ゴーレムたちの動きは巨体に似合わず俊敏で、見た目もあってなかなかの迫力がある。
だが、さすがに対処できないほどではない。
「はぁっ!!」
先手として、俺は跳び上がって黒刀を一閃させて、複数のゴーレムをまとめて斬り伏せる。
パッと見ただけでも、3,4体くらいはまとめて切断できた。
後ろにいた2体のゴーレムが斬られたゴーレムを乗り越えて俺に襲い掛かってくるが、俺に焦りはない。
ドパンッ!ドパンッ!
俺の後ろから銃声が2回響き、二条の閃光が狙いたがわず2体ともの頭部を撃ちぬいて、よろめかせた。
ハジメのドンナーとシュラークは普段の威力よりもかなり落ちているが、それでも地球の対物ライフルよりもはるかに威力がある。あの程度のゴーレムなら、十分に通じるようだ。
それでもゴーレムたちは数に物言わせて突進してくるが、そのまま着地した俺は地面すれすれを走り抜けて今度は足下を斬りつけた。
いくら巨体に見合わない機動力を持っていても、質量まで小さいわけではない。見た目通りの重量を持っているなら、簡単にバランスを崩すはずだ。
狙いにたがわず、ゴーレムたちはバランスを崩して次々と倒れこんでいく。
「はああぁぁぁ!!」
「でぇやぁああ!!」
隙だらけとなったゴーレムに、ティアとシアが容赦なしにそれぞれ拳と大槌を振り下ろした。
倒れこんだゴーレムにこれを防ぐことはできず、すさまじい衝撃と共になすすべなく頭部を砕かれた。
他の盾を構えて衝撃をしのいだゴーレムたちがそれぞれ大剣を構えてティアたちに斬りかかるが、2人はすぐに体勢を整えて背中合わせになり、ゴーレムたちに突撃していく。
シアの人外の膂力とドリュッケンのショットシェルがゴーレムを粉砕し、ティアのフェンリルの爪牙と拙いながらも俺が教えた駆け引きでゴーレムを翻弄し砕く。
「へぇ、2人ともやるなぁ」
近くにはユエとハジメもいるし、向こうは特に問題はないだろう。
「俺も負けてられないな」
向こうのゴーレムが30体なのに対して、俺一人にゴーレム20体。
普通に考えれば、なすすべもなくやられるだろう。
だが、ハジメたちは俺の方を気にしていない。
つまり、これくらいなら問題ないと判断しているのだ。
俺も、それくらいの期待には応えなければならない。
「それじゃあ、いくぞ!!」
ゴーレムたちが大剣を振り上げているところに、俺は懐に潜り込んで再び足元を切断する。
ゴーレムたちが倒れこんだところに、俺は今度は次々に腕を斬り落としていく。
そうして立ち上がれないところに、最後に首を切断する。
およそ1分くらいで、俺のところにいるゴーレムは半分ほどになった。
だが、ここで予想外の事態が起こる。
「あ?元に戻ってるのか?」
見てみれば、首と四肢を斬り落としたゴーレムたちが全身が眼と同じ光を纏い、ガラガラと音をたてながら瞬く間に再生していた。
「・・・さすがに、これはやばいな」
再生するなら、再生速度を上回るスピードでゴーレムを倒し続ければいいのだが、そうするには数が多いし再生速度も速い。
ならば、ゴーレムの動力源となる核を狙って斬ればいいのだが、
「・・・なくね?」
“魔眼”でくまなく探しても、どこにも核らしきものは見当たらない。ゴーレムの全身に魔力がまとわりついているだけだ。しかも、床からも材料を調達している。
さて、どうしたものかと思いながらもゴーレムの群れを切り裂いていくと、とてつもない爆発音が響き、同時に俺の相手をしているゴーレムの1体をすさまじい水流が貫く。
そちらを振り返ると、ハジメたちが俺の方に向かっていた。後ろをみれば、もうもうと煙が立ち上っている。どうやら、手榴弾を投下したようだ。
「ツルギ!強行突破だ!」
「わかった!」
即座に周囲のゴーレムの足を斬り落とし、ハジメたちについていく。
殿は遠距離攻撃ができるハジメに任せ、俺たちは一足飛びに奥の祭壇に飛び乗り、俺とユエで扉を調べる。
「ユエさん!ツルギさん!扉は!?」
「ん・・・やっぱり封印されてる」
「ちょいとめんどくさいな。ユエ、こっちは任せる。ゴーレムは俺とハジメで相手をする。シアとティアはここで倒し損ねたゴーレムを頼む」
「ん!」
「わかったですぅ!」
「そっちは任せたわよ!」
「うし、行くぞ、ハジメ!」
「あいよ!」
俺の指示にハジメたちは文句を言わずに従い、それぞれ動く。
「悪いな、ハジメ。こんな役回り頼んで」
「構わねぇよ。それを言えばお前1人にゴーレム半分近く任せてたし、あれは錬成魔法じゃ時間がかかりそうだったからな」
俺の謝罪に、ハジメは苦笑しながら答える。
「んじゃ、やるとするか。なんか後ろからやばい気配を感じるし」
「手が込んでるなぁ・・・」
後ろからは、なんとなくだがユエの怒気のようなものを感じる。おそらく、いつものようにうざい文があったのだろう。それを見つけてしまい、必死に怒りを抑えているに違いない。
「ハジメさ~ん!さっきみたいにドパッと殺っちゃってくださいよぉ~!」
後ろの方からシアがそんな泣き言を言ってくるが、俺とハジメは首を横に振った。
「こんなところで爆発物なんて使ったら、どんなトラップが作動するかわからないだろ」
「さっきのあれだって、トラップがないところを狙ったんだ。階段付近は、何が起こるかわからないだろ」
「こんなにゴーレムが踏み荒らしているんですし今更では?」
「ここまで手の込んだ嫌がらせをしてきたんだ。ゴーレムが踏んでも作動しないトラップもあるだろうな」
「うっ、否定できません・・・」
雑談を交わしながら、思った以上にゴーレムの勢いがすさまじいため、俺とハジメが下がりながら引き続きゴーレムを破壊していく。
さすがに慣れてきたため、俺とハジメは余裕をもって相手ができるようになってきた。
そんな様子を見ているからか、シアの方も落ち着きを取り戻してきたようだ。
「でも、ちょっと嬉しいです」
「あぁ?」
「ほんの少し前まで、逃げる事しか出来なかった私が、こうしてハジメさんと肩を並べて戦えていることが・・・とても嬉しいです」
「・・・ホント物好きなやつだな」
「えへへ、私、この迷宮を攻略したらハジメさんといちゃいちゃするんだ!ですぅ!」
「おいこら。何脈絡なく、あからさまな死亡フラグ立ててんだよ。悲劇のヒロイン役は、お前には荷が重いから止めとけ。それと、ネタを知っている事についてはつっこまないからな?」
「それは、『絶対に死なせないぜマイハニー☆』という意味ですね?ハジメさんったら、もうっ!」
「意訳し過ぎだろ!最近、お前のポジティブ思考が若干怖いんだが・・・下手な発言できねぇな・・・」
「いちゃつく暇があるならこっち手伝ってくんない!?っていうか、シアは俺のことはまるっきり無視かよ!?」
「・・・余裕がありすぎるのも問題ね」
まったくティアの言う通りだ。一応、攻撃の手を緩めていないのが救いだが、俺たちの方が見てて萎えてくる。
そうこうしながら、ゴーレムたちを相手にすること数分、ユエが扉の仕掛けを解き終えた。
「・・・開いた」
「へぇ、早いな」
「さすがユエだ。よし、下がるぞ!」
ちらりと扉の方を見れば、たしかに扉が開いていた。
ハジメはシアとティアに撤退を呼びかけ、さきに奥の部屋へと進ませる。
俺とハジメは、ゴーレムを相手取りながら下がり、ユエたちが全員部屋の中に入ったのを確認してから部屋に向かった。
ハジメが置き土産といわんばかりに手榴弾を数個ばらまき、部屋へと飛び込む。ゴーレムたちがそれを阻止しようと突撃してくるが、手榴弾の爆発に巻き込まれてバランスを崩す。
その隙に、俺とハジメはなんとか部屋の中に入り、シアとティアが扉を閉めた。
「ふぅ、なんとかなったか」
「あぁ。だが、それにしては・・・」
部屋の中は、何もない四角い部屋だった。よく観察してみるが、手掛かりのようなものは何もなかった。
「これは、あれか?これみよがしに封印しておいて、実は何もありませんでしたっていうオチか?」
「・・・ありえる」
「うぅ、ミレディめぇ。何処までもバカにしてぇ!」
「けど、そうだとすれば、どうやってここから出るんだ?」
「せめて、他に扉のようなものがあればいいのだけど・・・」
ハジメとユエとシアがありそうな可能性にぐったりし、俺とティアでなにか手掛かりがないか入念に調べる。
ガコンッ
すると、もう聞き飽きた例の音が聞こえてきた。
「「「「「ッ!?」」」」」
仕掛けが作動すると同時に、俺たちの体に横向きのGがかかる。
「っ!?何だ!?この部屋自体が移動してるのか!?」
「・・・そうみたッ!?」
「うきゃ!?」
「うおっ!?」
「わぷっ!?」
ハジメが推測すると同時に、今度は真上からGがかかる。
急激な変化に、ユエが舌を噛んだのか涙目で口を抑えてぷるぷるし、シアは転倒してカエルのようなポーズで這いつくばる。ティアはまた俺の方に倒れこみ、顔を俺の胸に押し付ける。
部屋はその後も何度か方向を変えて移動しているようで、約40秒程してから慣性の法則を完全に無視するようにピタリと止まった。ハジメは途中からスパイクを地面に立てて体を固定していたので、急停止による衝撃にも耐えたが、シアは耐えられずゴロゴロと転がり部屋の壁に後頭部を強打した。方向転換する度に、あっちへゴロゴロ、そっちへゴロゴロと悲鳴を上げながら転がり続けていたので顔色が悪い。どうやら、相当酔ったようだ。後頭部の激痛と酔いで完全にダウンしている。ちなみに、ユエは、最初の方でハジメの体に抱きついていたので問題ない。
俺とティアの方も、俺がティアを抱えながら揺れる部屋の中で上手くバランスをとったのでなんとか無事でいる。
ただ、体にかかるGが途轍もなかったこともあって、俺の方はしばらくはまともに立てそうにない。
「ふぅ~、ようやく止まったか・・・ユエ、大丈夫か?」
「・・・ん、平気」
「ツルギとティアは・・・なんとか無事か」
「えぇ、私は、ツルギのおかげでね」
「俺もけがはないが、ちょっと足が言うことを聞かないな。しばらくは立てないかもしれん」
部屋の方を見てみると、特に変化はなかった。だが、扉から出たらそこは違う場所だろう。
「ハ、ハジメさん。私に掛ける言葉はないので?」
そんなことを考えていると、シアが青い顔をしながら俺たちの方へと向かってきた。
「いや、今のお前に声かけたら弾みでリバースしそうだしな・・・ゲロ吐きウサギという新たな称号はいらないだろ?」
「俺も、目の前でゲロぶちまけられるのは勘弁してほしいな」
「当たり前です!それでも、声をかけて欲しいというのが乙女ごこっうっぷ」
「ほれみろ、いいから少し休んでろ」
「うぅ、は、はい。うっぷ」
部屋の隅で四つん這いになってうずくまるシアを横目に、俺たちは部屋の中を確認する。
だが、やっぱりなにもなかった。どうやら、扉の先に進まなければいけないようだ。
「さて、何が出るかな?」
「・・・操ってたヤツ?」
「もしかしたら、ミレディ本人って可能性もあるのかね」
「いや、ミレディは死んでるはずだろ?」
「どうだろうな。俺たちのわからない神代魔法がまだ5つはあるわけだからな。もしかしたら、不老不死の秘法みたいな神代魔法もあるかもしれないぞ?」
「・・・何が出ても大丈夫。ハジメは私が守る・・・次いでにシアも」
「聞こえてますよぉ~うっぷ」
「その言い方だと、俺たちの身は自分で守れって聞こえるな。まぁ、ティアも含めてなんとかできるがな」
「えっと、ありがとう、ツルギ」
シアがホラーチックにハジメに這いずりよるシアをできるだけ無視しながら、俺は自分の体力回復に努める。
シアの相手は、ハジメがすればいい。
とりあえず、俺の方も立てるくらいには回復したから、部屋の外に出る。
「さぁ、何でも来い!」みたいな感じで扉を開け放つと、
「・・・ん?なんか見覚えがないか、この部屋?」
「・・・気のせい、じゃないわよね」
「・・・あぁ、たしかに見覚えがあるな、この部屋」
「・・・物凄くある。特にあの石板」
その部屋は、中央に石板のある部屋だった。左側には通路もある。
ということは、つまりだ。
「最初の部屋・・・みたいですね?」
シアの言う通り、どこからどう見ても最初の部屋だった。
いや、そんなことがあるはずがないと周りを見渡すが、石板に書いてある内容にすごい見覚えがあった。
すると、床に光る文字が浮かび上がってきた。
まさか、と思いながら読んでみると、
『ねぇ、ねぇ、今、どんな気持ち?』
『苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?』
『ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの?ねぇ、ねぇ』
『あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します』
『いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです』
『嬉しい?嬉しいよね?お礼なんていいよぉ!好きでやってるだけだからぁ!』
『ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です』
『ひょっとして作ちゃった?苦労しちゃった?残念!プギャァー!』
「は、ははは」
「フフフフ」
「フヒ、フヒヒヒ」
「・・・ハハ」
「・・・アハハ」
「「「「「ミレディーーーーーー!!!!!!!!」」」」」
ストレスが限界突破した俺たちは、迷宮全体に届けといわんばかりに叫んだ。
その後、この怒りを原動力にして俺たちはライセン大迷宮攻略を再開した。
* * *
「はぁ~~・・・」
場所は変わって、ホルアドの宿。そこの一室で雫は思い切りベッドに倒れこんだ。
ここ最近は、雫の疲労がピークになっていた。
なぜなら、香織が背後に般若さんを出現させるようになったから。
しかも、そのときの香織は説明しがたいが、なんだかとても怖いのだ。
光輝たち幼馴染や檜山たち男子など、気を遣う相手が多すぎるため、本格的に雫は自分の頭皮を心配し始めた。
「どうしたの、雫ちゃん?」
「なんでもないわよ・・・」
同室の香織から心配の声をかけられるが、「あんたも原因の一つよ」とは正面から言えないため、突っ伏したまま流す。
雫自身、ツルギのことを気にかけているため、わりと精神的な疲労がピークに達しつつあった。
「・・・さっさと峯坂君を見つけて、いろいろとつけを払わせてやるわ・・・」
とりあえず、雫のオルクス大迷宮における最優先目標はツルギの発見になった。
いつまでもこの状態のまま一人では、さすがに精神的にもちそうにない。
すると、香織が興味あり気に雫を見つめているのに気づいた。
「・・・どうしたの?」
「うん、なんか、雫ちゃんが誰かに迷惑をかけようとするなんて、珍しいなって」
「別に、これくらいは迷惑なんかじゃないわよ。むしろ、これくらいはしてもらって当然だわ」
雫は、自分がここまで疲れてる理由の1つにはツルギもあると考えている。
だからこそ、見つけたらその分のつけを払うくらいは当然だと思っていた。
そんな雫を、香織は今度は面白そうにみつめていた。
「・・・なんなのよ」
「ねぇ、雫ちゃんって峯坂君のことが好きなの?」
「それはないわよ」
香織のからかうような質問を、雫はばっさりと斬り捨てた。
「えー、本当に?」
「本当よ。そもそも、私と峯坂君は、香織と南雲君ほど接点があるわけでもないのよ?」
一応、ツルギもハジメの親友ということもあってそれなりに接点はあるが、だからといって意識するほどではなかった。
「ただ、約束を守ってもらわなきゃ困るってだけよ」
「そっか」
だが、香織は雫の言うことを真に受けずにほほ笑むだけだった。
「とにかく、今日はもう寝るわよ。あんたは目を離すとすぐに外に出て魔物を退治しようとするんだから」
「う、わかったよ・・・」
そう言いながら、香織と雫は眠りについた。
・・・寝ているときに、香織はこっそり持ち出したハジメのシャツを抱きしめながら寝ているのだが、雫はそれを見て見ぬふりをして見逃していた。
雫だって、自分の親友が変態だとは思いたくないのだ。
ライセン大迷宮だけだとちょっと物足りない気がしたので、ちょっと雫と香織の絡みを入れてみました。