二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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本日は6話連続投稿です。
「猛攻と反攻」から読み始めてください。


すべての終わり

神域の内部は、けっこうひどいありさまになっていた。

おそらく、かつて滅ぼした都市や島を記念かなんかにくり抜いて神域に持ってきたのだろう。

それらの空の孤島が、空間の崩落に巻き込まれて次々に消滅していく。

その中を、俺は全速力で移動していた。

空間魔法で転移すれば一発だが、転移先でうっかり空間の崩落に巻き込まれるのもいやだから、別の空間に移動するとき以外は再生魔法の時間加速を併用した高速移動で先を急いだ。

途中でちょっと()()()もしたし、その分の遅れを取り戻すためにも超特急で駆け抜ける。

幸い、エヒトの気配ははっきりとわかるから、最短距離でたどり着くことができた。

全速力で駆け抜けた勢いのままエヒトがいるだろう空間に突っ込むと、そこには巨大な肉塊が存在していた。

おそらく、魔物や人間関係なく肉体をかき集め、むりやり結合した結果なのだろう。

精神が弱い者なら見ることすらできないような、グロテスクかつ醜悪な姿だ。

だが、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。

 

「っ、やべぇ!」

 

ギィィァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛

 

直後、不意に肉塊が絶叫を上げて黒い瘴気をまき散らし、不可視の衝撃を生み出した。

だが、なんとかその衝撃が届く前に、この空間に突入したときにチラッと見えた2人の前に立って衝撃を防ぐことができた。

 

「よう、ハジメ」

「ツルギ!?ツルギなんだよな!?」

 

さすがのハジメでも俺の登場に驚いているようで、ボロボロになった体に構わず怒鳴るように問いかけてきた。

隣にいるやたら大きくなったユエも、目をパチクリと丸くしている。

 

「あぁ、ティアとイズモのおかげで、体を取り戻すことができた。それはさておき・・・あれはエヒトなのか?」

 

見た目は醜悪な化け物だが、かろうじて神性は残っている。

だとしたら、エヒト以外にないだろう。

何をどうすればあんな見た目になるのかは知らんが。

 

「あぁ、簡単に言えば、追い詰められてやけになった結果だ」

「なるほど」

 

ようするに、それだけ生への執着がすさまじかった、ということか。

あんな姿になってまで生きながらえようとするのは、理解できないが。

とりあえず、

 

「さて、ここに来ておいてなんだが、俺はこれ以上手を出さないぞ」

「なに?」

「これは、お前が始めた戦いだ。だったら、お前が最後まで終わらせろ」

「・・・あぁ、そうだな」

 

俺の言葉に、ハジメは獰猛な笑みを浮かべて頷いた。

返すように俺も不適に笑い、目の前の攻撃を防ぐのに集中する。

正直なところ、移動に体力と魔力を使い過ぎて俺も少し疲れている。

今のコンディションだと、背後のハジメとユエに意識を割きながら目の前の攻撃を防ぐのは難しい・・・いや、ちょっと待て。

 

「こうすればいいだけか」

 

周囲の空間を見て、考え方を改めた。

すでに崩落しつつある空間を利用して、空間の歪みを意図的に俺の前に生み出す。

そこに触手が突っ込んできたが、空間の歪みに巻き込まれて消滅した。いや、どこか違う空間に放逐された、と言った方が正しいか。

これなら、より少ない魔力で確実に防御できる。

おかげで、少しだが背後に意識を回す余裕ができた。

俺の背後では、なにやらハジメとユエがキスしていちゃついていた。

 

「チッ」

 

いや、さすがにこの状況でただいちゃついているだけとは思わないけど。何かしらの切り札は用意してあるんだろうけど。

それでも、俺だって早く戻った体でティアやイズモといちゃつきたいのに、一足先に満足しやがって。

だが、そう思ったのは一瞬だった。

 

「おわっ!?」

 

次の瞬間、2人から莫大な魔力があふれ出てきた。

あぁ、なるほど。ハジメの血液にユエの力をブーストさせる成分なりアーティファクトを仕込んでいたのか。

これなら、歪曲空間を閉じても問題なさそうだ。

歪曲空間を解除した俺は、さっさと2人から少し離れた。あそこに長居すると俺も巻き込まれそうだったし。

俺の予想通り、ハジメの“衝撃変換”によって不可視の衝撃も触手による攻撃もすべてを跳ね返していた。

いっそ、2人にスルーされているエヒトが哀れに見える。

・・・いや、その理屈で言ったら、俺も意識されていない哀れな存在になるのか。

ちょっとナイーブな気分になったが、次の瞬間には触手は俺を狙って攻撃し始めた。

攻撃自体は空間歪曲で難なく防いだが、ここに来て俺を狙うのか。

 

「あぁ、なるほど。ユエを乗っ取れないなら、俺を乗っ取ろうって腹か」

 

たしかに、今の2人に干渉するのは難しい、というかまず不可能だろう。

なら、狙いを俺に変えるというのは間違っていない。

ただし、

 

「できるはずもないがな」

 

そもそも、奴の攻撃が空間歪曲を貫通できない時点で、俺を倒せる道理はどこにもない。

2人が概念を生み出す時間を稼ぐのは簡単だった。

そして、ふと2人の方を見ると、2人の手の中に燦然と光る銃が握られていた。

そして、銃口から音もなく閃光が放たれる。

放たれた閃光がエヒトのど真ん中を貫いた、その一拍後、

 

ギィイ゛イ゛イ゛イ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!!!

 

先ほどとは比較にならないほどの絶叫をあげ、同時に黒い瘴気と銀の魔力が混ざったものが天を衝いた。

先ほど放たれた概念は、おそらくエヒトが振りまいた厄災をすべてエヒトに返すというもの。

万年もの間振りまき続けてきただろう苦痛が、一瞬の間にすべて返ってきたのだから、その苦しみは計り知れない。

しばらくの間もがき続けたエヒトだったが、徐々に体がボロボロと崩れていき、やがて消滅していった。

こうして、諸悪の根源である神は消え去った。

その代償として、2人は、というか特にハジメがかなりボロボロになっているが、2人とも生きているだけで御の字だろう。

 

「とりあえず、簡単な止血はしておくから、あとは香織に治してもらえ」

「ここで治してもいいと思うんだが・・・わあったよ」

 

ハジメも、俺よりは香織に治してもらいたい気持ちもあるのか、特に反論することもなかった。

ハジメをサクッと止血して、俺は周囲を見渡した。

 

「さて・・・これからどうしようか」

「あ?このまま帰るだけじゃねぇのか?」

「実は、問題が2つある。1つは、2人を優先したから雫たちをまだ回収できてないこと。もう1つは、この空間を放置したら地上にまで被害がでかねないってことだ。雫たちを回収してからこの空間をどうにかするにしても、時間が足りない」

 

エヒトが消滅したことで、空間の崩落が早まっている。

このペースだと、雫たちを見つけて地上に送り、この空間の処理をする頃には手遅れになりかねない。

 

「それに、この規模だ。処理するにしてもこっちの空間に残る必要がある」

「それって・・・」

「当然、自己犠牲のつもりはないが、取れる手も考える時間もない」

 

どうする、まず先にハジメとユエを地上に送ってから雫たちを探すか。

いや、空間の崩落のせいか雫たちの気配が掴めない。

今から探すには遅すぎる。

それに、この空間を放置することもできない。

だが、考える時間も残されていない。

なら、後のことはハジメとユエを地上に送ってから考えるか。

そこまで考えたところで、

 

『ちょあーーー!絶妙なタイミングで現れるぅ、美少女戦士、ミレディ・ライセンたん☆ここに参上!私を呼んだのは君達かなっ?かなっ?』

 

なんか現れた。

 

「「・・・」」

「・・・あぁ、なんだ、ミレディもいたのか」

 

素で気づかなかったわ。

 

『やだなぁ~、この天才美少女戦士ミレディちゃんを忘れるだなんて、ひどいんだゾ☆というかマジで気づいてほしかったよね。君が神域に突入したとき、後ろから思い切り呼んだはずなんだけど』

 

そういえば、なんか声が聞こえたと思ったら、ミレディだったのか。

 

『にしても、驚いたよ。君が大暴れしたのもそうだけど、彼の魔法を完璧、いや、それ以上に使いこなしたのも』

「彼って、シュヴェルトのことか?」

『知ってたんだ?いや~、本当に懐かしい・・・って今はそんなことを話してる暇はなかったね』

 

よく見ると、俺たちの周りだけ崩壊が止まっている。

どうやら、ミレディが重力魔法で食い止めているようだ。

おそらく、数分ももたないだろうが。

 

『それじゃ、“劣化版界越の矢”と回復薬を・・・って、もういらないみたいだね』

「俺がいるからな。さっきまで、雫たちの救出とこの空間の処理をどうするか話していたところだったんだが・・・」

『それについてはモーマンタイ。あの子たちは一足先に逃がしておいたし、この空間のこともお姉さんにまっかせっなさーい!』

「・・・ミレディが残るのか」

 

たしかに、ミレディの重力魔法なら、この崩壊する空間を重力魔法で極限まで圧縮して消滅させることもできるだろう。

だが、

 

「そんなの自分の存在まるごと使って、ようやくできるようなものだろ」

「なんだ、そりゃあ。自己犠牲の精神か?似合わねぇよ。それより・・・」

 

ハジメが何かを言い募ろうとしたとき、ミレディ・ゴーレムに重なるようにして、14,5歳ほどの少女が現れた。

おそらくは、これがミレディの本来の姿なのだろう。

 

『自己満足さぁ。仲間との、私の大切な人達との約束・・・「悪い神を倒して世界を救おう!」な~んて御伽噺みたいな、馬鹿げてるけど本気で交わし合った約束を果たしたいだけだよん』

「・・・」

『あのとき、なにも出来ずに負けて、みんなバラバラになって、それでもって大迷宮なんて作って・・・ずっと、この時を待ってた。今、この時、この場所で、人々の為に全力を振るうことが、ここまで私が生き長らえた理由なんだもん』

 

ミレディの独白にも聞こえる言葉に、俺たちは黙って耳を傾けた。

そして、理解した。

今からやろうとしていることこそ、彼女が数千年もの間胸に秘め続けた想いであり、願いなのだと。

 

『ありがとうね、南雲ハジメくん、ユエちゃん、峯坂ツルギ君。私達の悲願を叶えてくれて。私達の魔法を正しく使ってくれて』

「・・・ん。ミレディ。あなたの魔法は一番役に立った」

『くふふ、当然!なにせ私だからね!前に言ったこともその通りだったでしょ?「君が君である限り、必ず神殺しを為す」って』

「・・・『思う通りに生きればいい。君の選択が、きっとこの世界にとっての最良だから』とも言っていたな。俺の選択は最良だったか?」

『もっちろん!現に、あのクソ野郎はあの世の彼方までぶっ飛んで、私はここにいるからね!この残りカスみたいな命を誓い通りに人々の為に使える・・・やっと、安心して皆のところに逝ける』

 

そう告げるミレディの言葉には、万感の想いが込められていた。

 

『さぁ、3人とも。そろそろ崩壊を抑えるのも限界だよん。君達は待ってくれている人達の所へ戻らなきゃね。私も、待ってくれている人達のところへ行くから』

 

ミレディがそう言うと、再び空間が震え始めた。

おそらく、すぐに崩落するだろう。

ハジメとユエが支え合って立ち上がるのを後ろ目に、俺は地上に繋がる空間を開いた。

だが、そこに飛び込む前に、言わなければならないことがある。

 

「・・・ミレディ・ライセン。あなたに敬意を。幾星霜の時を経て、尚、傷一つないその意志の強さ、紛れもなく天下一品だ。オスカー・オルクス。ナイズ・グリューエン。メイル・メルジーネ。ラウス・バーン。リューティリス・ハルツィナ。ヴァンドゥル・シュネー。あなたの大切な人達共々、俺は決して忘れない」

「・・・ん。なに一つ、あなた達が足掻いた軌跡は無駄じゃなかった。必ず、後世に伝える」

「だから、安心して逝ってくれ」

『三人共・・・な、なんだよぉ~。なんか、もうっ、なにも言えないでしょ!そんなこと言われたら!ほら、本当に限界だから!さっさと帰れ、帰れ!』

 

珍しく、ミレディが激しく照れていて、プイっと俺たちから目を逸らした。

その様子に思わず微苦笑を浮かべながら、最後に告げた。

 

「じゃあな、世界の守護者」

「俺たちも、あんたらに救われたよ」

「・・・さよなら」

 

そう言って、俺たちは地上に向かって飛び出した。

 

 

 

「あ~、そういえば空中だったな」

 

そりゃあ、あの空間の裂け目も上空にできたんだから、直接地上に下りれるはずもなかったか。

とりあえず、単身で落下している俺と抱き合ったまま落下しているハジメとユエに重力魔法をかけて、落下をゆるやかなものにした。

さっさと戻りたいからそれなりのスピードは出ているが、下手な反動でハジメとユエの体に響かないように調節はしてある。

 

「さて・・・俺はこのまま落下の制御をしてるから、あとは好きにしてろ」

「いいのか?」

「後の騒ぎは全部お前に押し付けるが」

「それなら、遠慮なく」

「んっ・・・」

 

すぐに背後からくちゅくちゅと水音が聞こえてきた。

まさか、空中でおっぱじめるような真似はしない・・・よな?

さすがに、公開プレイなんてするはずがないし。

とりあえず、俺は何も見てないし何も聞えないを貫くが・・・は~、俺も早くイチャイチャしたい。

その前に、地上に俺たちの生還を伝えるために、紅い魔力の波紋を生み出した。

 

『わ、私たちの勝利です!!』

ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!

 

すると、地上の方から愛ちゃん先生の宣言と共に、とてつもない歓声が響いてきた。

地上を見ると、雫たちの姿もある。どうやら、無事に脱出できたようだ。

少しの間、空中散歩を楽しみながら、フワッと着地した。

とはいえ、ハジメとユエは疲れ切っていたから、そのままパタンっと地面に倒れてしまったが。

 

「あーー!やっぱりイチャついてますぅ!人の気も知らないで!っていうか、ユエさんが・・・」

「大人になってるぅううう!ユエが大人の魅力でハジメくんを襲ってるぅ!」

「うぅむ。予想通りじゃな。いや、大人になっとるのは予想外じゃが・・・どれ、妾も参戦しようかの」

 

地面に降り立つと、シアと香織、ティオが我先にとハジメたちの方に駆け寄っていった。

おそらく、いつもの光景が繰り広げられることになるのだろう。

そのいつもの光景が繰り広げられるようになったことに、俺は笑みを浮かべた。


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