二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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全面戦争

「これはいったいどういうことだ!!」

 

東京の某所に存在する藤堂邸。その一室では怒鳴り声が響いていた。

声の主は藤堂業平(なりひら)。藤堂家の現当主だ。

パッと見は白髪に無精ひげを生やした普通の老人だが、体つきはしっかりしており見ようによっては60代前半にも見える。

だが、その顔は怒りに染まっていた。

その原因は、彼の手元にある報告書だった。

 

「も、申し訳ありませんっ」

「謝罪など求めておらん!なぜこのような事態になったのか、そう聞いているのだ!!」

 

報告書の内容は、峯坂ツルギを脅すために行われた工作。そのすべてが失敗と記されていた。

 

計画:ティアを始めとした4人の恋人の拿捕

結果:失敗。工作員は住宅にたどり着くことすらできなかった。

 

計画:偽の横領の証拠を用いた峯坂樫司の懲戒免職

結果:失敗。協力者の全員が帰還者サイドに寝返り、工作員は偽証を持ち掛けたとして逮捕された。

 

計画:クラスメイト全員に対する襲撃

結果:失敗。派遣した戦闘員全員が返り討ちに遭い、藤堂家のことを忘却して()()()()()へと戻っていった。

 

ツルギと交渉決裂してからおよそ1週間、あの手この手でツルギを脅迫、あるいは実力行使で無理やり藤堂家の傘下に加えようとしたが、そのすべてが失敗に終わってしまい、運用可能な人員はもはや数えるほどしか残っていなかった。

そして、失った工作員の中にはリーダー格や優秀な人材も多くいるため、実質的に藤堂家の工作部隊は行動不能状態に陥っていた。

 

「くそっ、魔法を使えるとはいえ、たかが学生にいいようにやられるとは・・・」

「ど、どうされますか?」

 

報告のために呼び出された藤堂清嗣は、怒髪冠を衝く当主にびくびくと怯えながら問いかける。

 

「・・・全面戦争だ」

 

一瞬、清嗣は業平が何を言っているのかわからなかった。

だが、すぐにその意味を察した。

 

「まっ、まさか・・・」

「即座に分家に連絡を入れて本家に集結させろ。儂も出る」

 

藤堂家の当主は、最も優れた魔術師がなると決まっている。

年老いてなお当主の座に座り続ける業平は、歴代の当主の中でも群を抜いていると言われている。

当主自ら前線に出て一族を率いる。

それは、帰還者に対して総力戦を仕掛けるという意味だ。

 

「使用人に命令を出せ」

「わ、わかりました!」

 

清嗣が頷き、部屋から出ようとした次の瞬間、その前に扉が突然勢いよく開かれた。

そして、若い男が息を切らしながら飛び込んできた。

 

「はぁ、はぁっ。と、当主!緊急事態です!」

「ええい、騒がしい!いったい何が起こった!」

 

尋常ではない様子に嫌な予感を覚えながら、業平は先を促した。

 

「ほ、報告すべき事柄は2つ!まず1つは、連絡手段がすべて断たれました!外部と一切通信がつながりません!」

「なんだとっ!?」

 

男の報告に、清嗣は目を見開かせた。

藤堂家は科学的・魔術的両方において高度な連絡網を確保している。

それらがすべて断たれるなど、尋常ではない。

だが、業平はもう1つの報告に、果てしなく嫌な予感を覚えた。

 

「・・・もう1つの報告はなんだ?」

 

そして、それは当たりだった。

 

 

 

「それがっ、峯坂ツルギが、単身で本家に乗り込んできましたっ!!」

 

 

* * *

 

 

「へ~、ここが藤堂家の屋敷か。ずいぶんとまぁ立派だな」

 

向こうの手立てとか刺客とかあらかた撃退して、いよいよ本丸に攻め込むことになったわけだが、ずいぶんと立派な豪邸だな。

俺は建築に詳しくないからよくわからんけど、和と洋を上手く融合させてる感じがする。さぞかし金がかかってるんだろうな~。

まぁ、それはさておき、だ。

 

「さて、挨拶しに行くとするか」

 

相手の結末が決まっていようと、最低限の礼儀は必要だ。

門の傍にあるインターホンを押すと、すぐに女性の声が返ってきた。

 

『どちら様でしょうか?』

「峯坂ツルギだ。ちょいと、あんたらのご当主様に会いに来た。通してもらっても?」

『・・・申し訳ありませんが、私は一介の使用人にすぎません。上から許可を得るまでお待ちください』

「いや、その必要はない」

 

そう言って、俺はパチンッと指を鳴らして重力魔法を発動、閉じられていた門を無理やりこじ開けた。

 

「あんたらの返答に関係なく、通してもらうからな」

 

ここら一帯はすでに空間魔法と魂魄魔法で隔離してあるから、警察に通報されることもないし、近所から不審に思われることもない。

少しばかり大人気ないが、手を出してきたのは向こうからだから、そこまで気にすることでもないか。

屋敷の中がにわかに騒がしくなるのを感じながら、敷地の中に足を踏み入れる。

次の瞬間、傍の植木から拳大の氷の塊が飛び出てきた。

大して速度も出ていないから、手で掴み取りつつ割って口に放り込んだ。うん、普通。

 

「なるほどなぁ。こういう魔法的な迎撃装置もあるわけか」

 

ただ、見た限りその仕組みは相当古そうだ。

おそらく、全盛期時代に組まれたものか。

この程度しか威力が出ていないのは、メンテナンス不足による機能不全ってところなのか、それともこれで精いっぱいだったのか。

どちらにせよ、この手の類の罠が庭にも屋敷の中にも敷き詰められていると見ていいな。

 

「まぁ、あまり意味はないだろうけどな」

 

サクッと全部無力化させることもできるが、それはそれで面白くないし、試しに全部起動させながら進んでみよう。

庭のど真ん中を歩きながら進んでいく最中、様々なところから火球とかレーザーとか石礫とかいろんなものが飛んでくるが、威力は下の下だから特に苦労するでもなく先に進む。

というか、障壁を張るまでもなく全部素手で叩き落とせるあたり、こっちの魔法の水準がどれだけ低いのかがわかる。

もしかしたら、全盛期はそうでもないのかもしれないが、そんなことを言ったところで今さらだ。

庭に人影が見えないのが気になるところだが、たぶん屋敷の中に戦力を集中させているんだろうな。

そもそもの話、贅沢に使えるほど戦力が残っているわけでもないし。

そのおかげもあって、屋敷の扉まであっけなくたどり着くことができた。

 

(ん~、扉の奥に気配多数。こりゃあ待ち構えてるか)

 

気配の数は、俺が把握している実働部隊よりも明らかに多い。

こりゃあ、使用人とかにも問答無用で武装させたりしてるのか?

 

「まぁいいや。邪魔するぜー!」

 

特に気にすることもなく、扉を開け放つ。

扉を開けた先には、予想通り多くの使用人が集まって銃を構えており、何人かは杖を持って詠唱を唱えていた。

 

「今だ!撃・・・」

『動くな』

 

相手が動くよりも先に、俺は“神言”を発動。使用人たちの動きを止めた。

 

「体が、動かっ・・・!」

「あんたらに用はない。そこで待ってろ」

 

拘束を解こうと必死に体を動かしているのを横目に、俺は無慈悲に告げながら横を通っていった。

屋敷の中にも、案の定というか魔法による罠が多数仕掛けられていたが、屋内だからかむしろ庭のものよりも威力が低くなっていて、さらに張り合いがなくなっている。

やる気あんのか?

結局、最初よりもかなり楽に進んでいき、あっさりと当主の部屋にたどり着いた。

おそらく防音処理を施されているだろうにも関わらず、中からは汚い怒鳴り声が聞こえてくる。

正直、相手したくない感はあるが、ここでほったらかしにするわけにもいかない。

覚悟を決めて、俺は当主の部屋の扉を蹴破った。

 

「邪魔するぜ」

「なっ、き、貴様は!」

「よう。あんたのお望み通り、出向いてやったぞ」

 

もちろん、手を貸すつもりは毛頭ないが。

 

「こ、こんなことをして、ただで済むと思うのか!?ここで儂らを始末しても、分家が貴様たちを・・・」

「あぁ、無駄だぞ。分家とやらはすでに全部始末しておいた」

 

そう言うと、業平はわかりやすく顔を青くした。

当然、殺したわけじゃない。

ただ、軽く叩き潰した後で魔法の力をまるっと封印し、認識をちょいと改ざんしただけだ。その気になれば、元に戻すこともできるし。

まぁ、それもこれもこいつの返答次第だが。

 

「さて、あんたらの現状を理解してもらったところで、本題といこうか」

「お、脅すつもりか・・・?」

「あくまで交渉、と言いたいところだが、敢えてそうだと言っておこうか。こっちの要求は主に2つ。1つはあんたや分家も含めた老人共の引退。もちろん、隠居先はてめぇらで用意しとけ。もう1つは、藤堂家とその一族は俺が管轄する。といっても、方針にあーだこーだ口を出すつもりはない。有事に俺たちの手足となって働いてもらうだけだ」

 

ぶっちゃけ、ハジメとしてはまるごと壊滅させたそうな空気を出していたが、そうするにはあまりにももったいなさすぎる。

それに、今はいろいろと忙しい時期で人手はいくらあっても足りない。だったら、中村みたく馬車馬のように働かせるくらいがちょうどいい。

 

「もちろん、俺たち“帰還者”に害意を持ったりちょっかいを出そうっていうんなら、相応の報いを受けてもらう。安心しろ、殺しはしない。生かさず殺さず、生殺し状態にはなるだろうがな」

 

なにせ、ハジメが作った洗脳用アーティファクト。まだ試作品とはいえ、ちょいとアレだからなぁ。

肉体的には死なないだろうが、精神的あるいは社会的に死ぬとも限らない。

 

「で?どうする?当然、断るようなら容赦はしないが」

 

重ねて問いかけると、青ざめていた業平の顔が、次第に赤くなっていった。

 

「・・・ざけるな」

「あ?なんだって?」

「ふざけるな!!たかが小僧が、力を持って増長しおって!!」

 

自分の立場を理解しているのかしていないのか、業平は顔を真っ赤にしながら次々にまくし立てていく。

 

「我々一族が、いったどれほどの年月をかけて魔法を突き詰めてきたと思っている!それを、身につけてたかが1年しか経っていない若造共が歯向かいおって!!その力は、我々こそが使うにふさわしいということが、なぜわからん!!」

 

ん~、言い訳のしようがないくらいの老害だな。

俺たちをどうするつもりだったのかが手に取るようにわかる。

 

「あぁそうだ!あの力は、神の座を目指す我々にこそふさわしい!あの力さえあれば、我ら一族の悲願に大きく近づく!故に、貴様らは儂らによって管理されるべきなのだ!」

 

・・・へぇ?

 

「覚悟しろよ!貴様の妄言など信じるものか!我ら一族の悲願を邪魔立てするのであれば容赦・・・」

「“神位解放”」

 

業平が言い切る前に、俺は神の力を解放した。

 

「・・・これが、お前の言う神の力だ。ついでに言えば、ハジメは俺とは違う神を殺した。その意味がわかるか?つまり、お前たちは神の座と神殺しを相手に喧嘩を売ったってことだ」

 

業平に問いかけるが、返答は返ってこない。

いや、返せない、と言った方が正しいか。

業平の顔面は青を通り越して真っ白になっており、もはや歯をガタガタと鳴らしながら体を震わせることしかできない。

 

「利用価値があれば残してやろうとも考えていたが、どうやら害にしかならなさそうだ。人手が増えればラッキー程度には思っていたが、お前らを存続させることにこだわりはない。せいぜい、俺たちに喧嘩を売ったことを後悔するんだな」

 

業平の顔に手をかざし、記憶消去の発動準備に入る。

業平はすでに抵抗の意思を失っており、逃げる素振りすら見せない。

あとは魔法を発動すれば、それで終わり・・・

 

「少し待ってくれませんかね?」

 

魔法を発動する直前、扉の方から声がかけられた。

そこには、サラリーマンにも見える風貌の中年男性が立っていた。

その顔には、見覚えがあった。

 

「・・・あんたはたしか、藤堂吉城(よしき)、だったか?」

 

藤堂吉城。

俺の母さんの兄であり、要するに俺の伯父にあたる人物だ。

 

「待って、どうするつもりだ?」

「私は、君の要件を呑もうと思っています。ですので、それ以上はやめてもらいたい」

「その言葉が信用できるとでも?」

「こればかりは信じてほしい、としか言えません。ただ、分家を含めたすべての実働部隊が全滅。残りはこの屋敷に残っている者たちくらいです。そして、その者たちは君の力を前に抵抗する気力をなくしています。父上のように徹底抗戦しようだなんて考えていません」

 

・・・なるほど、考えてみればそうか。

“神言”で動きを止めた連中の表情。それは例外なく畏怖や恐怖で塗りつぶされていた。

だったら、この爺みたいな余程の馬鹿でないかぎり歯向かおうだなんて考えるはずもないか。

 

「そういうわけですから、父上。今この時を持って、藤堂家の当主は私になります。それで構いませんね?」

「あ、あぁ・・・」

 

業平は完全に心が折れたのか、吉城の言葉に呆然としながら頷いた。

 

「では、藤堂家は峯坂ツルギ君の要求を受け入れます。ですが、まずはエントランスにいる者たちを自由にしてもらってもいいですか?」

「わかった」

 

吉城の要求を呑み、指を鳴らして“神言”を解除した。

 

「それじゃあ、折を見て分家や実働部隊も元に戻す、ということでいいか?」

「感謝します」

 

どうやら、吉城は業平と違って人格者のようだ。あるいは、業平と比べて、というだけかもしれないが。

そんなことを考えると、吉城が神妙な表情で尋ねてきた。

 

「さて、それでですが、少し時間をもらっても構いませんか?」

「なんだ?」

 

 

 

「10年前の真実。そのすべてを話そうと思います」




最近、夏らしくめっちゃ暑くなってきてさらに執筆速度が落ちてきましたね・・・。
さらに大学の定期試験も近づいてきたので、更新速度はさらに下がるかもです。

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