二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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本日は6話連続投稿です。
本話ではなく「猛攻と反攻」から読み始めてください


反撃の始まり

ようやく、俺の体を取り戻すことができた。

なんとか全部想定内の事態で終わったが、俺が不甲斐ないせいで2人に負担をかける方法をとらせてしまった。

その結果が、ティアの右腕とイズモの両足だ。

だが、治すことはできる。

 

「“絶象”」

 

ひとまずは、再生魔法で2人の怪我、というか損傷を治す。

幸い、戦い始めた辺りに使ってた限りなく概念に近い力は使われていなかったようで、怪我自体はあっさりと治った。

だが、魔力の消費と精神的な疲労も相まって、2人はもう立ち上がることすら困難になっている。

 

「2人とも、大丈夫か?」

「大丈夫って言えば、大丈夫だけど・・・」

「正直に言って、かなり消耗しているな・・・だが、ツルギはどうなんだ?」

「俺の方は問題ない。乗っ取るときに、その辺りの調整も同時に済ませておいたし」

 

エヒトに改造されて気持ち悪くなった部分とか、自分に合わない部分、そもそも必要ない部分は全部抹消して、他の部分を俺に合うように改良させてもらった。

結果、まったく新しい体になってむしろ違和感を覚えるくらいになったが、代わりに元の体とは比べ物にならないほどの力を感じる。

おそらく、神の力を使うのに最もアジャストされた肉体になっているんだろう。

この点だけに関しては、エヒトに感謝してやらんでもない。

当然、恩は微塵もないが。

 

「だから、俺もさっさと戦線に復帰しないとな。戦える状態でいつまでも呆けているわけにはいかない」

「だったら、私も・・・」

「ティアとイズモは休んでおけ。曲がりなりにも、俺抜きであれと戦ったんだ。腕とか脚も斬られたし、消耗しているのは間違いないだろ」

 

それに、2人から望んだこととはいえ、俺のケジメに付き合わせてしまった。

もう十分働いただろう。

 

「だから、あとは俺に任せろ」

「・・・わかった」

「それで、ツルギはどこに行くつもりだ?」

 

不承不承といった様子で頷くティアに対し、イズモはすでに自身の限界を悟っていたのか、俺だけ戦い続けることに関しては何も言わずにどうするか尋ねてきた。

当然、どこに加勢しにいくかはすでに決まっている。

 

「あぁ。行くのは・・・」

 

 

* * *

 

 

地上では、とうとう均衡が破られてしまった。

途中で万の魔物と数千の使徒の増援が送られたものの、このタイミングでミレディが参戦したことで魔物の軍勢は問題にならなかった。

だが、増援として贈られた使徒は地上の兵士ではなく“覇墜の聖歌”を展開している聖歌隊に狙いを絞り、千の使徒が集結して一槍となって突撃。

聖歌隊はほぼ全滅し、“覇墜の聖歌”も解除されて兵士たちは為すすべもなく蹂躙されていった。

ミレディによって戦場から使徒が離されて一時凌ぎにはなったものの、本当に一時凌ぎにしかならなかった。

そして、圧倒的な数の暴力による排除を選択した使徒による超大規模分解砲撃によって、今まさに敗北の危機を迎えていた。

 

「させないっ、絶対にっ!」

 

戦場を守っていた結界はもうない。

だから、香織も最後の防衛手段を取り出した。

香織専用大規模守護結界石“シュッツエンゲル”、それによって展開される“不抜の聖絶”。

自身の最後の守りを以て、使徒の砲撃に備える。

 

「滅びなさい」

「“不抜のせ・・・」

 

銀の太陽が放たれようとした、その直前、

 

ゴウッ!!

 

使徒が生み出した特大砲撃すら飲み込む紅の奔流が使徒の大群を包み、一切の抵抗すら許さずに使徒を消滅させた。

 

「これって・・・?」

「どうやら、来たようだな」

 

唖然とする香織に対し、先ほどの奔流が誰によるものなのか察したリヒトはニヤリと笑みを浮かべる。

声をかけられたのは、それからすぐだった。

 

「よう。待たせたな」

 

香織のすぐそばに、ティアとイズモを抱えたツルギが転移してきた。

 

 

* * *

 

 

「ツルギくん!・・・なんだよね?」

「後半で自信を無くさないでほしかったが・・・正真正銘、峯坂ツルギだ」

 

というか、ティアとイズモを抱えて転移した時点で気づいてほしかった。

ちなみに、2人とも気絶はしていないものの、かなりぐったりしている。

 

「ティアに、イズモも・・・無事なんだよね?」

「傷の類は俺が治したが、それでも腕とか脚を切断されてたし、魔力とか精神的な疲労はかなり溜まっている。念のため、2人を頼むぞ。というか、ティアとイズモに限らず、香織は自分の本職を全うしろ」

「うん、わかった」

「それで、ツルギはどうする。必要なら手を貸そうか」

 

どうやら、リヒトはまだ暴れる元気があるらしい。

まぁ、地上の戦力はかなりボロボロになっているし、リヒトも少なからず傷ついているが、それでもまだ余裕を感じさせるあたり、さすがは超がつく武人だ。

だが、

 

「悪いが、その必要はない。俺が1人で片付ける」

 

リヒトの申し出を、俺は却下した。

 

「・・・なぜだ?」

「そっちだってそれなりに消耗しているだろ。それに・・・今回ばかりは俺も腹に据えかねているからな。久々に、いや、王都戦のときよりも()()()暴れさせてもらう。その時に、うっかり巻き添えにしたくないし、巻き込まないように配慮するのも面倒なんだよ。だったら、最初から1人でやった方が気が楽だ」

「っ・・・そうか」

 

俺が本気だというのを理解したんだろう。

香織はさっきとまた違う意味で不安げな表情を向けてくるし、あのリヒトですら表情が引きつっている。

だが、そんなことは関係ないのが使徒だった。

 

「無駄です。我々は無限。どれだけ力を持っていても、所詮は個。我々に敵う道理はありません」

 

根こそぎ吹き飛ばしたはずだったが、すぐにわらわらと湧いて出てきた。

一応、最大火力のエクスカリバーをぶっ放したはずなんだが、どうやら空間を超えて消滅させることはできなかったらしい。

まぁ、それはともかく、だ。

 

「はっ!木偶人形ごときが、誰に向かって言ってやがる」

 

まさか、さっきまでの戦いで消耗してるから問題なく勝てる、とでも思っているのか。

だとしたら、思い上がりも甚だしい。

 

「せっかくだ。憂さ晴らしも兼ねて、お前らで新しい体のテストをしてやる」

 

相手は無限にいると言うんだから、サンドバックにちょうどいい。

俺は右手を頭上に掲げ、新たな力を行使するための言霊を呟いた。

 

「“神位解放”」

 

 

* * *

 

 

ツルギが右手を頭上に掲げた次の瞬間、暴風のごとき銀と紅の魔力の奔流が辺り一帯を包み込んだ。

 

「ッ、“不抜の聖絶”!!」

 

判断は一瞬だった。

香織は咄嗟にティアとイズモをリヒトに託し、使徒の砲撃を防ぐために用意していた結界を、魔力の奔流から地上の兵士たちを防ぐために展開した。

事実、香織が“不抜の聖絶”を展開するのが遅れていたら、ボロボロになった兵士たちにとどめを刺す事態になりかねなかった。

どうにかして魔力の奔流を防ぎながら、香織はツルギの様子を見ようとする。

だが、ツルギの全身は濃密な紅と銀の魔力に覆い尽くされており、視認することはできない。

そして、使徒たちもまたツルギに近づくことも攻撃することもできない。

近づこうとしても奔流に飲み込めれてたどり着けず、離れたところから砲撃しても魔力の圧力によって蹴散らされてしまう。

時間にしたら、1分も経たなかっただろうか。

爆風のような圧力とともに魔力の奔流が解除され、中から見た目が大きく変わったツルギが現れた。

髪は銀髪の中に細い赤のメッシュが何本か生えており、瞳も赤と銀のオッドアイになっている。

ツルギの背中には銀の魔法陣がゆっくりと回転しながら滞空している。

そして、

 

「な、なんだ、あれ・・・」

「空に・・・」

 

上空には、この世界を覆い尽くさんと言わんばかりの、超巨大な魔法陣が存在していた。

よく見れば、空が血のような赤からツルギの魔力にも似た紅になっている。

一目見ただけでツルギが何かをしたというのが分かるが、あまりにもスケールが大きすぎて何をしたのかはわからない。

だが、使徒たちは自分たちの身に降りかかっている事態にすぐに気づいた。

 

「これは、力が抑えられて・・・!」

 

使徒のステイタスが、“覇墜の聖歌”を受けていた時よりもはるかに低くなっていた。

普通に考えれば、紅い空が関係しているとしか思えない。

 

「あなたはいったい、何をしたのですかっ!」

 

対するツルギは、自分の中でも整理するように答えた。

 

「そうだな・・・世界の改変、とでも言おうか。空間魔法でこの辺り一帯を隔離して、昇華魔法で空間内の情報を俺の都合のいいようにいじったのさ」

 

なんてことのないように言ったツルギだったが、ツルギ以外の他全員は絶句した。

世界の在り方に干渉する。

ツルギが行使している魔法は、まさしく神の技に等しかった。

 

「名付けるなら、“俺の世界”とでも呼ぼうか。思い付きにしてはなかなかだろう」

 

そんな絶技が、ただの思い付き。

ここでようやく、使徒は自らの過ちを悟った。

自分たちの目の前にいるのは、自分たちの創造主に匹敵する、あるいは凌駕するかもしれないほどの化け物であると。

 

「さて、お前らは普段なら蹂躙する側の存在なんだろうが、たまには蹂躙される側の気分も味わってみろ」

 

そう言うと、ツルギは再び右手を頭上に掲げてパチンッ!と指を鳴らした。

次の瞬間、虚空から無数の鳥やグリフォン、使徒のような翼の生えた人型が現れた。

香織とリヒトは、それが“ブリーシンガメン”と同じようなものであるとすぐに理解した。

だが、“ブリーシンガメン”を使わずに何もないところから生み出されたことから、剣製魔法のみで作りだしたことがわかる。

言うなれば、“神の不死兵(エインヘリヤル)”といったところか。

それから起こったのは、ツルギが宣言した通りの蹂躙だった。

使徒たちのステータスはすべて1000を下回っており、ツルギが生み出した軍勢によってまたたくまに殲滅されていった。

増援も絶えず送られてきているが、ツルギの領域に入った瞬間にステータスを減少させられ、ツルギの軍勢はさらに増え続ける。

まさに、使徒は個の力でも数の力でも一切の太刀打ちができなくなっていた。

一部の使徒たちは自身のステータス減少を解除しようと試みるが、ツルギが展開している領域は概念魔法によって作られた物。概念魔法を使うことができない使徒にはどうすることもできず、ただただ徒労に終わって駆逐されていく。

戦況は、ツルギ1人によって完全に覆された。

 

「足掻けよ、人形共。せいぜい、ハジメの戦いが終わるまでの時間つぶしにでもなってろ」

 

この様子を見ていたクラスメイトの心境は、すでに1つだった。

 

「やべぇよ・・・魔王は南雲だけでも十分だったのに、峯坂まで魔王になっちまったよ・・・」

「いや、なんか神の力がどうとか聞こえたし、魔神とかじゃねぇの?」

「だけど、南雲が峯坂の下ってのも違うだろうし・・・」

 

わりと最近まで魔王一歩手前だったツルギの扱いは、この瞬間をもって完全に魔王に昇格した。

とはいえ、その時間は長く続かなかった。

突然、使徒たちが纏っている銀の魔力が消滅し、糸が切れた操り人形のようにカクンッと力が抜けて次々に墜落していったのだ。

 

「へぇ、そっちも終わったか」

 

空を見上げてみれば、そこには空間の裂け目から神域の内部であろう空間が崩落していくのが見えた。

十中八九、ハジメがエヒトにとどめを刺したか、そうでなくとも致命的なダメージを与えたのだろうことがわかる。

だが、このまま放っておくには危うそうに見えた。

 

「香織。俺は今から神域に突入する。ハジメあたりはともかく、雫たちに万一があっても困るしな。香織は、念のため地上で待機してくれ」

「う、うん。ツルギ君のせいで余計な魔力を使って疲れちゃったし・・・」

 

ツルギが“神位解放”と“俺の世界”の概念を生み出したときにまき散らした魔力の奔流は、使徒の砲撃もかくやという威力で結界を殴りつけた。

そのため、余計な魔力を消耗して体力的にも精神的にも香織は疲労していた。

それを見たツルギは「やりすぎたか・・・要改良だな」と呟きつつも、軽い調子で告げた。

 

「そんじゃ、さっさとあの2人を迎えに行ってくる」

 

結果なんて、すでにわかりきっていると言わんばかりに。

そして、ツルギは単身神域に突入していった。

 

「はっ!?ちょっと待って!ミレディちゃんを置いてかないでぇー!!」

 

ツルギの後ろからがミレディの慌てた声が響いたが、ツルギはとりあえずスルーした。




なんか、途中からツルギのやってることが呪術廻戦の領域展開に思えなくもないような感じが・・・。
いや、別に意識してたとかじゃなくて、最初からこうするって決めてたんですけどね。
たぶん、呪術廻戦がアニメ化してヒットしたタイミングだからでしょうね。

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