二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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つけるべきケジメ

記者会見の日からおよそ1週間。

あれ以降、俺は基本的に静観を徹していた。

というのも、最近は愛ちゃん先生だけが呼ばれることが増えたからだ。

さすがに、記者会見という公の場で大人である先生ではなく生徒の俺が喋り続けるというのは悪印象だったようだ。

目に見えて日に日にすり減っているが、そこのところはハジメが上手くやってくれていると思う。

というか、現在進行形でいろいろやってるだろう。

なにせ、すでに政府の表向きには言えないような組織らしき人間が動いているようだし。

一応、俺も必要なら動くつもりなのだが、今のところはハジメの方だけでも対処できている。

あるいは、俺の目的を知った上で、気を遣って力を借りていないのかもしれないが。

そのおかげで、最近は比較的平和な日々を過ごしている。

というか、

 

「・・・暇」

 

むしろ平和過ぎてやることが何もない。

ハジメたちが頑張っている中、俺だけこうしてだらけているというのは非常に落ち着かない。

ハジメからは「こっちは俺たちだけでなんとかなってるから気にすんな」って言われたけど、やっぱり気になってしょうがない。

だが、これでは姫さんの同類だと思われてしまう。

あんなブラック企業さながらの仕事を嬉々としてやるようなワーカホリックと同じになりたくない。

いやしかし、やっぱり何もしないのは落ち着かない・・・。

今、家に俺しかいなくてよかった。

ちなみに現在、ティアたち異世界組はハジメの家に行って作戦会議(俺も行こうとしたが来なくていいと押し返された)、親父は記者会見に行っている(俺を代理にすることができなくなったから)。

「休むべき」と「働きたい」の間に挟まれて悶々する無様な姿なんざ、ティアや親父に見せられるはずがない。親父からは確実に笑われるし、ティア経由でユエやハジメに知られたら何を言われるかわかったもんじゃない。

くそっ、こうなったら何かバイトでも始めようか・・・いや、世間一般に“帰還者”筆頭として認識されている俺を雇いたいところなんてあるはずがない。だからといって、バイトするためだけに魔法で認識操作するのはいろいろとダメな気がするし・・・。

ぐぉぉぉ・・・俺はどうすればいいんだ・・・。

 

ピンポーン

 

「んぁ?」

 

どうすればいいのかわからずに悩みまくっていると、インターホンが鳴った。

おかしいな。今日は別に来客の予定はないはずだし、宅配を頼んだ記憶もない。

それに、記者会見のこともあって俺へのインタビューはめっきりなくなった。

親父やティアたちが帰ってくるにしても早すぎる。

いや、()()()()()()()()()()、という可能性もあるか。

となると・・・

 

「・・・さて、鬼が出るか蛇が出るか」

 

相手はなんとなく想像がついたが、どういう風に出てくるかはまだわからない。

居留守を使う手もなくはないが、一定間隔で鳴り続けるあたり、向こうも俺がいるのはわかりきっているようだ。

とりあえず、まずは会ってみよう。話はそれからだ。

心なしか、記者会見の時よりは軽い足取りで玄関へと向かう。

扉を開けると、初老の男が1人、その両脇にボディーガードらしき青年が2人、スーツを着て立っていた。

 

「えっと、どちら様ですか?」

「どうも、峯坂ツルギ君。私は藤堂清嗣(とうどうきよつぐ)。あなたの母親である時武小梢(ときたけこずえ)の叔父ですよ」

 

時武小梢。

たしかにそれは母さんの名前で、時武は親父に引き取られる前の俺の姓だ。

そして、藤堂は母さんが結婚する前の姓。

魂魄を見る限り、母さんの叔父というのも嘘ではないようだ。

 

「それで、母さんの叔父であるあなたがどうしてここに?おや・・・義父はいませんが」

「いや、実はこちらから樫司殿に連絡を入れようとしたのですが、門前払いされまして。なので、こうして直接訪ねて来たということですよ。ですが、まさか樫司殿がいらっしゃらないとは。挨拶でもしようかと思ったのですが・・・」

 

嘘つけ。親父がいないタイミングを狙ったくせに。

 

「義父は例の件で忙しいですから」

「なるほど。それもそうですね」

 

表面上は何でもない世間話だが、向こうは向こうでこのまま帰る気がないのが目に見えている。

 

「・・・ここで立ち話もなんですし、家に上がりますか?自分しかいないので、これといったもてなしはできませんが」

「いえ、構いませんよ。今まで会ったことがなかったとはいえ、私たちは親戚同士です。気を遣わなくてもけっこうですよ。それに、いきなり押しかけてきたのは我々の方です。茶菓子はこちらで用意しているので問題ないですよ」

 

よくもまぁ、いけしゃあしゃあと。一瞬、「好都合だ」と言わんばかりに唇が吊り上がったの見逃さなかったぞ。

ただまぁ、ここでは気づかない振りをするが。

 

「そうですか。なら、どうぞ上がってください」

「えぇ、失礼します」

 

とりあえず、乗り気ではないが藤堂清嗣を家に上げることにした。

客間に案内してからは、テーブルを挟んで対面に座る。

その直後、ボディーガードらしき男が手慣れた手つきでお茶を入れた。

どうやら、執事兼護衛といったところのようだ。

淹れられた紅茶を飲みながら、俺は口を開いた。

 

「さて、さっそく本題に入っても?」

「えぇ、構いませんよ」

 

元より、世間話をするような間柄でもない。

むしろ、さっさと帰らせたいから先を促す。

 

「では・・・峯坂ツルギ君。我々藤堂家は、帰還者の保護に協力します」

 

・・・ほぅ?それは斜め上の回答だな。

 

「理由をお聞きしても?」

「えぇ。まずは前提の話になるのですが、この世界にも魔法と呼ばれるものは存在します」

 

・・・へぇ、なるほどねぇ。

火のない所に煙は立たぬとは言うが、実在したのか。

 

「つまり、自分たちが剣と魔法のファンタジーな異世界にいたという話も信じていると?」

「えぇ。こちらにも、魔力と呼ばれるものを感知する手段はありますから」

 

なるほど。

魔法が存在する、いや、技術として体系化されて発展しているトータスの住人と比較しても、クラスメイトの魔力は優れている。俺やハジメ、ティアやユエたちならなおさら。

だったら、こっちの一般人と比べるまでもない魔力を察知することくらい、なんてことないわけか。

 

「ですが、なぜ自分たちの保護を?そちらにメリットがあるとは思えませんが」

「そうですね・・・元々、魔法やそれに類する力を持った一族は古より存在しました。わかりやすい例を挙げれば、陰陽師やエクソシストがそれにあたります。ですが、近代化によって科学を重視する風潮が生まれ、当時の政府によって魔法の力を使う家系は表舞台から排斥されました」

 

それはそうだろう。

魔法は基本的に個人の才能に大きく左右されるが、科学によって生み出された道具は普通に使う分には才能に左右されない。全体的な利益を考えれば、科学に路線を変更するというのは間違っていない。

同時に、科学の発展に魔法の技術が疎ましくなるのもまた当然と言えば当然だ。

 

「まぁ、我々としてはそこまで気にしていないのですが。たしかに表舞台から排斥されましたが、魔法の探求を重視していた我々からすれば排除されないだけマシではありましたから。それに、表と裏の顔を使い分ければ、政府からの援助がなくとも資金を集めることもできます」

 

そう言えば、藤堂家って日本でもそこそこ有名な財閥だったな。

事業とか幅広くやってるって話だったし、政治家も何人かいたはずだから、金には困らないか。

 

「つまり、かつてと同じく魔法を使える者が排斥されるのを不憫に思い、同時に自分たちの研究に協力してもらうために自分たちを保護する、ということでいいですか?」

「はい、その解釈で間違っていません」

 

なーるほどねぇ・・・

 

「帰還者の中でも、あなたは全体に指示を出せる立場でしょう。どうです?この提案に賛同してもらえますか?」

 

人の良さそうな笑みを浮かべて、清嗣は俺の返事を待つ。

この提案にのるかどうか、だって?

当然、

 

「論外だ。考えるまでもない」

 

清嗣の提案を蹴り飛ばした。

 

「・・・なぜですか?あなた方にもメリットが・・・」

「言っただろう、論外だと。勘違いしているみたいだが、まず前提条件としてあんたらの手を借りるまでもない。今は静観してるが、準備が整えばこっちでどうにかする」

 

主にハジメが。

ハジメがやるんだから、俺の方で新たに人手を集める必要はまったくない。

それに、

 

「よくもまぁ、心にもないことをあんなペラペラと喋れるもんだ」

「心にもない?そのようなことは・・・」

「この紅茶、暗示をかける薬なり魔法を仕掛けただろう。そんな手を使ってまで引き込もうとするってことは、何か後ろ暗いことでも考えてるんだろう?」

 

俺の指摘に、清嗣は息を呑み、後ろの護衛2人からも剣呑な雰囲気が放たれる。

暗示の内容は、清嗣の条件への賛同。

つまり、何が何でも俺たちを引き入れたい理由があるというわけで。

 

「おそらく、あんたらの目的は帰還者、というよりは俺個人。その目的までは知らんが、まぁ俺の力で何かを企んでいるのは間違いないか」

 

まぁ、しょうもないことなのは間違いない。

そして、

 

「あんたらから、自己紹介以降母さんの話が一度も出てきていない。何か話したら困るようなことでもあったか?あくまでこれは推測だが、俺の父さんが殺された通り魔事件。あれ、あんたらの手引きだろ」

 

瞬間、空気が一変した。

2人の護衛から放たれる空気が、もはや殺気と変わらなくなる。

まぁ、この程度ではどうとも思わないが。

 

「どういう理由かはわからんが、おそらく俺がガキの時からあんたらは俺に目を付けていた。父さんを殺すように手引きしたのも、それを理由に母さんごとあんたらの家に引き込むためか」

 

気にせずに言葉を続けるなかで、清嗣の表情がさっきまでの人の良さそうな笑みが嘘のように険しい表情になっていく。

 

「・・・否定は無し、か。まぁ、そういうことだから、あんたらは信用するに値しない。さっさと帰ってくれ」

 

強い口調で帰るように促すと、清嗣は先ほどまでの態度から一変して剣呑な空気が放ちながら口を開いた。

 

「勘違いしているみたいですがね、これは確定事項です。あなたが頷かないのであれば」

「俺と近しい人間が不幸な目に合う、なんてつまらない脅し文句を吐くのはやめてくれよ。俺を脅したいならもうちょっと凝ったことを言ってくれ」

 

俺が心底どうでもよさそうな口調で遮ると、清嗣の顔が面白いくらいに真っ赤に染まっていき、

 

「っ、その判断を後悔しないことですね」

 

そんな捨て台詞を吐いて、ドスドスと乱暴な足取りで部屋を出て行った。

 

「・・・最後の最後までつまらないやつだ」

 

思わずつぶやきながら、俺は携帯を取り出した。

 

「そういうわけだから、そろそろ俺も動くぞ」

『へいへい、わーったよ』

 

携帯からは、ハジメが仕方ないと言わんばかりの呆れ口調で返事が返ってきた。

実は、清嗣を客間に案内した時点でこっそり雷魔法を使って携帯の電源を入れて、ハジメの方に通話をスピーカーでつないでいた。

当然、その場にいただろうティアたちにも話は伝わっているだろう。

 

『にしても、こっちの世界にも魔法が存在してたってのは、寝耳に水だったな』

「そこまで意外ってほどでもないけどな。伝承にも魔法や神秘とかの記録は残ってるし、こっちでも魔法が使えるんだ。その可能性は十分にあった」

 

まぁ、トータスで魔法と共に過ごしたからその可能性も思い浮かんだ、とも言えるが。

 

「とりあえず、あれの対処は俺の方でする。ハジメは引き続き行政やマスコミを頼んだぞ」

『あいよ。必要なら手を貸すぞ』

「わかった」

 

それだけ言って、俺は通話を切った。

さて、つまらない奴らではあるが、俺が招いた面倒ごとだ。

暇だったから、というわけでもないが、相手をしてやることにしよう。




申し訳ありません、投稿するのを完全に忘れていました。
なんか、頭が軽く朦朧としているあたり、まじでやばいかもしれない・・・。

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