二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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とりあえず、消し飛ばそう

通路を通り抜けてアレンの元に追いつくと、バーナードの部隊と遠藤の分身が合流してすでにヴァイスを捕縛し終えていたところだった。

 

「なんだ、もう終わってたのか」

「いや、どちらかと言えばそれはこっちの台詞なんですけど。峯坂さん、もうあの化け物を倒したんですか?」

「あぁ、細胞1つ残らず消し飛ばしたから、問題ないはずだ」

 

事もなげに言うと、アレンが頬を引きつらせた。

まぁ、そりゃそうなるか。あの肉塊の前で合流するまで、俺は大鎌とマグナムだけでベルセルクを圧倒していて、魔法は見せていない。肉塊の前で使ったのも、簡単な障壁だけだ。

まさか、あの化け物を跡形もなく消滅させる攻撃手段を持っているとは思っていなかっただろう。

正直、最初はできるだけ力を隠して注目されすぎない程度に事を進めようと思っていたが、もっと派手目に暴れて牽制しても良かったかもしれない。

結果的に中途半端な形で終わらせてしまったのは、少しもったいなかったかもしれない。

とはいえ、後は遠藤の報告を待つだけか。

 

「遠藤、そっちはどうだ?」

「あぁ、本体もなんとか間に合ったみたいだ。これなら・・・ッ、峯坂!すぐにこっちに来てくれ!」

 

途端、分身が切羽詰まった表情になった。

バーナードたちも何が尋常ではないことが起こったのかと身構える。

 

「場所は、あの通路を進んだ先でいいな?」

「あぁ!」

「少し待ってろ・・・見つけた」

 

さっきの地下駐車場と通り抜けて来た通路から構造を逆算し、おおよその位置にあたりをつけると、遠藤の魔力を確認できた。

本来なら遠藤を見つけるのは至難の技なんだが、今回は魔力を高めてくれていたおかげですぐに見つけることができた。

他の気配も探ってみるが、1つ弱々しいというか、ほとんど死んでいる気配を感じる。

どうにも面倒な予感しかしないが、ここで断ったら断ったで面倒なことになるのは間違いない。

ひとまず、まずは遠藤の言い分を聞いてからだ。幸い、今なら半日程度なら蘇生できる範疇だ。

移動は・・・転移でいいか。すでにアレンに見られているから今さらだ。

手早く転移で移動すると、遠藤の前には腹部が内側から破裂して血まみれになっているダウン教授が横たわっており、エミリー博士はその前で呆然と座り込んでいた。

 

「遠藤、状況は?」

「こいつが貯水場で自爆しようとした。ベルセルクを流し込もうとしたんだ。どうにか血とか肉は落ちないようにしたから、ベルセルクは大丈夫・・・だと思う」

 

遠藤の報告を聞きながら、俺も貯水場の方を見て確認する。

“過去視”も使って確認するが、遠藤が言った通り、ベルセルクは流出していないようだ。

だが、そうだな・・・使えなくもない、か。

 

「遠藤、時間がないからこれだけ聞いておく。お前は、本気なんだな?」

 

時間が無い、という言葉に遠藤が顔を強張らせるが、すぐに俺の質問に対し力強くうなずく。

 

「あぁ。頼む、峯坂っ」

「貸しだからな。遠藤はバーナードの方に状況を報告しろ」

 

そう言って、俺はダウン教授に再生魔法と魂魄魔法を施す。

再生魔法によって破裂した腹部を元に戻し、魂魄魔法で霧散しそうになっているダウン教授の魂魄を保護し、再び肉体に定着される。

その様子を、エミリー博士は奇跡を目の当たりにしたかのような表情で見つめる。

ダウン教授の蘇生には、1分もかからなかった。

とはいえ、余計な手間がかかるのを防ぐために、まだ目が覚めないようにしたが。

 

「えっ、え?」

「遠藤、そっちはどうだ?」

「ダメだ。制御装置にウィルスが流しこまれてて、解除に8分かかるらしい」

「そうか」

 

戸惑いを隠せないエミリー博士を横目に俺と遠藤は状況を確認する。

そして、このままではどうすることもできないことがわかった。

そして、遠藤は申し訳なさそうに俺を見た。

 

「すまない、峯坂・・・」

「まぁいい。俺がやってやる。排水施設には誰も行かないようにさせとけ」

 

そう言って、俺は端末を取り出して画面を操作する。

 

「屋上に行くぞ。そっちの教授は俺が担ぐから、遠藤はパラディ捜査官の方を運べ」

「わかった」

「こうすけ・・・?」

「エミリー、大丈夫だ。情けない話、俺には何もできないけど・・・目の前の魔王陛下にどうにかしてもらうさ」

 

 

* * *

 

 

俺が教授を担ぎ、遠藤がパラディ捜査官に肩を貸して、浄水施設の屋上にたどり着いた。目下の下流には配水施設も見える。

 

「それで、峯坂。どうするんだ?俺はてっきり、魔法でどうにかするものだと・・・」

「まぁ、それでもいいんだが、ちょっと思うところがあってな」

 

たしかに、俺なら再生魔法や変成魔法で貯水所に流れ込んだベルセルクを除去することができる。

まぁ、別に流れ込んでないが。

その手段をとらないのは、下手に『利用価値がある』と思わせないためだ。

ただでさえ、パラディ捜査官とエミリー博士だけとはいえ、死者蘇生の現場を見せてしまった。そこに『ベルセルクを無力化する方法を持っている』と思われたら、再び狙われる可能性も0ではない。

遠藤が痛い目にあわせているとはいえ、そのショックを越える価値を見出されたら面倒だ。

ならどうするか。

 

「とりあえず、『手を出したらこうなるぞ』ってことで、見せしめに消し飛ばす。別にやんなくてもいいんだが、保険は大事だからな」

「え?やんなくてもいい?まさかお前・・・」

「ね、ねえ、こうすけ。あれって、なに?」

 

こういうのは察しのいい遠藤の言葉を遮って、エミリー博士が顔を引きつらせながら遠藤に問いかけてきた。

天を仰いでいる視線の先には、もう1つの太陽と言うべき、場違いな光が輝いている。

その質問には、俺が答えた。

 

「ベルセルクは空気感染しない。液体状でも、蒸発させれば問題ない。だから、施設ごと圧倒的熱量で消し飛ばそう、というわけだ。とりあえず、直接見ないようにしとけ。目に良くないからな」

 

次の瞬間、天から降り注いだ光の柱が曇天を吹き飛ばし、施設はもちろん、その周辺も更地にし、巨大なクレーターを作り出した。

ハジメ作・太陽光集束型レーザー“バルスヒュベリオン”。

ハジメが操作権を持っている兵器の中でも割とシャレにならない破壊力を持っているそれを、ちょろっと魔法でハッキングして勝手に使わせてもらった。

エミリー博士とパラディ捜査官が白目を向いて軽く失禁している中、周辺の地形を変えて施設を消滅させた光が消えていったタイミングで、端末に電話の通知が届いた。

相手は、当然と言うかハジメだった。

 

「もしもし」

『おう。ちょっといいか、ツルギ。なんか俺のバルスヒュベリオンが勝手に使われたみたいなんだが・・・』

「あぁ、俺だ」

『だと思った。俺の兵器を乗っ取れる奴なんて、ツルギ以外に思い浮かばん。んで、どういうことだ?』

「イヤなに。実は諸事情でイギリスにいるんだが、ちょっといろいろとあってな。まぁ、詳しいことは後で話す。本当は事後処理もけっこうあるんだが、遠藤がいるから任せりゃいいし」

『あ?遠藤もいんのか?マジで何があったんだ?』

「後で話す。っつか今からそっちに行く。一から話すと長くなるからな。あぁそうだ。どうせならティアたちも一緒でいいか?イズモには言ったが、ティアたちには何も言わないまま出ちまったから、その辺の説明もしたい」

『あいよ』

 

そう言って、俺は通話を切って端末をしまった。

 

「そういうわけで、俺が手を貸すのはここまでだ。後はわかってるな?」

「あ、あぁ」

「なら、俺はこれで帰る。一段落したら報告入れろよ」

 

そう言って、俺はさっさと自分の家に転移した。

 

「ただいま~っと」

「ちょっとツルギ!どこ行ってたのよ!」

 

帰宅早々、ティアに掴みかかられ、そのままグワングワンと揺さぶられる。

 

「わ、悪い。ていうか、イズモから聞かなかったのか?」

「イギリスに行った、としか聞いてないわよ」

 

ティアの後ろから、雫が非難半分呆れ半分の眼差しで見つめてくる。

や、やめろ。そんな目で俺を見ないでくれ。

 

「そ、そうか。その、なんだ、勝手に出て行って悪かった」

「それで、いったいどういう用事でイギリスに行ったの?私たちに何も言わずに出たってことは、それなりに危ないことでもあったの?」

「実は、それに関してはハジメにも話すことになってる。だから、イズモとアンナも呼んでくれ。今からハジメの家に行くから」

「そう・・・しっかり説明してもらうから」

 

そう言って、雫はアンナとイズモを呼びに奥へと戻っていった。

残されたのは、俺と俺の胸に顔をうずめるティアだけだ。

 

「・・・その、なんだ。何も言わずに出て行って悪かった」

「・・・どうして、何も相談しなかったの?」

「詳しいことはハジメのところで話すが・・・時間的にけっこうギリギリだったんだ。それに、隠密にことを済ませる必要があった。本当なら、イズモも連れて行った方がよかったんだろうが・・・イズモは空間魔法での転移ができないし、事情を説明するためにも残ってもらったんだ」

「そんなに、大切なことだったの?」

「あぁ。端的に言えば、世界の危機を救ったってところだな」

「・・・なにそれ」

 

思わず笑いをこぼして、ようやくティアは俺から離れた。

 

「ちゃんと、全部話してもらうから」

「わかってる」

「ツルギ、帰って来たのか」

「お帰りなさいませ、ツルギ様。それで、今からハジメ様のところに行くんですよね?」

 

ティアに許しをもらったタイミングで、イズモとアンナがやってきた。

 

「あぁ。これからハジメにも土産話を聞かせる。いろいろと面白い話があるから、楽しみにしてくれ」

 

そう言って、俺はハジメの家へとゲートを開いた。

さて、事件のこともそうだが、遠藤のことを話した時のハジメ側の反応が楽しみだ。

少しワクワクしながら、俺たちはゲートをくぐってハジメ宅へと足を踏み入れた。




深淵卿編は次回で終わりです。
んで、深淵卿編を区切りとして本作は連載を終了とします。
本当は他にも書きたい話がいろいろとあったんですが、このままだとダラダラ続くだけになりかねないので、この辺りで区切りとします。
突然で中途半端な形になってしまいますが、お許しください。

・・・なんか、遠藤が何もできてねぇな。
まぁ、ツルギと比べたら出来ないことの方が圧倒的に多いんで、仕方ないって言えば仕方ないですが。

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