太郎の拳は、自身の体重も乗せて勢いよくツルギに迫り、

 

「・・・俺から来いとは言ったが、遠慮が無さすぎるだろう」

「うおっ・・・!?」

 

あっさりとつかみ取られた。

だが、龍太郎が驚いたのは防がれたことに対してではない。

つかみ取られた拳が、ピクリとも動かせないからだ。

これがハジメ相手なら、動揺は少なかったかもしれない。ハジメのステータスは魔力操作による身体強化がなくてもずば抜けており、義手や魔物の肉を喰らった影響で体重、というか重量そのものが見かけよりもかなり重い。

だが、今のツルギは実体こそあるものの、魔力によってできた体であるため見た目よりもかなり軽い。重力魔法を使えば同じ結果は出せるだろうが、今のツルギは魔法を使っている気配がない。

つまり、純粋な身体能力で龍太郎の拳を受け止め、なおかつ静止させたことになる。

 

「と、まぁ。こんな感じだ」

「お、おう。どうなってんだ?」

「これが靴を脱いだ理由にもなるんだが、簡単に言えば足の指で地面を掴んだ」

「・・・それだけか?」

 

起こった現象にしては簡単すぎるからくりに龍太郎は首を傾げる。

 

「それだけだ。だが、ただ文字通り掴むだけじゃない。それこそ、手の指で物を掴むように、地面の硬い部分に杭を打って自身を固定するようにがっつり掴むんだ。そうすれば、地面ごと吹き飛ばされない限りはその場に踏みとどまれる。これがお前にぴったりの防御の構え、“富嶽”だ」

 

これをとことんまで極めれば、足場と一体化することで地盤そのものを自身の重量をすることができるため、ちょっとやそっとでは吹き飛ばされなくなる。さらに、重心移動による衝撃の受け流しもマスターしていれば、体の中に受けた衝撃を地面に逃がすことで、さらに堅牢な防御を実現することができる。

まさに、“天魔転変”で一時的に魔物の姿になれる龍太郎にぴったりと言えるだろう。

 

「おぉ、そりゃあすげぇな!」

「だが、弱点もある。足場そのものを崩されたら終わりだし、砂地や砂利場みたいなそもそもしっかりした地盤がない場所だと機能しない」

 

さらに言えば、ブロックやアスファルトのような表面が細かいパーツに分かれている場所でも効果は減少するし、足場そのものが小さいとこれも効果が減少する。

つまり、かなり使う場所を限られる技なのだ。

 

「そして、神域の内部の構造がわからない以上、必ずしも“富嶽”を十全に使うことができるとは限らない」

「・・・なんだ、その欠陥だらけの技は」

「あくまで使える場所が限られるってだけで、欠陥だらけというほどでもないんだけどな」

 

それでも、戦う場所がどのようなところなのかわからない場合に不安要素が生まれてしまうのは、それは大きい欠点であることに違いない。

当然、ツルギもその点を考えていないわけではなかった。

 

「もちろん、その辺りのことも考えている。というか、考えた上でこれが最も坂上に適していると判断した」

「どういうことだ?何がなんだかわからなくなってきたんだが・・・」

「お前には“天魔転変”があるだろう」

 

そのツルギの指摘に、龍太郎は「あっ」と声を漏らした。

“天魔転変”によって自身の体が魔物のようになるということはつまり、通常では“富嶽”が使えないような場所でも使えるようになるということだ。

 

「ってことは、鋭くなった爪で引っかけることもできるってことか?」

「それもある。が、これが一番の本題なんだが、あの例のトレント形態、あれで足から根っこを生やすってことはできるか?」

 

さらなるツルギの指摘に、完全に盲点だったらしい龍太郎は再び「あっ・・・」と声を漏らした。

 

「・・・ぶっちゃけ、わからん。けど、もしかしたらできるかもしれねぇ」

「となると、目標は形だけでも“富嶽”を物にすることと、“天魔転変”の更なる形状変化。この2つだ。時間は限られているからな、ハードに行くぞ」

 

 

 

 

「あ、ああ・・・」

 

とうとう、親友を自身の手にかけてしまったのだと、思考の隅で確信してしまった光輝の心は軋みを上げ、その精神は崩壊しそうになり、

 

「よぉ、親友。なに、クソ情けねぇ面ぁ、晒してんだ?」

「え?」

 

その時、粉塵が薙ぎ払われ、中から巨人の鉄槌を受け止めた龍太郎の姿が現れた。

ところどころに亀裂が走っているが出血は少なく、瞳に宿る力強さは微塵も衰えていない。

実戦形式(ツルギのわりと本気の攻撃を龍太郎が必死に防ぐのを繰り返しただけ)で習得した龍太郎の“富嶽”は、光輝の渾身の一撃にも耐えきってみせた。

ちなみに、地上部だけ見れば龍太郎が受け止めきっただけに見えるが、地下には龍太郎の足下から伸びた根で埋め尽くされている。

先ほどまで軽傷で済んでいたのも、受けたエネルギーを再生力にも変換して足裏から根を生やし、根を切り離すことで一歩ずつ前に踏み出していたのだ。

 

「りゅ、龍太郎?そ、そんな、なんで、受け止められるはずが・・・」

「へっ、馬鹿、野郎。こんな、気合の一つも入ってねぇ拳が、俺に効くかってんだ・・・なぁ、光輝。お前じゃ、俺は殺せねぇよ。なんでか分かるかよ?」

「う、え?」

「それはな、てめぇを連れ戻すって決めたからだ。そのためなら、なんだってやってやるよ。そのためなら、あいつに教えを請うし、無敵にだってなってやる。だから、お前は俺を殺せねぇっ。てめぇを、バカな親友を連れ戻すまで、殺されてなんてやらねぇッッッ!」

「ぅ、ぁ・・・な、なんで、そこまで・・・」

「そんなの、決まってるだろ?道を間違えたってんなら、殴って止めてやるのが・・・親友の、役目じゃねぇか」

「しん、ゆう、だから・・・」

「応よ・・・だが、まぁ、今回は、その役目はあいつに譲るぜ。情けねぇが、俺の拳は・・・届きそうに、ねぇからな」

「え?」

 

龍太郎の言葉に、一瞬光輝は呆け、その隙をつくかのように龍太郎が受け止める鉄槌の下を雫が真っすぐに駆け抜けていき、

 

「“魄崩”!」

「っ・・・!?」

 

不可視の斬撃が再び光輝の中の魔力を切り裂き、神威の巨人も斜めにずれて霧散していった。

斬撃の衝撃でのけぞる中、光輝は視界の中で雫が再び黒鉄を抜刀して攻撃の意思を宿しているのを目にし、「あぁ、これが報いか・・・」と刃を受け入れようとした。

だが、雫から刃は振りぬかれなかった。

 

「歯ぁ食いしばりなさいっ!大馬鹿者っ!」

「っ!?ぐぁっ!?」

 

ズガンッ!!と凄まじい音と共に、光輝の脳天に衝撃が走った。

その正体は、納刀したままの黒鉄で思い切り殴り飛ばした音だ。

衝撃の位置と自分の視界が地面で埋め尽くされていることから、光輝もそのことを理解したが、それを認識する暇もなく今度は顎をかちあげられて視界が空で埋め尽くされる。

だが、それでもなお足りないと言わんばかりに、光輝の全身をくまなく殴打する。

ちなみに、雫としては最初その顔面を拳でタコ殴りにするつもりだったのだが、ティアからの「あんな馬鹿にシズクの拳を使うのはもったいないわ」というティアの言葉と「どうせだからあいつの体にもう一度八重樫流を叩き込んでやれ」と黒鉄の鞘に『これで殴っても死なないけどいかなる防御でも防げない』という峰打ち機能を追加したツルギの指摘によって、納刀した黒鉄の鞘で殴打することになった。

最初こそ、今までの鬱憤を晴らすかのように、というよりも実際に晴らしながら殴打しまくった雫だが、最後には光輝の胸倉をつかんで、親友だから、家族同然の幼馴染だから、絶対に見捨てないと、逃げずに戦えと、そう叱咤し、それでようやく光輝も自らの過ちを受け入れることができた。それこそ、雫がツルギにベタ惚れな現実を前にしても嫉妬に囚われないくらいには。

 

「・・・お前ら、俺のこと忘れてねぇか?」

 

そんな特に深い意味のない2人の世界を展開している雫と光輝に、龍太郎が近寄ってきた。

すでに“天魔転変”は解除されており、肩をゴキゴキと鳴らしながらもこれといった傷は残っていない。

 

「・・・任せておいてなんだけど、よくその程度で済んだわね?」

「おうっ。南雲の回復液も飲んだしな。ここに来る前に峯坂にボロボロにされた甲斐があったぜ」

「いったい、どういう鍛錬をしたのよ・・・」

 

雫にはかなり丁寧に指導していただけに、他の2人がどのような扱いをされたのか少し気になったが、それはあとで追及しようといったん隅に置いておいた。

そして、光輝も真っすぐに龍太郎のことを見た。

 

「龍太郎・・・すまなかった」

「おう」

 

頭は下げず、何があっても目をそらさないと態度で示す光輝に、龍太郎もニカッと笑って、それだけ返した。余計な言葉はいらないと。




投稿は少し遅れてしまいましたが、急いで作り上げた続きです。
タイトルは違いますけど、気持ち的には前後編に分かれている感じに近いですかね。
本当は、この後の恵里と鈴のやつも書こうか悩んだんですが、どうせ似たり寄ったりの展開でダラダラ続くくらいならいいやってことでスルーすることにしました。
この後の展開が知りたい方は原作を読んで、どうぞ。

さて、次からは地上編になりますね。
こっちの方がオリジナル要素てんこ盛りになる予定なので、頑張らなければ。

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