諸々の事情があって、執筆できるだけの体力・精神的な余裕に乏しいので。
中村恵里という少女
「・・・やっちまったなぁ」
とある休日の昼過ぎ。
俺は空間魔法で拡張された地下室で1人、途方に暮れていた。
というのも、
「これ、どうしたもんか」
右手に抱えた、二枚刃の大鎌だ。
ハジメが日々アーティファクトの開発や改良に明け暮れているように、俺も俺でいろいろな武器を作っては試していた。
今までは剣と槍くらいしか使ってこなかったが、トータスに居た頃に比べれば暇を持て余しているし、物質化によってハジメのアーティファクトのように様々な機能を持たせることができるようになったから、他にもいろいろな武器を作っては使ってみたわけだ。
そうなると、ハジメの創作意欲に刺激されてか、たまに凝ったものを作りたくなる時がある。
この大鎌もその一つなんだが・・・いつにも増して、いろいろと機能を付けすぎてしまった。
いろいろなアニメやゲームの大鎌を参考にしてみたんだが・・・やりすぎたか?
とはいえ、せっかく作ったものだし、出来そのものは悪くない。ちょいと振り回してみるか?
ガチャッ
「パパ?」
そんなことを考えていると、ルナがわずかに開けたドアから顔を覗かせた。
俺は大鎌を宝物庫にしまいながら、ルナに尋ねかける。
一応、時計を見る限りはおやつの時間というわけでもなさそうだが。
「どうしたんだ?」
「パパに、聞きたいことがあるの」
「聞きたいことって、なんだ?」
俺は手招きしてルナを膝の上に座らせながら、内容を尋ねた。
「えっとね、なかむらって、どんな人なの?」
「あ?中村?」
俺の知る中村は、中村恵里しか思い浮かばない。
だが、ルナとの接点は欠片ほどもないはずだ。
なぜルナの口から、中村の名前が出てくるのか。
心当たりはないんだが、その答えはルナからもたらされた。
「おじいちゃんが、『中村がいたら何て言ってたんだろうな』って言ってたの」
「親父・・・」
あのバカ親父、興味本位でとんでもないことを呟きやがったな。
気持ちはわからなくもないが、よりにもよってルナの前でそんなことを言うんじゃねぇよ。
こうなると、適当に誤魔化して有耶無耶にするのは難しいだろうな。
・・・仕方ない。ルナの情操教育に支障が出ない範囲で話すとするか。
「そうだな・・・まぁ、ルナと似たような境遇の女の子だな」
「ルナと?」
「あぁ。子供の頃、親から愛されずに憎まれて育って、誰からも助けてもらえなかった、そんな女の子だ」
改めて口にしてみると、碌でもない家庭だな。俺も人のことはあまり言えないが。
「一応、中村のことを助けようとした勇者もいたが、そいつはとんでもない大馬鹿野郎で、上辺だけで満足して、中村の本当の望みを叶えようとはしなかった・・・いや、ちょっと違うな。中村は勇者に自分のことを特別に見てほしかったが、勇者はその望みに気付こうとすらせず、中村は一度壊れた」
改めて口にしてみると、天之河の碌でもなさがさらに際立つな。最近は俺にもブーメランになりつつあるが。
「そして、2人は大きな過ちを犯した。中村は、大勢の罪のない人間を殺して自らの傀儡にし、勇者は世界の存亡をかけた戦いで人類側を裏切って敵に与したんだ」
「・・・それで、どうなったの?」
そういえば、ルナにはトータスの話をしたことがなかったな。機会があれば、トータスの話もしてやるか。
「世界を滅ぼそうとした神モドキはハジメが倒して、世界はとりあえず平和になった。中村と勇者は、今頃人類を裏切った罪を償うために、あちこちへ飛び回っているだろうさ。まぁ、詳しいことはあまり知らないが」
「そうなの?」
「ここではない別の世界の話だからな。俺も向こうのことはあまりわからない」
天之河と中村がトータスに戻ったのは、この前クラスメイト総出でトータスに渡った時だ。
その時は、日本→トータスの移動と往復の試験を兼ねたものだったが、転移前に天之河が贖罪のためにトータスに残りたいと申し出てきた。到底許されないことをしたのに、日本でのうのうと日常生活を送ることはできない、と。
天之河としては自分に対する罰を欲しているんだろうが、日本ではそんな機会はまずない。クラスメイトからしたら半ば今さらな話だし、公的な裁きも論外だ。であれば、トータスにそれを求めるのも自然な流れと言えばそうかもしれない。
とはいえ、今の天之河は割と精神的に不安定だ。
別に情緒不安定になったり自ら死にたがるようなことはないが、強い自責の念に駆られている。それなりに無茶なことをするのは間違いないだろう。
俺としてはわりとどうでもいいというか、「めんどくせぇ奴だなぁ」くらいにしか思わなかったが、幼馴染みからすれば心配の一つや二つはするだろう。
そういうわけだから、
『天之河がトータスに残るらしいが、お前はどうする?』
『は?なにそれ嫌味?』
俺は中村に全力でぶん投げてみた。
ちなみに理由だが、
『いいや?ただの嫌がらせ半分だぞ?』
『僕に?』
『天之河に』
今回の件、天之河は中村には伝えないでほしいと願い出た。中村を巻き込むわけにはいかない、と。
俺は「ほーん。まぁ、覚えてたらな」と返しながら、内心で中村に伝えようと決めていた。なぜ俺が天之河の言うことを聞かなければならない。
まぁ、理由としては半分くらいだが。
『で?もう半分は?』
『お前への興味』
『は?趣味悪くない?』
何に対する興味かと言えば、中村の返答に対してだ。
一応、天之河への執着は割ときれいさっぱり消え去った中村だが、俺の見た限りでは完全に関心を失ったというわけではない。むしろ、本当の意味で中村を見るようになった天之河の行動や反応を観察しているようにも見えた。
当然、もう一度天之河を自身の物にしようとしているわけではないだろう。あるいは本人も無自覚なのか、それとも自覚はあっても理由はわからないままなのか。
俺はそんな中村と天之河のやり取りを興味半分面白半分で眺めていた。ティアたちからも悪趣味だとたしなめられてしまったが、そうは言ってもなかなか面白い。主に、いろいろと必死な天之河が。
とはいえ、俺も強制的に同行させるつもりはない。あくまで、中村の返答を聞くだけだ。
俺が本気で嫌がらせ半分興味半分で聞いてきたと理解したのか、中村は盛大にため息をついてから答えた。
『・・・はぁ~、わかったよ。僕も行くよ』
『言っておくが、別に強制じゃないぞ?』
『別に、僕もそろそろケジメを付けた方がいいってだけだから』
何に対するケジメなのかは、あえて聞かないでおいた。
中村もまた、天之河に対していろいろと複雑な心境を持っている。あまりしつこく問いかけるのは少しばかり可哀そうというものだろう。
そういうわけで、現在天之河と中村は神域の魔物の生き残りを討伐しながら、ひぃこらあちこちを駆け回っているはずだ。
まぁ、死んではいないだろう。神域の魔物が相手とはいえ、天之河は相変わらずチートスペックだし、中村も様々な制約が付いているとはいえ援護の手段は豊富だ。降霊術や闇魔法は縛ってないから、闇魔法で意識に干渉するなりその場その場で魔物の死骸を利用するなりしていることだろう。
「ルナも、いつかは会える?」
「正直、ルナに会わせたくないってのが本音だが・・・まぁ、いつかな」
さすがの天之河と言えど、補給も無しで戦い続けることができるわけではないし、姫さんに定期報告するために偶に王都にも戻っている。
一応、いつかは俺やハジメの家族を連れてトータスに旅行に行く予定だから、その時に会うこともあるかもしれない。
・・・本当に、ルナには会わせたくないんだけどな。
「とまぁ、中村に関してはこんなもんかな」
「ありがとう、パパ」
「これくらいは別にいい。それじゃ、上に戻るか」
あらかたやりたいことは済ませたし、休憩がてらおやつにしよう。
そう考えて、俺はルナを下ろして立ち上がった。
すると、ルナが俺のズボンの裾を引っ張って引き止めた。
「パパ。もう1つ、お願いしてもいい?」
「なんだ?」
まだ教えてほしいことでもあるのか?
できれば、中村みたいな返答に困る質問は控えてくれると嬉しいが。
「ルナも戦えるようになりたいから、パパが教えて?」
「・・・・・・・・・ん?」
え?今なんて?
皆さんは、大鎌と言えば何を思い浮かべますか?
自分は、ゲームではブラッドボーンの葬送の刃とベヨネッタ2のチェルノボーグ、アニメでは戦姫絶唱シンフォギアのイガリマとRWBYのアレあたりですね。
自分はシンプルなやつより機構鎌の方が好きです。