二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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どうしても言いたくて

ひとまず、藤堂家に関するあれこれはあらかた収束した。

当主の座には藤堂吉城がつくことになったが、いや、当主って本当に藤堂家内の影響力がでかいんだな。

俺が潰しに行ったときは分家の連中も前当主みたいなことを口走ってたくせに、今では不承不承ながらも真っ当な帰還者の保護を徹底している。

あるいは、また俺に潰されるのが怖いだけなのかもしれないが。

ひとまず、吉城の協力が得られたこととハジメがインターネットを利用した全世界洗脳装置を開発したおかげで、表向き“帰還者騒動”は沈静化した。

とはいえ、あくまで表向きの話であって、裏では未だに俺たちを狙っている組織も存在するが、政府や行政がちょっかいを出してこないだけで段違いに楽になった。

そのおかげで、再び俺のやることがなくなった。

とはいえ、さすがに前みたくぐーたらしてるだけじゃなくて、俺の方でも対応に動くようにはしているが。

それと秘密裏に公安の職員から接触があった。

内容は、事実上の降伏と協力関係の提携。

要するに、俺たち“帰還者”を政府の下で管理することを諦め、諸外国の諜報機関やら秘密部隊やらの対処に協力する。その代わり、オカルトな案件が発生した場合は依頼という形で俺たちにも協力してもらう。といったところだ。

正直に言って、俺たちだけで対処するのは必要だったとはいえ面倒でもあったから、この申し出はありがたかった。

それに、こっちの世界の魔法はクラスメイト全体で見ても十分対処可能な範疇だから、依頼の件もこれといった問題はない。

あと、これは俺個人の話にはなるが、正式に帰還者のまとめ役になることになった。

というのも、俺の親父は警察官で、漠然ではあったが俺も将来はその手の職に就こうかと考えていた。

だが、そうなるには俺の力は強大すぎる。

ということで、帰還者を政府非公認の独立部隊みたいな立ち位置にして、そのトップに俺を据える、という案が出された。

さすがにこれを「はい、わかりました」と承諾するわけにはいかないのだが、政府としてはどうしても“帰還者は組織として管理されている”という内々での認識が欲しかったようで、接触してきた担当者から土下座されそうな勢いで頭を下げられた。

だから、それらに関する全権を俺に一任すること、否と判断した依頼は決して受けないことを条件に受け入れた。

さすがにクラスメイトを政府の意向で戦いに駆り立てるようなことをしたくはないし、させるつもりもない。

おそらく、俺やハジメの方で解決できるような依頼しか受けないことになるだろう。

・・・いや、場合によっては遠藤にも協力を要請することになるか。

あいつ、俺やハジメといった例外を除けばクラスメイトの中でも最強だからな。なにせ、かくかくしかじかあって本気のハジメと決闘した時に、ハジメに傷をつけたからな、あいつ。

ハジメも遠藤のことは信頼してるし、積極的に巻き込みにいくことだろう。

とまぁ、前置きが長くなってしまったが、最終的に“帰還者騒動”は俺たちに利益のある形で収束し、今まで通りの日常を送ることができるようになった。

だから・・・俺は最後のケジメをつけることにした。

 

「・・・この辺りに来るのは久しぶりだが、案外変わらないもんだな」

 

俺が今いるのは、かつて時武ツルギとして過ごしていたころの場所。

ここには1人で来た。

どうしても、すべきことがあったから。

周囲には、休日ということもあってそれなりに人通りがある。

だが、今はハジメ謹製の認識阻害の眼鏡型アーティファクトを付けているから人目につくことはない。

・・・ない、はずなんだが、なんだか視線を感じる。

そういえば、これはもともとユエたち異世界組が余計な注目を浴びないために作られた代物だが、これをユエに付けたらアーティファクトの効果を貫通して存在感が増したって話があったな。

・・・まぁ、いざとなれば自前で用意できるからいいか。

ちなみに、眼鏡なのはハジメの趣味で、眼鏡っ子ユエがそうとうツボにはまったらしい。

結局、眼鏡は外して自分で気配を消しながら歩くこと数分、目的地に着いた。

 

「・・・まだ残ってたんだな」

 

俺が訪れたのは、かつて住んでいた家。

てっきり取り壊されたか違う人間が住んでいるものだと思っていたが、児童虐待や殺人が起きたというだけあって、買い手がついていないようだ。

とはいえ、さすがに倒壊の危険有りということで親父が業者に頼んで、近々取り壊されることになっているが。

だから、これが最初で最後のチャンスだ。

詠唱のために口を開こうとしたが、思わず詰まってしまった。

 

「・・・そうか、緊張しているのか」

 

自分の手を見下ろせば、僅かにだが震えていた。

だが、無理もないことではある。

俺が今やろうとしているのは、それだけのことだからだ。

だが、いつまでも棒立ちしているわけにはいかない。

意を決して、俺は詠唱を始めた。

 

「今この時、我が魂は天の理に背く」

 

本来は不要な詠唱だが、今回は少しでも成功率を上げるために使用する。

 

「其の願い、其の望み、矮小たる人の身において不相応なれど、其の意思、其の決意を止めることは何人たりともできず、天すらも敵わない」

 

正直に言ってしまえば、俺が今やっていることに大きな意味はない。

成功しようが失敗しようが、何かが変わるということもない。

 

「禁忌を犯し、摂理に逆らい、それでも私は許しを請わず、いかなる代償も厭わない」

 

これは、俺のわがままだ。

どうしても過去に縋りついてしまう、俺のエゴだ。

 

「どうか、夢を見させてほしい」

 

だが、だからこそ、失敗することはできない。

 

「“いつか望んだ在りし日を此処に(今、我が魂は時を超える)”」

 

詠唱を終えた次の瞬間、俺の視界が純白に染まった。

 

 

 

 

 

視界に色が戻っていくと、目の前に広がる景色が変わっていた。

ボロボロになっていた家は新品同然にキレイになっており、時武の表札がかけられていた。

そして、俺の手を見下ろしてみれば、俺の手を透過して道路が見えていた。

 

『・・・どうやら、成功したみたいだな』

 

俺が発動した概念魔法“いつか望んだ在りし日を此処に”は、言ってしまえばタイムトラベルの魔法だ。

再生魔法が時間を司る神代魔法であるなら、もしかしたらタイムマシン的な物も作れるのではないかとハジメとも話したのだが、結果的に言えば不可能だった。

一応、俺とユエ、香織が万全に万全を重ねて試してみたことはあるんだが、肉体への負荷が異常すぎて1秒も遡れなかった。

これはあくまで推測でしかないが、おそらく再生魔法は世界の時間を器に共有させる魔法なんだと思う。

再生魔法によって傷が元に戻ったり逆に同じ傷を再現させるのは、世界に刻まれた時間の情報を器に共有させたから。再生魔法によって加速できるのは、加速させた世界の時間を器に共有させたから。

世界の時間の流れを幅が広く底が深い大河のようなものだとすれば、前者は河の流れの一部を汲み取るようなもの、後者は河の流れに身を任せて流れるようなものだ。

それらに対して、時間の遡行はいわば、流れに逆らって無理やり突き進むような行為。言ってしまえば、世界の全てに対して喧嘩を売るようなものだ。器にかかる負荷は並大抵のものではない。

だが逆に言えば、器に依らない魂のみの状態であれば、短時間であれば時間遡行が可能であることが判明した。

要するに、魂を時間の遡行に適した形にすることで、負荷を極限まで減らすということだ。

とはいえ、あくまで可能というだけで実際は困難極まりないものだが。

まず、時間を遡るという行為自体、どれだけ負荷を減らしても力技であることに変わりはなく、発動だけでもバカみたいに魔力を喰う。それに加えて、時間と座標を指定するための昇華魔法と魂を時間遡行に適した形に作り変えるための魂魄魔法も同時に使用しなければならないのだから、半端じゃない技量を要求される。

さらに言えば、遡るのは魂だけなため、できることはかなり限られている。

せいぜい、過去視や過去再生よりもリアルな情景を楽しむくらいか。

そんな労力に対してつり合いがまったく取れないどころかむしろマイナスでしかないために、計画は頓挫することになった。

だが、それでも俺は、今日この時のために改良を続け、どうにか魂魄魔法によるコミュニケーションを可能にするレベルまで行きつくことができた。

そして、俺が訪れた時間は、俺が母さんを殺したあの時だ。

家の中からは、わずかにだが暴れるような物音が聞こえてくる。

我ながら完璧なタイミングだったようだ。

中に入ると、そこではちょうど母さんが俺に覆いかぶさっているところだった。

そして、母さんが俺に向けていた刃を自分に向け、

 

「・・・ごめんなさい」

 

そう言って、自分の心臓に突き立てた。

・・・やっぱり、俺の推測は間違っていなかった。

母さんは、自ら死ぬことを選んでいた。

理由は、これから聞こう。

魂魄魔法を発動して母さんの魂魄を固定し、俺が知っている姿を映し出す。

俺の目の前に現れた母さんは、口元を手で押さえて驚きをあらわにしていた。

 

『ツルギ・・・なの?』

『っ』

 

俺の名前を呼んだ。

ただそれだけのはずなのに、それがどうしようもなく嬉しい。

実体はないはずなのに、まるで心臓が高鳴るような感覚を覚える。

 

『・・・そうだよ。俺からすれば、久しぶりって言えばいいのかな』

『でも、どうして・・・』

『詳しい説明は省くけど、魔法だよ。いろいろあって、神の力とやらを持つことになって、だいたい10年くらい未来から魂だけでこっちに来た』

『そうなの・・・』

 

神の力、という言葉に、母さんは目元を伏せる。

いったい何を考えているのか、すぐにわかった。

 

『母さんの実家のことは大丈夫。すでに、ケリはつけてきたから』

『・・・ごめんなさい』

 

返ってきたのは、謝罪だった。

 

『・・・それは、何に対する“ごめんなさい”なんだ?』

『・・・いろいろ、かしらね。あなたに辛い思いをさせてしまったことも、私の家の事情に巻き込んでしまったことも・・・私には、あなたに何もしてあげられなかったことも』

 

伏せたままの視線の先は、母さんを刺したと思い込んでぐちゃぐちゃな感情になっている過去の俺に向けられていた。

・・・たぶん、母さんは苦悩を抱えながら逝ってしまったのだろう。

あぁするしか方法はなかったとはいえ、結果的に俺に酷な道を進ませることを強要させてしまった。

本当に正しかったかどうか、それすらわからないまま、死んでいったのだろう。

だから、その不安をなくすために、俺は言葉を紡いだ。

 

『・・・この10年、辛いことも苦しいことも、いろんなことがあった。ここ1年は特に。でも、こうして乗り切ることができたのは、母さん譲りの目のおかげだ』

 

今ならわかる。

俺の“天眼”の技能は、母さん譲りの魔法だ。

俺はトータスではずっと、母さんの眼に助けられて来た。

魔法の才能は、たぶん父さん譲りかもしれないが。

 

『たしかに、こんなことがあったから、俺は強くならざるを得なかった。でも、だからこそ、こうしてまた母さんと話すことができるし、幸せだって言い切れるような出会いや出来事もあった。だから、母さんは何も悩まなくていい。母さんのおかげで、今の俺があるから』

 

そう言って、俺はそっと手を伸ばし、母さんの涙をぬぐうように顔に手を這わせる。

そして、俺が一番言いたかったことを口にした。

 

 

 

『ありがとう、母さん。今まで、俺を守ってくれて』

 

そう言うと、母さんの目からボロボロと涙が流れ、俺に抱きついてきた。

 

『ツルギ、ありがとう、ツルギっ・・・!』

 

ボロボロと泣きながら感謝の言葉を伝えてくる母さんに応えるために、俺も母さんの背中に手を回して、そっと抱きしめた。

そこで、俺の手が最初よりも色が薄くなっていることに気付いた。見てみれば俺から光の粒子がこぼれており、視界も白く染まりつつある。

どうやら、時間が来たようだ。

 

『・・・ごめん。もう少し一緒に居たかったけど、もう終わりみたいだ』

『! そう・・・』

 

どんどん透けていく俺の身体を見て、母さんは少し名残惜しそうにしながらも俺から離れた。

 

『もう、終わりなのね』

『そうだな・・・』

 

本音を言えば、まだ話していたい。

だが、ここに来たのは過去のことを完全に清算するため。もう二度と、こうして母さんと話すことはない。

 

『さようなら、母さん。俺は、これから幸せに過ごしていくよ。だから、安心してくれ』

『・・・えぇ、わかったわ。さようなら、ツルギ。私は、あなたを愛しているわ』

 

その母さんの言葉を最後に、俺の視界は完全に白に染まっていった。

 

 

 

 

 

視界が元に戻ったのはすぐだった。

たぶん、流れに乗る分戻る方が早いんだろうな。

だが、色が戻った途端、視界が歪んだ。

目元を押さえれば、知らないうちに俺の目には涙がにじんでいた。

 

「・・・ははっ、本当に涙もろくなったな」

 

いいことなのか悪いことなのかはわからないが、どちらにせよ俺も変わったということだろう。

それに、今さらティアたちが幻滅するようなこともないはずだ。

 

「・・・さて、帰るか」

 

俺はもう、過去に囚われない。

ティアたちと一緒に、これからを歩いていこう。




「“帰還者”騒動」編、これにて完結ですね。
地味にタイムトラベルの説明が難しかった。
少なくとも原作で出来るっていう描写がなかったので、自分の方であれこれ理由を考えて頑張って文章にして、やたら疲れました。
そして、ツルギのお母さんとの邂逅ですが、書いてる途中で思わずウルっときちゃった自分は涙もろい方なんですかね?

それはさておき、次からはシリアスとギャグを程よく混ぜた話になりますが・・・地味にすごい久しぶりになりますね。
神話決戦からは、ずっとシリアスが続いてましたからね~。
もしかしたら、ネタの入れ方とかちょっと手さぐりになってしまうかも。

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