二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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ゲームの世界観

尋問はつつがなく終わった。

ケイシスがヒュドラの幹部だったことで少し一悶着あったが、知りたい情報はあらかた引き出せた、といったところだ。

ちなみに、ヒュドラは保安局も手を焼いていたようで、ケイシスからの情報で逮捕にこぎつけれると息巻いていたが、すでに遠藤によって村人にされていたため逮捕が難しくなってしまった。

俺もケイシスがヒュドラの幹部であることは掴んでいたが、まさか保安局と手を組むことになるとは予測できなかったから、同情半分不幸なすれ違い半分の眼差しを送った。

ここで俺たちと協力することにならなければ、ヒュドラの現状を知ることなく比較的穏やかに過ごせただろうにな。

それはさておき、ケイシスの目的はおおよそ以下の通りだった。

ケイシスの目的は、端的に言えば世界の支配。その方法がベルセルクだった。

ベルセルクの活性化までの時間を伸ばした改良型を服用させることで潜在的にベルセルク化させ、日常的に抑制薬を飲まなければならないように仕向ける。そうして得た利益を以てヒュドラ内での地位を向上させ、その権力とベルセルクで世界を裏から支配しようとしたらしい。

エミリー博士を誘拐しようとしたのは、抑制薬に加えてその改良型ベルセルクを作らせるためだ。改良型を生み出すために必要なデータは、すでに協力者によって人体実験を繰り返してある程度得られているらしいが、実物を作り出すとなるとエミリー博士が必要になる。

問題なのは、その潜在的なベルセルクにさせる方法。

それは水を利用したものだ。

ベルセルクは空気感染はしないが、水などの液体を媒介にすれば容易に感染する。ケイシスはベルセルクを上水道やダム、川、浄水場、果てには雨水や海水すらも利用して全人類を潜在的にベルセルク化させる計画を立てていた。

こんなの、アカシックレコードが反応して当然だ。なにせ、完全に世界の危機だったわけだからな。

ただ、本社にあるデータや薬品はすべて破棄したものの、中には当然他の研究所に移送されたものがある。

厄介なのは、その中にダムや浄水場がいくつか含まれていたこと。いずれもヒュドラが関与している施設で、その中に研究所があるらしい。

つまり、これらの施設を真っ先に、なおかつベルセルクを流させる前に制圧しなければならない。

そのため、今回の作戦は保安局だけでなく軍にも協力を要請して行うことになった。

現在は、保安局の特殊部隊と共にヘリコプターに乗り、研究所の一つに向かっているところだ。

ヘリコプターの中には俺と特殊部隊の何人かの他に、遠藤、アレン、パラディ捜査官、さらにはエミリー博士まで乗っている。

だが、その中は微妙な空気に包まれていた。

原因は、まぁわかってる。

 

「・・・あー、その、ミスター・ミネサカ?本当にそれを使うのか?」

 

おずおずと俺に尋ねてきたのは、保安局の特殊部隊総隊長であるバーナード=ペイズだ。

ちなみに、俺と遠藤の正体を上層部に隠すために、ここと他2機のヘリコプターには保安局所属の特殊部隊しかいない。軍の特殊部隊がいる他の場所と比べると数は少ないが、俺と遠藤がいればまったく問題にならない。

そんなバーナードが言っているのは、俺が持っている大鎌“タナトス”のことだ。

 

「そうだが、何か問題が?」

「いや、俺たちは別にいいんだが・・・今回は室内戦も想定している。そんな長物で大丈夫なのか?」

「問題ない。これにはいろいろと機能を詰め込んであるからな。例えば、こーいうこともできる」

 

そう言って、俺はタナトスの機構の1つを発動させた。

すると、タナトスはガシャガシャと音をたてながら折りたたまれ、最終的にカバン程度の大きさになった。

 

「・・・なるほど、そのようにして持ち運んだというわけか。金属探知機に引っかからなかったのが気になるが・・・」

 

バーナードは真剣な様子で呟くが、こいつ自体は宝物庫に入れてるから半分くらいは趣味だ。

もう半分は、宝物庫の存在から意識を逸らすためのミスリードでもある。

今回、俺は転移でこっちに移動してきたわけだが、そのことは局長にも話していない。仮にカメラで確認されようものなら、俺の得物である刀なんて目立つものを持っている人物を見つけられないと不審に思われてしまう。だが、これならもし発見されなくても「俺も遠藤ほどじゃないが隠形はできるんで」と言い訳できる。

 

「あとは、こう」

 

もう一つの機構を発動すれば、タナトスの刃の部分だけが2枚飛び出て来て、刃のつけ根にある持ち手を掴んだ。

 

「これで、狭いところでも使える」

「おぉ、これは・・・」

 

元々二枚刃だったが、それを少し改良して半刃の鎌を2枚合わせるようにして一枚刃にする方針に切り替えた。おかげで、さらに機能を詰め込む余裕ができた。

 

「そして、こう」

 

最後に、中からデリンジャーに近い形状に仕上げたマグナム2丁が飛び出て来た。

 

「こいつは、大鎌の状態でも撃てるようになってる」

「おお・・・!!」

 

バーナードが無邪気な子供の用に目を輝かせている。あと、少し離れたところの対面に座っているパラディ捜査官も興味津々だ。

しまったな、少し調子に乗って見せすぎたか・・・。

ていうか、

 

「おい、遠藤。お前からもなんか気の利いたことを言えよ。まさか会話まで全部俺に丸投げするつもりじゃないだろうな」

「いや、俺にどうしろって言うんだよ」

 

わざわざこんなときまで気配を消さなくてもいいんじゃないか?

バーナードやパラディ捜査官も「そういえば!」みたいな表情になった。

 

「こんな微妙な空気になってるの、峯坂のそれのせいだろ?それしまった方が早いんじゃないの?」

「バカ言え、もうすぐ戦場だ。すぐに使えるように手元に置いておくに越したことはないだろう」

「それはそうだけど・・・」

「なら、お前は博士にでもかまってろ。それなら適材適所だろ」

「かまうって、そんな猫みたいに・・・」

 

今回、エミリー博士も本人のわがままがあって同行しているが、気丈に振舞っているものの、その表情には陰りがある。

とはいえ、それは仕方のないことだ。

 

(そりゃあ、研究室の裏切者が自分の恩人とは思いたくないわな)

 

ベルセルクを巡る事件のすべての原因とも言える、ベルセルクの情報と実物を外部に流出させた裏切者は、エミリー博士が所属する研究室の教授でエミリー博士の恩人でもあるレジナルド=ダウンと呼ばれる男だ。

エミリー博士が無理を言って同行したのも、その真意を探るためでもある。

覚悟はある程度決まっているだろうが、それでも感情は別だろう。

そんなエミリー博士にとって頼りになるのが、他でもない遠藤だ。

見た感じ、まず間違いなくエミリー博士は遠藤に惚れている。それもベタ惚れだ。さらに、遠藤に恋人がいることもまだ知らないようだ。

となれば、エミリー博士には遠藤を押し付けておけば、とりあえず問題はないだろう。

ついでに、魂魄魔法と再生魔法で映像記録を録って後でハジメに見せよう。ハウリア込みのハーレム仲間ができたと喜ぶに違いない。

そんなことを、あくまで軽い調子で話していると、バーナードが俺たちに視線を向けていることに気付いた。

それは遠藤も同じなようで、「ちょっとはお前も喋れ」と遠藤に視線を向けた。

 

「どうしたんすか、隊長さん」

「いや、実に落ち着いていると思ってね。敵となれば君たちほど恐ろしい存在はいないと思うが、味方として共に戦えると思うと、これほど頼もしい存在はないな」

「まぁ、待ち構えているっていっても、ただの脳筋集団でしょう。純粋に騙されてベルセルク化してしまう人には申し訳ないけど、データを見た限りブラックな人間が大半みたいだし、それほど罪悪感もない。明確な弱点もある。落ち着いて戦えば、隊長さん達だけでもどうにでもなると思いますよ?」

「随分と軽く言ってくれる。私より、よほど修羅場を抜けた戦士のようだな。似たような存在との戦闘経験でもあるのかい?」

 

ベルセルクと似たような存在、ねぇ。特徴だけで言うならブルタールあたりとかか?

でも、あの辺の雑魚と比べてもなぁ。

 

「空飛んだり、当たり前のように音速移動したり、攻撃・防御無視の分解能力を持ってたり、そんなのがゴキブリレベルで湧いてきたりってのと比べれば、ベルセルクとか雑魚以外の何物でもないよなぁ」

「「「・・・」」」

 

思わず出た呟きにバーナードたちは黙った。

「うそでしょ?」みたいな視線を遠藤に向ければ、遠藤も遠い目になったのを見て「え?冗談だよね?ね!?」みたいな感じになっている。

ただ、結果的に隊員たちの士気が上がったから、結果オーライといったところか。

 

「もうすぐポイントに着きます!ご準備を!」

 

すると、ヘリのパイロットから報告が届いた。

降下ポイントは浄水場から少し離れた場所にある材木置き場だ。浄水場は一帯を森に囲まれた川の付近に建てられており、そこに併設する形で研究所が存在している。

方針としては、降下ポイントから相手にバレないように接近し、一気に制圧する。関連施設に襲撃を悟らせないようにさせるのがポイントで、静かかつ迅速に、ベルセルクを使わせる暇も与えずに制圧するのが理想だ。

とはいえ、ただでさえ出し抜かれていたのが現状だ。やすやすと事が上手く運ぶとは限らないだろう。

 

「っ、待ってくれ、パイロットさん!森の中に人がいる!10人以上だ!」

「なっ。まさか」

 

着陸しようと高度を下げようとしたパイロットに遠藤が警告を飛ばす。

俺も小窓から外の様子を覗いて状況を確認する。

 

「伐採場の職員、ってのはないか。ただの木こりが、降下ポイントを包囲するように移動するわけもない」

 

やはりと言うべきか、敵は襲撃を警戒していたようで、すでに人員を配置していたようだ。

見た限りはただの人間の犯罪者だが、ただの人間であるはずがない。おそらく、体内にベルセルク入りのカプセルが仕込まれているはずだ。

 

「おそらく、もう連絡もされているか・・・」

「そうでしょうね。もう隠密制圧の方針は意味がないっすよ」

「ああ、強襲しかない」

 

バーナードはパイロットに命令を飛ばし、直接浄水場に向かおうとする。

だが、このままただで行かせてくれるはずもなさそうだ。

 

「パイロット。そのまま最短距離で向かってくれ」

 

俺がそう言った次の瞬間、森の中から携帯地対空ミサイルが発射された。

 

「ミサイルッ!来るぞ!」

「“黒渦”」

 

警告とほぼ同時に、“黒渦”を発動してヘリの周囲に重力場を構築した。ミサイルは重力場によって軌道を逸らされ、あらぬ方向へと飛んでいく。

 

「遠藤」

「あいよ」

 

短く遠藤の名前を呼べば、遠藤もすぐに俺の意図を察して印を組んだ。(意味はない)

ヘリの外に分身体を出した遠藤は、周囲に12本の苦無を展開し、射出、森の中に潜んでいるベルセルクの脳天を貫いた。

パイロットも次々と現れる非常識な光景を前に目を白黒させるが、バーナードの指示ですぐに持ち直して浄水場に急行した。

やがて、目的地の浄水場が見えてきた。

浄水場施設の傍には研究所らしき建物も建てられており、ヘリでの移動も想定しているのか二重のフェンスで囲われている内側には大きな広場とヘリポートも存在していた。

だが、やはり連絡がいっていたようで、施設から次々と人間が出てきた。どう見てもただの警備員でないのは明らかで、中には線の細い女性や老人の姿もあった。まず間違いなく、すべてベルセルク化すると見ていい。

 

「パイロット、ハッチを開けてくれ。俺と遠藤で降下場所を確保する」

 

バーナードとパイロットが苦い表情を浮かべながら作戦を立てていたが、そこに待ったをかけた。

 

「まさか、2人で行く気か?相手は脳を破壊するしか殺しきれない怪物集団だぞ?」

「逆に言えば、致命傷を与えれば殺せる、ということでもある。さすがに不安定な足場の遠距離から片付けていたら時間がかかるし、相手に逃亡される可能性が高い」

「それは・・・確かに、その通りだ。だからこそ、気が付かれないよう5㎞以上離れたあの伐採場を着陸ポイントにしたわけだしな」

 

バーナードが頭をガシガシと掻きむしる。どうやら、出鼻をくじかれたツケを、本来なら無関係のはずだった俺たちに払わさせるのが納得し難いらしい。

別に俺は気にしてないし、そんな心情を慮る必要もないのだが、遠藤の方が気を遣った。

 

「関係ないのに、なんて思わないで下さいよ。むしろ、これは俺の戦いです。エミリーの行く道に立ち塞がるものを排除し、彼女を守り、手を伸ばしたその先へ導く。むしろ、隊長さん達の方が俺達の協力者なんです」

「ミスターアビスゲート・・・」

「浩介です。まぁ、そういうわけですから、皆さんは援護をお願いしますよ?あぁ、それと念の為、俺は浩介です」

 

自分の名前を強調しながらも、遠藤は不敵な笑みを浮かべる。

それを前に、遠藤の実力を知っているが故に、隊員たちは俺たちに頼もしさと奮い立つ感覚を覚えたのか、勢員がキリっとした表情と敬礼で遠藤の指示に応えた。

 

「「「「「イエスッ、アビスゲートッ!!」」」」」

「だからっ、俺は浩介だっつってんだろうがっ!!わざとか!?わざとなのか!?」

「ミスターアビスゲートッ!間もなく上空に着きますよ!本当に高度を下げなくていいんですね!?」

「ええいっ、パイロット!お前もかっ!高度はそのままでいいよ、ちくしょうめっ!」

「アビス!奴等がベルセルク化し始めたぞ!」

「隊長ェ!なにフレンドリーな感じに呼んでんだ!強制ノーロープバンジーの刑してやろうか!?ベルセルクは20体くらいっすね、こんちくしょう!」

「アビスゲートさん!ハッチ開放します!ご武運を!」

「完璧な敬礼ありがとう!でもあんたは後で殴る!それじゃあ一番槍、行ってくるぞ!」

「さぁ、あなた達!刮目しなさい!アビスゲート様のご降臨よ!」

「駄ネッサ、てめぇは後で素敵な村人にしてやるぅ!覚悟しとけ!」

「アビッ、こうすけっ。頑張って!」

「おいおいおいおい、エミリーちゃん。今、俺のことアビスゲートって呼びかけたろ!?どういうこと!?割とショックなんだけど!?」

 

・・・隊員たちのテンションが爆上がりしてるのは、まだ許そう。アメコミヒーローを前にすればテンションの1つや2つ上がってもおかしくはない。

ただ、影の薄さNo1の遠藤がいながら、隣にいる俺には一切目もくれないのが、無性に腹が立つ。ベルセルクの投擲を防いでいる手間をかけているのに、だ。

なんかムカつく。

というわけで、

 

「おら、アビスゲート。さっさと逝ってこい」

「あ」

 

遠藤の背中を強めに蹴飛ばした。反省も後悔もしない。

 

「こ、こうすけぇえええっ!」

 

エミリー博士の悲鳴を背に受けながら、俺も遠藤に続く形でヘリから飛び降りる。

ひとまず、さっき遠藤が言ったように、ベルセルクの数は見た感じ20とちょっと。俺と遠藤で10体ずつ、といったところか。

遠藤が宙を蹴って密度が濃い場所に降り立ったのを確認してから、俺も遠藤とは逆サイドに降り立つ。

遠藤を先に落としたおかげで、俺の着地点の傍にベルセルクはいなかった。

とはいえ、着地した気配を感じ取ったのか、ベルセルクが10体ほど俺のところに向かってくる。

 

「お前ら相手じゃ準備運動にもならないが、現実でゲームみたいな奴らとやり合うのは稀だ。せっかくだ、少し遊んでやる」

 

理性の無い獣同然の相手に返答を期待したわけではないが、そう言って俺はタナトスを一閃した。

すると、前にいた3体のベルセルクの首がゴトンと地面に落ちる。刃に高熱を発生させておいたため、傷口は焼き切れて血は噴き出さない。

俺はタナトスをベルセルクの群れへ向け、宣言した。

 

「少しは楽しませてくれよ、獣共」




今回は楽めにいきました。
とりあえず、忙しいピークは過ぎたので少しは落ち着けそう。
まぁ、忙しくないわけではないですが。
最近になって一気に暑くなってきましたし、体調管理を気を付けねば・・・。

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