二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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こっち来んな

「うぅ~、まだヒリヒリしますぅ・・・」

 

ハウリア族との一悶着が落ち着いた後、俺たちは樹海に入って大樹へと向かっていた。

今泣き言を言ったのはシアで、いまだに銃撃された尻をさすっている。

 

「そんな目で見るなよ、鬱陶しい」

「鬱陶しいって、あんまりですよぉ。女の子のお尻を銃撃するなんて、非常識にも程がありますよ。しかも、あんな無駄に高い技術まで使って」

「他のハウリア族も含めて、自業自得なんだよなぁ」

 

ちなみに、他のハウリア族は訓練の名目で周囲の索敵を行っているため、この場にはいない。全員しっかり仕事をこなしているのだが、その顔には例外なく青アザやたんこぶができているあたり、微妙に緊迫感に欠けている。

 

「それに、シアもあまり人のこと言えないだろ。逃げるときにしれっと他のハウリア族を盾にしてたし」

「うっ、ユエさんの教育の賜物です・・・」

「・・・シアはわしが育てた」

「・・・どこでそのネタを知った?」

「・・・つっこまないからな?」

 

ユエが自慢げに「褒めて?」とハジメにねだってくるが、当のハジメは必死にスルーしている。

俺としては、ユエがどうして日本のアニメのネタを知っているのか気になるが・・・ハジメも気にしないようにしているし、深いことは考えないでおこう、うん。

そんなこんなで、歩くこと15分、ついに大樹が見えたのだが、

 

「・・・なんだこりゃ」

「見事に枯れてるな」

 

そこにあったのは、青々と葉が生い茂っている大樹ではなく、葉が1枚も見当たらない枯れ木だった。一応、幹は見た限りおよそ直径50mほどとかなりの太さがあるが、予想していた大樹とは大きく違っていた。

カムからの説明によると、この大樹はフェアベルゲン建国以前から枯れているらしく、だが朽ちることなく今までこの場所にあるとのこと。大樹が神聖視されているのも、この特性かららしい。もちろん、観光名所としての意味合いが強いようだが。

そんな説明を聞かされながら大樹の根元に近づくと、アルフレリックが言っていた通り、石板が建てられていた。

 

「ハジメ、これは・・・」

「あぁ、一つはオルクスにあったのと同じ奴だ」

 

そこには、七つの紋章が七角形のそれぞれの頂点に刻まれており、その一つはハジメが持っているオルクスの指輪にある紋様と同じ形をしていた。

 

「やっぱり、ここが大迷宮の入り口みたいだな。・・・だが、こっからどうすりゃいいんだ?」

「とりあえず、この石板を調べるしかないが・・・ん?おい、ハジメ」

「どうしたんだ?」

「これ」

 

いきなり手詰まりになったことにハジメは頭を抱え、俺は念のために石板の裏を調べたところ、いきなりビンゴだったようで表側の七つの紋様に対応するように小さなくぼみがあった。

 

「これは・・・」

 

ハジメがオルクスの紋様に対応しているところに指輪をはめ込んだ。

すると、石板が淡く光りだし、文章が浮かび上がってきた。

そこに書かれていたのは、

 

“四つの証”

“再生の力”

“紡がれた絆の道標”

“全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう”

 

「・・・どういう意味だ?」

「四つの証は、おそらく他の大迷宮攻略の証。再生の力は・・・」

「・・・私?」

「いや、違うな。大樹が見事に枯れてるし、大迷宮攻略で神代魔法が得られるんだから、再生に関する神代魔法がどこかにあるんだろうな。紡がれた絆の道標は、亜人族の案内か?となると・・・」

「最低でも大迷宮を4つ攻略して、そのうえで再生に関する神代魔法を手に入れてこい、ってことか?」

「そうなるだろうなぁ・・・」

 

どうやら、とんだ無駄足だったようだ。

まぁ、ほぼ情報がなかったから、しょうがないと言えばしょうがないんだろうが。

 

「はぁ~。ちくしょう、今すぐ攻略は無理ってことか・・・めんどくせぇが、他の迷宮から当たるしかないな・・・」

「ま、こればかりはしゃあねぇな」

 

ここにきて後回しになってしまったことにハジメは歯噛みするが、ぐだぐだ悩んではいられない。気を取り直して、他の3つの攻略の証を手に入れるだけだ。

ハジメはハウリア族に集合をかけた。

 

「今聞いた通り、俺達は先に他の大迷宮の攻略を目指すことにする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。お前達なら、もうフェアベルゲンの庇護がなくても、この樹海で十分に生きていけるだろう。そういうわけで、ここでお別れだ」

 

そこでハジメは、ちらりとシアを見やる。別れの言葉を言うなら今のうちに、ということだろう。

シアも、その意図をくみ取った。

 

「とうさ・・・」

「ボス!兄貴!お話があります!」

「・・・あれぇ?父様、今は私のターンでは?」

 

シアの別れの言葉はバッサリと切り捨てられた。ほかならぬカムによって。

シアがめげずにカムに声をかけるが、カムは俺たちの方を向いて直立不動したままだ。

その姿、イギリス兵のごとし。

 

「あ~、何だ?」

「とりあえず、言ってみろ」

 

とりあえず、俺もハジメもシアを無視する方針にした。

そして、カムから発せられたハウリア族の総意というのが、

 

「ボス、兄貴、我々もボスのお供についていかせてください!」

「「却下」」

「そんな!?」

 

なんとなく想像がついていた俺とハジメは速攻で却下した。

シアもどういうことかとまくし立ててくる。

 

「ちょっと、お父様!どういうことですか!」

「我々はもはやハウリアであってハウリアでなし!ボスと兄貴の部下であります!是非、お供に!これは一族の総意であります!」

「ちょっと、父様!私、そんなの聞いてませんよ!ていうか、これで許可されちゃったら私の苦労は何だったのかと・・・」

「ぶっちゃけ、シアが羨ましいであります!」

「ぶっちゃけちゃった!ぶっちゃけちゃいましたよ!ホント、この10日間の間に何があったんですか!」

 

シアが散々に嘆いているが、今のハウリア族にはまったく届いていないらしく、目が俺とハジメにしか向けられていない。

 

「それなのに、なぜダメなのですか!」

「足手まといになるからに決まってるだろうが」

「しかし!」

「調子に乗るな。俺たちについてこようなんて180日くらい早いわ!」

「具体的!?」

 

俺とハジメで断り続けるが、それでもなお食い下がってくるハウリア族たち。しまいには勝手についていくとまで言い始めた。

・・・やっぱ、ハー〇マン方式って、こわいんやなって。

ハッキリ言って、こんな奴らが町中に入ってきたらそれだけで大問題だ。なんとしてでも諦めさせなければいけない。

そこで俺たちは、条件を出すことにする。

 

「じゃあ、あれだ。お前等はここで鍛錬してろ。次に樹海に来た時に、使えるようだったら部下として考えなくもない」

「・・・そのお言葉に偽りはありませんか?」

「ないない」

「その代わり、せめてシアと同じくらい戦えなければダメだな」

「嘘だったら、人間族の町の中心でボスの名前を連呼しつつ、新興宗教の教祖のごとく祭り上げますからな?」

「やったら俺がお前らを叩き潰すぞ?お供の話もなしだ」

「ぐっ・・・」

「ていうか、質悪いことを思いつくようになったな・・・」

「そりゃあ、ボスの部下を自負していますから」

 

とりあえず、鍛錬の継続と勝手に余計なことをしない、という約束でハウリア族のお供を先延ばしにした。

難易度がかぐや姫のお題レベルになっているが、こうでもしないと本当に勝手についてくるからな。

 

「ぐすっ、誰も見向きもしてくれない・・・旅立ちの日なのに・・・」

 

横でシアが地面にのを書いていじけているが、気のせいに違いない、うん。

 

 

* * *

 

 

「ハジメさん。そう言えば聞いていなかったんですが、次の目的地はどこですか?」

 

あの後、シアが改めて別れの言葉を送り、ハウリア族の見送りを受けて俺たちはハジメの作った魔力駆動四輪に乗って平原を疾走していたが、その途中でシアがハジメに次の目的地を尋ねてきた。

ちなみに、この魔力駆動四輪は見た目こそ車の形をしているが、動力は魔力で、魔力操作を使って動かしているため、運転席に乗っていなくても運転自体はできる、「運転席の意味あるの?」な性能だ。

 

「あ?言ってなかったか?」

「聞いてませんよ!」

「・・・私は知ってる」

「俺も聞いてる」

「私も聞いてるわ」

「聞いてないの私だけですか!?ひどいですよ!私だって仲間なんですから、コミュニケーションは大事ですよ!」

「悪かったって」

「ていうか、別に聞かなくてもだいたいの想像はつくと思うけどな」

 

さすがにいじり過ぎたとハジメが苦笑しながら謝り、俺もちらっとヒントを出す。

 

「えっと、グリューエン大火山ですか?」

「いや、次の目的地はライセン大峡谷だ」

「ライセン大峡谷?」

 

ハジメの出した答えが意外だったのか、シアは首をかしげる。それに俺たちが理由を説明していく。

もともと、ハジメはオスカー・オルクスの隠れ家でライセン大峡谷にも七大迷宮の一つがあると知っている。

他の場所がわかっている大迷宮に行こうと思っても、シュネー雪原は魔人族の領土だし、ティアの問題もあるから今はまだ避けた方がいい。なら、大火山に向かうのがベターなのだが、それならどのみちライセン大峡谷を通る必要がある。だったら、グリューエン大火山に行く途中で迷宮を探せばいい。

絶対に見つかるとは限らないが、どうせついでなのだから深く考える必要はない。

これを聞いたシアは、若干顔を引きつらせていた。

 

「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか・・・」

「お前なぁ、少しは自分の力を自覚しろよ。今のお前なら谷底の魔物もその辺の魔物も変わらねぇよ。ライセンは放出された魔力を分解する場所だぞ?身体強化に特化したお前なら何の影響も受けずに十全に動けるんだ。むしろ独壇場だろうが」

「・・・師として情けない」

「うぅ~、面目ないですぅ」

「ま、シアも俺たちについていくって言うなら、それなりに自信を持て」

「シアのステータスだって、この世界の中じゃ立派に化け物よ」

 

とはいえ、ライセン大峡谷はハウリア族が全滅しかけた場所だ。苦手意識を持っているのも仕方がないだろう。

 

「で、では、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか?それとも、このまま近場の村か町に行きますか?」

「出来れば、食料とか調味料関係を揃えたいし、今後のためにも素材を換金しておきたいから町がいいな」

「もっと言えば、衣服も調達しとかないとな。シアやティアも、いつまでもそのままでいるわけにはいかないし」

「あ、そう言えばそうね・・・」

 

今ティアが纏っているのは、ユエ特製のコートと諸々の衣服だ。

だが、そのサイズはユエを基準に作られているため、ゆとりをもって選んでもだいぶきついし、元々ティアが持っていた衣服もボロボロで着れるものではない。

シアも、身に付けているのは兎人族の伝統装束で、ありていに言えば非常に露出過多だ。

早めに2人の服を用意した方がいいだろう。

ついでに言えば、俺もオルクス大迷宮のときから同じ服を繰り返し着ている。魔法で洗浄しているとはいえ、そろそろ新しい服を着たい。

 

「前に見た地図通りなら、この方角に町があったはずだ」

「とりあえず、そこで諸々の必要なものを買っておくか」

「はぁ~、そうですか。よかったですぅ・・・」

 

俺たちの言葉に、なぜかシアが大きく安堵の息をついた。

 

「どうした?」

「いやぁ~、ハジメさんのことだから、ライセン大峡谷でも魔物の肉をバリボリ食べて満足しちゃうんじゃないかと思ってまして・・・ユエさんはハジメさんの血があれば問題ありませんし・・・どうやって私やツルギさんとティアさん用の食料を調達してもらえるように説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂でよかったです。ハジメさんもまともな料理食べるんですね!」

「当たり前だろ!誰が好き好んで魔物なんか喰うか!」

「まぁ、最悪、香辛料があれば俺が料理してやるがな。魔物肉の料理はそれなりにできるし」

「え!?食べたことがあるんですか!?」

「むしろ、ハジメを探しにオルクス大迷宮に潜ってた頃は魔物肉しか食べるものがなかったな」

「・・・よく生き残ったな」

「まぁ、それは俺の剣製魔法があったからだけどな。剣製魔法と魔力操作を使って魔物の肉から魔力を抜いて食べたんだ」

「・・・改めて考えると、生のまま食ってた俺がどれだけ正気じゃなかったか、よくわかるな・・・」

「ハジメさんとツルギさんって、プレデターって名前の新種の魔物なんですか?」

「・・・ハジメ、やってよし」

「OK。お前、町に着くまで車体に括りつけて引きずってやる」

「ちょ、やめぇ、どっから出したんですか、その首輪!ホントやめてぇ~そんなの付けないでぇ~!ユエさん、ティアさんも!見てないで助けてぇ!」

「・・・自業自得」

「おとなしく繋がれておきなさい」

 

そんなこんなで、仲良く(?)俺たちはライセン大峡谷の近くにある町、ブルックへと向かった。




前と比べると短いですね。
ていうか、最近ずっとありふればっかり投稿していますね・・・。
まぁ、大学の図書館で漫画を広げながら執筆というのも気が引けるので、まだ続きますが。

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