二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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目先の問題と新たな問題

「とまぁ、吉城から聞いた吸血鬼の情報はこんなもんか」

「「「へぇ~」」」

 

藤堂邸を後にした俺は、再びハジメを呼んで情報を共有した。

一通り話し終わると、ティアやハジメたちから感嘆の息がこぼれた。

 

「なるほどなぁ。トータスの吸血鬼族とはまた違った感じなのか」

「トータスの吸血鬼族は、あくまでエヒトが作り出した一種族にすぎないからな。本物の吸血鬼が存在する分、こっちの方がよりファンタジーだ」

 

トータスに存在する種族は、すべてエヒトが生物実験によって作り出したもの。いわば人工的な存在だ。

そう考えると、純粋なファンタジーの多様性はトータスよりむしろ地球の方が多いかもしれない。トータスのファンタジーなんて、魔物と魔法しかない・・・いや、魔法はエヒトが持ち込んだものだから、むしろエヒトを除外すると魔物しかないのか。

 

「とりあえず、今後の方針としてはルナの保護を第一に、ルナを幽閉していた存在の調査だな。だが、ぶっちゃけ出来ることなんてほとんどないんだよなぁ・・・」

「だな。さすがに、何も情報がない状態で一から探すのは骨が折れる。ましてや、相手はマジもんの吸血鬼の可能性が高いんだもんな」

 

藤堂家も吸血鬼に関する知識は豊富に持っているが、さすがに個人レベルの情報なんて持ち合わせていない。

さらに、吉城から聞いた話では吸血鬼はそれぞれ特殊な能力を持っているらしく、対策は難しいと言う。

 

「だから、今回は“待ち”を徹底しようと思う」

「待ち?ってことは、わざわざ襲いに来てもらうってことか?」

「相手がルナを取り戻そうとしてくるのは、ほぼ確実とみていい。だったら、襲撃者を捕まえて情報を吐かせる方が手っ取り早い。家の中に居れば、よほどのことがない限り安全だし」

 

地球に帰還してから、俺やハジメは“帰還者”メンバーの家に魔法によるセキュリティを構築した。

南雲家や我が家には、さらに強固な防衛プログラムを仕込んである。

結果、たとえ核ミサイルを撃ち込まれようと南雲家と我が家だけは無傷のまま残るという状態になっている。

 

「問題は、向こうがどんな手を持っているかだ。俺が向こうで遭遇した手練れの身体能力は、明らかに一般人を凌駕していた。昼間に活動していた以上、吸血鬼ではないだろうが、何かしら仕込まれていると考えた方がいい。まぁ、それでも家の防衛を突破できるとは思えないが・・・不安がないわけじゃない」

「と、言うと?」

「これは吉城から直接確認を取ったわけじゃないが、吸血鬼は限りなく不老不死に近いし、不老なのはまず間違いない。つまり、無限かそれに近い生命力を持っていると考えられる」

 

これは生命力の定義にもよるが、ここでは魂魄に由来するエネルギーであると仮定しよう。

魂魄は肉体の影響を強く受けるが、吸血鬼の場合、おそらくこれが逆。つまり、肉体が無限に近いエネルギーを持っている魂魄の影響を強く受けているとも考える。

そうなると、何が厄介なのか。

 

「もし仮に、生命力を魔力に変換する術式か技術があった場合、吸血鬼は理論上無限に近い魔力を扱うことができるということになる」

 

もちろん、理論上は無限でも実際に扱える魔力には限りがあると考えられる。

これは、俺やユエにはできない。

厳密に言えば、やる必要がない、と言った方が正しいが。別にわざわざそんなことをしなくても、素のままで人智を超えた魔力を保有しているわけだし。

だが、生命力から変換されたエネルギーは時と場合によって限界突破を超える力を生み出すこともある。

もし、そんな火事場の馬鹿力と言えるような力を自在に扱えるのだとしたら、厄介極まりない。

 

「ひとまず、ルナは基本的に家の中か、外出するにしても最低2人は一緒にいた方がいいだろう。ハジメの方は、指示を出すまで動かなくてもいい。ただ、もし襲われたら連絡をくれ」

 

あくまで狙いはルナだろうが、俺たちの素性を調べた結果、狙いがハジメやクラスメイトに向かないとも限らない。できるだけ万全を期した方がいい。

・・・ただ、()()()()なら話は早いんだよ。

問題は・・・

 

「・・・()()だよなぁ」

「んぅ?」

 

一番の問題は、現在俺の膝の上に座っているルナ。

まー俺以外に懐かない。

一応、ティアやアンナあたりは少し心を許しているが、ハジメやユエは接する機会があまりないから警戒心を解き切れていない。他の南雲家嫁~ズならなおさらだ。

もしかしたら、ミュウとは早い段階で仲良くなれると思うが、ミュウの場合はいろいろと別格だから、まだ時期尚早な部分はある。

 

「どうしたもんかなぁ・・・」

「そう言うわりには、けっこう自然な流れで座らせなかったか?」

「それは・・・否定できんが」

 

実際、当たり前のように俺の隣に座ったルナを当たり前のように俺の膝の上に乗せたから、否定はできない。単純に、俺の隣にティアが座るスペースを確保するために乗せただけなんだが。

 

「ただ、さすがにいつまでもこのままってわけにもいかないし、おいおい人に慣れさせようとは思っている。まずは身内からだが・・・まぁ、親父は後でいいな」

「いや、なんでだ?仮にも父親・・・」

「昨夜、親父がルナの顔を見ようとしたら、いつも以上の力で俺にしがみついて顔を見せようとしなかった」

 

初対面のイズモですら、チラリとだが顔を見合わせたというのに、親父には決して振り向こうとしなかった。

その時の親父たるや、すさまじいショックを受けていた。

下手をすれば、同僚の結婚報告よりも傷ついていたかもしれない。

ちなみに、イズモは普通くらいで俺が傍にいれば顔を合わせられる程度だ。

 

「だから、俺とティア、イズモ、アンナで慣れさせてからだな。明日は雫も呼んでみるが」

 

都合が合わなくて、雫はまだルナと顔を合わせていない。

まぁ、初対面がどうなろうとも、時間をかけていい関係を築き上げていけばいいか。

 

 

 

そう思ってたんだよ、俺は。

 

「えっと、まだ食べる?」

「うん!」

 

翌日。

俺たちの目の前では、ルナが満面の笑みを浮かべて雫の膝の上に座りながらお菓子をほおばっていた。

 

「う~ん、まさか瞬殺とは・・・」

「意外なような、そうでもないような・・・」

 

最初は、ルナも雫のことはまぁまぁ警戒していた。

していたんだが、雫が微笑みかけながら「おいで?」と手を差し出すと、ルナは恐る恐る近づいて雫の手を取り、雫がよしよしと頭を撫でるとギュッとしがみついて、今に至る。

俺は、あの時助けたからまだわかる。

だというのに、初対面のはずの雫には一発で心を許した。

これは・・・

 

「さすが、みんなのオカンってところだな」

「誰がオカンよ」

 

ハジメの言葉を雫は否定するが、目の前の光景を見れば説得力は皆無だ。

そうなんだよ。最近は俺と一緒にいることで乙女の姿が出ていたから忘れかけていたが、甲斐甲斐しく世話を焼くオカンの姿もまた雫の本質なのだ。

そして、日本にいた頃やトータスの中盤まではオカンの部分が鍛え上げられ、最近では乙女の部分が鍛え上げられた今の雫は、

 

「もはや雫は、本物の母親の貫録をも身に着けた、ということか・・・?」

「何をどうしたらそうなるのよ!ちょっと、皆もなんで頷いてるの!?」

 

それはそうだろう。

世の中の母親というのは、大なり小なり恋や愛を経験してから子を産み、育てるものだ。

つまり、こう言ってはなんだが、俺に本気の恋を覚えた今、従来の世話焼き気質と相まって、女性陣の中で最も母親に近い存在なのかもしれない・・・!

そんなことを話していたからだろうか。

不意にルナが雫の顔を覗き込んだ。

 

「ルナ?どうしたの?」

 

咄嗟に表情を切り替えれるあたり、マジで母親の素質があるのかもしれない。

だが、そんなことを考えられる余裕があるのも今の内だけだった。

 

「・・・まま?」

 

瞬間、部屋の中に電撃が走った。

ルナが俺のことをパパと呼び、雫のことをママと呼んだ。

これは、つまり・・・

 

「・・・正妻の地位に雫が?」

「ちょっと!?」

 

いや、まぁ、間違いでもない・・・か?

ただ、そうなった場合、目の前で昼ドラなんて目じゃないレベルの泥沼が繰り広げられることになりそうなんだが・・・

 

「・・・だめ?」

「うっ・・・」

 

ルナから純粋無垢な瞳を向けられては、否定したくてもできない。

それは、雫だけでなくティアたちも同じなわけで。

 

「・・・わかったわ、ルナ」

「えへへ」

 

結局、雫が折れることになった。ティアも特に異論はなさそうだ。

まぁ、あくまでルナから見て、って話だし、何より子供の言葉にあれこれ目くじらを立てるのはそれこそ大人気ない。

今回ばかりは、ルナの要望を呑むことにしよう。

ただし、

 

「ハジメ。あとで覚悟してろよ」

「何がだ?」

 

さっきからニヤニヤしているハジメは絶対にしばき倒す。

くっそ、こいつ他人事になると途端に楽しみ始めるからな。

というか、ハジメだってある意味他人事じゃないはずなんだが・・・。

 

「・・・まぁ、しばらくは俺と雫で面倒を見るとして・・・雫はどうする?さすがにずっとこっちにいるわけにはいかないだろう」

「そうね・・・家族と相談して、できるだけ都合をつけることにするわ」

「・・・一応、俺もいた方がいいか?」

「大丈夫だと思うけど・・・ルナのことも説明したいし、お願いしてもいいかしら?」

 

当然と言えば当然だが、俺と雫のことは八重樫の親御さんに説明している。当然、他に恋人がいることも。

当時、俺は殴られることも覚悟の上だったが、最初に受けた言葉は罵倒でも怒声でもなく、感謝だった。

 

『そうか、雫は、もう大丈夫か』

『雫を1人の女の子にしてくれたこと、感謝する』

 

それが、雫の父親である虎一さんと祖父である鷲三さんの言葉だった。

おそらくは、雫に八重樫流を教えたことを後悔していたとは言わなくとも、ずっと悩んでいたのだろう。根掘り葉掘り聞いたわけではないが、聞いていた範囲での話で理解できた。

あと、幼少時に道場破りに来たときから目を付けられていたらしく、あわよくば、という思いは無きにしも非ずだったようだが、思ったよりも反対されずに良好な関係を築けている。

まぁ、他にちょっとした苦労もできたが、ここで言うことではないだろう。

 

「あとは、どうやって人に慣れさせるかってことだが・・・しばらくは顔見知りで慣れさせるしかないか」

「でも、ツルギの知り合いって・・・」

 

ここにいる面子を除けば、クラスメイトと親父の部下くらいだな。

まぁ、クラスメイトはまだいいんだよ。

問題は、親父の部下の方だ。

あんな濃い面子に関わらせてルナに悪影響を与えたくないっていうのが本心だ。

だが、あれこれ理由をつけて人と関わらせないというのも、情操教育上よくない。

・・・腹を括るしかないかぁ。




次回は、ようやく待ちに待った濃い面子の紹介です。
今のところ紹介してるのは、漢女、バイク好き、ビッグダディ、道場破りに連れまわした人あたりですかね。
たぶん、この4人の説明とちょっとした絡みだけで1話終わりそう。

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