二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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良い(?)出会い

「で、ここに来たってわけか」

「あぁ。突然悪かったな」

 

あの後、さっさと出て行った俺とルナはそのまま南雲家にお邪魔することになった。

事の経緯を話したら、ハジメも「だよなぁ・・・」みたいな複雑な表情になった。

一応、ハジメもあの面子とは“帰還者”騒動関連で面識がある。

ジャンヌと顔を合わせたときの反応は・・・言うまでもないか。

 

「んで、結局これからどうすんだ?」

「そうだな・・・とりあえず、ユエたちと会う機会を徐々に増やしつつ、俺と雫で出かけたりして徐々に慣らしていく・・・ってのが無難だな」

「そりゃそうか」

 

現状、それくらいしかやることがない。

とりあえず、しばらくは様子見を続けていくことになるだろう。

 

「・・・まぁ、案外すぐに慣れるかもしれないけどな」

 

そう呟きながら、チラリと横を見る。

そこでは、

 

「はい、どうぞなの!」

「あ、ありがとう」

 

ミュウがルナにお菓子をあげて、ルナは少し遠慮がちになりながらもお礼を言って受け取っている姿があった。

 

「やっぱ、人馴れには同年代だったな。完全に頭から抜け落ちていた」

「だなぁ。そりゃあ、むさいおっさんばかりの場所に連れてって心が開くわけもねぇか」

 

ミュウの気質もあるかもしれないが、案外早くルナとミュウは打ち解けていた。

その姿を見ていると、自然と頬が緩む。

ついでに、ハジメも似たような表情になっていた。

 

「・・・お互い、意外と親をやれているもんだな」

「俺は前からだぞ?」

「お前の場合は親バカって言うんだよ。いや、バカ親にも一歩足を踏み込んでいるか」

 

なにせ、ミュウに対してはダダ甘になってるからな、こいつ。

俺はそんなハジメを反面教師として、節度をもって教育することにするさ。

・・・あ、教育と言えば、

 

「そういやぁ、ルナの戸籍も用意しなきゃダメか。保護者欄とかいろいろと悩むところがあるが・・・」

「それだったら、俺の方で用意してやるよ。どうせ、お前はお前で忙しいだろ?」

「助かる」

 

ルナを軟禁していた連中の情報は未だに掴めていない。

いつ接触してくるかわからない以上、できるだけルナと一緒にいる必要がある。

そもそも、地球の吸血鬼自体、いろいろと未知数なところが多すぎるからな・・・。

 

「一応、家のセキュリティは強化してあるが、未だに怪しい反応は出ていない。いっそこっちから打って出たい気持ちもあるが、情報がない上にルナから離れるわけにもいかないから難しいんだよな・・・」

「藤堂のところからの情報もまだなのか?」

「まだだ。少なくとも、この近くとルナを拾った周辺にはそれらしき拠点はないってのはわかっているが、逆に言えばそれだけだ。“導越の羅針盤”を使う手もなくはないが、最終手段だな」

 

“導越の羅針盤”はあらゆるものを探査することができる便利アイテムではあるが、相手によっては逆探知されてしまうリスクも背負っている。

そして、相手は力が未知数な吸血鬼。

慎重に慎重を重ねて損はない。

向こうもルナを捜索している以上、万が一にも逆探知されて自分から場所をばらすようなことはしたくない。

 

「・・・あー、駄目だ。今さらになっていろいろと不安になってきた。吸血鬼相手とかわからんことが多すぎて不確定要素が尽きん」

「俺の方でもできることはしてやるから落ち着けって。まぁ、気持ちはわからんでもないが」

「エヒトやヌルとは方向性が違うからな~」

 

エヒトやヌルは規格外ではあったが、あくまで魔法やステータスという尺度に当てはまる存在だったし、立場で言えば俺らが攻める側だった。

だからいくらでも対策できたし、俺たちの領域に引きずりこんだことで上手く事を運ぶことができた。

だが、今回は相手の情報がほとんど分からず、俺たちは守勢で主導権は相手が握っている。

こんな状況的に不利な戦いは、今までにもあったかどうかわからない。

強いて言うなら、メルジーネの“悪食”くらいか。

あの時はハジメの機転とリーマンのリーさんの手助けのおかげでどうにかなったが、最初から最後まで相手の土俵で戦っていたあたり、下手をすればエヒトとかヌルよりもよっぽど死を覚悟したかもしれない。

 

「・・・今のうちに、対吸血鬼の神器を揃えておくか」

 

“神器”。

俺がそう呼んでいるものは、俺が剣製魔法で生み出した概念を付与した武具のことだ。

さすがにトータスのようなファンタジーな事件はないと思っていた・・・今となってはそう思いたかったが、ハジメが自身の兵器の改良を続けているのを見ると、俺もやっぱり何かした方がいいんじゃないかと落ち着かなくなって作るようにしたものだ。

コスパの関係で多くても1日に1つくらいしか作れないが、即席で生み出したものよりも性能は段違いだ。

最近はルナの世話で時間が確保できなかったが、最近はティアやイズモたちにも打ち解け始めているから、これを機に神器製作の時間を作った方がいいかもしれない。

“吸血鬼殺し”なんて“神殺し”と同じくらい需要が限られてるし、効果も確かめようがないから『ないよりマシ』程度になるだろうが。

 

「まぁ、どうしようもないことは置いといて・・・本当、今回はミュウに助けられたな」

 

チラリと横を覗いてみれば、ミュウと接するにつれて目に見えてルナの表情が柔らかくなっていく。

そういえば、ミュウはすでに幼稚園に通っており、そのまま小学校にも通うことになっているが、ルナもミュウと同じ幼稚園と小学校に通えるようにした方がいいだろうか。

そんなことを考えていたら、ハジメが微妙な表情で尋ねて来た。

 

「つっても、別にミュウじゃなくても、黒井って人のところに行けば・・・」

「却下だ。あの変態の前にルナを連れていけるか」

「あ~、だよな」

 

ルナが置かれている状況は、確実にあの変態にロックオンされる要因になる。

あの変態に預けるくらいなら、俺たちで預かる方が数百倍安心できる。

なにせ、中村を引き取るために動こうとした前科の持ち主でもあるからな。

行ってから反省したが、金輪際ルナとあの変態は関わらせないようにしよう。

一応、南雲家にも駄竜(ティオ)という変態がいるが、多少なりとも自制が利く分、幾分かマシだ。

ただ、ミュウも良くも悪くも南雲家、というかハジメの影響が出始めている分、接触は計画的に行うべきではあるか。

・・・我ながら、なかなか親バカになってんなぁ。ハジメもそうだが、やっぱ子育てってのは親にも影響を与えるものなのか。

まぁ、ミュウは良くも悪くも純粋というか、別にミュウが悪影響を振りまくことはないだろうから、取り越し苦労にはなるだろうが。

とりあえず、最低限ミュウと一緒に小学校に通うことになるまでには人に慣れさせたいところだが、仮に人慣れできたとしても世間体のことも考えておかないとルナに変な気苦労をかけさせてしまいかねない。

ミュウとハジメの場合、レミアさんがいるから変な目で見られることはないだろうが、ルナは俺を父親として、雫を母親として見ているから、どうあがいても変な噂を立てられかねない。

日本って、何かと孤児を見る目が冷たいからなぁ。

年齢も相まって、孤立する可能性は極めて高い。

その辺りのフォローもミュウにしてもらえればいいんだが、クラスが別になるとそれも難しいしなぁ。

いっそ、ルナとミュウのクラスが同じになるように細工するか?

・・・いや、これだとあまりにもミュウ頼りになってしまう。

ルナにもある程度自立できるだけの精神力を養わせることも視野に入れた方がいいか。

とはいえ、今はまだ片付いていない問題が多すぎる。

こういうのは、今ある問題を片づけてからだな。

 

「だがなぁ、藤堂家って本当に大丈夫なのか?」

「その辺りは大丈夫だ。厳密には、藤堂家じゃなくて藤堂吉城は、だが。あいつは信頼することはできないが、信用することはできる」

 

あくまでビジネス的な関係ってやつだ。油断していい相手ではないが、味方なのは間違いない。

そうでもなければ、ルナのことを教えようとも思わないし、ましてや屋敷に連れて行くはずもない。

まぁ、どちらかと言えば「俺たちに手を出すとどうなるか、わかってるよな?」って脅してる方が近いかもしれんが。分家の奴らだって徹底的にトラウマを植え付けたわけだし。

とにかく、藤堂家が俺を裏切る可能性は極めて低い。

 

「そういうわけだから、身内の裏切りを気にする必要はあまりない」

「ツルギがそう言うならいいんだが・・・」

 

帰還者騒動の件があるからか、ハジメはあまり納得していないようだ。

だが、別にそれでもかまわない。その方が。万が一藤堂家が裏切ったときにハジメが素早く察知してくれる可能性が高くなる。

だが、今はまた別だが。

 

「そら、辛気臭い話はこれで終わりだ。今はミュウとルナの話をするぞ」

「それもそうだな」

 

今は仲良くお菓子を食べているルナとミュウの方が重要だ。

こうして日頃の疲れが取れていく感じ、ハジメがミュウにぞっこんの理由がよくわかる・・・

 

「ルナちゃん、これもどうぞなの!」

「ありがとう、ミュウ!」

 

・・・おやぁ?

心なしか、最初よりも楽し気というか、ずいぶんと声音が弾んでいるような・・・

ていうか、しれっと『ミュウ』って名前で呼んでるし。

今日が初対面のはずなんだけどなぁ?

 

「・・・なぁ、ハジメ」

「・・・言いたいことはわかってる」

 

ハジメも思うところはあるらしい。

そりゃあ、自分の娘がたらしだとは思いたくないわな。

まぁ、仲良くなるだけなら初対面でもなくはないだろう。

なんかやたらと心の距離が近いような気がするが、もしかしたら気のせいかもしれないし・・・

 

「ねぇ、これなに?」

「それはパパが買ってくれた絵本なの!」

 

おやおやぁ?なんか物理的にも距離が近い気がするぞ?

密着ってほどじゃないけど、限りなくそれに近い距離まで近づいてる。

そして、ミュウもまた楽しそうに、というよりルナを楽しませるように絵本やおもちゃ(ハジメ謹製も含む)を取り出して一緒に遊んでいる。

そう、その姿はまるで、

 

「心に傷を負った少女を励ますラブコメが始まったな」

「いや、少女っつーか幼女だし、そもそも同性だぞ」

 

いやー、こうなったかぁ・・・。

でも、ミュウって割と気配りができるというか、濃い経験のおかげか精神年齢がそんじょそこらの5歳児とは違うからなー。

なんか、心なしかイケメンになってないか?

 

「・・・まぁ、ハジメのところならセキュリティ的にも安心できるか」

「しれっと押し付けようとしてんじゃねぇよ」

 

いやいや、人聞きの悪いことを言わないでほしいんだが。

せいぜい、ちょっと巻き込ませてもらおうと思っただけだぞ?

結局、しばらくはルナとミュウで交流を続けることが決定した。

いったいいつまで続くことになるんだろうな~。




実は精神科クリニックに通うことになりました。
言ってなかったんですけど、講義の最中に倒れちゃったことがあって。
やっぱりうつは早めに対処しないとダメですね~。自分の場合、体調への影響が大きめで精神的にはまだ余裕があると思ってたのと、親もまだ行くほどではないって考えてたのがあって、結果的に後手後手になっちゃった部分があるんですよね。
だいぶ長い間放置してた問題なんで時間はかかりそうですけど、ゆっくり療養していきたいところ。
精神的にも余裕ができたら、更新ペースも上げていきたいところですねー。最近は微妙に週一投稿ができないラインなんで、週に1,2回は投稿できるようにしたい。

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