二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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今回は最初から飛ばしていきます。
詳しいストーリーが知りたいって人は原作既読推奨です。


事態は常に一歩先を行く

「ここがイギリスか。実際に来るのは初めてだな」

 

ひとまず、イギリスはロンドン、その中の人気のない屋上の上に転移して辺りを見渡す。

時差もあってこっちはがっつり昼頃で、周囲には日本とは全く違う景色が広がっている。

今回は給料が発生しない時間外労働だが、いつかはティアたちを連れて海外旅行としゃれ込んでもいいかもしれない。

 

「さて、ひとまずは情報を整理するとするか・・・」

 

今回の件は非常にデリケートだ。

なにせ、状況証拠から国家の暗部がすでに動いており、下手をすれば他の勢力がでしゃばってくる可能性もある。

そいつらをまとめて消し飛ばすだけなら楽なのだが、それはできない。

人道的な問題もそうだが、今回ばかりは下手に騒ぎを大きくするわけにはいかない。

 

「“ベルセルク”、ね。こっちの科学がバカにならないのか、それともこいつを生み出した奴がよっぽどの天才なのか」

 

“ベルセルク”。

狂戦士(バーサーカー)が語源となっているだろうそれは、某バイオのような生物兵器だ。

ざっと確認した限り、接種したら発症率はほぼ100%。身体能力と再生能力の急激な向上と引き換えに理性を失った獣と化す。さらに、涎や血液といった体液を摂取しても感染が広がると言う、非常に危険な代物だ。

意図して作ったのか、あるいは何かしらの副産物なのかまではまだわからないが、結果として製作者とベルセルクを巡る争いが起こったというわけだ。

とはいえ、さっきざっくりとだけ調べてわかったのはこの程度。

さらに詳しく調べる必要がある。

 

「マスメディアの方は・・・あ?もう流出してんのか?」

 

期待半分でマスメディアを漁ってみると、すでにベルセルクの感染者らしき人間が暴れたというニュースが出回っていた。ベルセルク、というかその原因になっている薬品の名前こそ出ていないものの、様々なニュースでやれ陰謀論だのやれUMAだのと騒ぎになっている。

少なからず政府が動いているのは間違いないのに、すでにこんなことになっているのか。

 

「となると・・・政府が関与し始めたのはこの事件の後。だが、事件の前には外部に流出していたのか?」

 

生み出したのが意図的だったのかどうかはこの際置いとくとして、こんな危険物だ。おそらく、研究室のメンバーは徹底して秘匿しようとしたはず。

ということは、だ。

 

「裏切者でもいたか」

 

研究室のメンバーの中に1人、外部の組織と通じ合っていた人物がいる。

とはいえ、その犯人捜しは後回しだ。

まずは、目先の問題からだな。

 

「開発者はエミリー・グラント。大学の研究室に所属していて・・・あ?11歳?まだガキじゃねぇか。ずいぶんとまぁ・・・」

 

どうやら、この薬品の開発者はよほどの天才だったらしい。

それと、どうやら彼女の祖母がアルツハイマーらしい。おそらく、この薬品はその特効薬を開発する過程で生み出された副産物なのだろう。

 

「ベルセルクを狙ってるのは・・・まぁ、政府は案の定か。それと・・・へぇ、なるほどねぇ」

 

調べれば調べるほど、面白いものが見つかる。

半分くらいは暇つぶしのつもりだったが、思ったよりは他人事というわけでもなかったようだ。

あるいは、ハジメの話がなくても首を突っ込むことになった可能性もあるだろう。

どうやら、退屈はしなさそうだ。

 

「さて、どれから手を付けようか・・・ひとまずは、すぐに片づけられる方からやるか?となると、政府の方か・・・指示を出している奴を把握して、話はそれからだな」

 

政府の情報管理は厳重かもしれないが、企業や秘密結社と比べれば、規模が大きく基盤もしっかりしている分まだ楽だ。まぁ、もう片方の方も足取りは簡単に追えるだろうが、政府の組織に潜り込んでいるならそっちからあぶりだした方が手っ取り早い。

ならば、今後の方針は決まりだ。

 

「まずは、どの政府の組織が動いているかだな。そして人員と上司の把握。あと、並行して開発者のエミリー・グラントの動向も探っておかないとな」

 

ここまで多忙だといっそ遠藤に手伝ってもらいたくなってくるが、今回は正式な仕事ではなく俺の個人的なものだ。別の仕事明けの遠藤に、さすがにそこまで頼むわけにはいかない。

さて、バカなことを考えている連中をシバきにいくとするか。

 

 

* * *

 

 

夜の帳が完全に降りた時間帯。

ロンドンの郊外に存在する倉庫街では、2つの勢力がぶつかっていた。

しかし、一方はたった3人の少数に対し、もう一方は十数人に加えて銃まで武装している特殊部隊。

普通なら、3人程度ではどうしようもできない戦力差。

だが、優勢だったのは3人組の方だった。

それもそのはず。3人組のうちの1人は黒装束に身を包んだ少年、“帰還者”の中でも人類最強と謳われている遠藤浩介だったのだから。

事の発端は、遠藤がヒュドラの始末を終えた後の夜に止まった安いホテルでトラブルに巻き込まれたことだった。

なんの偶然か、そのトラブルは“ベルセルク”の開発者であるエミリー・グラントを巡る争いであり、さらに遠藤は政府のブラックリストに記載されている殺し屋“ミスターK”と勘違いされ、なし崩し的に協力することになったのだ。

ちなみに、この時エミリーの護衛をしていたヴァネッサ・パラディは国家保安局のエージェントなのだが、組織の内部に裏切り者が出たことに加え、その際に本部からの応援と不自然なほどに合流できなかったことが重なって本部そのものに疑心を抱くようになり、半ば本部の命令に背くような形で単身エミリーを保護していた。

当然、個人で組織に立ち向かうというわけではなく、あくまで局長の真意を探ったうえで確実に『白』だと判断した人物に救援を求めることにしていた。

そのために“ミスターK”に護衛の依頼を出したらしいのだが、遠藤が勘違いされたのは幸だったのか不幸だったのか。結果的に言えば、ヴァネッサやエミリーからすれば幸運だっただろう。遠藤からすれば微妙なところではあるが。

そして、エミリーの家族を人質にされた形で倉庫街に赴いたところ、そこで国家保安局の局長であるシャロン=マグダネスと邂逅した。

結果を言えば、マグダネス局長は黒。裏切者とは別口であったものの、やはり政府の意向でベルセルクを狙っていて、研究所にもエージェントを送り込んでいた。

さらに、“ミスターK”の正体が政府の非合法機関のエージェントであることも明かされ、エミリーとヴァネッサは窮地に追いやられた。

だが遠藤からすれば、この程度は窮地の内に入らなかった。

保安局の裏切者でもあるキンバリー=ウォーレンの横槍も入ったものの、それらもすべてまとめて手玉に取った。

保安局の強襲部隊は無力化、キンバリーが率いる部隊は全滅という形で。

 

「さて、それでは守護者よ。貴様に選択のチャンスをやろう」

 

力の差を見せつけたところで、遠藤はマグダネス局長にそう語りかけた。

ちなみに、遠藤の口調が何やら痛々しい感じになっているのは、ぶっ壊れ技能である“深淵卿”の副作用だ。なぜか“深淵卿”発動中、遠藤はあらゆる言動・行動が香ばしくなる。よく言えばカッコつけている、悪く言えば中二病を拗らせているそれは、ハジメの過去にダイレクトアタックしているため、ハジメは何度か技能封印のアーティファクトを遠藤に打診したが、遠藤の恋人であるラナ・ハウリアはこれを気に入っている他、ハウリア族の中に真面目なまま混じるのもなんか嫌だということでそのままにしている。

そのため発動するたびに遠藤の精神に多大なダメージを与えるのだが、それはまた別の話だ。

遠藤が持ち掛けた選択肢は、『このまま抵抗して全滅するか』、『全力で上層部を説得してエミリーから手を引かせるか』の2つ。

これは、脅迫でも提案でもなく、宣言だった。

国を相手にしての後始末に乏しい遠藤としては、マグダネス局長に“ベルセルク”に関する事案を破棄させることが最も最良の選択肢だ。

だが、エミリーの境遇や心境を聞いた、聞いてしまった遠藤は、全力をかけてエミリーを守ると誓った。であれば、仮にマグダネス局長が事案の破棄に応じなければ、それこそ遠藤は国を相手に真っ向から戦うつもりだった。

そして、マグダネス局長もまた遠藤の現実離れした力を目の当たりにし、“帰還者”の事案と不自然なレベルで自然に収束した事実から、芋づる式に“帰還者”の異常性を再認識。“ベルセルク”と“帰還者”の問題を天秤にかける。

 

「それで、返答はいかに?」

 

遠藤から再び迫られた選択に、マグダネス局長は再び沈黙する。

マグダネス局長にとって、国家保安が自身のすべて。

利益を追求した先の脅威に国家転覆の可能性すらある戦争が待っているのなら、本末転倒もいいところ。だが、“帰還者”の情報を隠したまま上層部に事案の破棄を要求するのは困難極まりないことでもある。

マグダネス局長の頭の中では、この選択に対する最適な回答を求め・・・

 

「いや、それに答える必要はない」

 

だが、再び現れた場違いな声によって思考は中断された。

この声の主は遠藤のものではない。であれば、誰が、どこから放たれたものなのか。

マグダネス局長と部下は周囲に視線を巡らせるが、遠藤が愕然とした様子で視線を倉庫の屋上に向けていた。

その視線の先に居たのは、屋上の縁に腰かけてこちらを見下ろしている黒髪の青年の姿があった。

いったい誰なのか。

その答えは遠藤からもたらされた。

 

「アイエエエエ!峯坂!?峯坂ナンデ!?」

 

 

* * *

 

 

「よう、遠藤。んな忍者を目の当たりにしたみたいな反応してんじゃねぇよ。どちらかと言えばお前の方だろ、言われるの」

 

ずいぶんとまぁ驚かれているが、俺も内心では負けず劣らず驚いているんだが。

マジでなんでいるんだよ、遠藤。

 

「ちょっ、はぁ!?なんでお前がここにいんの!?」

「なんで、とは愚問だな。同じ質問を返してやろうか?」

「ひっ」

「にしても、ずいぶんとまぁ派手に暴れやがって・・・」

「えっと、その・・・」

 

辺りを見渡せば、保安局の局長とその部下らしき人員以外の武装した連中が軒並み全滅していた。

まさかとは思うが、一般市民の目が無いとはいえ、人前で思い切り技能や魔法を使ったな?

 

「遠藤。一応建前とはいえ、俺たちも政府の非公認組織としての体裁はあるんだ。他所の国で勝手にアーティファクトや力を使ってドンパチやってんじゃねぇよ」

「それは、そのぉ、ど~しても引けない事情がありまして・・・」

「あ?」

「はい、すみません・・・」

 

ったく、上の連中から大目玉を喰らうのは間違いないな。

ひとまず倉庫の屋上から飛び降りて、遠藤の元に近づく。

 

「折檻はひとまず後だ。ったく、余計な手間が増えたのか減ったのか・・・」

「・・・少しいいかしら」

 

余計に増えた後処理のことを考えてため息を吐いていると、初老の女性から声を掛けられた。

彼女こそが、イギリスの国家保安局の局長であるシャロン=マグダネスだ。

 

「なんだ?」

「いくつか聞きたいことがあるのだけど・・・まず、あなたは“帰還者”の1人で間違いないわね?」

「そうだ。ついでに言えば、まとめ役も担当している」

「つまり、あなたが実質的な“帰還者”のトップとして考えてもいいのかしら?」

「そうだな。もちろん、交渉に応じるつもりはないが」

「そうでしょうね・・・次に、あなたは今回の件をどれくらい知っているのかしら?」

「だいたい、とだけ言っておこう」

「最後に、彼の問いに答える必要がないとはどういうことかしら?」

「言葉通りの意味だ。今回の“ベルセルク”に関する事案、その撤回の手は打っておいた」

「それはいいんだけどさ・・・いったいどうやったんだ?」

 

その問いは遠藤からもたらされた。

まぁ、答えておくか。

 

「今回の命令を出した上層部の連中に、ちょっとリアリティを持たせた夢を見させてやった。書置きも添えてな」

「・・・具体的には、どんな?」

「ベルセルクによって街は荒廃、外では一般市民がベルセルクに襲われる光景が広がり、そして自身はベルセルクを発症した家族や友人に食い殺される。そこに『この光景を現実のものにしたくなければ手を引け』と一筆添えてやった。恐怖を増幅させるように意識誘導も仕掛けといたし、これで手を引くだろ」

「いや、それはやりすぎじゃね?」

「十分平和的だろ」

 

かなり顔色は悪くなってたし、うわごとのように何かを呟いていたが、生きているだけまだマシなはずだ。

それに、

 

「これは実際に起こり得る未来でもある」

 

俺の言葉に反応したのは、局長と金髪の少女だ。

こっちの少女が、“ベルセルク”の開発者のエミリー・グラントか。

 

「・・・それは、どういうことかしら?」

「適当な死刑囚にベルセルクを投与することで、自国の兵から犠牲を出さずにテロリストやゲリラ兵を掃討する。なるほど、一見スマートにも思えるが、敵に利用される可能性をまるで考えていないのは落ち度だな」

「ベルセルクの製造方法は、現段階ではグラント博士しか知らないはずよ。それに、開発できるだけの設備を整えるのも難しいでしょう」

「別に必ずしも製法を確立させる必要はない。適当な人間を()に捕獲して、体液を抽出して利用すればお手軽に無差別テロを仕掛けられる。あるいは、液体を媒介するなら水道に死体を放り込むだけでも一般市民が数万は死ぬな」

 

俺の話を聞いた局長は押し黙る。

おそらく、局長も上層部もその可能性をまったく考えなかったわけではないはずだ。でなければ、バカが過ぎる。

考えてなお、それでも利益を優先したあたり、救いようがないのには変わりないが。

とはいえ、だ。

 

「まぁ、あんたらが手を出さなくとも、そうなる未来が消えるわけじゃないが」

「・・・キンバリーの背後にいる組織、ね」

「そうだ。ついでに言えば、研究室の内通者も問題だが・・・」

「え・・・」

 

俺の言葉に声を漏らしたのは、エミリー博士だった。

まるで信じられないといったように目を見開いている。

局長は、想定はしていたのか取り乱すようなことはなかったものの、表情は険しいままだ。

俺は視線を遠藤に向ける。

 

「・・・まさか、そういう話はしなかったのか?」

「いや、証拠も何もないし・・・」

「状況証拠ならいくらでも揃ってただろうが・・・」

「ちなみに、あなたはどれだけ情報を掴んでいるのかしら?」

「あくまで状況証拠による推測だが・・・少なくとも、政府が介入する前からベルセルクに関する情報や実物は流出していたと見て間違いない。それこそ、“ベルセルク”が生まれたすぐ後には外部の組織に持ち掛けたんじゃないか?正体も見当はついているが・・・黒幕に吐かせた方が早いだろ。ひとまず、現場の片付けから始めないか?」

 

辺りは裏切者であるキンバリーが率いていた武装集団の死体で死屍累々の様相を呈している。

いつまでもこのままというわけにはいかないだろう。

ひとまず、死体の処理は保安局の面々に任せるとして、

 

「来い、遠藤。折檻の時間だ。あぁそうだな、深淵卿かアビスゲートとでも呼んだ方がいいか?」

「やめろぉ!!」

 

遠藤への折檻は精神的ダメージをゴリゴリ与えていく方針にするか。




耳元でひたすら黒歴史を囁かれ続けたら、自分だったらたぶん死にそう。

ひとまず、すっ飛ばし気味にいきました。
大学が忙しくなり始めて頭痛と吐き気がこみあげてくるようになってきたし・・・。
とりあえず、今回はクリニックから処方してもらった漢方があるんで、それで乗り切る予定です。
ケミカルな薬より漢方の方が健康に良さそうに聞こえるのはなんでなんでしょうね。
いや、副作用がほとんどない分、実際健康にはいいんでしょうけど。
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