まずは手始めに、右手に刀を持ち、左手の拳銃を構え、集団の先頭に向けて発砲する。
「ぎゃっ!?」
「ぐぁ!!」
狭い通路で一直線に並んでいたおかげで、狙いが甘めだったが貫通弾と跳弾でかなり巻き込めた。
前の時の大男のような硬化能力を持っている奴はいなかったのか、あるいは能力を発動させる暇がなかったのか、見た限り防げた奴はいないようだ。
拍子抜けと言えば拍子抜けだが、
「まぁ、楽に済むならそれに越したことはないか」
敵の動きが乱れた隙をついて、一気に懐に潜り込む。
素人感丸出しの動きから察するに、これといった戦闘訓練は受けていないようだ。
まぁ、一般人と比べれば能力は高いから必要はなかったかもしれないが、それでも怠慢と言う他ない。
刃で攻撃を受ける必要すらない。最低限の体捌きで躱し、がら空きの胴体か首を斬り落とし、あるいは拳銃で心臓か頭を撃ちぬく。この繰り返し。
気が付けば場所は狭い地下通路から地上のだだっ広い廊下に移っていた。
ザッと100人は片付けたはずだが、それでもまだ100人以上で挟み撃ちを狙おうとしてするくらいにはまだまだ湧いて出てくる。
・・・いや、よく視ると魔力の色や波長がまったく同じ奴が混じっている。
同じ眷属でも魔力に違いはあったはずだから、使い魔の類か?
「ったく、眷属とはいえ仮にも吸血鬼なんだ。もう少し骨のある奴はいないのか?」
「ふざけるなっ!!」
相手の出方を探るために挑発してみると、思った以上の怒声が返ってきた。
声の主は、比較的若く見える青年だ。だが、見た目通りの年齢ではないんだろうな。
「俺たちだって、好きでこの体になったわけじゃない!あいつが、あの男がっ・・・!」
「攫うなり脅すなりして、無理やり眷属にした、ってところか?」
「っ」
図星だったのか、青年は口をつぐんで1歩後ずさった。
「ずいぶんと敵視しているようだが、それでも今の立場に甘んじているのは、足掻いたところで意味がないと諦めているからか、それとも単純に死にたくないからか。どちらにしろ、同情するに値しないな。自分の尊厳を主張するのはけっこうだが、それに見合う行動はしておいた方がいい。俺は、一縷の望みにかけて逃げた女の子を知っているぞ?」
「そ、そいつは、ただ運がよかっただけだ!それに、ガキだからあいつの恐ろしさも知らないで・・・」
「おいおい、いい歳して言い訳か?それとも子供に対して嫉妬か?ずいぶんとみっともないことだな」
軽くバカにしたような口調で煽ってやると、あっという間に青年の顔が赤色に染まっていった。
まぁ、「バカにしたような」というか、わりと本気でバカにしてるが。
「人としての矜持は捨ててないとでも言うか?だとしたら立派なことだ。だがさっきも言ったが、お前たちの場合はただ諦念に身を任せて現状に甘んじているに過ぎない。もし本当に許せないんだったら、僅かな可能性に賭けてでも行動を起こすべきだった。だが、そうすれば十中八九死ぬことになる。矜持と命を天秤にかけて命を選んだ。それがお前たちだ」
「な。なんだ!お前は生きようとするのが悪いとでも言うのか!」
「べつに?そうとは言わんよ。お前たちの矜持とやらがその程度だった、というだけだ。我が身可愛さに、ダラダラと生き続けてきた程度の、な」
「貴様ぁ・・・!」
青年は完全に頭に血が上って顔が真っ赤になっており、周囲からは殺意が駄々洩れになってきている。どうやら、ほとんどが図星だったらしい。
「そうだな・・・ついでに、お前らが“あの男”の言いなりになっている理由をもう1つ当ててみようか?“あの男”が死んだら、お前らもまとめて死ぬんだろ?」
ザワリ、とどよめきが広がった。
まさかとは思っていたが、当たりだったか。先に確認しておいて正解だったな。
「“あの男”が許せないと言っておきながら、自分が死にたくないから必死で守る。ずいぶんと滑稽なもんだな」
「ッ、死ねぇ!!」
とうとうこらえきれずにナイフを振り上げて襲い掛かってきた青年を、俺は軽く躱しざまに首を斬り落とした。
「・・・べつに俺は、『死が救済になる』なんて言うつもりは毛頭ないが、せめてもの慈悲だ。お前たちに意味を持たせて終わらせよう。お前たちの主の死という結果を以てな」
俺は聖人じゃない。だからと言って悪者を自称するわけではないが、人に誇れるような生き方をしていない自覚はある。
今の俺の言葉だって、世間一般からすれば狂人スレスレだ。
だが、そういうやり方でしか解決できないこともあるということを、俺は理解してしまっている。こいつらがその類だということも。
だからというわけではないが、俺はその“執行者”となることに躊躇いはない。
傲慢?けっこう。理解も共感も必要ない。
「死にたい奴からかかってこい。すぐに終わらせてやる」
それからは、再び一方的な蹂躙が始まった。
以前襲撃してきた3人組ほどの手練れがいなかったのは、所用で外に出払っているのか、単純にあれほどの手練れは数が少ないのか。
おそらくは前者か。
一般人や今の時代の術師なら蹂躙できる戦力を引きこもらせる理由はあまりない。
目的まではわからないが、どうせ俺のところに来たのと大して変わらないか。
見込みのある奴を攫って駒にする。それくらいしかやることなさそうだし。
問題なのはその範囲と期間だが・・・戦った感じ、質はそこまで高くなさそうだ。少なくとも、後衛職のクラスメイトでも対応可能なレベルか。
それよりもさらに問題なのは、未だに黒幕らしき気配を捉えられないことだ。
まさか、本当にここにいないとかじゃないよな。できれば、奴の居場所を知っているやつを見つけたいところだ。
そのために、城の中を駆け巡りながら広く戦いの場を移していく。
時には中庭、時には屋外の通路、時には壁を斬って部屋に侵入もした。
だが、何もない。
まったくないわけじゃなくて、不意打ちを仕掛けようとした輩を何人か巻き添えにしたりもしたが、肝心の黒幕が見当たらない。
結局、あらかた倒しきってしまった頃になっても黒幕を見つけることができなかった。クソ、1人か2人くらいは生かして捕らえておくべきだったな。
となると、もう少し当たりをつけてから探した方がいいか。
・・・城っぽい建物だし、玉座みたいなところがあったりするのか?だとしたら、それはどこにあるんだ?建築の知識なんてないからさっぱりわからん。
あるとすれば、正面から見て中央線上か?
中央線の位置は・・・すぐ近くか。だったら、さっさと斬って先に・・・
「困りますな。これ以上城を破壊なさるのは」
途端に声をかけられた。
横を見てみれば、そこには執事復を身に纏った初老の男が立っていた。
気配に気づかなかったのは、俺が考え事に意識を割きすぎたか、こいつが隠密に長けているからか・・・いや、こいつは。
「お前か。昨日ちょっかいをかけようとしてきたのは」
「おや、やはりお気づきになられましたか」
「お前の魔力には見覚えがあるからな」
よく“魔眼”で視てみれば、昨日ちょっかいをかけてきたやつと魔力のパターンが酷似している。
隙の少ない立ち振る舞いからして、駒の中ではかなりの上位の実力を持っているのは間違いない。
「それで?わざわざ俺の前に現れて何をしに来た」
「いえ、あなたを主の下に案内しようかと。先ほども申し上げましたが、これ以上城を破壊されると修復が大変になりますし、我が主もあなたとの対面を心待ちにしておりますので」
「
そう言って、俺は初老の男の首を斬り落とした。
表情や仕草だけなら騙されたかもしれないが、魂魄を見れば初老の男の魂胆は丸わかりだ。
尋問でもしようかと考えたが、手間が省けた。
「なっ・・・」
「目的は案内ではなく時間稼ぎ。狙いは・・・ちっ、そういうことか」
道理でこいつらの主らしき気配を捉えられないわけだ。
こいつらの主は、
* * *
ツルギが暴れ始めて少し経った頃、
峯坂家では
というのも、
「ぱぱ、だいじょうぶかな・・・?」
ツルギがいなくなったことで少し不安げになっているルナの面倒を見なければならないためである。
当然、ティアたちもツルギから全面的に信頼されているのがわかっているため張り切ってルナの面倒を見ている(張り切り過ぎて失敗しないように気をつけながら)のだが、やはりティアの中ではツルギの存在感が特に大きいため、どうしても不安を拭いきるのは難しかった。
おそらく、雫がいなければ今よりもさらに難しい状況になっていただろう。
「大丈夫よ。パパは世界で一番強い人だから」
「ほんと?」
「えぇ、本当よ」
というよりむしろ、雫1人でルナの相手をしているようなもので、生来の“オカン属性”が遺憾なく発揮されている状態だった。
そのこともあって、特にティアは言い知れない敗北感を味わっていた。
「・・・私にも、シズクみたいな包容力があれば・・・!」
「ティアの嬢ちゃん言いたいことはわからんでもないし、俺が言うことでもないんだろうが、包容力の化身みたいなイズモさんでもダメならどうしようもなくないか?」
「おそらく、包容力というよりは母性なのかもしれないな。私とて、誰かを甲斐甲斐しく世話したことはあまりないからな」
「私も、姫様の身のお世話をしてきましたが、雫さんとは立場や状況が違いますからね・・・たぶん、勇者様の世話をしていたら自然と身についたのでしょうか?」
「・・・私だって、ツルギのお世話してたのに・・・」
それは身の回りではなく夜の方でまた別問題だ、とは言わなかった。子供の前でする話ではないのである。
最近ではできることも増えているものの、まだまだ経験は浅いから仕方ないことでもあるが。
それに、今の状況で言えばティアはむしろこれ以上にないほど適任だ。
「この鬱憤、“あのお方”ってのが来たらぶつけてやるわ・・・!」
「ティアの嬢ちゃん。そいつは逆恨みってもんだ」
ティアはツルギを除けば峯坂家の中でもトップクラスの戦闘力を持っている。
もし襲ってきている吸血鬼のトップが家に来た場合は、ティアが相手をすることになっている。
そのため、居間にいるにもかかわらずティアの腰にはハティがぶら下がっている。
「もし“あのお方”が来たら、対侵入者用の空間に転移させて倒すか、できなくても可能なかぎり時間を稼ぐ、よね」
「それと、できるだけ“空喰”を使わないようにする、だな。吸血鬼を取り込むとなると、どのようなことになるか、想像もつかないからな」
“空喰”はあくまで喰らった対象を一時的に魔力やステータスに変換するため、本来であれば肉体や魂魄に影響はない。
だが、相手が純粋な化生という未知の存在。リスクはできるだけ排除するに越したことはない。
そんなことを話していると、雫の膝の上に座っていたルナが突然ブルッと体を震わせて雫の胸にしがみついた。
「ルナ、どうしたの?」
「くる・・・」
何が、とは言わなかったが、言われずともわかった。
ルナが恐れる存在。わざわざ考えるまでもない。
雫はルナをギュッと強く抱きしめ、ティアもハティを手にはめ、イズモとアンナもそれぞれ武器を手にした。
戦闘力0の樫司はツルギから事前に渡された宝珠を使って南雲家に転移した。これでハジメのところにも情報がいくため、すぐに警戒態勢に入るだろう。
だが、しばらく経っても何も起きない。
襲撃されるどころか、結界のアラームもハジメからの連絡も何もなかった。
まるで、嵐の前の静けさとでも言わんばかりの静寂だった。
「・・・どういうこと?」
「わからない。だが、何かがおかしいのはたしか・・・」
「ほう、ここにいたか」
次の瞬間、ここにいる誰のものでもない声が響いた。
その時、ティアの身体は反射的に動いていた。
声がした場所。その方向に向けて跳び蹴りを放つ。
だが、
ガギィンッ!
「うそっ」
ティアの跳び蹴りは何もない空間で甲高い音を発しながら止められた。
「ほう?それほどの膂力・・・なるほど、“帰還者”とやらが異界の理を有しているというのは、あながち間違いではなさそうだ」
“帰還者”、“異界の理”。その単語に、一気にその場の緊張感が高まった。
さらに、先ほどのティアの蹴りを受け止めた不可視の障壁。
見間違いでなければ、それは空間魔法“絶界”と同じものだった。
「あなた・・・いったい何者なの?」
「ふむ?我のことを知らないと言うのか。ならば、特別に聞かせてやろう。
我が名はアルカード。今を生きる最後にして最強の真なる吸血鬼だ」
え~、投稿がくっそ遅くなってしまって申し訳ありません。
大学のゼミの関係だったり頭痛がひどかったりめっちゃ気分が悪かったりで、途中から執筆どころじゃなくなってしまって1、2週間ほど放置してました。
それと、前回「パニック障害だった~」みたいなことを書きましたが結果的には違うって言われました。“非定型発達”っていう、健常者と障がい者のグレーゾーンってやつですね。それも、その中でもホワイト寄りの。
自分の場合、長い間自分で認識してたのと、その間我慢というかずっと1人で抱え込んでいたこと、自分はメンタルがダイレクトに体調に影響を与えることが重なって、一気に崩れちゃったんじゃないかなと。
とりあえず、通院の必要がない程度には大丈夫なので、いろいろと気を付けながらこれからも頑張っていきます。