二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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地上の決戦 後編

「おーおー、いよいよこの戦場も温まってきたか」

 

いたるところで“限界突破”の魔力が噴き上がる中、グレンは少し盛り上がった丘の上からその様子を眺めた。

その両手には、2本の小刀が握られている。

 

「さて、ツルギにああ言った手前、ここで手を抜くわけにはいかんな」

 

そう言うと、グレンは自らも“限界突破”を発動させ、小刀を構えて使徒へと突撃した。

当然、使徒もこれを察知し、迎撃態勢に入る。

だが、

 

「はっ、当たるかよ!」

 

グレンは使徒の攻撃をすべて読み切り、紙一重で躱しながらすれ違いざまに斬撃を浴びせる。

刃渡りが30㎝ほどの小刀は、使徒の胴体を容易く()()()()()して屠り、次々と使徒の残骸を積み上げていく。

他の妖狐族が火魔法や闇魔法を用いた搦め手で使徒を倒していくのと比べて、次々と斬り倒していくグレンの戦い方はひと際目立っていた。

というのも、実はグレンの小刀だけ他の妖狐族に配られたものとは少し仕様が違うものになっている。

ハジメが製作したものにツルギがさらに手を加えた特別製小刀“天羽々斬”は、重力魔法によって刃とその延長線上1mの範囲に極薄の斥力場による刃を発生させる。魔力を込められた極薄の斥力場は分解の魔力すら割断するため、実質防御不能に近い。消費魔力が多いという欠点も、周囲の魔素を吸収する機能を追加したことで解決させた。

グレンだけこのような処置が施されたと言うのはイズモの父親である贔屓と思われるかもしれないのは、実際はそうではない。

諜報部隊の隊長を務めるグレンだが、実は魔法がそれほど得意というわけではないのだ。

当然、トータスの平均的な天職持ちと比べると非常に優れているが、他の妖狐族と竜人族、さらには同じ炎術師の天職を持つ異世界転移組と比べるとどうしても劣ってしまう。

その代わりに、グレンには数百年もの間磨き上げられて来た武術の才があった。

グレンが隊長を務める理由は、武術だけで他を圧倒するだけの実力と幅広い応用による諜報技術があったからだ。

単純な武だけで言えば、ツルギやリヒトと比べても劣らないどころか、圧倒的な経験値も加味すれば2人よりも頭一つ抜き出ている。

そのため、グレンをより活かすためにツルギが急遽手を加えることになったのだ。

その成果は、グレンが斬り倒した使徒の数が物語っている。

 

(当然、土台になっているこの小刀のアーティファクトも一級品だし、それを短時間で量産した南雲ハジメも相当だが、さらに手を加えてここまで昇華させるとはな・・・やはり、イズモが選んだ男なだけあるか)

 

使徒を斬り伏せながら、グレンは内心でツルギの評価をさらに一段階上げた。

アーティファクトと言えば、超一流の錬成師(あくまでトータスの一般を基準として)ですら構造に手を出すなんてとてもできない代物だ。

あくまでハジメによる量産品とはいえ、即興でさらに機能を追加したツルギの手腕にグレンは「ツルギは本当に何者なんだ?」と首を傾げざるを得ない。

とはいえ、グレンはツルギがハジメの作業を手伝った際の豊富な経験があるとは聞かされていないからこその感想だが。さらに言えば、ツルギには“魔眼”があるため、元から機能を損なわないように改造するくらいは容易い。

その辺りのことをそこまで知らないグレンは、この戦いが終わったらたっぷり聞こうと内心で決める。

 

(まぁ、さすがに余裕というわけにはいかないが)

 

グレンの視線の先には、使徒の残骸の他に兵士たちの死体も転がっている。

いくら兵士たちを強化し、使徒を弱体化させたところで、使徒と兵士の間には覆らないステータス差がある。

そのため、どうしても死亡する兵士は出てしまう。

ほとんど被害を出さずに戦えているのは、メイド会や義妹結社を始めとしたごくごく一部だ。

それでも、まだこうして互角のままでいられるのは、

 

(あの嬢ちゃんのおかげだな)

 

上空を見ると、そこでは竜化した竜人族に加え、純白の竜人と黒銀の天使が縦横無尽に暴れまわっていた。

リヒトと香織だ。

その中で、香織から時折黒銀の雫が戦場に落ち、兵士たちの頭上で眩い光と共に波紋が広がると負傷した兵士はもちろん、死んだはずの兵士まで起き上がった。

香織は使徒と戦いながら、使徒の魔力を奪って兵士たちを回復・蘇生させていた。

頭部を欠損していたり死後10分が経過した場合は蘇生できないものの、これのおかげで被害はかなり軽減されている。

それでもじわじわと戦力は減ってしまうが、ないよりは断然マシだ。

 

(問題は、この均衡がどこまで保つか。それまでに向こうの決着がつくかどうか)

 

たしかに、現在はまだ互角の勝負を繰り広げている。

だが、これが使徒たちの全力だという保証はどこにもないし、少しずつでもこちらの戦力は削られ続けている。

おそらくは、どこかで使徒たちが勝負を決めにいくはずだろう。

そのことにグレンは一抹の不安を抱えながら、それでも自分たちの勝利を信じて再び使徒の集団へと突撃していった。

 

 

* * *

 

 

その頃、上空ではおそらく最も使徒を仕留めているであろう2人が空中で暴れまわっていた。

1人は使徒の体で戦う香織、もう1人は竜の体で戦うリヒトである。

 

「おおおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

リヒトは縦横無尽に飛びまわりながら、純白の魔力を纏った拳を以て使徒を相手に無双していた。

香織が時折地上の援護に向かう分、リヒトは上空の使徒を集中的に狙って攻撃を続ける。

リヒトが倒した使徒の数は、攻撃に専念している分香織よりも多い。

 

「ふぅ・・・さすがに、これほどの数と質を空中で相手し続けるのは体に堪えるな」

 

使徒を倒し続けてできた僅かな襲撃の合間にリヒトは一息ついて辺りを見回した。

周囲には未だに数多の使徒が浮遊しているが、接近されるのを嫌ってか一定の距離を保っている。

 

「なるほど。お前たち使徒は群にして個だと言っていたな。こうして戦っている間にも、データは共有されて対策もとられる、ということか」

「そういうことです。故にあなたたちの敗北はすでに決定事項。愚かな抵抗はやめなさい、反逆者」

 

リヒトのぼやきに、使徒は無機質な声で返答する。

リヒトのことを“反逆者”と呼んでいるのは、リヒトがエヒトを裏切ったからか。

そのことに苦笑を浮かべつつも、リヒトは使徒の強さを再認識した。

使徒の強みは、圧倒的なステータスや分解魔法は当然のことだが、それらはあくまで表面的なものにすぎない。

本当に厄介なのは、無限とも言える戦闘継続能力だ。

使徒は人形であるが故に疲労を感じず、魔力もエヒトから供給を受けているため魔力切れはほぼない。

そして、どこまでが本当かはわからないが、これほどの戦力が無限だと言う。

さすがに一度に出せる数に限りはあるだろうが、ここまでくればもはや誤差の範囲でしかない。

まさに悪夢だ。

だが、それでもリヒトは獰猛な笑みを浮かべた。

 

「何を言っている。戦いはまだ始まったばかりだろう。絶望するには早すぎるし、まだまだ足りない」

 

そう言うと、リヒトは右手に尋常ではないほどの魔力を込め、大きく後ろに振りかぶり、

 

「ついでに言えば、その程度の距離は離れたうちに入らない」

 

思い切り横に薙いだ。

次の瞬間、使徒がいる空間に突如として純白の爆発が連鎖して発生し、爆発に巻き込まれた使徒を例外なく木っ端みじんに吹き飛ばした。

 

「なっ・・・」

「まだ終わらないぞ」

 

まったく新しい攻撃に使徒の動きが少し鈍り、そこに追い打ちをかけるようにリヒトは掌に生成した魔力弾を次々と使徒に叩き込んでいく。さらに放たれた魔力弾は小規模な爆発を引き起こし、爆発の範囲を弾数でカバーしてまるで絨毯爆撃のように使徒を爆殺する。

これらのリヒトの多彩な攻撃は、当然ハジメが製作したアーティファクトによるものだ。

当初、かつて敵同士であったこともあって、ハジメはリヒトには他の兵士たちと同じような武装にしようとしていたが、そこをツルギが直訴してリヒトにも専用のアーティファクトを作るように頼み込んだ。

というのも、リヒトは自身に変成魔法による強化を施しているため、素のステータスは非常に優秀だ。その上、空間魔法も取得しているため、地上組の中では香織に次ぐ戦力を持っている。

だというのに、通常武装だけ渡して遊ばせるのは非常にもったいなさすぎる。

そのようなツルギの説得もあって、ハジメも渋々これを受け入れたのだが、最終的にハジメはノリノリでこのアーティファクトの開発に取り組んだ。

その名も“ドラグ・ファウスト”。

ツルギのオーダーである“拳による近接戦と魔力弾による遠距離戦の両方をこなせる装備”を、ハジメの持つロマンの限りを詰め込んで作り上げた籠手だ。当然、参考にしたのは某サイヤ人のあれだ。

といっても、“ドラグ・ファウスト”の性能はいたってシンプルだ。

基本設計は龍太郎の籠手とほぼ同じで、そこに専用の追加オプションを加えたのみ。

その追加オプションは、リヒトの改造元になっている白竜のブレスを籠手からも放出・操作できるようにしたものだ。

爆発によるダメージはもちろん、少しでも爆発に触れようものなら使徒の耐性すら貫通する毒素によって体を焼くため、当初想定していたよりもかなりえぐい性能になっている。

さらに、このアーティファクトの性能が予想以上にリヒトとかみ合っていたため、単純な殲滅力だけで言えば香織を上回ることになった。

白竜のブレスの効力のせいで加減ができないのが欠点だが、ここははるか上空。よほど下に撃たなければ被害はほとんどでない。

 

「あぁ、そうだとも。俺は兄者を、同胞を裏切った反逆者だ。だが、俺は俺の意思で戦う。決して神の傀儡になどなりはしない」

 

本音を言えば、リヒトもフリードを連れ戻し、かつての同族のために誇りをもって戦った姿を取り戻したい。

だが、道はすでに分かたれ、二度と交わることはない。それは、他の同族にも同じことが言えるだろう。

それでも、

 

「俺は、愚かな神からすべてを解放させる。そのために、今この場で戦っている」

 

であれば、たとえ同族から反逆者と言われようとも、人間族から懐疑や嫌悪の視線を向けられようとも、それらはすべて些事だ。

 

「感情も、矜持も、覚悟も持たない人形よ。半端な力で、俺を止められると思うなよ!!」

 

リヒトは生粋の武人だ。戦うことでしか己の価値を示せない。

故に、リヒトは雄叫びを上げて、ひたすら使徒を屠り続けた。




だいぶ短くなってしまいましたが、許して・・・許して・・・。

さ~て、物語もいよいよ大詰めですねぇ。
ここからが一番の気合の入りどころなんですが・・・その分、執筆に時間がかかるかもしれません。
というか、次話からは書き溜めてから本編最終話まで一気に投稿しようと思います。
原作のスタイルにのっとって、というわけではないですけど、盛り上がる最終話付近で投稿期間が空くのはちょっと中途半端ですからね。
そういうことで、次回の投稿はそれなりに先になります。
とりあえず、本編はあと5話ほどで終わるので、目安としては1ヵ月ちょっとになりますかね。少なくとも4月中には投稿したいところ。

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