ミレディによって強制的に迷宮を追い出されたハジメたちは、地下トンネルのようなところを猛スピードで流れていた。
息継ぎができるような場所もないため、なんとか壁に激突しないように体勢を整える。
ハジメやユエ、ツルギ、ティアは何とか落ち着いているが、シアは少し慌て気味になっているため、ティアが近寄ってシアを落ち着かせる。
シアもティアが自分の手を握っているのを感じて、なんとか冷静さを取り戻した。
そこに、ティアとシアの横を1匹の魚が横切ったのを、2人はなんとなしに見た。
そして、その魚と目が合った。
いや、魚と言えば魚なのだが、顔が人間、もっと言えばおっさんのような見た目をしていた。つまり、人面魚だ。
シアは、意味も分からないまま人面魚を凝視し、ティアは思わず息を吐きそうになるが、今までくぐってきた修羅場を思い出して何とか冷静さを保とうと・・・
『ちっ、何見てんだよ』
頭の中に直接、言葉が聞こえてきた。舌打ち付きだった。
2人は耐えられず、思い切り息を吐きだしてしまう。
人面魚は、そんな2人を無視して先へと泳いでいく。
そこに残されたのは、白目をむいて流されるウサ耳少女と目を閉じて気絶した魔人族の少女だけだった。
* * *
「どぅわぁあああーー!!」
「おわぁあああーー!!」
「んっーーーー!!」
ミレディによって流された俺たちは、ようやくどこかにでてきた。
どうやら、かなり遠くに流されたようで、森の中の湖らしき場所のようだ。
まぁ、ぎりぎり置き土産を渡せたので、痛み分けというところか。
俺たちは、はうはうの体で岸へと上がる。
「ゲホッ、ガホッ、~~っ、ひでぇ目にあった」
「あの野郎、いつかぜってぇにぶっ壊してやる。それより、ユエ、シア、ティア、無事か?」
「ケホッケホッ・・・ん、大丈夫」
ユエからすぐに返事が返されるが、なぜかシアとティアからの返事が返ってこない。
「シア?ティア?おい、2人とも!どこだ!」
「シア、ティア、どこ?」
「まさか・・・」
まさかと思いつつ湖の方を見てみると、シアとティアが底の方に沈んでいくところだった。
二人とも気を失っているということと、ドリュッケンの重さのせいで浮くことができないのだ。ティアの方も、シアががっちりと手を握っているため、一緒に沈んでいた。
「ツルギ!お前はティアを!」
「わかった!」
俺とハジメはとっさに湖の中に飛び込み、俺がティアを、ハジメがシアを引き上げる。
診断してみれば、心臓と呼吸が止まってしまっている。
「ったく、しゃあねぇな」
早急な措置が必要と判断した俺は、心肺蘇生を始める。
そうなると必然、まうすとぅまうすになるが、そんなことを言っている場合ではない。
俺はティアに心臓マッサージと人工呼吸を繰り返し、そして何度か目の人工呼吸の後、遂にティアが水を吐き出した。水が気管の中に入らないように、ティアの顔を横に向ける。
「けほっ、けほっ、つ、ツルギ・・・?」
「大丈夫か、ティア?」
「えっと、私・・・っ!?」
すると、ティアが途端に顔を真っ赤にして俺から飛びずさった。
・・・あれ?なんかデジャブ。
「おーい、どうしたんだ?」
「どうしたって、あ、あんな、唇をあんなに・・・~っ!?」
どうやら、途中からある程度は意識が戻っていたらしく、俺が人工呼吸のためにキs、まうすとぅまうすをしていたのに気づいていたらしい。
そして、意識がはっきりした今、羞恥心が振り切れてしまった、と。
「言っておくが、あれはただの救命行為だからな」
「だからって、あ、あんなに唇を・・・」
「あのなぁ、さっきまでお前、心臓も呼吸も止まっていたんだぞ?下手すれば死んでたわけだからな」
「そ、そうだったの・・・」
俺の言葉に、ティアも状況を理解したらしく、落ち着きを取り戻した。
それを確認した俺はハジメたちの方に目を向けると、ちょうどシアがハジメを襲っているところだった。
「・・・何やってんだ、あいつ?」
どうやらシアの方も、途中から意識が戻っていたらしい。結果、あふれる気持ちを抑えきれなかった、と。
そんな様子をユエは心の底から不機嫌そうに見ていたのだが、ふと俺たちの方を見てにやりと笑った。なにやら、嫌な予感がする。
「わっわっ、何!?何ですか、この状況!?す、すごい・・・濡れ濡れで、あんなに絡みついて・・・は、激しい・・・お外なのに!ア、アブノーマルだわっ!」
そこに、聞いたことのある声が聞こえてきた。
見てみると、マサカの宿の看板娘(後でソーナと言う名前だと聞いた)と服屋の濃ゆい店長(ソーナからクリスタベルという名前だと聞いた)、その他何人かの冒険者たちが俺たちに近づいてきた。
ソーナの方はと言えば、いつものように意識がどこかへとトリップしている。
後ろの方でシアが湖に投げ飛ばされて貞子のように這い上がってきたのを横目に、俺が簡単に話をしようとした。
「お、お邪魔しましたぁ!ど、どうぞ、私達のことは気にせずごゆっくり続きを!」
だが、ソーナの方に視線を向けると、どう考えてもあらぬ誤解をしている感じでその場から逃げ出そうとしたが、クリスタベル店長がそんなソーナを摘まんで引きとどめた。
・・・この店長、どういう筋力をしているんだよ。
とりあえず、摘まみ上げられているトリップ少女は無視し、クリスタベルに話しかける。
「久しぶり、と言うほどでもないか。だが、どうしてここに?」
「私はもともと、服の材料を探しに来たのだけど、途中で隣町にお見舞いに行ったソーナちゃんと依頼帰りの冒険者と会ったから、馬車に便乗してもらうことにしたの」
その依頼帰りの冒険者たち、主に男たちが、俺とハジメに殺気に近い視線を向け、女性冒険者たちがそれらを冷めた目で見ていた。
ていうか、俺までリア充認定されてるのか。
「それにしても驚いたわぁ~。帰りの休憩で立ち寄った泉から水柱が噴き出して、そこからあなた達が出てくるなんてねぇ。お熱い展開もあったしぃ~♪」
「いや、救命行為に期待されても困るんだが」
「そういう割には、ためらいなかったわよねぇ~ん?」
「心臓が止まってる時点で、ためらうわけにはいかないだろ。俺たちは回復魔法の類はあまり得意じゃないしな」
「ふぅ~ん?」
「・・・それで、ここはどこだ?」
何を言っても墓穴を掘りそうな気がした俺は、強引に話を切り替える。
とりあえず、ここはブルックの町から馬車で1日ほどの場所だとわかり、俺たちも一緒に馬車で送ってもらうことにした。
・・・その道中、ユエとクリスタベルがティアに何かを吹き込んだり、男の冒険者共が俺とハジメを嫉妬の目で睨み続けていたのだが、俺は丸っとそれらを無視した。
俺だって、この年で禿げたくはない。
* * *
とは思ったものの、道中は特にトラブルもなく、ブルックの町にたどり着いてマサカの宿に入った。
部屋割りは以前と同じで、今日は後はもう寝るだけだ。
「んじゃ、おやすみー」
「・・・」
俺はティアに背中を向けておやすみを言うが、今日はなぜか何も返されなかった。
その代わりに、なにやらごそごそと音が聞こえてきて、なんだろうと思ったら俺の後ろに・・・え?
「ティ、ティア?なにやってんの?」
「・・・」
なぜかティアが、俺のベッドに潜り込んできた。もちろん、今まではこんなことはなかった。
ティアは俺の背中に顔を押し付けたまま、なにもしゃべらない。
いったい、なんなんだろう。
「えっと、ティア?どしたの?」
「・・・ねぇ、ツルギ。こっち向いて」
俺の方が質問していたはずなのに、なぜかティアの方から要求される始末。
まじでどういうことだ?
「えっと、ティア、それはどういう・・・」
「こっち向いて」
「は、はい」
有無を言わせない口調のティアに、俺は従うしかなかった。
言われたとおりに俺はティアの方に振り返って・・・
「んっ・・・」
「!?」
気付いたら、目を閉じたティアの顔が目の前にあった。
いや、その前に、俺の唇になにか柔らかいものが当たって・・・あ、離れた。
唇を離したティアは、腕は俺の首の後ろにまわしたまま、顔を赤くしながら、いたずらっぽくほほ笑んだ。
「・・・どういうことだ?」
「・・・今のでわからないの?」
俺の言葉にティアはすこし不機嫌そうになり、言った。
「私は、ツルギが好き」
それは、俺にとって初めてのキスと告白だった。
ただ、素直に受け入れられるかと言うと、正直ちょっと微妙だ。
「それは、ただ雰囲気に流されただけじゃないのか?」
そう言うと、再びティアはいたずらっぽくほほ笑む。
「あら、私にキスしておいて、そんなこと言うの?」
「いや、だから、あれは俺たちの世界での救命行為であってだな・・・」
「キスで助けるなんて、王子様みたいね?」
「勘弁してくれ。俺はそんなんじゃねぇよ」
まさか、ハジメと同じようなことを言われるとは思わなかった。
世の中の女の子は、やはり王子様にあこがれるものなのだろうか。
「別に、流されたわけじゃないわよ。ツルギは、私を何回も助けてくれた。オルクス大迷宮で倒れた時も、ライセン大迷宮でトラップにやられそうになったときも。そんなツルギだったから、私は好きになったの」
「だがなぁ・・・」
「そんなに信じられないって言うなら・・・」
煮え切らない俺に対し、ティアがどこか妖艶な雰囲気で俺に近づき、
「私がどれだけツルギのことが好きなのか、教えてあげる」
そう言ってティアは再び俺にキスをし・・・・・・
* * *
チュン、チュン
小鳥のさえずりで目を覚ました俺は、ふと横を見てみる。
そこには、一糸纏わぬティアが幸せそうに眠っていた。
俺の方も、衣服を着ていない。
・・・あぁ、これが朝チュンってやつかぁ・・・。
まさか、この年で体験することになるとは思わなかった。
昨夜は・・・いや、やめよう。生々しいことになる。
それに、結局、俺もティアを
これが、ただの傷の舐め合いだということは、俺だけがわかっている。
わかってはいるが、それでもやはり、この余韻に浸ってしまうくらいには、俺もティアのことを意識していたのだろう。
結局のところ、俺もティアのことが好きだったからこそ、ティアの力になろうと決めた、ということか。
そんなことを考えながらティアの頭をなでていると、ティアがうっすらと目を開けた。
「わるい、起こしたか」
「・・・ううん、大丈夫。おはよう、ツルギ」
うっすらとほほ笑んだティアは、俺の胸に額を押し付ける。
・・・ハジメとかハジメの親父さんが見たら「テンプレだ!」とか言って喜びそうなシチュエーションだなぁ。
まぁ、それはそうとして、1つ聞いておかなければならないことがある。
「なぁ、ティア。一つ聞きたいことがあるんだが・・・」
「なに?」
「・・・お前、なんか、やけに上手くなかったか?」
そう、ティアは初めてのはずなのに、やたらと上手だった。何がとは言わないが、初めてとは思えないほどレベルが高かった。
それを聞くと、ティアはわずかに顔を赤くしてうつむき、
「ユエから聞いたの」
「ユエはいったい何を吹き込んだんだ!?」
たしかに、ユエがハジメを襲った(意味深)のは知っているし、高いレベルの技術を有しているのだろうとは思っていたが、いったいティアになにを吹き込んだというのか。
まさか、どこか俺の知らないところで実践していたとは思いたくないが、深いことは考えないでおこう。
俺だって、地雷は踏みたくない。
そんなことよりも、俺はティアを抱きしめて、昨夜は言えなかったことを口にする。
「好きだよ、ティア」
「えぇ、私も好きよ、ツルギ」
こうして俺に、初めての彼女ができた。
明けましておめでとうございます。
なんか、新年一発目の投稿で、こういう事後のシーンを書いたって思うと、なんとも言えない気持ちになりますね。
元からこの展開は決めていたとはいえ、まさか正月にだすことになるとは思いませんでした。