二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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地上の決戦 前編

神域で激しい戦闘が行われている中、地上でもまた凄まじい激戦が繰り広げられていた。

ハジメのアーティファクトによって兵士たちを大幅に強化し、神の使徒を大幅に弱体化させて、さらに多数の兵士が1人の使徒に集団戦を仕掛けるが、素のステータスが違い過ぎるためこれでようやく五分五分といったところだ。

地上の兵士が狙うのは、外部からの砲撃を防ぐ大結界の要と大幅に強化された“覇墜の聖歌”を行使する聖歌隊を狙いに下りた使徒。

どれだけ条件を整えてもなお死を覚悟しなければならない相手に、それでもいくつかの場所では優勢を維持していた。

そこは、“ツルギ様専属メイド会”と“義妹結社”が配置されているところである。

 

 

戦場のいたるところで使徒による蹂躙が行われている中、鋼色に近い迷彩を施した軍服のような戦闘装束を纏った10人の少女たちは拳銃を手に戦場を駆け回っていた。

その少女たちには例外なく赤の装飾を施されたモノクルを装着していた。

 

「次、北北東にいる集団です!数3!」

「「「「了解!」」」」

 

部隊長の指揮に従い、10人の少女たちは微塵も速度を落とさずに人の間をすり抜けて目的の使徒の背後に迫る。

 

「各員、散開!」

「っ、排除します」

 

僅かに不意を突かれた使徒がまとわりつく兵士を吹き飛ばして少女たちに向かって双大剣を構える。

それに対し、少女たちは3チームに分かれて使徒を包囲した。

1人の使徒に対して、少女たちは3人か4人。決して有利とは言えない。

だが、

 

「くっ、ちょこまかと・・・っ」

 

少女たちは徹底して双大剣の間合いよりも外に位置取り、死角から射撃する。

たとえ一方向からの攻撃を防いだとしても、それによってできた僅かな隙をついて頭か心臓を撃ち抜いて使徒を仕留める。

その姿は、まるでどこぞの首狩りウサギをほうふつとさせるものだった。

 

「使徒3体を撃破。次は南に向かって中距離援護!」

「「「「了解!」」」」

 

使徒を倒しても欠片も気を抜かず、すぐに次の行動に移り味方の援護を徹底する。

このような正確かつ迅速な集団行動を行えるのは、やはりモノクルのおかげだ。

ハジメ特製“ス〇ウター”もどき。モノクルにはグラス部分に“魔力探知”と“先読”、“瞬光”が付与されており、使徒の魔力に反応して数と大まかな位置が表示されるようになっている。さらに、金属部分には念話石も埋め込まれているため、轟音の中でも指示が行き届く。また、視界にはコンパスも表示されているため、方向伝達も即座に行うことができるという、まさに“ツルギ様専属メイド会”部隊のために作られたと言っても過言ではない仕様になっている。(ちなみに、最初ハジメはサングラス型を作ろうとしたが、余計に視界が狭まるのとさすがにメイド女子にはダサすぎるということで却下された。スカ〇ター型なのはハジメの趣味とツルギの妥協の結果)

また、メイド会のメンバーには限界突破用アーティファクト“ラスト・ゼーレ”ではなく、別のアーティファクトを渡されている。

その名も“ヴァルキリエ・ソウル”。“ラスト・ゼーレ”と比べて強化倍率を5倍から3倍に落とした代わりに、使用している最中は一切の疲労を感じなくなる効果を持っている。遊撃部隊である彼女たちは戦場を縦横無尽に駆け回るため、ステイタス強化よりも持久力の強化を優先させた。これのおかげで、メイド会の部隊はほとんど休憩を挟むことなく常に動き回ることができている。

とはいえ、あくまで疲労を感じないというだけで蓄積はされるため、使用後の反動は下手をすれば“ラスト・ゼーレ”よりもひどくなる場合がある。

そのことをツルギから説明されたが、それでもメイド会のメンバーの全員はそれでもかまわないと一切のためらいもなくうなずいた。

さらにツルギによって連携と乱闘の訓練を徹底的に叩きこまれたことも相まって、メイド会のメンバーは十二分に戦場の潤滑油としての役割を果たしていた。

そして、その中で最も気を吐いていたのは、メイド会の中でも特に精鋭が集まったアンナがいる部隊だ。

隊長を務めているのはメイド会のリーダーであるウェンディだが、鬼気迫る勢いで使徒を倒しまくっているのはアンナだ。

そんなアンナは、他のメイド会のメンバーと比べて少し異様とも言える格好をしていた。

基本的な戦闘装束は変わらないが、アンナだけ拳銃を4()()装備しているのだ。両手に1丁ずつに加え、両足のかかと部分にも1丁ずつ拳銃を固定する形で装備している。

また、拳銃の形状も微妙に異なる。基本的にメイド会のメンバーに配られたのはリボルバー式だが、アンナが手にしている拳銃にはリボルバーの弾倉が存在せず、銃身も短い。さらに銃口が縦に2つ連なっている、いわゆるデリンジャーに近い形状になっている。

 

「アンナ!そちらの1体は任せます!」

「わかりました!」

 

アンナの部隊が向かった先にいる使徒の数は4体。いくら精鋭とはいえ、圧倒的なスペックを持つ使徒を相手にするには最低でも1体につき3人で相手しなければならない。

にもかかわらず、ウェンディは1体の使徒の相手をアンナ一人に任せた。

 

「見くびられたものですね。人間が1人で敵うはずが・・・」

「ふっ!」

 

使徒が余裕の発言をするのも構わず、アンナは姿勢を低くして一気に使徒に肉薄する。

使徒も当然これに反応し、アンナに向かって分解を纏った大剣を振り下ろす。

 

ガキィンッ!

パンパンッ

 

だが、その動きを読んでいたアンナは振り上げた足で大剣の柄の部分を受け止め、さらにそのまま発砲することで手首を撃ち抜き大剣を落とす。

それでも使徒はもう片方の大剣でアンナを斬り伏せようとするが、即座に死角に回り込んで足払いをかけつつ使徒の膝を撃ち抜く。

そして、これに対応できず崩れ落ちた使徒の頭部を撃ちぬいた。

この一連の動きにかかった時間は、5秒にも満たない。

それもそのはずで、アンナに渡された“ヴァルキリエ・ソウル”の強化倍率は“ラスト・ゼーレ”と同じ5倍となっている。

さらに、アンナに渡された拳銃は見た目こそデリンジャーのような形状だが、内部には弾丸のみを詰め込んだ宝物庫が仕込まれており、リロードの必要はない。発砲に関しても、魔力を流すことで自動的に行えるようにしている。

また、これは他のメイド会のメンバーに渡された物にも同じことが言えるが、拳銃はレールガンではなく炸薬で撃ちだしているものの、弾丸そのものに貫通力と発射速度が増大する仕組みが施されているため、使徒相手にも十分にダメージを与えることができる。

ちなみに、このスタイルを提案したのはアンナだ。

“ヴァルキリエ・ソウル”の強化版をアンナに渡すことに関してはツルギもあまり乗り気ではなかったのだが、

 

『私はツルギ様の隣で戦うことはできません。でしたら、これくらいのことをしなければ私自身が納得できないんです』

 

決意に満ちた目でこのようなことを言われてはツルギとしても断るというわけにはいかず、渋々承諾した。

拳銃の4丁持ちに関しては、ツルギはもちろん、ハジメも完全に寝耳に水だった。

ツルギやハジメが4丁拳銃を思いつかなかったのは、単純に2人の戦闘スタイルに合わなかったからだ。ツルギは剣を基本武装にしているし、ハジメのガン・カタも足技は密着されたときに距離をとるために使うことがあるかないか、といったところだ。そもそも、2人のステータスなら並の相手ならただの蹴りでも致命打になる。そのため、足にも拳銃を取り付ける、という発想は思い浮かびすらしなかった。

そのため、創作意欲を刺激されたハジメはノリノリで要望通りに仕上げた。

打撃のためにもより硬く、だが女性でも十分に扱える軽量性を持ち、さらにリロードを必要としない機構。

それらを追求した結果が、デリンジャーに類似した見た目だった。

さらに、女性特有の柔軟な関節を活かし、ツルギの指導とハジメの指摘によって形になったのが今のスタイルだ。

これらによって、アンナの実力はメイド会の中でも最強となった。

それこそ、自身の大幅強化&使徒の大幅弱体化ありきとはいえ、使徒と1対1でも優位に戦えるくらいには。

ちなみに、ハジメのステータスを大幅に減少させ(強化した“覇墜の聖歌”の試運転も兼ねて)、使用可能な武器を拳銃のみに限定し、さらに近接戦闘のみに縛った上で模擬戦をしたところ、かなりいい勝負を披露した。

最終的にハジメが勝利したものの、ハジメ曰く「見た目よりも間合いが広いわ蹴りを防いでも気が抜けないわで思ったよりえぐい」とのことだった。

また、関節可動域はどうしても女性の方が優れているため、ハジメでも同じレベルまでは真似できないという結論に至った。

このように、ハジメからもお墨付きをもらったわけだが、その際に感極まったアンナがツルギに抱きついて軽く修羅場が発生したのだが、それはまた別の話である。

これらのおかげで、アンナが単身で倒した使徒の数は10体近くにのぼり、連携で倒した使徒も数えればさらに増える。

 

「アンナ!大丈夫ですか!?」

「問題ありません!」

 

“ヴァルキリエ・ソウル”によって肉体的な疲労は感じないものの、精神的な疲労は別だ。相手をするのが使徒であるならなおさらであり、1人で相手するのであればさらにキツイ。

それでも、ウェンディの問い掛けにアンナは一切のためらいもなく答えた。

たしかに、これほどの相手と絶え間なく戦い続けるというのはツルギとの鍛錬を経ても負担が大きい。

だが、それはこの戦場にいる全員が同じであり、さらに神域組やツルギたちはさらに強大な敵と戦っている。

ならば、自分がここで無理をしないわけにはいかない。

それになにより、ツルギが授けてくれた力を、ツルギたちが戻ってくる場所を守るために使わずしてどこで使うと言うのか。

端的に言えば、「この程度、ツルギ様を想えば」ということだ。

その内心を正確に理解しているウェンディは、内心で小さくため息を吐いた。

 

(ここまでお慕いできる殿方がいるというのは、少し羨ましいですね)

 

当然、ウェンディも年相応には恋愛に興味を持っているし、貴族の令嬢であることから嫁入りあるいは婿取りも視野に入れている。

だが、侍女という立場上恋愛できる機会は非常に限られているし、ツルギに抱いている感情は尊敬であって恋慕ではない。(なお、周りからは忠誠を誓っているようにしか見えていない)

そのため、特定の異性のためにここまで必死になれるアンナが、ウェンディは少し眩しいもののように見えた。

だが、ここは戦場。感傷に浸る時間も余裕もない。

ここで、周囲から次々に魔力が噴き上がり始めた。

ラスト・ゼーレによる“限界突破・覇潰”を発動し始めたのだ。

 

(ここからが正念場ですね)

「次、南西方面です!数2!」

「「「「了解!!」」」」

 

少女たちはまた、各自の役割を果たすために戦場を走り抜けていった。

 

 

 

 

 

一方で、とある戦場では他と違った異様な熱気に包まれていた。

言わずもがな、“義妹結社”が配置された戦場である。

 

「くっ、何者なんですかっ、あなたたちは!」

「雫お姉様の義妹(ソウルシスター)でありますっ!!」

 

感情がないはずの使徒に困惑を引き出させている義妹結社の筆頭である女騎士は、その名を魂に刻み込め!とでも言わんばかりに斬りかかる。

 

「無駄なことを・・・っ!」

 

使徒が女騎士の攻撃を防ごうとした直前、使徒は背後から殺気が近づいていることに気付いた。

集団戦法をとっているとすでに分析している使徒は、防御の手を残しつつ背後の気配めがけて大剣を振りぬいた。

だが、確実に対象を斬ったはずの大剣は、空を切っていた。

 

(なっ)

「覚悟でありますぅ!」

 

不意を突かれてできた一瞬の隙に、女騎士は一気に接近してそのまま使徒の首を斬り落とした。

女騎士は闇魔法を得意としており、ハジメからも闇魔法を強化するアーティファクトを渡されている。そのため、使徒の魔耐を突破して闇魔法による幻術をかけることができる。今のも、闇魔法によって使徒に偽りの殺気を感じさせたのだ。

そして、闇魔法によって優位に戦っている女騎士に限らず、いたるところで義妹(ソウルシスター)が暴れまわっていた。

当然、彼女たちはメイド会のように他と違うアーティファクトを渡されているわけではない。渡されたのは他の普通の兵士たちと同じ“ラスト・ゼーレ”などの基本武装と、一部に魔法を補助するアーティファクトのみだ。

にもかかわらず、普通の兵士と比べても使徒を圧倒しているのは、端的に言えばツルギのせいである。

彼女たちは大戦がはじまる前、ツルギに襲撃を仕掛けた際に20倍の重力によって押しつぶされ、それでもなお床を這って動き、女騎士に至っては脱出すらした。

そう、20倍の重力の中で、だ。

20倍の重力を経験した義妹(ソウルシスター)からすれば、もはや通常の重力など感じないに等しいのである。

そのため、ステータスの数値上では目立った変化はないのだが、謎の力によってステータス以上の動きが可能となってしまっているのだ。

この事実に、ツルギは頭を抱えて軽く絶望し、ハジメや雫ですらもドン引きしていた。

義妹とはいったどういう生き物なのだ、と。

当人たちは「これこそお姉様への愛によってなせる技!」とでも言わんばかりに胸を張り、雫に「褒めて褒めて!」と期待の眼差しを向けた。この時点で、ツルギはこれ以上相手にしていられないとさっさと雫を連れてその場から逃げた。

その後、ツルギはあの手この手で義妹結社と雫を接触させないように立ち回り、見事開戦の時まで雫と義妹結社を引き離して雫の集中力を保たせることに成功した。

逆に、その時以来開戦までに雫と会うことができなかった義妹結社の面々はツルギに対してこれ以上ないレベルで敵意や殺意その他諸々を抱き、だが雫との言いつけを守るためにそれらをすべて使徒にぶつけると決めた。

これらの結果、義妹結社は獣というよりもはや狂戦士に近い気迫で使徒に襲い掛かり、使徒に謎の恐怖を抱かせるに至った。

ちなみに、使徒ですら恐怖を覚える義妹結社の様相に普通の兵士が耐えれるはずもなく、一塊にされている義妹結社が戦っている部分だけ謎の空白ができており、義妹結社が移動すると兵士たちもきれいに義妹結社を避けていくように移動するという謎の現象が起きていた。

とはいえ、使徒にとって目先の脅威であることに変わりない。

 

「彼女たちを取り囲みなさい。何やら妙な力を発揮していますが、所詮は人間。数で押し切れます。」

 

隊長格の使徒が、他の使徒に向けて指示を出す。

空中で砲撃の準備をしては的になるため、今度は多くの使徒が義妹結社を取り囲むようにして降り立った。

だが、

 

「「「「「・・・」」」」」グリンッ

「ひっ!」

 

思わずあがった悲鳴は、偶然その場面を目撃してしまった兵士か。もしかしたら、情報を共有していた使徒のうちの誰かだったのか。

義妹結社はまるで全員が1つの意思を持っているかのように、全員が一切の乱れもなく首を動かして使徒たちを見据えた。

気のせいか、目が魔物のように赤く光って見える。

次の瞬間、義妹結社は獰猛な獣のように使徒へと襲い掛かった。

 

結果的に言えば、義妹結社を包囲した使徒ができたのは、少しの足止めとわずかに義妹結社を分散させるにとどまり、その後も義妹結社は軍隊アリのように戦場を移動しては使徒を殲滅していった。

このとき、たまたま義妹結社の近くで戦い生き延びた兵士たちは、義妹結社の戦う姿を見て、口をそろえてこう言った。

「あれは人ではない、魔物どころか使徒よりも恐ろしいナニかだった」と。




今回はメイド会とやべー奴らを中心に書いてみました。

ス〇ウター風モノクルをかけた少女たちが、軍服風の服を着て戦場を縦横無尽に駆け回る・・・文章にするとめちゃくそシュールで笑えますね。
ちなみに、アンナがやってたベヨネッタのガンアクションは、自分は(見てる分には)けっこう好きです。
ハジメですらやっていない両手両足の四丁拳銃ってカッコよくないですか?カッコいいですよね?

義妹結社に関しては・・・うん、これくらいは普通のはず。
たぶん、きっと。
メイド会に比べれば文章量は少ないですけど、それにも関わらずとんでもないヤバさがすごい伝わってくる。
これは大戦が終わってもツルギはめちゃくちゃ苦労しそう。
とりあえず、義妹結社を敵に回してはいけない。

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