「パパとツルギお兄ちゃんって、どっちが強いの?」
事の発端は、ミュウの疑問だった。
その時にいたのは、ユエ、シア、ティオのハジメ組と、ティア、イズモのツルギ組だ。
「・・・ハジメ」
「ツルギよね」
当然と言えば当然だが、意見は分かれた。
「・・・どう考えても、ハジメが勝つ。アーティファクトでごり押しすれば勝てる」
「手数で言ったら、ツルギの方が上よ。選択肢だって多いし、概念も自在に作れるのよ?」
両者共に最愛の男のこともあって、一歩も譲らない。
「でも、普通に考えればツルギさんの方が強い気がしますよねぇ。普段の手合わせでも、ツルギさんが勝ち越してますし」
「だが、執念や気持ちの強さで言ったら、ハジメ殿に軍配が上がるな。相手が格上でも粘り強く戦い続けることができる」
シアとイズモは、逆の相手を支持する形になった。
そうなると、残るティオに視線が向けられるわけだが。
「うーむ・・・妾としては、長期戦ではツルギ殿が有利、短期戦ではご主人様が有利な気もするが・・・実際どうなるかはわからんのう」
返ってきたのは少しひよった解答だが、あながち間違ってはいない。
この2人が全力でぶつかったことは一度もないのだから、判断材料が少ないのだ。
さらに言えば、ツルギはエヒトによって神性に適した体となっており、ステータスが以前と比較にならないほど上昇している。
そもそも2人が手合わせをするときは基本的に近接攻撃のみで行うが、ハジメの本領は強力なアーティファクトを用いた物量戦で、ツルギの本領は剣術と魔法を交えたオールラウンダーな立ち回りだ。
その2人が全力でぶつかったら、いったいどうなるのか。この場にいるメンバーではちょっと予想できなかった。
試しに、クラスメイトや他の人たちにも同じことを尋ねてみたのだが、
「そりゃあ、南雲が勝つだろ」
「いや、峯坂が勝つだろ」
「ネーミングで言えば、“神殺しの魔王”の南雲君が勝つんじゃない?」
「でも、峯坂君だって大量の使徒を一瞬で殲滅してたよね」
「南雲なら、世界を改変できる峯坂にも勝てそうな気がする」
「いや、峯坂なら南雲の必死の抵抗を笑いながら潰しそうだろ」
こちらも賛否両論という形になった。
ツルギが有利という見方が多いが、ハジメなら負けないという意見も決して少なくない。
というより、クラスメイトたちは2人の全力を見たことが無いため、想像でしか勝敗を予想することができなかった。
結局、侃侃諤諤の議論が行われ、それでも結論は出ないまま平行線をたどり・・・
* * *
「そういうわけだから、ハジメと全力で戦ってみてくれない?」
「いや、どういうわけだよ」
分からなくはないけど、ちょっと急すぎやしないか?
あと、俺のことを「必死の抵抗を笑いながら潰しそう」とか言ったやつ、ちょっと出てこい。俺についての認識を小一時間ほど問い詰めてやる。
にしても、俺とハジメ、どっちが強いか、ねぇ。
「普通に戦えば、俺が勝つと思うけどなぁ」
「すごい自信ね」
「まぁ、概念魔法のアドバンテージがあるからな」
概念魔法とは本来、極限の意思が無ければ生み出すことはできないが、俺なら剣製魔法で直接生み出すことができる。
それに対し、ハジメが今生み出すことができる概念は、おそらく日本への帰還に必要なもののみ。
攻撃手段の質は、まず間違いなく俺の方が上だ。
だが、
「ただ、俺だってノータイムで概念を生み出すことができるわけじゃない。瞬間的な攻撃の火力や速度はハジメのレールガンには敵わないから、必ずしも概念魔法によるごり押しができるとも限らない」
概念とは、非常にデリケートなものだ。
剣製魔法で生み出すには、簡単なものでも数秒の時間を要する。
そして、数秒もあればハジメの兵器が火を噴くのは目に見えている。
だから、ハジメと本気で戦おうと思うと、あまり概念魔法に頼ることはできない。
つまり、概念魔法によるごり押しは非常に難しいというわけだ。
さらに言えば、物量戦に関しても俺は剣製魔法で量産できるが、ハジメのアーティファクトに対抗できるものを生み出すには1秒未満程度の隙が生まれる。誤差程度でも、武装したハジメを前にして1秒はあまりにも長い。
とはいえ、だ。
「近接戦なら俺の土俵だ。十中八九勝てる」
要するに、刀の間合いまで接近すれば俺が勝つが、間合いに入る前に押しつぶされれば負けるかもしれない、といったところだ。
ただ、
「でもなぁ、俺とハジメが全力でやり合う機会なんて、そうそうないぞ」
「なんで?」
「まず間違いなく、地形が変わる。最悪、周囲数㎞くらい」
俺の魔法もハジメのアーティファクトも、広域殲滅できるものを備えている。
そんなものを使ってまでぶつかろうものなら、周囲への被害がとんでもないことになる。わりと冗談抜きで。
それなら、そういう広域殲滅系の攻撃手段を使わずに戦えばいいのかもしれないが、そういうのはすでに何度もやってる。
そして、
「限られた攻撃手段での戦闘なら、俺が勝つ」
少なくとも、ハジメのガンカタと手合わせをして負けたことはない。
だから、俺とハジメの序列は半ば決まっているようなものだ。
「そういうわけだから、そっちの希望には添えないぞ」
「そっかぁ・・・」
いや、そんな残念そうな表情をされても困るんだが。
ちなみに、後で聞いたところ、ハジメの方でもユエが同じことを尋ね、返答は俺と大して変わらなかったらしい。
まぁ、何度も手合わせしてるからそうなるよなぁ。
・・・そう言えば、最近は体を動かす機会がめっきり減ったよなぁ。夜は別として。
適度な運動はしているが、がっつり手合わせする機会はかなり減った。
大戦を終えたばかりだから必要ないと言えば必要ないんだろうが、勘が鈍るというのもよろしくない。
そうだな・・・すぐにと言うのは難しいが、そこまで時間がかかると言うわけでもない。
せっかくだし、ハジメと一緒にちょうどいいものを作ってみるとするか。
* * *
ティアの話から3日後。
あるアーティファクトの試験運用のために王城の訓練場を訪れていた。
ここには、俺の他にもハジメやティアたちいつものメンバーに、中村を含めたクラスメイト達、さらには姫さんや一部王城の面子、獣人族その他暇を持て余していた様々な人物たちが集まっている。
暇だから来たというよりは、暇だったら来てくれと俺とハジメで呼んだのだが。
王都の復興で忙しい中、ここまで集まるとは思わなかったな。
「っし。それじゃあ、ハジメ。起動してみてくれ」
「あいよ」
観客が所定の位置についたことを確認して、ハジメは右手に持っている赤いダイヤモンドのような宝石を掲げた。
次の瞬間、訓練場が紅い光の膜につつまれ、半球状に覆い尽くした。
さらに、観客たちの足下に魔法陣が生成され、観客を守るように障壁が形成された。
その様子を見届けたハジメは、満足そうにうなずく。
「うっし。ひとまずは成功だな」
「あぁ。思い付きで持ち掛けてみたが・・・案外、いいものができたな」
アーティファクト“決戦のバトルフィールド”。
ざっくり説明すれば、即席の闘技場と観客席を作り出すアーティファクトだ。
指定した範囲の空間を周囲から隔離し、内部の空間を拡張。観客がいる場合、観客を守るために障壁を展開する。
すべての手順を使用者が手動で行わなければならなかったり、障壁に“不抜”の概念を付与した分そこそこ魔力を消費するという使い勝手の悪さはあるが、その分性能は折り紙付きでいいものができたという自負がある。
ただ、魔力消費に関してはちょっとした対策を施してある。
「ユエ。そっちのスペアの調子はどうだ?」
『ん。問題ない』
今、ユエの右手にはハジメが持っているものよりも一回り小さい宝石が握られている。
あれは“決戦のバトルフィールド”の制御装置のスペアのようなもので、オリジナルが展開した空間に接続することで同じように魔力を流すことができる。
そのため、仮に使用者に何かがあってオリジナルが破損しても周囲に被害を出さないようにすることができる。
「スペアの接続も問題なし。あとは、耐久の確認だけか」
「おう。にしても、なんだかんだ初めてだな。俺とツルギが遠慮なくやり合うなんて」
「そうだな・・・まさか、ミュウの素朴な疑問をこんな形で確かめることになるとは」
世の中、何がきっかけになるかわからないもんだな。
ちなみに、この疑問の出所がミュウだったせいか、ハジメはけっこうノリノリでこのアーティファクトを作っていた。
ほんと、この親バカ野郎が。
まぁ、提案した俺も人のことは言えないか。
「そんじゃ、ティア。合図は頼んだ」
「はいはい、わかったわよ」
なんだかんだ言って俺もノリノリなのがバレバレなようで、ティアから呆れた眼差しを送られる。
仕方ないだろう。今の俺と互角に戦えそうな奴なんてハジメくらいしかいないんだし。
「別に注意事項はいらないわよね?元々、どれだけ暴れても問題ないか確かめるわけだし」
「そうだな。まっ、死なない程度に、な」
魂魄魔法があるからと言って、あんまり命を粗末にするのもいただけない。
「準備はいい?それじゃあ、始め!!」
ティアが右手を振り下ろして合図を出した直後、俺とハジメは同時に駆けだした。
* * *
両者が飛び出すと同時に、ハジメはドンナー・シュラークを、ツルギは1本の日本刀を手に持ち、火花を散らしながら衝突した。
「始まりましたねぇ」
「ん」
観客席では、ユエとシアがワクワクしながらその様子を見守っていた。
「そう言えば、ハジメ君の全力を見るのはこれが初めてかな?」
「そうですね。地上にいたツルギはともかく、ハジメ君は神域にいましたし」
実はちゃっかり訪れていたアドゥルとグレンは、興味深そうに戦いの行く末を見据える。
この2人は、ハジメが大量の広域殲滅兵器を使って使徒や魔物をなぎ倒したところは見ていても、ドンナーとシュラークを用いた白兵戦、生体ゴーレムやクロスビットを用いた物量戦はまだ見たことはないのだ。
そのため、2人は割とハジメの実力に興味津々だったりする。
「それで、父さんはどっちが有利だと思うの?」
この場にいる中でも上位の実力を持ち、なおかつ武芸においては右に出るものはいないリヒトに、ティアは第三者としての意見を求めた。
訊かれたリヒトは、僅かな間だけ思案して答えた。
「まだ2人とも全開とは程遠いから断言はできないが・・・今の段階で有利なのは、峯坂ツルギだ」
そう言った直後、ハジメがツルギの後ろ蹴りによって間合いからはじき出された。
ツルギの蹴りはドンナーで防いだためダメージはないが、結果的に現段階での優劣をはっきりさせた。
「中距離では雷速で攻撃できる南雲ハジメが有利だろうが、近接戦では峯坂ツルギの方が圧倒的に手札が多い。南雲ハジメも動きは悪くはないが、それでも相手が相手だ」
そもそもハジメは完全な我流だが、ツルギも我流とはいえ武術の手ほどきを受けている。
そこに差が出てくるのは明らかだった。
「さらに言えば、南雲ハジメの射撃は基本的に点の攻撃だ。雷速とはいえ、軌道を見極めることができれば回避は容易い」
ハジメであれば“先読み”の技能で回避先に照準を合わせることも容易だが、ツルギが持っているのは“天眼”だ。今までの経験と類まれなセンスも相まってさらに先を読まれれば、ハジメの“先読み”は意味を持たない。
だが、
「これはあくまで、近・中距離の場合だ」
まだ、圧倒的な物量も、神の領域の魔法もない。
本当の勝負は、ここからだ。
* * *
「ん~、まだ様子見とはいえ、有効打は無しか」
そもそも、今回の勝負は新しいアーティファクトの試験だ。このまま近接で終わらせてしまっては意味がない。
だから多少手加減したんだが、まさか一度も有効打が入らないとは思わなかった。
伊達にあのエヒトを殺したわけじゃないってことか。
そんなことを考えていると、ハジメがニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。
「おいおい。あの程度で勝てると思ってたのか?」
「まさか」
「だろうな」
「さて、準備運動は済ませたし、そろそろ始めるか」
今回の本題でもある、一切容赦しない本気のぶつかり合いを。
「“神位解放”」
「“限界突破”」
次の瞬間、俺から紅と銀の魔力が、ハジメから深紅の魔力が天を衝いて噴き上がる。
さらに、ハジメの周囲にはグリフォンを中心とした生体ゴーレム“グリムリーパーズ”が多数出現し、俺の周囲にも翼が生えた人型“エインヘリヤル”を生成する。
「蹂躙しろ」
「鏖殺だ」
突撃の命令を出したのはほぼ同時だった。
ハジメの“グリムリーパーズ”が縦横無尽に飛びまわりながらガトリングレールガンを乱射し、俺の“エインヘリヤル”が盾兵で攻撃を防ぎながら後衛が魔法で迎撃し、前衛では銃撃を避けながら双大剣を振るう。
この時点ですでに周囲には大小多数のクレーターが出来上がっているが、まだまだ序の口だ。
「吹っ飛ばしてやる」
ハジメが右手にガトリングレールガン“メツェライ・デザストル”を、左手に“アグニ・オルカン”を構え、俺に照準を定めた。
「迎撃システムを展開。同時に“エインヘリヤル”の展開を多角的なものにする」
俺は即座に“不抜”の概念を付与した“聖絶”を展開し、ここ最近で新たに生み出した技術、『魔導プログラム』による新生“フリズスキャルヴ”を展開した。
『魔導プログラム』とは、簡単に言えば魔法の自動化と効率化を追求した俺独自の理論で、コンソールを模した魔法陣を展開して魔法にパターンを組み込み、多数の魔法を同時に自動で発動できるようにした。(ちなみに、音声認識は趣味と効率両方から採用した)
魔法の自動発動だけなら背後の魔法陣だけでも事足りるが、それだけだと魔力の効率が悪い。
それを解消したくて編み出した技術だが、魔法の発動数の向上と発動の高速化という副産物までついてきたのはラッキーだった。
おかげで、ハジメの物量攻撃にも難なく対応することができている。
ただ、
(さすがに、この数をこなすのはキツイな・・・)
こうも発動している魔法が多いと、いくら効率化したとはいえそれなりに魔力を持っていかれる。
魔力消費のコスパだけで言ったら、兵器を起動させているだけのハジメの方がよっぽど上だ。
さすがに数に限りはあるだろうが、(“宝物庫”の破壊は別として)全部削りきるまで魔力が保つかは怪しい。
だが、こちらにもアドバンテージはある。
それは、射線だ。
俺は全方位からハジメを攻撃することが可能だが、対するハジメは攻撃方向はほぼ正面に限られている。
“グリムリーパーズ”による包囲か“アグニオルカン”の弾道軌道は例外だが、銃火器に関してはハジメが引き金を引く必要がある以上、正面の防御を空ける必要がある。
逆に言えば、俺がハジメの正面へ攻撃を続ければハジメの攻撃の手は緩む。
さらに言えば、ハジメは防御越しからの攻撃手段が乏しい。
ハジメも全方位に障壁を展開することは可能だが、障壁の内側から攻撃することはできない。
必ず、攻撃方向の防御を空ける必要がある。
だから、このまま全方位攻撃を続ければハジメも守勢に回らざるをえなくなる。
とはいえ、ハジメもそのことはわかっているわけで、“グリムリーパーズ”による迎撃を徹底している。
せめて、“アグニ・オルカン”を迎撃にまわしてくれれば少しは楽になるんだがな・・・。
「うしっ、さらに圧をかけていこうか」
比喩的にも、物理的にも。
「障壁を“不抜”から空間障壁に変更。同時にハジメの周囲に50倍の重力場を生成」
コンソールに指を走らせて、瞬時に魔法を切り替える。
障壁を消耗の激しい“不抜”から比較的消耗が少ない“絶界”に変更し、同時にハジメの周囲に50倍の重力場を生み出した。
“限界突破”を発動したハジメにとって50倍程度の重力は何でもないだろうが、狙いはハジメ本人ではなく、兵器の方だ。
どれだけ強力な兵器でも、ハジメの“限界突破”の影響を受けて威力が増大するわけではない。
ガトリングレールガンの弾丸は軌道を捻じ曲げられて俺の障壁の手前数mに着弾し、ミサイルは重力場に逆らうことができず地面に落ちる。
これで、ハジメの攻撃力は半減した。
それを見たハジメは憎々し気に舌打ちする。
(さて、ここからどう来る?)
ここで終わらせるのは簡単かもしれないが、どうせならもう少し追い込んでからにしたい。
そう思っていたが、その判断は尚早だった。
「うげっ」
“メツェライ・デザストル”の銃口を上げて軌道を修正したのは、まだいい。
ただ、“アグニ・オルカン”をしまって代わりに出したのが、ガトリング・パイルバンカーとかいう頭のおかしい兵器で・・・
「障壁を“不抜”に変更!」
判断は一瞬だった。
障壁を“不抜”に戻した瞬間、すさまじい衝撃が障壁の中を揺らした。
なにせ、重量20tの金属杭が毎秒6発とかいうふざけた連射速度で飛んでくるんだから、“絶界”のままだったら貫かれてたかもしれん。
ただ、今展開している“不抜”も咄嗟に作ったもので完全とは言えない状態だから、徐々にだがヒビが入り始めている。
不完全とはいえ、概念製の障壁にヒビを入れるとか、バカげてる。
こうなると、完全に俺の攻撃の手が緩んでしまう。
気付けば、エインヘリヤルも少しずつだが押され始めている。肝心の俺が防御に手を回さざるを得なくなったからだ。
このままだと、ガチでやばいかもしれない。
(・・・まぁ、あのエヒトをぶっ殺したんだから、同じような戦いを仕掛けたら危ういに決まっているか)
近接戦闘ならともかく、やはり物量戦術だとハジメの方に軍配が上がるか。
とはいえ、負けるつもりはさらさらないが。
「出し惜しみしてる場合じゃないな・・・・“エインヘリヤル”を防御態勢に移行。続いて“エクスカリバー”を生成、チャージ開始」
“エインヘリヤル”による攻撃を、殲滅から時間稼ぎによるものに変更し、“グリムリーパーズ”の進攻を阻止。
そこで稼いだ時間を使い、最大威力を込めた“エクスカリバー”を100本生成する。
対するハジメも、“宝物庫”から太陽光レーザー兵器“バルス・ヒュベリオン”を5基取り出してチャージを開始した。同時に、“グリムリーパーズ”をさらに追加して攻勢を激しくする。
俺の“エインヘリヤル”が次々と撃墜されていくが、それでもチャージまでの時間稼ぎには十分だった。
臨界に近づくエクスカリバーが紅のスパークをほとばしらせ、ハジメの“バルス・ヒュベリオン”からも光が漏れだす。
あと数秒で、エクスカリバーの臨界点を超えて射出される。
決着の時が近づいていき・・・
ビーッ!!ビーッ!ビーッ!
次の瞬間、空間内が赤く点滅して警報が鳴り響いた。
「ありゃ」
「あ?限界だったか」
どうやら、“決戦のバトルフィールド”の安全装置が起動したらしい。
安全装置と言っても、空間が耐え切れないような攻撃を検知したときに警報を鳴らす程度のものだが。
だが、念のためで付けておいた安全装置が機能することになるとは・・・。
「もしかして、空間の強度、思ったより高くなかったか?」
「考えてみれば、結界の強度よりも空間の拡張を優先してたからな。こうなるのも当然と言えば当然だったか」
心置きなく兵器とか魔法をぶっぱしようぜ!の下に作ったが、今回はそれが裏目に出たようだ。
「んで・・・どうする?ぶっちゃけ、俺は萎えたんだが」
「俺も似たようなもんだ」
ここから再開することもできなくはないが、盛り上がってきたところで中断されて気分が萎えた。
ハジメも同じなようで、すでに限界突破を解除している。
「ん~、改良の余地あり、だな。そもそも、方向性を変えた方がいいのか?魂魄魔法も使って精神世界を作った方がいろいろと都合がいいかもしれん」
「かもなぁ・・・まぁ、その辺りのアイデアはハジメに任せる」
別に、俺はそこまで物作りが得意ってわけじゃないし。
「んじゃ、今日のところはこれで終わりとしようか。そういうことだから、解散だ、解散」
ハジメが“決戦のバトルフィールド”を解除したのを確認してから、俺は観客に解散を促した。
すると、ティアが俺のところに駆け寄ってきた。
「お疲れ様、ツルギ」
「不完全燃焼だけどな」
せっかく盛り上がってきたというのに、お預けをくらった気分だ。
「そういうことだから、リヒト。ちょいと付き合ってくれ」
「まだやるのか?」
「クールダウンだよ、クールダウン」
このまま何もしないでいると、明日になって肩とか凝りそう。
「まぁ、俺は構わんが」
「んじゃ、よろしく頼む」
こうして、10分くらいリヒトと素手でやり合って汗を流してから部屋に戻った。
う~ん、こういう時にリヒトの存在に感謝したくなるな。
* * *
訓練場の端のあたりでツルギとリヒトが手合わせしているところを、ハジメは少し遠い目になりながら見ていた。
「・・・ハジメ、どうしたの?」
「いや。改めて、俺とツルギの差を実感したと思っただけだ」
今回の試験という名目のガチ勝負。ツルギとしては引き分けくらいに考えていたが、ハジメの中では自分が負けたと思っていた。
「俺はけっこう殺すつもりでやってたのに、あいつは俺を殺さない程度に加減しながら戦っていたからな」
そうでなければ、ハジメが一方的に攻撃できるなどあり得ない。
今回のツルギは攻撃と防御半々で立ち回っていたが、それでハジメとほぼ互角だった。
ならば、どちらかに偏った時点でハジメは押し負けるか、削りきれずに敗北していたかもしれない。
それになにより、
「あれのアラート、俺じゃあ鳴らせなかったからな」
実は、ハジメはこっそり“決戦のバトルフィールド”の強度を確認しており、そのときは“バルス・ヒュベリオン”5基の自爆でも問題なかったのだ。
もしかしたら、ハジメの攻撃とツルギの攻撃の両方が合わさって反応したのかもしれないが、ハジメはそう考えていなかった。
だからこそ、
「俺の完敗だ。ったく、相変わらず追いつくのに苦労する背中だ」
日本にいた時から追いかけ続けてきたツルギの背中。まだまだ追い越すのには時間がかかりそうだ。
それでも、ハジメには欠片も諦めなんてものは存在しない。
“神殺しの魔王”なんて呼ばれているのだから、神の力を使うツルギに勝てなければ“神殺しの魔王”の名折れだ。
いつか絶対に勝ってみせる。
そんな決意に満ちるハジメの横顔を、ユエは内心キュンキュンしながら眺めていた。
一部でリクエストがあって、元々書くつもりだった話ですね。
まぁ、2人とも地形クラッシャーですし、決戦のバトルフィールドはあって困りません。
あと、時系列的には深淵卿対魔王よりも前になりますかね。
投稿順に時間はあまり関係ありません。思いついたものから書いたので。
さて、次回はお気に入り登録者1500人突破記念回になります。
思った以上に投票が少なかったので、こっちで割と勝手に決めさせてもらいます。