二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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やべー奴ら

「はぁ~・・・」

「ぱぱ?」

「いや、なんでもない」

 

とうとう、この日が来てしまった。

ルナと()()の顔合わせの日が。

ちなみに、雫の件に関しては雫の家族から許可をもらった。

なんの許可と言われれば、しばらくの間、雫が家に泊まる許可だ。具体的には、ルナが並み程度に人と接することができるようになるまで。

最初は難色を示すこと思ったんだが、実際にルナと会わせた上でこれまでの経緯を説明したところ、あっさりと承諾してくれた。

それだけ、俺のことを信頼してくれている、ということだろう。

その代わり、「雫に何かあったら・・・わかっているだろうね?」とガチ殺気も添えて忠告されたが。

だから、残る問題はこれだけなんだが・・・。

 

「・・・はぁぁぁぁぁぁぁ・・・」

 

思わずため息がこぼれてしまう。

いや、必要なことだってのはわかってるんだが、よりによってルナに会わせるのが人の業を煮詰めて取り出した灰汁のような奴らってのがなぁ・・・。

 

「・・・仕方ない。腹を括るか」

 

やたらと重く感じる足を引きずりながら歩くことしばらく、目的地である交番に到着した。

その名も『警視庁特殊事件対策部』。

元々名もない部署だったのだが、“帰還者騒動”が起きた際に帰還者やそれに類する事件を専門とした対策本部を設立しようということになり、親父がいろいろと適任ということで無名の部署に名前がつくことになったわけだ。まぁ、名前がなかったというよりは、思い出させたくないから名前を付けたくなかった、というのが本音だろうが。

だが、交番と言うにはやたらとでかく、見方を変えれば3階建ての立派な一軒家のように見えなくもない。だいたいは立派な屋内ガレージとアパートのような造りのせいだが。応接のスペースに対してそれ以外が多すぎるしでかすぎる。

一応、親父が管轄している部署という扱いだが、実際は独立した組織に近い。

なぜなら、上がある程度の裁量権を与えてしまったから。

ここは、能力だけを見れば優秀なのに癖が強すぎて本部では扱いきれないような連中を閉じ込めるために作られたもので、能力を活かしてもらえるなら好きにしても構わないと放り出してしまったのだ。

その結果、かつては一般的な部類に入っていた交番が改修に改修を重ねられ、今のような立派な建物になってしまった、というわけだ。

ちなみに、ガレージは最近作られたもので、二階より上は過去にいつの間にか造られたものらしい。詳しいことは知らないが、一夜城よろしく気づいたら出来上がっていたとのこと。

なんでそんな奴が警察官やってたんだよ。そいつの天職、大工か建築士だろ。

とまぁ、過去にもそんな()()奴らが所属しているわけだが、今の面子もそいつらに見劣りしない。なんだったら、過去最高にやばいとすら噂されている。俺も同感。

さて、これからお邪魔するわけだが・・・

 

「ルナ。初めに言っておくけど、ここにいる人たちは世間一般からかけ離れているから、決して参考にしないように」

「せけんいっぱん?」

「普通の人たちじゃないってこと。まぁ、悪い人はいない、はずだから」

 

断言できないのはご愛敬。その程度には信用できないし、本部も信用していない。存在するだけでやばい奴もいるし。

だから、できれば会わせるのは今回限りにしたいところだ。

 

「すー、は~・・・よし、行くぞ」

 

深呼吸してから、意を決して中に入る。

まぁ、まずは応接間なんだからぶっ飛んだ奴はいないはず・・・

 

「あら!ツルギきゅんじゃない!」

「ひぅ!?」

 

現れたのは漢女だった。

あまりに異様な姿に、ルナが小さく悲鳴を上げて俺の脚にしがみついた。

ポニーテールにまとめた黒髪を肩まで伸ばし、ガチムチの筋肉にピッチピチの婦警服を身に着け、スカートからは惜しげもなく太ももをちらつかせるその異様。股間スレスレのスカートは見る者に吐き気を催させる。

この漢女、名をジャンヌと言う。

明らかに偽名というか、いっそトータスから迷い込んだんじゃないかと思うようなネーミングなのだが、本名は誰も知らない。

名前に関しては人事からも突っ込まれているはずなんだが、ウィンクを交えて「漢女に秘密は付き物よん♪」と言われて気を失ってしまったという。なお、その担当者は当時の記憶が抹消されており、思い出そうものなら激しい動悸に見舞われてしまう。

ただ、有能なのは間違いない。それも、超が付くレベルで。

デスクワークはそつなくこなし、検挙率もNo1。

間違いなく優秀な警察官なのだ。

ただし、見ての通り並大抵の精神の持ち主では近くに存在するだけで心身に不調をもたらす。

同僚は言わずもがな。巡回すれば親が子供に「しっ、見ちゃだめよ!」と目を覆い隠すし、職質したら泡を吹いて気絶されることもしばしば。犯人確保の際は捕縛した人間に片っ端からトラウマを植え付ける。挙句の果てに、同僚・容疑者問わず色目を使おうとするため、周囲への被害が割とシャレにならない。

良くも悪くも数多の伝説を残し、「火炙りをサウナと勘違いしている人外」、「性の解放のために戦う戦漢女」、「メガ〇ンカしたジャンヌ・オ〇タ(バーサー〇ー)」など、数々の異名を持っている。

この化け物の対処に、上層部はそれはもう頭を悩ませた。

大多数の警官の安寧を考えれば人が少ないところに左遷すべきなのだが、だからといってジャンヌの能力で閑職に異動させると諸々の仕事に悪影響がでかねない。

結果、ここに所属することになった、というわけだ。

存在するだけで周囲に悪影響をまき散らす公害なのだが、同時に最高戦力であるのだから質が悪い。

 

「どうしたのん?って、その子が例の?」

「あぁ、この子がルナだ。そんじゃ、仕事頑張ってくれ」

 

できるだけ早くルナをこの化け物から引き離すために、挨拶もそこそこに奥の階段を駆け上がる。

 

「・・・だいじょうぶ?」

「あぁ。ここにはもういない」

 

いつもなら、こんなことを言えばかつてのクリスタベルのようにブチギレるだろうが、相手は幼女だ。さすがに自制してくれるだろう。

そんなことを考えながら階段を登っていき、登りきった突き当りの扉を開けた。

ここは普段仕事をスペースするオフィスなのだが、まぁ普通じゃない。それなりのスペースが個人の好き勝手に作られている。

まぁ、そもそも数人しかいないのに無駄に広すぎるから、当然の成り行きなのかもしれないが。

中にいるのは、親父を含めて3人だった。

 

「おや、ツルギ君。いらっしゃい。その子がルナちゃんでいいのかな?」

 

爽やかな笑みを浮かべながら近づいてきた赤に近い茶髪短髪の好青年の名前は、上月甚弥(うえづきじんや)

ジャンヌほどではないが、優秀な成績を修め若いながらに刑事を務めていたのだが、とある事件を起こしてここに左遷となった。

それが、“暗器持ち込み発覚事件”。

逃走犯を追跡していた際に、逃走犯に対して苦無を投擲して足を止めて捕縛したことがあるのだ。

まさかと思いつつ、事件解決後に荷物検査をしたところ、苦無やら手裏剣やらまきびしやら他にも様々な暗器や危険物がごろごろと出てきたそうだ。

当然、上はこのことを把握していない。

本来なら一発でクビになるレベルなのだが、今までそれらを使わずに仕事に多大な貢献してきたことや、当時の犯人逮捕に使用したものの他のことで使ったことは一度もなかったということから、めちゃくちゃ情状酌量が働いてここに所属することになったわけだ。

それ以降、彼は堂々と暗器を持ち込むようになり、なんだったらこのオフィスや3階に存在する寝泊まり用の自室にも大量に備蓄されている。

そういえば、かの有名な忍者である猿飛佐助のモデルになった人物に『上月』の姓を持つ忍者がいたはずだが・・・真相を知る者はいない。

 

「なるほど・・・たしかに、言われてみれば雰囲気が少し違いますね」

「わかるのか?」

 

ちなみに、ここにいる人間とはそれなりに付き合いが長いのと、そもそも礼儀を気にするような連中が少ないこともあって、人前でなければタメで話している。

ただ、上月さんは俺の修行によく付き合ってくれたこともあって、本人は気にしなくてもいいと言っているがなんとなく頭が上がらない。

 

「えぇ。なんと言えばいいでしょうか、どことなく在り方が違う感じがするんですよ」

「ふ~ん」

 

上月さん、忍者っぽいアイテムを持っていることも関係あるのか、それなり以上の武術を修めていて、様々な道場にも顔が利く。

子供時代の時に道場破りに連れまわしてくれたのは他ならない上月さんなんだが、いったいどんな経緯があって警察をやることになったんだか・・・。

 

「ほら、来馬(くるま)さんも。顔くらい見たらどうですか」

「いい。興味ない」

 

上月さんが声をかけたのは、パソコンと向き合って一向にこちらを見る気配がない黒髪ツンツン頭の中年である矢作(やはぎ)来馬。

こいつはジャンヌや上月さんと違い、どちらかと言えば問題しか起こしていない人種だ。

名は体を表すというか、こいつは車とかバイクとかをこよなく愛する人間で、パトカーや白バイを勝手に改造することもあるほどの問題人物だ。

軽くどころかガッツリ法に触れるレベルの改造を施すため、こいつが他の署に所属していたころはパトロールに出ようとしたらうっかり事故りそうになったことが多々あり、クビを言い渡される寸前だったという。

それでもこうして警官を続けているのは、優秀なメカニックであり、超優秀なドライバーだからだ。

運転席に座ると性格が変わる人種ではあるものの、ドラテクで彼に敵う人物は同僚どころかプロレーサーにもそうそういない。

本当になんでこいつ警官をやってるんだと思った警官は数知れず。

ちなみに、本人曰く「好きなだけ車やバイクをいじれると思ったから」だそうだ。

いや、なんでだよ。明らかにおかしいだろ。

それともあれか?まさか経費で改造してたのか?それも、国民の血税で?

まぁ、全体的に見ればまともに整備したパトカーの方が多いから、ギリギリ許されるのかもしれないが。

 

「それで、黒井さんは?」

「今日は休みですね」

「あぁ・・・“家”の方ですか」

 

ここにはいない黒井信吾(くろいしんご)は、うちの中でも1,2を争うレベルのやべーやつのことだ。

何がやべーのかと言うと、ビッグダディに憧れているやべーやつだ。

憧れるだけならまだいいのだが、自分がビッグダディになりたいという願望を叶えるために自宅を改装して孤児院を設立し、しかも自分のことを“お父さん”と呼ばせている筋金入りの変態だ。

不幸中の幸いと言うべきか、“お父さん”呼びを強制させているわけでもなければ孤児院内で問題を起こしたこともないのと、引き取り先に困る子供はどうしても存在してしまうことも相まって、特例的にその孤児院の運営を認めている。

ちなみに、その孤児院の名前は『俺たちの家』といい、これまた犯罪臭が漂っている。

本当、いい歳して何やってんだか。

余談だが、実は俺もそこに引き取られる予定だったんだが、やべー気配を察知して全力で断って親父に引き取ってもらった。

当時、ベクトルは違えども母さんに襲われた時と同等の恐怖というか危機感を覚えたのは、ジャンヌとこいつしかいない。

以上、親父を含めたこの5名が、現在の『警視庁特殊事件対策部』のメンバーだ。

はっきり言って、不安と心労しか感じない。

まぁ、そういう面子しかいないわけで、

 

「・・・・・・」

 

現在、ルナは俺の足にヒシッとしがみついており、まったく外を見ようとしない。

 

「・・・なんとなくわかってはいたが、ルナにここは早すぎたな。やっぱ、ハジメの所で慣れさせてくる」

「あ~、そうか。わかった、行ってこい」

 

親父のなんとも言えないような複雑な返事が、不思議と印象に残った。

まぁ、親父だって同僚の結婚話に癇癪起こしてここに飛ばされた問題児だからな。

しょうがない、うん。




そこそこ時間がかかった割には、内容が薄めになってしまった・・・。
最近、マジで頭痛がひどくて、長時間の作業ができなくなりつつある・・・。

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