「えーと・・・悪い。もう1回言ってもらってもいいか?」
「ルナも戦えるようになりたいから、パパが教えて?」
「なんで?」
正直、脈絡がなさすぎてかなり困ってる。
どうしてそうなった?
「ミュウがね?ハジメお兄ちゃんたちにいろんなこと教えてもらってるって言ってたから。ミュウも強くなりたいからって」
「あ~・・・」
現在、南雲家ではミュウに戦闘のエリート教育を施しているところだ。
ぶっちゃけ、あまり必要ない気はしなくもないが、ミュウ自身の要望とハジメの親バカ、それに加えてユエたちもノリノリになったことから、あれやこれやとそれぞれの得意分野を教えている。
幼女相手に何してるんだと思わなくもないが、俺たちは事情が事情だ。最低限自衛できるだけの戦闘力を持つに越したことはない。
とはいえ、まさかルナにも飛び火するとは思わなかったが。
「ルナも、パパやみんなに守られるだけじゃなくて、守りたいから。だから、ルナにも教えて?」
そうかぁ・・・そうかぁ~・・・。
正直、ルナにはあまり乱暴なことを教えたくはないんだが、ルナだって他人事ではない。
ルナは吸血鬼だ。裏の魔法界隈の人間からすれば研究材料として垂涎ものだろうし、吸血鬼ハンターにも狙われる可能性が高い。
なら、ルナにも戦闘能力を身につける必要性がないとは言い切れない。
とはいえ、ルナはまだ幼い。
ミュウは保護者側の頭がちょっとあれだから仕方ないかもしれないが、ルナはまだ純粋な方だ。あまり血なまぐさいことをさせるのもな・・・。
「・・・とりあえず、ティアたちとも相談してみる」
結局、この場では返事を返せなかった。
まぁ、事が事だし、相談は必要だろう。
* * *
「ということで、ルナが戦闘訓練を所望したんだが・・・どうすべきだと思う?」
翌日。
ルナの昼寝の時間に雫も呼んで昨日の件を話した。
意見は、見事に真っ二つに割れた。
「私は、賛成かしら」
「そうだな。最低限自衛できるよう越したことはないだろう」
ティアとイズモは賛成派。
「う~ん、でもさすがに早すぎない?」
「そうですね。襲撃も落ち着いているので、もう少し様子を見てからでもいいかもしれません」
雫とアンナは反対派。とはいえ、反対と言っても今すぐやるのに反対なだけで、特訓そのものは異議はないらしい。
となると、多数決で決めるなら俺の意見で決まることになるわけだが。
「俺は、どちらかと言えば賛成だな。今覚えさせておいた方がいいと思う」
俺は賛成だ。
もちろん、ルナに自衛手段を覚えさせるというのもあるが、一晩考えて違う問題に思い至った。
「はっきり言って、今のルナは自分の力を持て余している状態だ。ルナの力は星への干渉。ルナ自身何もしなくても、地脈やらなんやらから勝手にエネルギーを吸収するようになっている。もしこのままだと、ルナが自分の力を暴走させる可能性も0ではない」
あの時、ルナが触れないと力を流し込めなかったのも、おそらく魔力操作を学んでいないからだろう。吸血鬼の本能から直感的にあの行動をとった可能性もあるが、まだ未熟もいいところだ。
そして、魔力を溜めこみ過ぎて魔力の流れが淀んでしまうと、最悪魔物のように魔石が生成されて狂暴化する可能性すらある。
とはいえ、ルナは吸血鬼。相応に魔力を受け止める器は大きい。すぐ近くの未来にエネルギーが飽和するようなことはないだろうが、自分の力を操る術はできるだけ早いうちに教えておくに越したことはないだろう。
「そういうわけだから、ルナに覚えさせるのは主に魔法や魔力操作だ。とりあえず、しばらくは俺とイズモで面倒を見ようと思う。ある程度魔力操作を覚えて身体能力強化もできるようになったら、雫と俺で武術を教えてもいいと思うんだが、どうだ?」
そこまで言うと、雫とアンナも少し考えこんだ後に、「・・・わかったわ」「・・・わかりました」と了承してくれた。
これで、ルナの戦闘指導(主に魔法)を行うことが決まった。
あとは、スケジュールを考えるだけだな。
* * *
「それじゃあ、これからルナに魔法を教えるぞ」
「はーい!」
その日の夜の地下室にて、さっそくルナへの魔法講座を始める。
ちなみに、なぜ夜にやっているのかというと、ルナの力は星への干渉であり、星からエネルギーを受け取ることができる。そうなると、ルナの魔力は少なからず受取元の性質の影響を受ける可能性がある。もし昼にやった場合、ルナの魔力に太陽の性質が反映されているとしたら、考えるだけでも恐ろしい。そのため、ルナの魔法講座はまずは夜に行うことにした。
あと、イズモはここにはいない。とりあえず今日は様子見ということで、俺だけでやることにした。
元気よく返事するルナに頬を緩ませながら、俺は今回の指導に使う道具を並べた。
魔法陣と杖が主で、念のために魔力貯蓄用の神結晶も用意してある。
「まずは、魔力を知覚するところから始めようか。ルナ、ちょっと手を出してくれ」
「こう?」
俺の言う通りに出してくれたルナの手を握って、微量の俺の魔力を流し込む。
他者の魔力を流し込むのは、ぶっちゃけいいことではない。場合によっては、拒絶反応が起こる可能性もある。
とはいえ、ルナの魔力は膨大だ。普通の人間よりかは許容量も多い。
そして、魔力の流れを知覚するのに最も有効な手段の一つが、自分のものではない魔力を流すことなのだ。
ルナも自分のものではない感覚がするのか、困惑の表情を浮かべている。
「これ、なに?」
「これが、ルナの魔力の流れだ。厳密には、俺の魔力を混ぜているが。まずは、この流れを掴むところからだ」
そう言って、俺は魔法陣が書かれた紙をルナの前に出した。
特別魔法を仕込んだわけではない。流した魔力に反応して光るくらいだ。
「この魔法陣に魔力を流してみてくれ」
「どうすればいいの?」
「基本的に、魔力操作はイメージが重要だ。ルナなら、自分の中に流れている血を外に流すようなイメージで」
魔法の詠唱も、このイメージの補強としての役割を持っている。たしかに“魔力操作”を持っていれば詠唱は必要ないが、やはり声に出した方がイメージは固まりやすい。“魔力操作”はある程度以上の魔力を必要とする技能でもあるわけだ。
だが、ルナは触れている状態ならけっこう簡単に魔力を流せる。
「わっ、光った!」
「上手くできたな」
ルナが魔法陣にそっと手を添えると、魔法陣は黒色に光った。
漆黒とか闇と言うよりは、月が照らす夜空のような色だ。
「触れている状態なら問題なし。なら、次は少し離れたところから流してみよう」
今度は、魔法陣から手を離して試させてみる。
すると今度は、先ほどと違って上手くいかない。
「うーん、難しい・・・」
「初めてだからな。そんなものだ」
というか、子供ながらに触れている状態とはいえ魔力を流せる時点で十分すぎるくらいなんだよな。
というか、人間と吸血鬼で魔法発動のメカニズムが同じかどうかがわからんから、この教え方で大丈夫なのか不安・・・
「パパ!できた!」
「マジで?」
全然問題なかったわ。
というか、ルナの呑み込みの早さが異常だ。
魔力量でごり押してるようにも見えるが、逆に言えばそれだけの出力があるということでもある。
今はまだ無駄が多いが、もしルナが十全に魔力を操れるようになって、限りなく100%に近い効率で魔力を運用することができれば、出力はさらに上がるだろう。
ユエといい、吸血鬼は魔法チートのオンパレードだな。
これなら、魔力操作は短い期間で済みそうだ。
ならば、先を見据えて少しだけ魔法を使わせてみるか。
「ルナ、これを持ってみてくれ」
「なに?」
俺が取り出したのは、炎の初級魔法・火球を発動させるためだけの杖だ。魔力を流すだけで発動できるため、手っ取り早く魔法を体験させるために作った。
当然、子供用として出力は落としてあるが。
「これを持って魔力を流してみてくれ。簡単なやつだけど、魔法を発動できる」
「わかった!」
簡単なものとはいえ、初めて自分で魔法を発動できるとなってルナのテンションが上がった。
これを体験して、モチベーションの向上につなげてほしいものだ。
「あれに向かって撃つんだ」
50mほど先にカカシを生成し、杖の先を向けさせる。
ルナも視線をカカシに向けて、杖に魔力を流し込む。
次の瞬間、現れたのは直径が3mを越える特大の火の玉だった。
「え?」
「っ、ルナ!あのカカシに向かって“火球”と唱えるんだ!」
「か、“火球”!」
ルナの言霊と共に特大の“火球”が放たれ、カカシに着弾する直前でカカシの周囲に空間遮断障壁を展開し、爆発の余波を抑え込む。
返ってくる感触は、まず間違いなくトータス時代のユエの最上級魔法に匹敵している。
嘘みたいだろ?これでも一定以上の出力は10分の1になるように絞ったんだぜ?
なんというか、我ながらとんでもないものを育てることになりそうだ。
「パパ?」
「あ~、いや、なんでもない。すごいな、ルナ」
「えへへ~」
俺に褒められて嬉しそうにはにかむルナを眺めながら、俺は次からユエを呼ぶことを決めた。
確実に俺とイズモの手に余るわ、これ。
・・・いや、そもそもユエは感覚派だから指導できない立場だったか、ちくしょう。
twitter予告なしの投稿です。本当は明日投稿する予定だったんですが、短めに仕上げたらできちゃったので投稿します。
そこ、「誰もお前のtwitterなんか見てねぇよ」なんて言わない。
「メラゾーマではない。メラだ」なルナちゃん、最高に魔王してますね。やはり魔王の娘は魔王だったか・・・。
一応解説しておくと、ルナにこれといった出力制限はありません。常に星からエネルギー供給を受けており、ロスも限りなく0に近いどころかルナの中で増幅しているため、ルナの最大出力=星を滅ぼせる火力になります。
まさに『星に愛された寵児』ということになりますね。
こんな核兵器も真っ青なことできるって知れ渡ったら、いろいろととんでもないことになりそう。