「・・・ハジメ」
「・・・なんだ?」
「・・・今日で何日目だっけ?」
「・・・ちょうど一週間だな」
あの後、俺たちは怒りを力に変えてライセン大迷宮を攻略しにかかったのだが、それでも数多のうざいトラップと文章に精神をすり減らした。
具合的には、スタート地点に戻されること7回、致死性のトラップに襲われること48回、全く意味のないただの嫌がらせ169回。
最初こそ内心を怒りで満たしていたが、4日目あたりから「もうどうでもいいや~」みたいな感じになった。
一応、マーキングのおかげで迷宮の変化パターンがだいぶわかってきたため、そろそろ攻略に進展がでてくるだろう。
今は、安全っぽい部屋で休息をとっているところだ。
「にしても、お前は本当に信頼されてんな~。一応、ここは大迷宮なのにな」
「ったく、俺みたいなヤツのどこがいいんだっての・・・」
そう言うハジメの両サイドには、ハジメの腕に抱きついてぐっすりと眠ってるユエとシアがいる。
両方とも、安心しきっているようで実に緩んだ表情をしている。
そう言うハジメも、そっとユエから腕を抜き出して髪をなでている。
「だが、お前も似たようなもんだと思うぞ?」
「・・・まぁ、それはわからんでもないが」
そう言う俺の右隣には、ティアが俺の腕にしがみついてぐっすりと眠っている。
その表情は、ユエたちに負けず劣らず緩んでいる。
「ずいぶんと懐かれてるなぁ?王子様みたいなことしたもんなぁ?」
「魔物の肉を差し出す王子様がいてたまるか」
魔物の肉を無毒化できる俺だからいいものの、食べたら死ぬものを出されてときめく女子が、果たしてどれだけいるものか。できれば、いてほしくない。
「ていうか、俺はそんな柄じゃねぇよ」
「だろうな。お前って昔から裏でこそこそするタイプだからな」
ハジメがやっかみを受けているときは、俺は基本的に表立って事を荒立てることはせずに、人目につかないところで手を打っていた。
具体的には、「これ以上ハジメに手を出すなら、わかるよな?」と脅した。
最初はだいたいこれで収まったのだが、なぜか檜山たちだけはハジメにつっかかるのをやめなかった。
単にバカなだけなのか、俺が行動に移さないことをわかっていたからなのかはわからないが、どのみち俺が行動を起こさないことがばれてしまい、結局ハジメへのやっかみは収まらなかった。
そういうわけで、俺はそれ以来、やっかみへの対処法を周りへの脅しからハジメのフォローに切り替えたのだ。
「ったく、お前もお前で、どうして俺に構ったんだか」
「親友だからな。じゃなきゃ、お前を探しに行かねぇよ」
「それにしてもだ。それにな、お前は知らないだろうが、お前になにか隠し事があることくらい、俺もユエたちも気づいてるぞ?」
「・・・マジか」
俺としては隠してるつもりだったが、どうやら詰めが甘かったらしい。
まぁ、ばれてるならばれてるでしゃべらないが。
「言っとくが、話さねぇぞ」
「なんだ、俺たちは親友なんだろ?親友の俺に話さないのか?」
「誰にだって言いたくないことはあるだろうよ。それ以上しつこくするようなら、ユエにお前のあれこれを話すぞ?具体的には、中学の黒歴史だとかだ」
「・・・・・・」
ハジメは沈黙した。
それほど、ハジメの黒歴史は重いのだ。
「それはそうとだな」
「露骨に話題を逸らしたな?」
「それはそうとだな!」
なるべくユエたちを起こさないようにしながらも、なるべく大きい声で話を続けるハジメさん。
「お前、ティアのことをどう思っているんだ?」
「どうって?」
「要は、迷宮攻略とかが終わったらどうするかってことだ」
「あぁ、そういうことか」
たしかに、言われてみればハジメにそのことを話したことはないな。まぁ、ティアにも全部を言ったわけではないが。
「まぁ、迷宮攻略が終わっても、こいつに手を貸そうとは思うよ。そう約束したからな」
「ふーん?で、終わったらどうするんだ?」
「まぁ、終わり方にもよるが・・・」
ティアとしては父親の目を覚まさせることが目的だが、こっちの教皇のようにすでに手遅れという可能性もある。
だから、どのように終わるかは俺もわからない。
ただ、
「どのような結果であれ、日本に連れていこうとは考えてる」
「そうなのか?」
「あぁ。俺だって、ティアの境遇になにも思わないわけじゃないからな。全部終わったあとに、それくらいの御褒美はあってもいいだろ」
別に、ハジメとユエみたいな意味合いではないが、さすがに終わったからといって「はい、さよなら」というのも気が引ける。
だったら、俺たちの世界を紹介してもいいだろう。
そういうと、ハジメの俺を見る目が面白そうなものになっている。
「・・・言っておくが、深い意味はないからな」
「へぇ?それ、ティアにも言えるのか?」
「お前はいったい何を・・・」
「ティア、起きてるぞ?」
「・・・は?」
見てみると、たしかにティアはばっちり目を開けていた。顔を真っ赤にして。
「・・・いつから気づいていた?」
「俺が気付いたのは、ティアをどう思っているのかってところからだな。ちなみに、ユエも起きてるぞ」
「・・・ふふ」
たしかに、ユエも目を開けて、面白そうに俺を見ている。
「お前、わかってて聞いたのか・・・言っておくが、ティア。さっきも言った通り、深い意味はないからな」
「そう言いながらも、目をそらして若干照れてるな」
「・・・ん、ツンデレ」
「野郎のツンデレなんて誰得なんだよ」
「・・・ツルギ」
「・・・なんだ?」
「・・・さっき言ったことは、本当なの?」
・・・それを上目づかいで聞かないでほしい。
否定しにくくなるだろ。
「まぁ、言葉自体は本当だ。嘘じゃねぇよ」
「・・・本当?」
「本当だ」
「・・・ありがとう」
そう言いながら、ティアはさらに俺にすり寄ってきた。
それに伴って、ハジメとユエのニヤニヤも加速していく。
いっぺん本気でしばいてやろうか・・・
「むにゃ・・・あぅ、ハジメしゃん、大胆ですぅ~、お外でなんてぇ~・・・皆見てますよぉ~」
・・・その場の空気が死んだ。
ハジメは表情を消し、俺とユエ、ティアはシアにジト目を向ける。
ハジメがこっそりと忍び寄り、シアの口と鼻をふさぐ。
だんだんとシアが苦しそうな表情になっていくが、それでもハジメは口と鼻をふさぎ続ける。
「ん~、ん?んぅ~!?んんーー!!んーー!!ぷはっ!はぁ、はぁ、な、何するんですか!寝込みを襲うにしても意味が違いますでしょう!」
跳び起きたシアがハジメに抗議の声をいれるが、ハジメは冷ややかな視線を向けるだけだ。
「で?お前の中で、俺は一体どれほどの変態なんだ?お外で何をしでかしたんだ?ん?」
「えっ?・・・はっ、あれは夢!?そんなぁ~、せっかくハジメさんがデレた挙句、その迸るパトスを抑えきれなくなって、羞恥に悶える私を更に言葉責めしながら、遂には公衆の面前であッへぶっ!?」
途中あたりから聞くに堪えなくなって、ハジメは強烈なデコピンをかました。あまりの衝撃に、シアは後ろの壁に後頭部を強打する。
・・・いいところだったのに、やっぱりシアは残念ウサギのままらしい。
微妙な雰囲気のまま、休憩を終えて俺たちは迷宮攻略を再開した。
* * *
再び様々なトラップを乗り越えてきた俺たちは、一週間前のゴーレムたちに襲われた部屋までやってきた。何気に、あの時から二度目だ。しかも、今度は最初から封印部屋の扉が開けられている。その向こう側も、大部屋ではなく通路になっている。
ちなみに、俺は戦闘に集中して調べられなかったが、ハジメからゴーレムが再生したのは“感応石”というゴーレムに使われている素材が原因だと聞いた。これは魔力に反応して定着・遠隔操作ができるらしい。
つまり、ゴーレムを遠隔操作している人物がこの大迷宮の主、ということだ。
「ここか・・・また包囲されるのも面倒だし、一気に走り抜けるぞ!」
「幸い、扉は開いてるからな。罠の可能性もゼロではないが、他にやることもない」
「そうね」
「んっ!」
「はいですぅ!」
俺たちは最初から全速力で部屋の中を走り抜ける。
当然、部屋の中央辺りでゴーレムも反応して動き出すが、前方のゴーレムをハジメが銃撃で蹴散らす。
そうして俺たちはさらに加速しつつ一気に走り抜け、扉を潜り抜ける。
が、ここで予想外の事態が起きた。
「げっ!?入ってきた!?」
「それよりも、なんなのあの動き!?」
「天井を走ってる、だと!?」
「・・・びっくり」
「重力さん仕事してくださぁ~い!」
ゴーレムの方も扉をくぐりぬけて追いかけて来て、さらに天井やら壁やらを走ってきているのだ。シアの言う通り、完全に重力が仕事していない。
だが、俺にはなんとなくそのからくりが見えた。
「・・・なるほど、魔法か」
「魔法って、どういうことだ!?」
「あのゴーレムたちに、ゴーレムの操作とは違う魔法がかかっている。状況から考えて、おそらく重力に作用しているみたいだな」
俺の“魔眼”は、ハジメの魔眼石よりも性能が高い。魔力の流れからだいたいの魔法を推測することができる。
今、俺の“魔眼”には二つの魔法が使われているのがわかる。
一つはゴーレムを操作している魔法だと考えれば、もう一つはあの変態機動を可能にしている魔法に違いない。そして、シアが言ったように重力が仕事していないのなら、重力に干渉する魔法だと考えていいだろう。
「でも、重力を操る魔法なんて聞いた事がないわよ!?」
「普通の魔法にないってだけだ。おそらく、神代魔法だな。この迷宮のものかどうかは知らないが」
そんなことを話しているときもゴーレムたちは突撃してくるのだが、ハジメのドンナーと俺の黒刀で粉砕したり斬り裂いたりする。
粉砕され斬り裂かれたゴーレムは、地面に落ちずに天井や壁に激突しながら転がっていく。
「ん・・・まるで“落ちた”みたい」
「なら、当たりだな。おそらく、壁や天井を起点に重力を発生させているんだろう」
「・・・なんていう分析力」
「やっぱり、ツルギを連れてきたのは正解だったな」
「でも、どうして最初から使わなかったのよ?」
ティアの疑問ももっともだが、そこまではわからない。それを考えるには情報が不足しすぎている。
「知らん。あの魔法を使うのに相当の魔力を使うのか、俺たちを見極めていたのか、あるいはその両方か。だが、考えても意味はないな。前だ」
俺の言葉にティアが前を向くと、そこでは先ほど落下したゴーレムたちが再構築されていた。さらに、盾を構えてい前列と盾役を支える後列のゴーレムが壁を作っていた。どうやら、一列だけでは突破されると学習したようだ。
「まぁ、再構成できるなら当然か」
「ちっ、面倒だな」
「むぅ・・・ハジメ」
「は、挟まれちゃいましたね」
「ど、どうするの?」
ティアが戸惑い気味に聞いてくるが、俺の答えは決まっている。
「ハジメ、任せた」
「ったく、わかってるっての!」
そう言ってハジメは、手元に長方形のロケット&ミサイルランチャー・オルカンを出現させた。
十二連式の回転弾倉が取り付けられており、ロケット弾は長さが30cm近くあるため、その分破壊力は通常の手榴弾より高くなっている。弾頭には生成魔法で“纏雷”を付与した鉱石が設置されており、この石は常に静電気を帯びているので、着弾時弾頭が破壊されることで燃焼粉に着火する仕組みだ。
「耳塞げ!ぶっぱなすぞ!」
「ん」
「えぇ~、何ですかそれ!?」
「ティア、早く耳塞いどけ」
「わ、わかったわ」
シアは何が起こるのかわからないようであたふたとしているが、俺とユエ、ティアは言われたとおりに耳を塞ぐ。
そして、ハジメはオルカンの引き金を引いた。
バシュウウ!という音とともにロケット弾が発射され、ゴーレムの隊列に直撃した。
次の瞬間、すさまじい轟音と爆発がおこり、ゴーレムは跡形もなく砕け散った。
ハジメの言う通りに耳を塞がなければ、鼓膜が破れていただろう。
子の隙に、俺たちはゴーレムの残骸を飛び越える。
「ウサミミがぁ~、私のウサミミがぁ~!!」
その中で、ウサ耳を真っすぐに伸ばしたままだったシアはもろにダメージを受けて、耳を押さえていた。
「だから、耳を塞げって言っただろうが」
「ええ?何ですか?聞こえないですよぉ」
「・・・ホント、残念ウサギ・・・」
ハジメとユエの呆れた視線がシアに刺さるが、当の本人は気づいていない。
そんなこんなでさらに走り続けること5分、また新しい場所が見えた。
道自体は途切れているが、10m先に足場が見える。
「ここを抜けたら飛ぶぞ!」
俺の言葉に、ハジメたちが頷く。ちなみに、シアの聴力はなんとか回復した。
ともかく、俺たちは思い切り跳んだ。
が、またも予想外の事態が起こる。
正方形の足場が横にスライド移動したのだ。
「なにぃ!?」
「“来翔”!」
そこでユエがギリギリのタイミングで上昇気流を発生させ、ハジメたちはなんとか足場の端に手をかけることができた。
俺とティアも、俺が魔法陣の足場を出現させてなんとか足場に着地する。
「ナ、ナイスだ、ユエ」
「ユエさん、流石ですぅ!」
「・・・もっと褒めて」
「それにしても、ここって・・・」
「なんというか、いろいろとやばいな」
俺たちが入った部屋は、超巨大な球状の空間だった。直径2㎞以上はありそうだ。
そんな空間には、様々な形、大きさの鉱石で出来たブロックが浮遊してスィーと不規則に移動をしているのだ。完全に重力を無視した空間である。
さらに問題なのが、この部屋に入ってからゴーレムの動き、重力操作がどんどん巧みになっているのだ。
俺1人だけでは、10体もしのぎきれないくらいに。
「ここに、ゴーレムを操っている奴がいるのか?」
「だろうな。となると、どこにいるのか・・・」
ハジメと話しながら、おそらくいるであろうゴーレムの操り主を探すために集中してゴーレムの魔力の流れを観察しようとする。
その瞬間、
「逃げてぇ!」
「「「「!?」」」」」
シアから絶叫が響いた。
「なにが?」と問い返す余裕もなく、全力でその場から離脱した。
直後、赤熱化する巨大な何かが落下してきて、俺たちがいたブロックを破壊し、勢いのまま突き進んだ。
それを見た俺たちは、冷や汗を流す。もしシアの忠告がなかったら、あのブロックともども吹き飛ばされていただろう。
「シア、助かったぜ。ありがとよ」
「・・・ん、お手柄」
「さすがに、今のはやばかったな」
「ありがとうね、シア」
「えへへ、“未来視”が発動して良かったです。代わりに魔力をごっそり持って行かれましたけど・・・」
どうやら、シアの固有魔法である“未来視”(言葉通り、未来を見ることができる固有魔法)のおかげで助かったようだ。
だが、このまま終わりではないようだ。
先ほどの隕石モドキを確認するために下を覗くと、猛烈な勢いで上昇してきた。それは瞬く間に俺達の頭上に出ると、その場に留まりギンッと光る眼光をもって俺達を睥睨した。
「おいおい、マジかよ」
「・・・すごく・・・大きい」
「・・・ユエ、その言い方はどうかと思うわ」
「お、親玉って感じですね」
「さすがに、これは骨が折れそうだな」
とりあえずユエの発言は無視するにしても、実際かなりの大きさだ。
俺たちの前に現れたゴーレムは、全長が20m弱はある。右手はヒートナックルとでも言うのか赤熱化しており、左手には鎖がジャラジャラと巻きついていて、フレイル型のモーニングスターを装備している。
俺たちが巨体ゴーレムに身構えていると、周囲のゴーレム達がヒュンヒュンと音を立てながら飛来し、ハジメ達の周囲を囲むように並びだした。整列したゴーレム騎士達は胸の前で大剣を立てて構える。まるで王を前にして敬礼しているようだ。
すっかり包囲されハジメ達の間にも緊張感が高まる。辺りに静寂が満ち、まさに一触即発の状況。
そんな張りつめた空気を破ったのは、
「やほ~、はじめまして~!みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」
「「「「「・・・」」」」」
巨体ゴーレムの、ふざけた挨拶だった。
・・・さっさと斬ってしまおうか?
クリスマスに一人なにをやっているんだろうと思わなくもないですが、書きました。
まぁ、クリスマスもほぼ終わりですが。
なんか、こういう時に彼女が欲しいって思いますね。