二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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アフターストーリー 吸血鬼編
つい拾っちゃうのは仕方ない


「はっ、はっ、はっ、はっ・・・!」

 

なんてことのない、ある夜。

()()は、山の中をただひたすら走っていた。

裸足のまま、布一枚だけを羽織り、がむしゃらに。

まるで、何かから逃げるかのように。

だが、

 

「あぅっ!?」

 

裸足で不安定な山の斜面を走るというのは、普通よりも体力の消耗が激しく、非常に転びやすい。

さらに、一度転んでしまえば、勢いがなくなるまで止まらない。

()()は山の斜面を転がり続け、時には何かにぶつかりながら、止まる頃にはすでに意識も朦朧としていた。

それでも、何かに急かされるように進もうとし、だが精も根も尽き果ててしまい、()()はゆっくりと意識を閉ざしていった。

 

 

* * *

 

 

「は~、ダル」

 

現在、鍬を片手に籠を背負い、俺はとある竹林に足を運んでいた。

事の発端は、ティアの何気ない一言。

 

『ねぇ、美味しいタケノコってどんな味なの?』

 

今さらだが、トータスに竹という植物はない。

いや、もしかしたら北の山脈地帯のどこかに生えているのかもしれないが、少なくとも俺は見たことはない。

ということは、タケノコも存在しない。

まぁ、竹って地球でも自生してる地域はそこそこ少ないが。

これは前提の話になるが、“帰還者”騒動はあらかた収束した。細々としたものは残っているが、ハジメたちだけでも十分対処できる程度だ。

余裕ができたこともあって、異世界組はそれぞれ地球で興味の湧いたものというか、各々の趣味を持ち始めた。

その中でも、ティアが興味を持ったのは、地球の食べ物。

一応、俺とイズモ、アンナのスパルタ特訓で人並み程度には家事炊事ができるようになったティアは、アンナと共にトータスにはない食材に興味津々だった。

まぁ、向こうでは料理のスキルが絶望的になかったが、けっこうグルメなところはあったしな。

だから、珍しい食材を見つけてはアンナと一緒に料理するということが増えて、たまに俺に珍しい食材をねだることもあった。

そんなティアが、タケノコに目を付けた。

一応、スーパーで売ってる水煮のやつは食べたことはあるが、あれって当たり外れがあるからな。

そういうわけで、本当においしいタケノコに興味が湧いたらしい。

ただ問題なのは、今の季節が秋ということ。

タケノコのシーズンは春のごく限られた間だけ。

だから今は無理だと、そう言ったのだが、ここで親父が悪乗りしてきた。

 

『それだったら、秋が旬のタケノコを採ってくればいいだろう。たしか、今がちょうどシーズンのはずだ』

 

この親父、まず間違いなく自分が美味いものを食べたいだけだ。欲に塗れた笑みがそれを証明していた。

しかも、俺が収穫してくることが前提になっている。

いやまぁ、たしかに、帰還者を総括する立場になったとはいえ、実際はやることなんてあまりない。

必然的に、暇を持て余すことになる。

しかも、ティアたちはタケノコ収穫のノウハウなんてない。

俺は・・・ないことはない。一応、一度だけやったことはある。

ただ、自然に押し付けられたのが納得いかないが。

とはいえ、俺も秋のタケノコに興味が湧いてしまったのは事実で、結局こうして1人、竹林をさまよいながらタケノコを採っていた。

ちなみに、ここの土地の所有者には許可をとってるし、収穫したタケノコは特製の籠に入れて空間魔法とか再生魔法で採れたて新鮮の状態をキープしている。

おもしろいのが、このタケノコ、四角い。

地元の人に聞いたところ、生だと傷みやすいから流通量は少ないそうだ。

灰汁も少なくシャキシャキとした食感で、地元の人には人気らしい。

あまり大量に採るわけにはいかないが、ティアたちは喜びそうだ。

親父は・・・どうしよう、お預けでもしてやろうか。

でも、帰還者関連で苦労させたし、ちょっとくらいは親孝行してやった方がいいか・・・。

 

「・・・ん?」

 

全員で食べるには十分な量が集まったところで、ふと妙な気配を捉えた。

やたらとでかく感じるが、ずいぶんと弱っているようにも思える。

山の中ってことを考えると、クマとかか?冬眠前で活発になっているという可能性はなくもないが、だとしたらここまで弱っているというのは不自然だし、なによりこの辺りで大型のクマが出るという話は聞いたことがない。

だとしたら、なにか厄介ごとのタネか?だとしたら関わりたくねぇな~、でも無視するってのもな~。

よし、ちらっとだけ確認しよう。

それで、特に問題なさそうだったら放置しよう。

俺はハジメと違って、良識のある日本人という立場にこだわりはない・・・いや、それは日本人以前に人としてダメか。

まぁ、もしクマだったらこっそり持って帰ろう。クマ肉料理もそれはそれで面白そうだ。

とりあえず、まずは確認してから判断を・・・

 

「・・・なんでや」

 

気配を感じた場所にあったのは、布でくるまれた何かだった。

この時点で事案が確定してしまった。

いや、もしかしたら実は俺が感じている気配は全部気のせいというか考えすぎなだけで、中にあるのは人じゃなくて大きめの魚だったりクッションだったりする可能性だって万が一にも億が一にもあるかもしれない。というかそうあってほしい。

そんな期待を抱きながら、そっと布の中を確認し・・・

 

「・・・マジか」

 

中身は、俺の想定よりも斜め上なものだった。

中にいたのは、もはや幼女と言っても過言ではない容姿をした女の子だった。

しかも、身に纏っているのはこのぼろい布切れ一枚のみで、服はおろか靴すら履いていない。

ずっと山の中を走っていたのか、腰まで伸びている銀髪は泥で汚れてしまっている。

・・・いや、待て。何かおかしい。

 

「・・・傷がない?」

 

そんなの、あり得ない。

身に纏っているボロ布や銀髪は汚れており、こんなところで気を失っているくらいなんだから、こんな格好で、しかも裸足で走り続けていたのはまず間違いない。

だというのに、肌や素足には汚れが目立つだけで傷はどこにも見当たらない。

どういうことだ?

・・・いや、まずはこの娘の健康状態の確認が先だ。

肌には特に目立った症状はでていない。

なら、次は口の中を・・・

 

「そこの君!」

 

確認しようとしたところで、上の方から声をかけられた。

見上げてみれば、3人の警察官が近づいてくるところだった。

 

「あなたたちは?」

「失礼。実は、このあたりで行方不明になった少女の捜索届が出されていまして。あぁ、よかった。あなたが保護してくださったのですか。よろしければ、引き渡してもらっても?」

 

なるほど。行方不明になった少女、ねぇ。

まぁ、普通なら「はい、どうぞ」って渡して帰りたいところだが、

 

「断る」

「・・・はい?」

 

よほど衝撃的だったのか、俺に話しかけてきた警察官の目が点になる。

まぁ、ここで食い下がるわけにもいかんしな。

 

「・・・我々は、その少女を保護しに来たのです。あなたがここで断る理由は・・・」

「悪いが、()()()()()はどうでもいい」

「嘘?どうして我々が・・・」

「これでも、家族に警察官がいてな。そういう情報も調べることができるんだが、この辺りで捜索願なんて出されていない」

 

ここに来るにあたって、念のために現地の情報をある程度集めておいた。

何か問題があるようだったら別の場所にしようとも思ったが、何もないからここを選んだ。

・・・何もなかった、はずなんだがな。

それ以前に、魂魄を見れば一目瞭然というのもある。

あと、ついでに言うなら、

 

「拳銃はともかく、()()を仕込んだ警察官なんて、俺は知らない」

 

重心や服のわずかな膨らみから、ナイフを忍ばせているのは明らかだ。

そんな奴が警察官?やる気あんのか。

スラスラと理由を述べると、自称警察官かの表情が消えた。

 

「・・・あまり調子に乗らない方がいいですよ」

「あと5人、俺の隙を伺っているから、か?」

 

自称警察官や周囲から、動揺の気配が漏れた。

 

「周囲にいるのは斥候か?あんたらの素性は知らないが、目的はこの女の子。斥候が女の子を捜索し、見つけたら場所を知らせてあんたらが保護を装って誘拐。そんなところか?」

 

話が進んでいくにつれて、だんだんと殺気が強くなってくる。

こりゃ図星だな。

 

「・・・小僧、何者だ?」

「ん?俺を知らないのか」

 

何かしらの裏の組織だとは思うが、帰還者筆頭の俺を知らないということは、ハジメの全世界認識操作の影響をもろにくらって、なおかつ再び認識することができていない部類か?

だとしたら、むやみに魔法は見せたくないな。

だったら、

 

「なら、じゃあの!」

 

少女を即座に抱えて、逃走を開始した。

 

「なっ、追え!!」

 

一瞬反応が遅れた自称警察官たちは、グングンと距離が離されて慌てている。

だが、さっきまで隠れていた5人の気配は、ぴったりと追いついてきている。

 

(へぇ、抑えているとはいえ、俺に追いつくか)

 

俺が帰還者だと思われないために人間に見える程度にはスピードを抑え、抱えている少女に負担がかからないように気を遣っているとはいえ、この不安定な足場で俺に追いついてくる。どうやら、評価を見直した方がいいかもしれない。

一気に距離を離して見えなくなったところで転移するつもりだったが、この5人を対処してからの方がいいか。

とはいえ、俺の手持ちの武器は鍬1本。しかも片腕は塞がっている。

 

「まぁ、問題はないか」

 

背後から聞こえる空を切る音。数は5。狙いは足下。

 

「ふっ!」

 

一息ついてから跳躍し、投擲物を回避しながら体を捻って後ろを向く。

追ってきているのは、黒いマントのようなものを被った5人の性別不詳の人間。

俺が飛び上がるのを狙い、さらにナイフを投擲してくる。

狙いは完璧で、このままでは胴体に2本、足に3本は命中する。

俺が何もしなければ、の話だが。

 

「よっと」

 

俺は指先を使って鍬を操り、円運動の勢いのままにナイフをはじき返す。

丁寧に5人の追跡者に当てるようにして。

 

「「「っ!?」」」

 

さすがに鍬ではじき返されるとは思わなかったのか、追跡者たちは動揺をあらわにしながら慌ててナイフを防ぐ。

その瞬間、全員の意識が俺から外れた。

 

「じゃあな」

 

その瞬間を見逃さず、俺は空間魔法を発動。その場から転移して姿をくらませた。

 

 

* * *

 

 

「逃がしただと?」

「はい。申し訳ありません」

 

暗闇の中。そこでは2つの人影が会話をしていた。

一つは、玉座のような椅子に座っている青年。もう一つは燕尾服を来た初老の男。

青年は、初老の男の報告を聞いて眉をひそめた。

 

「たかが子供を捕まえることすらできなかったというのか?」

「報告によると、どうやら邪魔者が入ったようでして。あの者らの所属を怪しまれてかの少女を連れ去ってしまったということです」

「ふん、不甲斐ないことだ」

「ですが、相当な手練れのようで。タケノコ狩りに来た少年のようですが、山道で少女を1人抱えているにも関わらず影と同等の速度で走ることができ、投げナイフも鍬ではじき返されたと。そして、返ってきたナイフを対処した一瞬の隙に姿をくらました、とのことでした」

「ほう?」

 

初老の男の報告に、青年は眉をピクリと跳ね上げた。

 

「なるほど。欲しいな、その少年」

「では?」

「あの少女の足取りはいくらでもつかめる。あと、その少年はできるだけ生かして捕らえよ。手段は問わん。手足の1,2本を落としてでも私の前に連れてこい」

「承知しました」

 

初老の男は恭しく頭を下げ、闇に溶けるように姿を消した。

青年は捕らえた後のことを考えているのか、獰猛な笑みを浮かべながらワイングラスに口をつけた。




トータスに竹はなかったですよね?なかったはず・・・
もしあったら、根本的に書き換えなければ・・・

ちなみに、今回のシーンはFate Heaven's Feelの言峰がイリヤを抱えて走るシーンがモチーフです。
あのシーンめっちゃ好き。

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