二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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本日は6話連続投稿です。
「猛攻と反攻」から読み始めてください。


まだ終わらない物語

とりあえず、背後で繰り広げられているだろうあれこれは無視することにして、俺は最後の用事を済ませるために雫のところに向かった。

 

「よう、戻ったぞ」

「お疲れ様、ツルギ・・・ようやく、全部終わったのね」

 

全員生きて帰ってこれたことに、雫は安堵の息を吐いた。

 

「ティアとイズモは?」

「向こうの方で寝てるわ。香織が治療したみたいだから、すぐに目覚めるわよ」

「それもそうだな・・・それで、谷口と天之河は?」

「2人なら、そこに・・・」

 

雫の視線の先には、どこかスッキリした様子の谷口と、なんだか落ち着かない様子の天之河が立っていた。

試しに近づいて見ると、天之河は少し視線を泳がせたが、すぐに真っすぐに俺の目を見て口を開いた。

 

「峯坂・・・すまなかった」

「なるほど、前よりもマシになったようだな」

 

以前までの、自分の正義を盲目に信じていた天之河の姿はどこにもない。

どうやら、幼馴染みの説教は無事成功したようだ。

これなら、()()()()を話してもいいだろう。

谷口の反応が少し気がかりだが・・・

 

「さて、2人に話しておかなきゃいけないことがある」

「俺と、鈴に?」

「私と光輝君に、ってこと?」

 

一瞬、谷口の一人称が「鈴」から「私」に変わっていたのが気になったが、この場ではスルーして本題に入る。

 

「まずは、こいつを見てくれ」

 

そう言って、俺は懐から灰色の光を放つ宝珠を取り出した。

 

「これは・・・」

「これって、なに?峯坂君」

「単刀直入に言おう。これは、中村恵里の魂魄だ」

「「「「えっ!!??」」」」

 

俺の告白に、谷口と天之河だけでなく、近くにいた雫と坂上も驚きの声をあげた。

幸い、兵士たちの歓声のおかげで俺たち以外に聞こえた人間はいない。

4人の中で、もっとも困惑していたのは谷口だった。

 

「でも、なんで・・・恵里は、あのとき・・・」

 

俺も少しだけだが事の顛末は“過去視”で覗いた。

中村は最後に、“最後の忠誠”による爆発で消滅したはずだった。

 

「たしかに、あの時に中村の肉体は消滅した。だが、神域の内部はけっこう特殊でな。魂魄だけでも、ある程度は生存できるんだ」

 

おそらく、エヒトが実体を持っていなかったから、それに適応するように空間を作ったのだろう。

それによって、死んだ中村恵里の魂魄が分解されずに漂っていた。

それを偶然発見した俺は、軽く“過去視”で何があったのか覗いてから、魂魄魔法と剣製魔法で中村の魂魄を宝珠の中に保護した。

そして、

 

「今の俺なら、生き返らせることが可能だ」

「「「「ッ!!」」」」

 

その言葉に、4人の間に衝撃が走る。

 

「俺は最後の結末しか見ていないから、それまでにどういうやり取りがあったのかは知らん。もしかしたら、余計な世話かもしれんが、それでも言おう。

 

中村恵里を、生き返らせるか?」

 

想像しなかった選択肢を突き付けられて、谷口はひどく狼狽する。

俺は、中村が最後に自爆したところしか確認していない。

もしかしたら、谷口の説得は失敗に終わったのかもしれないし、一度は殺す覚悟をしたのかもしれない。

それを承知の上で、俺は選択肢を突き付けた。

中村を生き返らせるか、それともこのまま消滅させるか。

俺たちの様子を不思議に思ったギャラリーが集まってきた中で、谷口は瞳に決意を宿して顔を上げた。

 

「お願い」

「それは、生き返らせるってことでいいのか?」

「うん」

「もしかしたら、また同じことを繰り返すかもしれないぞ」

「私が絶対にさせない」

「周囲の目はかなり厳しくなる。相応の首輪をつける必要があるぞ」

「それでも、お願い。今度こそ、恵里とやり直したいから」

「俺からも、頼む」

 

決意の言葉を並べる谷口に続いて、天之河も俺に向かって頭を下げた。

 

「今度こそ俺は、恵里に向き合わないといけない。今までの罪を償う、っていうのとは少し違うかもしれないけど、俺は少しでも恵里に対しても罪滅ぼしをしなくちゃいけないんだ」

「・・・そうか」

 

2人の声音と視線には、上辺だけではないたしかな覚悟の光があった。

これならいいだろう。

 

「わかった。だが、ここだと目立つ。場所を変えよう」

 

さすがにここでは人目が多すぎる。

とりあえず、まだ人が少ない王城に転移して、周囲に他に誰もいないことを確認してから中村の蘇生を始めた。

魔法陣の中心に中村の魂魄を置き、魂魄魔法、再生魔法、変成魔法、剣製魔法を同時に使用する。

魂魄魔法と再生魔法でかつての中村の肉体の情報を読み取り、変成魔法と剣製魔法で肉体を作り上げていく。

人体錬成とか普通に禁忌なんだろうが、それを言ったら死者蘇生も似たようなものだし、気にすることもない。

ただ、さすがの俺も人の体を作るのは初めてだから、極限まで集中して中村の体を作り上げていく。

谷口たちが固唾をのんで見守っている中(今の中村は素っ裸だから、男子2人は強制的に後ろ向きにされているが)、恵里の体は5分程度で完成した。

そして最後に、宝珠から解き放った中村の魂魄を肉体に憑依、定着させた。

それと同時に魔法陣を解除して、ついでに倒れこむ中村に布を一枚生成して被せた。

 

「・・・終わったぞ」

「ッ、恵里!」

 

終わりを告げると同時に、谷口が駆け足で近づいて中村の身体を抱き上げ、坂上と天之河も恐る恐る様子をうかがう。

今はまだ、目を閉じたままだが・・・

 

「・・・ぅぅ、ここは・・・」

 

目を覚ました中村が、寝起きのような表情で周囲を見渡す。

だが、谷口にはそれだけで十分だったようで。

 

「恵里ぃ!!」

「うわっ、ちょっ、鈴!?なんで・・・」

 

感極まって思い切り抱きついた谷口に中村は目を白黒させ、雫、坂上、天之河へと視線を巡らせ、最後に俺を見たところですべてを悟ったのか、途端に不機嫌になった。

 

「・・・また、余計なことをしてくれたね」

「悪いが、俺はどちらかと言えば死に逃げは許さない質なんだ」

「それ、余計なお世話だってわかってる?」

「わかった上でやった。後悔も反省もするつもりはない」

「・・・ほんと、うざったい」

 

どうやら、憎まれ口を叩ける程度には問題ないらしい。

 

「だいたい、ボクみたいな女を生き返らせたところで、どうするのさ?クラスの、人類の裏切り者だよ?」

「それを言ったら、天之河がここにいるはずもない」

 

クラスメイトを殺したか殺してないかの差はあるが、裏切り者が生きることを許されないと言うのなら、天之河だって許されない。

せいぜい、一緒に苦しめばいい。

というか、ぶっちゃけ中村が自分の行いを反省するとも思ってない。

それがわかっていた上で蘇生したのは、

 

「それに、お前を生き返らせたのは、どちらかと言えば俺の都合だ」

「はぁ?なにそれ、どういうこと?」

 

自分を生き返らせて、何か俺に得があるのか。

まるで意味がわからないと首を傾げる中村と他の4人に、今まで話していなかったことを打ち明けることにした。

 

「実はな、俺は俺の方で中村と天之河をくっつける算段を整えていたんだよ」

「え、どういうこと?」

「俺は元々、中村の危うさに気付いていたことは話しただろ?その原因が天之河にあることも。だから、中村が何かでかい騒ぎを起こす前に、元凶の天之河とくっつけさせて未然に防ごうとしてたんだよ」

 

当然、このような犯罪の未然防止は警察の管轄外だから、中村と天之河が関わるようなことは俺の方で事を進めた。

まずは、中村の母親の監視。

これは親父の部署の中でも暇な人に交代でやってもらった。

というか、度々問題を起こしてたらしいから、俺に言われなくとも要注意対称として警察にマークされてたらしいが。

それで、もし刑務所にぶち込まれるようなことになったとき、中村を俺たちの目の届くところで、なおかつ天之河からあまり離れないところに保護してもらうことになっていた。

本当は天之河の家に送りこもうかとも考えていたが、現実的じゃないからやめた。

いや、天之河にそれとなく伝えて煽っておけば、もしかしたらいけたかもしれないが。

それはさておき、その後は俺の方で中村と天之河をくっつけさせようと画策した。

というか、

 

「手っ取り早い話、既成事実でも作ってもらおうかと考えた」

「「「「「えっ!!??」」」」」

 

俺の告白に、雫と谷口はもちろん、中村も顔を赤くして驚愕していた。

あれ?こいつ、けっこうきわどいというか、天之河に対してセクハラとも言えなくない下ネタを言ってた気がするんだが。

というか、神域ですでに事を済ませたのかと思っていた。

変なところでピュアなのな、こいつ。

あと、天之河と坂上が戦慄の表情を浮かべていた。

 

「お、お前ってやつは!なんてことを考えてたんだ!!」

 

なんか、天之河の俺を見る目が、時折ハジメに向けるような鬼畜に対するそれとほとんど同じだった。

いや、俺だって本気で必要だと思ってたんだぞ?

 

「お前を真人間に戻すには、それが一番手っ取り早いと思ったからな」

 

さすがの天之河でも、自分が中村を孕ませたってなったら、その子供を無視するような真似はしないだろう。

自分の子供を見捨てるというのは、大勢から見て“間違って”いるから。

だから、天之河が自分の子供のために働くなり世話するなりして改心してくれるならそれでよし。

仮に天之河が子供を頑なに認知しようとしなくても、確実に天之河から大勢の人間が離れていくからそれもよし。

どっちに転ぼうとも天之河が苦労するのは変わりないから、天之河の改心にはちょうどいいと考えたわけだ。

 

「だ、だけど、俺と中村が、その・・・するとは限らないだろう!?」

「そのときは、法に触れない程度のお香とか媚薬を仕込ませて」

 

というか、ぶっちゃけどっちも用意してる。

別に、むやみに性欲を刺激するようなものじゃなくて、ちょっと気分を高ぶらせたりする程度の軽めのやつだ。

それを、天之河と中村が2人きりになったタイミングで、気配を消して近づきながら香らせる。あるいは、こっそり天之河宅に忍び込んででも。

それで、2人が行為をしてくれれば、あとはそのまま。

こんな計画を知られたら怒られるのは間違いないから、かなり慎重に用意していたんだが・・・

 

「それが全部、エヒトの召喚のせいでご破算だ」

 

下手をすれば今頃、俺が用意したあれこれが親父に見つかった可能性もなくはない。

うわー、そう考えると急に帰りたくなってきたな~・・・。

とまぁ、そんな計画を今になって打ち明けたわけだが・・・

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

完全に、俺に向けられる目が人に対するものじゃなくなった。

中村からですら、「え?マジで・・・?」みたいな視線を向けられている。

必要最低限の犠牲で済む、けっこういいアイデアだと思ってたんだけどなー。

ちなみに、そのときは天之河の取り巻きの女共もあの手この手で説得、というか意識操作するつもりだった。

当然、変な薬は使わない。

ちょっと話して、認識を誘導するだけで。

「天之河は本当はあぁいう男だったんだぞー、男はちゃんと見た方がいいぞー」みたいな感じにするだけで。

そんな今までの入念な準備がすべてパーになったんだから、ここで中村を生き返らせるくらいはしてもいいと思うんだ。

とりあえず、その場は俺に対する冷ややかな視線が絶えなかったが、谷口だけでなく、中村もスッキリしたような表情を浮かべるようになったのは、本当によかった。




というわけで、中村蘇生エンドです。
ある意味、一度は覚悟を決めた鈴を裏切る演出と言えなくもないですが、恵里の最後的にこんな感じでもいいんじゃないかと思いました。
ハ〇レンの世界観からすれば卒倒は間違いなさそうですが。
それと、今回のツルギの打ち明け話と「まとめて抹殺」に書いてある内容に齟齬が生じてしまうため、「まとめて抹殺」の文章を「何もしなかった」から「直接干渉しなかった」に変えました。
暗躍大好きなツルギ君です。

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