二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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吸血鬼殺し

転移した先では、すでにユエが赤い霧の結界を解除して南雲宅を守る障壁を張っているところだった。

 

「ユエ、今は手空いてるか?」

「・・・ん。これから例のクソ野郎のところに行くところ」

 

おう、けっこうギリギリだったな。あと少し遅かったら行き違いになるところだった。

 

「それは少し待って、俺の方を手伝ってくれ。今のままじゃ奴を殺せない」

「・・・どういうこと?」

 

首を傾げるユエに、俺は手短に説明した。

奴を殺すには核を消滅させるしかないこと。その核は町を覆っている霧の内部の空間そのものだということ。そして、その対処のための時間をハジメが稼いでいること。

そこまで説明すると、ユエは露骨に眉をしかめた。

 

「・・・わかった。それで、私は何を手伝えばいい?」

「“俺の世界”をこの空間に完全な形で構築して、奴だけを殺す概念を付与する。ただの“吸血鬼殺し”じゃだめだ。ルナまで巻き添えになる。ユエには空間構築の制御権を渡すから、“俺の世界”を完成させてくれ。俺はやつを殺す、それができなくとも殺せるようにする概念を生み出す」

 

魔法の制御の譲渡は、魔導プログラムから生まれた産物ではあるが、“俺の世界”ともなると構築難度が高すぎてユエにしかまともに扱えない。

だが、制御権を渡すとユエも俺も無防備になってしまう。

 

「それで、シアとティオは?あと、ティアたちも来てないか?」

「妾はここじゃ」

 

南雲宅からティオが出てきた。

その後ろには、ティアと雫もいる。さらに、雫の傍にはルナもいる。

 

「話は聞いたが、ユエの“神罰之炎”ではダメなのか?」

「奴の存在そのものが概念のようなものだ。完全に殺そうと思ったら、概念クラスの魔法じゃないとダメだ。それこそ、“吸血鬼殺し”だとか、な。だが、それにルナを巻き込むわけにはいかない。できるだけ奴の情報をくれ」

「名前はアルカードって言ってたわ。だけど、それ以外のことは・・・」

 

アルカード、か。あくまで創作上の名前だが、オリジナルなのか名を騙っているだけなのかまではわからないな。

さらに、それしかわからないとなると、さすがに情報が少なすぎる。

やはり、弱体化に絞るべきか・・・。

 

「パパ」

 

ふと、ズボンの裾を引っ張られた。

下を見ると、ルナが俺のズボンの裾を掴んで見上げていた。

 

「なんだ?」

「わたしの力も、つかって?」

 

どういうことだ?と尋ね返す暇もなかった。

ルナは指を口の中に入れたかと思うと、牙で指を噛み切った。

 

「ルナっ!?」

 

雫が慌てて駆け寄るが、その間にもルナの指からは血が流れ、いや、もはや溢れていた。

俺も思わず瞠目するが、あふれ出た血液は流れ落ちずに形が整えられ、ゴルフボールほどの大きさの球体になった。

血のボールを素手で受け取ったが、ゼリーのように形が崩れずに手で持つことができる。

すぐさま天眼で血液を解析すると、信じがたい情報が視えた。

 

「これが、ルナの力?重力、いや、星への干渉・・・?」

「そ、そういえばアルカードが、ルナは星を司る力を持ってるって言ってたわ。地球だけじゃなくて、太陽や月にも干渉できるって。ルナが太陽の下で無事なのは、その力のおかげだって」

 

つまり、理由はともかくアルカードがルナを狙うのは、この力を奪うため、ということか。

というか、重力魔法の延長線上に星への干渉が存在するはずなんだが、ルナの場合は逆になっていて、重力への干渉は強くないが星の力は難なく操れるらしい。

ただ、地殻変動を起こしたりとかというよりは、星のエネルギー、例えば地球の地脈とか太陽光線を魔力や生命力に変換する術式が刻み込まれている、といったところか。エネルギーの抽出範囲は、ルナの魔法の腕を度外視すれば、科学的・魔法的に限らず概念的なレベルにまで達している。

なるほど、めちゃくちゃだ。アルカードとやらが目の色を変えるのも頷ける。

だからこそ、奴にルナを渡すわけにはいかない。

 

「ありがとう、ルナ。おかげで、奴をどうにかできそうだ」

 

雫に抱かれたルナの頭をポンポンと撫でて、“フリズスキャルヴ”にルナの血を落とした。

“フリズスキャルヴ”に落とされた血は空中に幾何模様を描いて魔法陣の形をとった。

概念の構築と並行しつつルナの血から術式を抽出し、概念に組み込んでいく。

ちらりとユエの方を確認すると、ユエの方も着々と“俺の世界”の構築が進んでいた。この調子ならおそらく、あと1,2分程度で出来上がるはず。

と、思っていたが、

 

「ッ、しまった・・・!」

 

ユエの方に変化があった。悪い意味で。

ユエが操作しているコンソールに、赤い染みのように魔力がにじんでいた。

どうやら、アルカードに“俺の世界”の存在を把握されてしまったようだ。

ユエもどうにかしてアルカードの干渉を排除しようとしているが、不慣れなコンソールによる魔力操作が祟ったのか、それともこの環境下によるアルカードの影響がよほど強いのか、苦戦しているようだった。

とはいえ、俺の方も概念の構築がまだで手が離せない。

というか、

 

「・・・ユエ、なんで最初から本気を出してないんだ?」

 

ユエの方も、エヒトの依り代になった影響で俺ほどではないにしろ神格化は可能だ。わざわざ大人モードになる手間は必要だが、出力は相応に上がる。

だというのに、今のユエは普段の姿のまま。

いったいどういうことかと思ったが、答えは割と簡単だった。

 

「・・・ごめんなさい。割とすぐに出来上がったから、ちょっと油断してました」

「ふざけんな」

 

肝心なところで慢心しやがってこの駄吸血姫が。

空間魔法に関しては最低でも俺たちと同等なんだから、欠片も油断してほしくなかったんだがな。

 

「それで、どれだけ浸食されてる?」

「・・・全体の1割もないけど、完全に掌握するのは難しい、かも」

 

神格化も、変成魔法によって大人モードになる手順を踏まなければならないが、アルカードの干渉を防ぎながらはそれも難しい、か。

俺も、概念を想像しながらは難しいだろうが・・・

 

「1分で仕上げる。それまでもたせろ」

「・・・わか、った・・・!」

 

僅かに苦しそうな声を漏らしながらも、ユエはコンソールを操作して侵入を食い止める。

・・・1分で仕上げる、とはいったが、1分後のユエの状況次第では難しいかもしれない。

やはり俺も加勢するべきかと迷うが、またしてもルナが力を貸してくれた。

 

「わたしも、てつだう・・・!」

 

ルナがユエの身体に触れると、触れた箇所から光が漏れ出し、ユエの身体を包んでいった。

 

「これ、私のときの・・・」

 

雫の反応を見る限り、これがルナの力で間違いないだろう。証拠に、ユエの魔力出力が見るからに上昇しており、赤い染みが追いやられていく。おそらくは、“限界突破”以上の出力で反動も軽いだろう。

これはなかなか面白い。

 

(再現しようと思えば、重力魔法と昇華魔法、魂魄魔法でいけるか?いや、下手に再現しても手間と消費魔力に見合わないか。おそらく、この世界でもトータスでも、マネできる奴はいないだろう)

 

まさに、ルナにだけ許された力だ。

そんな幼い吸血鬼が、事実上俺と雫の娘ってことになるのか・・・そう考えると頭が痛くなってくるというか、守ってやらねばと決意が固まるというか。

だが、そういうあれこれを考えるのはアルカードを始末してからだ。

再度概念創造に集中し、一気に作業を進める。

それから概念が出来上がったのは、ジャスト1分後だった。

 

「ユエ!そっちの制御を寄越せ!」

「ッ!」

 

タイミングとしてはギリギリだったのか、ユエが半ば放り投げるような形で“俺の世界”の制御権を渡してきた。

そこへ、先ほど完成したばかりのアルカードを殺すための概念を組み込み、詠唱を始める。

 

「日が暮れ逢魔が時は過ぎ、世に闇夜が訪れる。

魑魅魍魎・妖魔がのさばり、人の生を許さぬ丑三つ時。

ならば今この時、我が手で人の時・人の世を生み出さん。

不浄を祓い、魔を滅し、闇を照らす。

我が身を星の繰り手と為し、ここに日ノ神を招来せよ。

 

“天輪・天照”!」

 

 

* * *

 

 

『ガァアアアアアアッ!!』

 

ツルギが概念魔法“天輪・天照”を発動させた直後、アルカードは苦悶の雄叫びをあげ、周囲に群がっていた分身体が炎を上げながら倒れていった。

 

「やってくれたな、ツルギ」

 

その光景を見て、ハジメはニヤリと笑みを浮かべた。

概念魔法“天輪・天照”は、場所・時間に限らず指定した空間内を『太陽の光が照らしている』状態に書き換える。

一見地味に見えるが、吸血鬼に対しては無類の効果を発揮する。

たとえ建物などの影に隠れようとも、まるでスポットライトに四方から照らされた舞台のようにすべてを光で照らされているため意味をなさない。

 

『クソが、クソがァッ・・・!!』

 

ここにいては命が危ない。

業腹ではあるが、アルカードは撤退を決めた。

格下とみなした相手を前に敗走は自らの矜持が許さないが、その屈辱は次こそ晴らしてみせると転移しようとして、

 

「逃げようとしても無駄だ。今ここは、あいつの世界だ」

『ッ!?バカな!!』

 

ハジメの言った通り、アルカードは転移で逃げられなかった。

“天輪・天照”の発動によってアルカードが生み出した異界は完全に消え去り、代わりにツルギの“俺の世界”によって世界が塗りつぶされていた。

ツルギが生み出した世界の理によって、アルカードがこの空間から出ることは叶わない。

すでに、退路は断たれた。

 

『ならば、せめて貴様だけでも殺してくれる・・・!』

 

そう言って、アルカードは霧のように薄く広がっていた自らの存在をできる限り圧縮させて人型を作った。

太陽が弱点であることに変わりはないが、薄く広げずに圧縮させればある程度抵抗することはできる。

その許された時間で、何としてでもハジメを殺す。

たとえ目的を達成しようとも、親友を殺されれば深い絶望に襲われることになる。それを以てツルギへの復讐としようとした。

だが、その判断はハジメの前では致命的なまでに悪手だった。

 

「ようやく、当てやすくなったな?」

「なっ・・・!」

 

ハジメの右手には、変わった形状の大砲のようなものが握られていた。

改良型太陽光圧縮レーザー兵器“バルス・ヒュベリオン”。

ハジメも、吸血鬼の命に届きうる兵器を持っていた。

だが、レーザー兵器であるため広範囲に広がる核を消滅させることはできなかったのだが、的が人型に絞られたのなら話は別だ。

 

「今まで散々こけにしてくれたんだ。覚悟はできてんだろうな?」

 

バルス・ヒュベリオンのチャージはすでに完了しており、照準もアルカードに向けられている。

 

「ひっ!」

 

凶悪な笑みを浮かべるハジメを目にして、アルカードは生まれて初めて心の底から恐怖を感じ、逃げることも襲い掛かることもできずに動きを止める。

だがそれは、ハジメを前にしてあまりにも無防備な行動で、

 

「死ね」

 

一切の容赦なく、ハジメは引き金を引いた。

放たれた極光は、瞬きする間もなくアルカードを包み込んだ。

 

「まっ」

 

それが、アルカードの最期の言葉だった。

極光に飲み込まれたアルカードは、塵一つ残さずにこの世から姿を消した。




次回で吸血鬼編は終わる予定です。
この内容だったら、前回とつなげても良かったかな・・・。
それと、前に吸血鬼編が完結したら『二人の魔王の異世界無双記』の全体書き直しをすると言いましたが、3月になったら始めちゃいます。
もしかしたら吸血鬼編の最終話の投稿がちょっと遅くなっちゃうかもしれませんが、できるだけキリがいいタイミングで始めたいので。
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