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「一撃必殺ですぅ!」 ズガンッ!!
「・・・邪魔」 ゴバッ!!
「うぜぇ」 ドパンッ!!
「よっと」 ズパンッ!!
「ここ!」 ドゴッ!!
ユエたちのファンらしき人々に見送られた俺たちは、魔力四輪に乗ってライセン大峡谷に入り、襲ってくる魔物のすべてを一撃で仕留めながら進んでいた。
今いるのは、ハジメがオルクス大迷宮から出てきたという隠し通路を通り過ぎて5日ほど経ったところだ。
ライセン大峡谷では、魔物たちが性懲りもなく襲い掛かってくるが、シアがドリュッケンで叩き潰し、ユエが無理やり至近距離で発動した魔法で燃やし尽くし、ハジメがドンナーで頭部を撃ちぬき、俺が黒刀で斬り刻み、ティアがフェンリルで殴り飛ばして蹂躙していた。
ライセン大峡谷の魔物を片手間で倒し、野宿もしながら迷宮らしきものを探すが、今のところはそれらしきものは見つからないままだ。
今も、特に収穫もないまま野営の準備をしているところだ。
「はぁ~。やっぱ、ライセンの何処かにあるってだけじゃあ、大雑把過ぎるよなぁ」
「ライセン大峡谷自体、かなり広いからな。結果論だが、もうちょい情報収集してから探した方がよかったかもな」
「まぁ、大火山に行くついでなんですし、見つかれば儲けものくらいでいいじゃないですか。大火山の迷宮を攻略すれば手がかりも見つかるかもしれませんし」
「まぁ、そうなんだけどな・・・」
「ん・・・でも、魔物が鬱陶しい」
「あ~、ユエさんには好ましくな場所ですものね~」
ライセン大峡谷に入ってから、魔物と戦闘するたびにユエのフラストレーションがたまっていた。
魔晶石シリーズ(神結晶を用いたアクセサリーで、魔力貯蔵庫)のおかげで今のところ魔力切れの心配はないが、発動しにくいことには変わりない。
シアの言う通り、魔法を扱う者にとってはここ以上にやりにくい場所はないのだ。
「まぁ、その代わりに俺たちが多めに片付けてるんだけどな」
「だから、気にしなくていいわよ」
「・・・ん」
「そういえば、ツルギ。そいつの使い心地はどうだ?」
「正直、暴れ馬もいいところだな。だが、悪くはない」
ハジメのいう“そいつ”とは、俺の使っている黒刀のことだ。
この黒刀は、元から素人が適当に振っても鋼鉄を切り裂けるほどの切れ味を持っている。俺も試しに一回全力で振るったのだが、その時は魔物どころか後ろの崖までおよそ100mほどの裂創を地面に刻んだ。
今使っていても、力加減を間違えれば余計なものまで斬ってしまうので、扱いは難しい。だが、その分使いこなせればこれ以上に強力な刀はないだろう。
「ティアの方もどうだ?」
「悪くないわね。魔法の方は環境もあってあまり使いこなせてはいないけど、それでもすごい馴染んでいるわ」
ティアの装着しているフェンリルも、ライセン大峡谷の環境のせいもあって属性魔法のギミックはあまり使えていないが、その他の機構は問題なく使えている。
ちなみに、俺たちの使っている野営セットはすべてがアーティファクトで、空調や冷蔵庫、さらには火いらずの調理器具に“風爪”が付与された包丁、スチームクリーナーモドキなんかも完備してある。
“神代魔法超便利”。
それが俺たち共通の意見だった。
料理は、俺とシアが交代で担当している。
本当はどっちかだけでも十分なのだが、俺は普通に料理が好きだし、シアも自分の手料理をハジメとユエに食べさせたかったため、妥協案として当番制になった。
また、寝るときは班を三つに分けた。
就寝班が3人、見張り番と迷宮捜索班が1人ずつだ。
迷宮捜索といっても、そこまで遠いところまで行くわけではなく、離れても徒歩で数十分くらいだ。
今は、俺が迷宮捜索、ハジメが見張り番、女性陣が就寝している。
「見つからねぇ・・・」
なんかデジャヴだなぁ、と思いつつも、そう口にせざるを得ない。
結局、なんの収獲もないまま野営地に戻る。
「お、ツルギ。なんかあったか?」
「いいや、なんもない・・・ん?1人いないが?」
テントの中の気配を探ってみると、二人分の気配しかない。
「あーいや、シアがな・・・」
「ハ、ハジメさ~ん!ユエさ~ん!ティアさ~ん!大変ですぅ!こっちに来てくださぁ~い!あ、ツルギさん、戻ってきたんですね!ちょうどよかったですぅ!」
噂をすれば、どこかに行っていたらしいシアが戻ってきたが、なにやら大声で叫びながら呼んでいる。魔物を呼び寄せる危険があるというのを忘れるくらい興奮しているようだ。
一応野営セットをしまってからシアがいる方へと向かうと、巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれ掛かるように倒れおり、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。方向的には、俺が探索した方と正反対だ。
隙間の前では、シアが大きく手を振っている。その表情は、興奮に彩られている。
興奮したままのシアに連れていかれてハジメが若干引き気味に、ユエは鬱陶しそうに顔をしかめる。
とりあえず、言われるままに隙間の中に入ると、中には思ったよりも広い空間があり、天眼で奥の方を見ると、なにやら看板らしきものが・・・
「・・・なんだ、あれ?」
「ん?どうした、ツルギ。なんか見えたのか?」
「いや、まぁ、見えたって言えば見えたんだが・・・とりあえず、行ってみよう」
俺の煮え切れない態度にハジメたちが首をひねりつつ奥へと進んでいく。
半ばまで近づくと、ハジメたちにも看板になにが書いてあるのか見えたのだろうが、その書いてある内容というのが、
『おいでませ!ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪』
なにやら丸っこい字で書かれていた。!や♪が妙に凝っているのがなんだか腹が立つ。
「・・・なんじゃこりゃ」
「・・・なにこれ」
「・・・なんなの、これ」
ハジメとユエとティアの声がぴったりと重なった。
まさに『信じられないものを見ている』ような表情だ。
「何って、入口ですよ!大迷宮の!おトイ・・・ゴホン、お花を摘みに来たら偶然見つけちゃいまして。いや~、ホントにあったんですねぇ、ライセン大峡谷に大迷宮って」
能天気なシアの声にハジメたちも硬直から抜けるが、どのみちなんとも言えないような表情になった。
それと、シアが外に出ていたのはそういうかことか。
そんな中、ハジメとユエは顔を見合わせる。
「・・・ユエ、マジだと思うか?」
「・・・・・・・・・ん」
「長ぇ間だな。根拠は?」
「・・・ミレディ」
「やっぱそこだよな・・・」
「えっと、どういうことだ?」
「オスカーの手記の中に、ライセンのファーストネームとして“ミレディ”の名前が出てきたんだ。だから、ここがライセンの大迷宮で合ってるんだろうが・・・」
「・・・なんでこんなにチャラいんだよ」
ハジメの言う通りなら、ここがライセンの大迷宮である可能性は高いのだが、それにしては文脈がふざけにふざけている。未だに誰かの悪ふざけなのではないかと疑ってしまう。
「でも、入口らしい場所は見当たりませんね?奥も行き止まりですし・・・」
そんな俺たちの微妙な心理に気づかないまま、シアは入り口を探すためにうろちょろしているが、
「おい、シア。あんまり・・・」
ガコンッ!
「ふきゃ!?」
「あまり動くな」とハジメが注意しようとしたところで、忍者屋敷の仕掛け扉みたいに壁面がぐるりと回転し、それに巻き込まれて消えていった。
「「「・・・」」」
「・・・ここだな、大迷宮」
おそらく、あれが大迷宮の入り口で合ってるのだろう。
ただ、シリアスが欠片もないのは、どうにかならないものか。
俺たちはため息を吐きつつも、シアが消えていった回転扉に手をかける。
すると、先ほどのように壁面が回転し、元に戻ったところでピタリと止まる。
ヒュヒュン!!
次の瞬間、無数の風切り音が響いた。
俺の“夜目”は、その正体をすぐに暴いて即座に黒刀を鞘に納めたまま振るう。
俺たちに向かって飛来したなにかは、すべて叩き落されるか背後の壁に刺さった。
床に落ちたものを拾い上げてみれば、それは20本ほどの漆黒の矢だった。おそらく、浮足立っているところに飛ばすことで入ってきた者を殺すつもりだったのだろうが、ある程度予想できていた俺たちには特に問題なかった。
俺たちが矢を叩き落したと同時に、周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出す。俺達のいる場所は10m四方の部屋で、奥へとまっすぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版があり、それを見てみると、
『ビビった?ねぇ、ビビっちゃた?チビってたりして、ニヤニヤ』
『それとも怪我した?もしかして誰か死んじゃった?・・・ぶふっ』
女の子らしい丸っこい字で、そんな風に彫られていた。『ニヤニヤ』と『ぶふっ』の部分が妙に強調されているのがまた腹立たしい。
そんな俺たちの心情は、見事に一致していた。
すなわち、「うぜぇ・・・」と。
そこでふと、俺はあることを思い出した。
「そういえば、シアは?」
「「「あ」」」
俺の疑問に、ハジメたちもそう言えばと後ろの回転扉の方を見る。
この扉は半回転して止まるから、おそらくもう一度これを作動させると・・・
「うぅ、ぐすっ、ハジメざん、ヅルギざん・・・見ないで下さいぃ~、でも、これは取って欲しいでずぅ。ひっく、見ないで降ろじて下さいぃ~」
いた。壁に縫い付けられる形で。もっと言えば、ピクトグラムのように体を折り曲げており、稲妻形に折れ曲がったウサ耳もプルプルとふるえている。
ただ、それ以上に問題なのが、シアの足元が濡れていることだ。
これは、おそらく、そういうことなのだろう。
俺は何も言わずに、通路の方に視線を固定した。
背後のシアも、あらかじめ済ませておかなかった自分を呪っている。
少し待つと、シアも磔から解放され、着替えも済ませたようだ。
そこで、例の石板を発見し、無言でドリュッケンを取り出して思い切り殴りつけた。
当然、石板は木っ端微塵になるが、それでも何度もドリュッケンを振り下ろす。
だが、砕けた石板の下の地面の部分にもなにやら文字が彫られており、そこには、
『ざんね~ん♪この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~、プークスクス!!』
「ムキィーー!!」
これにシアがついにマジギレし、さらに激しくドリュッケンを振るい始めた。
おそらく、収まるまでしばらく待つしかないだろう。
ドゴォンッ!!
突然、背後ですさまじい衝撃と爆音が響いた。
音のした方を見ると、そこではティアが壁に向かって思い切り拳を突き出しているところだった。表情は陰に隠れて見えないが、そんなティアは、「こんなんじゃまだ足りない!!」とでも言わんばかりに繰り返し壁を殴りつけている。
発狂しているシアと静かにブチギレているティアを尻目に、思わずつぶやく。
「ミレディ・ライセンだけは、解放者云々関係なく人類の敵でいいな」
「・・・本当にな」
「・・・激しく同意」
ライセン大迷宮攻略の幸先がとても不安になる俺たちだった。
ちょっと短めにして、次回は結構長くなるかなぁ、と。
ミレディちゃん、見た目は可愛いのに・・・。