二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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日陰に残された者たち

「それじゃあ、お前たちはトータスに残るんだな」

「はい」

 

日本への帰還まであと1週間程度に迫った頃、俺はハイリヒ王国の王城でメイド会のメンバーに最後の確認をとっていた。

その内容は、「日本に行くか、トータスに残るか」ということ。

一応、俺を慕っているメイドたちだから、もしかしたら日本について行きたいという人間がいるかもしれないと思って聞いてみたが、アンナ以外はトータスに残ることを決意した。

まぁ、彼女たちにも家族がいるし、おそらく行き来できるとはいえ帰れる機会はそう多くない。

それに、彼女たちがいなくなっては王城が困るのだから、当たり前と言えば当たり前の判断だ。

まぁ、それだけが理由ではないのだが。

 

()()()()()の面倒を見れるのは、私たちだけでしょうから」

「・・・そうだな」

 

メイド会のリーダーであるウェンディが言う『あの方たち』とは、魔人族のことだ。

一応は生活が認められている魔人族だが、今まで戦争をしてきた歴史、一般人とはいえ魔法も使える危険性から、世話役を買って出る人はほぼいなかった。

例外的に、俺とティアの繋がりと彼らを制圧できるだけの実力があるということで、メイド会に白羽の矢が立ったということだ。

メイド会のメンバーも自分たちしか適任がいないということを理解していたから、この申し出を承諾した。

そういう理由でも、メイド会が王城から去るわけにはいかないというわけだ。

ついでに、話に出てきたから俺は気になることを尋ねた。

 

「とりあえず聞いてみたいんだが・・・あいつらとティアの様子はどうだ?」

「・・・最初に比べればまだ、としか」

「・・・そうか」

 

最初の頃は俺も一緒にいたが、まぁ魔人族がティアに対してひどく怯えていたのが印象的だった。

あのような事件があったんだから当然と言えば当然なんだが、やはりショックは大きかったようで、ティアはその日の夜ひどく落ち込んだ。

それでも、ティアが人間族になってからは、少しは態度は緩和した。

べつに魔人族の姿じゃないから当時のことがフラッシュバックしない、というわけではないのだろうが、魔人族の人権回復のために動いているティアを見ていたこととリヒトの執り成しが合わさった結果だろう。

だが、あくまで少しだけだ。

未だに、魔人族とティアの間には距離がある。

 

「まぁ、こればっかりは時間に任せるしかない。次戻って来たときにどうなるか。話はそれからだな」

 

具体的にどれだけの間かはわからないが、日本に帰還してすぐにトータスに戻るということはないはずだ。

だったら、時間が彼らの恐怖心を和らげると同時に、魔人族の地位も幾分かよくなるはずだ。

それに、

 

「幸か不幸か、あいつらは俺に対してはそこまで警戒心を持ってないし」

「それもそうですね」

 

魔人族にとって、俺は自分たちの生存というか、最低限の生活を保障してくれるように口添えしてくれたということで、リヒトと同じくらいには信用してもらえている。

だから、俺の方からもティアとの関係の改善を手伝うことはできるはずだ。

 

「それで、これからどうされるおつもりですか?あの方たちの様子を見に行きますか?」

「いや、そっちは後だ。まず先に、もう片方の問題の方に行く」

「もう片方の問題、というと・・・」

 

俺の言い回しで、ウェンディも誰のことを言っているのか察したようだ。

 

「とりあえず、中村の様子を先に見に行くことにしよう」

 

 

* * *

 

 

現在、中村の扱いは魔人族よりもさらに厳しいことになっている。

なにせ、大勢の王国の騎士を殺して傀儡にし、勇者をたぶらかして人類を裏切らせた張本人なのだから。

当然、監視は厳重に厳重を重ねているし、行動の自由も制限されている。

具体的には、基本的に中村は監視用の個室に軟禁状態になっており、外に出るには上の許可が必要になる。

その監視役も最低でも2人の騎士と2人のメイドの4人で担当しており、身の回りの世話をメイド会のメイドが行うことでわずかな陰謀の可能性も許さないようにしている。

曲がりなりにも自由行動が許されている天之河とは大違いだ。

だが、これでもまだまだマシな方で、なんだったら、中村を殺すべきだと言う声は魔人族に対するものよりも多い。

それでも、こうして中村の存在が許されているのは、俺と谷口の働きかけによるものだ。

俺が中村の能力を封印し、谷口が姫さんに協力を持ち掛けてどうにか実現することができた。

こちらの言い分としては、中村による事件は国民に対して表沙汰にしていないこと、曲がりなりにも神の使徒であることから、公然で死刑にするにせよ秘密裏に死刑にするにせよ問題が残る。そして、今は大戦を乗り越えたばかりであり、その中で中村の死刑を執行することで戦勝ムードが冷えてしまう可能性があるため、中村を死刑にするべきではない。といった感じだ。

これでどうにか家臣たちを納得させることができて、様々な制限付きだがこうして中村にもある程度の生活が保障されることになった。

まぁ、扱いは囚人に近いが。

言ってしまえば、今の中村の扱いは無期限の執行猶予がついた凶悪殺人犯のようなものだ。

はっきり言って、立場の危うさは魔人族の比ではない。

とはいえ、そうなるとわかった上で、谷口は当然だが、俺も自分のエゴも含めて中村を蘇生したのだから、できるだけ面倒は見るつもりだ。

そういうこともあって、俺はちょくちょく中村の様子を見に行っている。

というか、そうしないとマジで中村が死刑にされかねない。

そんなこんなで、すでに慣れてた道を通って中村が幽閉されている部屋に向かう。

中村の部屋の前に着くと、扉の前で立っていた見張りの兵士がビシッ!と姿勢を正した。

今回の大戦で、ハジメは“神殺しの魔王”として、俺は“使徒殺しの魔王”として、この世界の人から広く認知されることになった。

王城では特にそれが顕著で、別に俺やハジメの方から何か言ったわけでもないのに、まるで王族でも相手にするかのような態度で接されるようになった。その表情には畏敬の念が込められていて、誰もが自然とそんな態度をとるもんだからこそばゆいことこの上ない。

 

「お疲れさん。中村は?」

「先ほど、食事を終えたところです」

「わかった」

 

中村に出される食事は、姫さんの息がかかった料理人に用意してもらっている。

万が一、どっかの顔も知らない貴族が指示して毒が混ぜられようものなら、目も当てられないしな。

とはいえ、当然内容は質素というか簡単なもので、平民が食べるようなものと同じになっている。

それだけ尋ねて、俺はドアをノックしてから中に入った。

中はけっこう広く、ベッドや食卓に加えて簡単なストレッチができる程度にはスペースが確保されている。

窓もそれなりに大きいため、日の光も十分に入り込むようになっている。

その中で、中村は椅子に座って読書をしていた。

その表情は静かなものだったが、ドアの音で俺に気が付いた途端に一転して不機嫌な顔になった。

中村の後ろで控えていた2人のメイドは、俺が入ってきたタイミングで頭を下げて、すぐに部屋から出て行った。

本来であればメイドもいた方がいいのかもしれないが、なにせデリケートな話が多いものだから、俺がいる間は部屋から出て行ってもらうように頼んだ。

メイドたちも俺の実力を理解しているから、特に反論するでもなく俺の言う通りに従ってくれている。

メイドたちが部屋から出たところで、俺も中村と向かい合うように椅子に座った。

 

「よう、随分と不機嫌そうだな」

「あんたの顔を見てるだけでムカムカしてくんの」

「なるほど、些細なことでイライラする程度には元気があるようだな」

 

このやり取りも、俺が中村を訪ねたときの恒例みたいなものになっている。

これを中村が変わったととるべきか変わっていないととるべきかは、悩ましいところだ。

 

「それで?またどうでもいいことでもしゃべるのかな?」

「カウンセリングと言え、カウンセリングと」

 

人聞きの悪い。

 

「それはさておき、今回はどうでもいいことだけじゃない」

「どういうこと?」

「日本に帰る日の目星がついた。だいたいあと1週間くらいだ」

「・・・そう」

 

俺の言葉に、中村はわずかに眉をしかめた。

まぁ、他と違って中村は帰る理由はあまりないからな。なんだったら、このままここにいた方が最低限の生活は保障される。

まぁ、置いてくわけにはいかないが。

 

「言っておくが、中村は一度強制的に同行してもらうぞ。親父にもいろいろと報告しなきゃいけないことがあるしな。トータスに残るんだったら、その後だ」

「・・・わかったよ」

 

俺の命令に、中村は不承不承ながらも頷いた。

そして、目を合わせようとしないまま俺に尋ねてきた。

 

「・・・光輝君は、どうするって?」

 

まぁ、それは聞いておきたいだろうな。

 

「一度日本に戻るのはあいつも同じだ。だが、今のあいつは自己嫌悪と罪悪感にまみれてるからな。どっかのタイミングでトータスに戻ることになるだろう」

「そっか」

 

中村の返事は、そっけないものだった。

だが、べつに天之河のことがどうでもよくなったとか、そういうわけではない。

どちらかと言えば、感情を持て余しているといった方が正しいか。

前までは、中村にとって天之河がすべてだった。今までの事件や行動も、天之河を手に入れるために起こしたものだ。

だが、中村の方から天之河に対して何かを期待したことは、ただの一度もない

それに、今は谷口がいる。谷口といることで、中村の中で何かが救われているのは間違いない。

そうして、中村の中に谷口の存在が割り込んでくる形になった。

そのため、谷口と一緒にいることで自分を肯定できるようになったものの、今さらになって天之河のことを捨てることができずにいる状態が出来上がった。

天之河の方から中村に対して贖罪がしたいと近づくようになったことも相まって、天之河を突き放す口実がまったくなくなってしまった。

そのため、天之河に対する執着はなくなったものの、今さらになって天之河の方から接触するようになってどのような態度をとるべきか決めあぐねているのだ。

本当に欲しいときに手に入れることができず、必要性が少なくなったタイミングで相手の方から意識されるようになったというのは、皮肉もいいところだ。

こうなると、俺の方で無理やりくっつけるというのは悪いだろう。

媚薬、無駄になっちまったなぁ・・・。

いや、いっそ天之河の荷物にこっそり忍び込ませてみようか?面白いことになりそうだ。

 

「それで?話は終わり?」

「それ、むしろ俺の方が聞きたいんだが。もっと他に言うことはないのか?」

「だって・・・ボクだって、どうすればいいのかわからないし・・・」

 

うーん、人より少ない程度でも良心が戻って来たのは喜ばしいことだが、これはこれでまどろっこしいな。

天之河との関係をはっきりさせるのは、わりと冗談抜きで中村にとって重要事項だ。

これは推測でしかないが、天之河はおそらく過去に中村に言った「俺が恵里を守る」という約束を守ろうとするだろう。

他の女の扱いがどうなるかは定かではないが、中村を優先しようとするのは間違いないはずだ。

いや、取り巻きの女は俺の方でなんとかしなくもないというか、あんなことを暴露したツケを払うつもりではいる。

だが、今さらになって天之河が約束を守ろうとしたところで、中村が再び天之河を意識するようになる可能性は低いだろう。

他人の人生を壊してまで欲しいもの(天之河光輝)を手に入れようとした中村と、自分が信じたいものだけを信じて様々な人間に迷惑をかけてきた天之河。

この2人が交わるのは、かなり先のことになりそうだ。

とはいえ、俺だって全部丸投げにするつもりはない。

最終的に決めるのは2人だが、俺の勝手で中村を蘇生したケジメをつけるためにも、悪い結末にならないよう手伝うくらいのことはしよう。

そういうわけで、

 

「お前には、これを渡しておこう」

「なにこれ?」

「とある大迷宮でくらった媚薬魔法の粘液を再現したものだ」

「いらないから!!」

 

え~?あって損はないと思うんだけどなあ?




「ふむ・・・どうしたものか・・・」
「ツルギ?なにそれ?」
「ハルツィナでくらった、媚薬の魔法・・・媚法のやつを再現してみたんだが、作った後になって扱いに困ってな」
「なんでそんなもの作ったのよ・・・」
「俺だってわからん」

媚法粘液を製作したときの現場。作った理由は特にない。


~~~~~~~~~~~


今回は予告なしで更新です。
思ったよりも短めに仕上がって完成したので、投稿しちゃいました。
とりあえず、魔人族と恵里のその後を簡潔にまとめてみました。
この先どうなるかは、あとあと詰めていくと思います。

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