二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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さらば、ブルックの町。どうも、商人さん

俺とティアが恋人同士になってから、数日が過ぎた。

ちなみに、このことはハジメたちにはすぐに伝えた。一応、3人とも祝福してくれたのだが、ハジメが「分かってたぜ?」みたいな目で、ユエがどう見ても楽しそうにニヤニヤしている目で、シアが主にティアに「羨ましいですぅ・・・」という風にしおれた目で見ていたので、素直に祝福された気はしなかった。

まぁ、気持ちは本当だろうからちゃんと受け取っておいたが。

そして、この数日間で次の旅のための様々な準備をした。

主に、新たなアーティファクトの作成と、ライセン大迷宮で新たに手に入れた技能の鍛錬だ。

新たに手に入れた技能は、天眼の派生技能で“魔眼Ⅱ”、“瞬光”、“熱源感知”、“魔力操作”の派生技能の“部分強化”だ。

“魔眼Ⅱ”は普通の“魔眼”よりも性能が高く、読み取る情報量が格段に多い。さらに、知覚能力を引き上げる“瞬光”によってさらに増えるので、頭の中に入る情報を即座に整理するのに手間取ったが、なんとか形にはなった。

“熱源感知”は、使用すると俺の視界がサーモグラフィみたいになるんだが、慣れない感覚が少し気持ち悪かったものの、こちらも問題なく使えた。

“部分強化”は、なくてもある程度は使えたのだが、この技能に目覚めてからは格段にやりやすくなった。

新たに製作したアーティファクトに関してはいろいろとあるのだが、その中でも大きいのは、2台目の魔導二輪である『ヴィント(俺命名)』だ。

ただ移動するだけならブリーゼだけでもよかったのだが、それだと目立ちやすいので、ある程度森の中でも走れる魔導二輪を作った方がいいと判断したのだ。

その他にも、様々なアーティファクトをハジメと製作したのだが、それはまたの機会に。

そして、明日にはこのブルックの町を出るため、世話になったところに顔を見せに行くところだ。

今向かっているのは、冒険者ギルドだ。

冒険者ギルド:ブルック支部の扉を開けると、中にいる冒険者たちの何人かから挨拶をかけられた。

俺たちはいい意味でも悪い意味でもこの町で有名になったため、それなりに顔を覚えられたのだ。

もちろん、ユエやシア、ティアに見惚れる者や、俺やハジメに嫉妬や怨嗟の目を向ける者もいるが、そこまで陰湿なものではないのが救いか。

 

「おや、今日は5人一緒かい?」

 

受付カウンターに近づくと、すっかり顔なじみになった受付嬢のおばちゃんことキャサリンが声をかけてきた。

ちなみに、なぜキャサリンが意外そうに聞いてくるのかは、最近はギルドに行くときは男女で別れることがほとんどだったからだ。

 

「あぁ、明日には町を出るからな。世話になったところに一通り挨拶をしにいってるところだ。ついでに、目的地関連で依頼があれば受けるが、どうだ?」

 

ちなみに、ギルドに世話になったというのは、ハジメが生成魔法の組み合わせの試行錯誤のために、ギルドの大部屋を貸してもらうことがあったからだ。しかも、このことをキャサリンに相談した時に、無償で使ってもいいと提案されたのだ。キャサリンには、この町に来てから世話になりっぱなしだ。

ついでに言えば、その他俺たちの重力魔法の鍛錬は郊外で行った。

 

「そうかい。行っちまうのかい。そりゃあ、寂しくなるねぇ。あんた達が戻ってから賑やかで良かったんだけどねぇ~」

「勘弁してくれよ。宿屋の変態といい、服飾店の変態といい、ユエとシアとティアに踏まれたいとか言って町中で突然土下座してくる変態どもといい、“お姉さま”とか連呼しながら3人をストーキングする変態どもといい、碌なヤツいねぇじゃねぇか。出会ったヤツの7割が変態とかどうなってんだ?」

「ついでに言えば、俺とハジメに突っかかってくる馬鹿どもも2割くらいいたな」

 

俺たちがこの町に戻って来てから、いつの間にか4つの派閥が生まれていた。

“ユエちゃんに踏まれ隊”、“ティアちゃんに蹴られ隊”、“シアちゃんの奴隷になり隊”、“お姉さまと姉妹になり隊”である。この4つの派閥が、それぞれの目標を達成できた人数で競っているらしい。

ただ、目標の達成のために、なりふり構わず往来で「踏んでください!」とか「蹴ってください!」と叫んで土下座をするありさまは、ドン引きの一言しかでなかった。

シアに至っては、「亜人族は被差別種族じゃなかったか?普通、奴隷になるのはシアの方じゃないのか?」と全員で首をひねったが、深く考えないことにした。

この中でも、最も過激だったのが最後の集団で、前に一度、ナイフを持った少女が「お姉さまに寄生する害虫が!玉取ったらぁああーー!!」と突っ込んできたこともあったくらいだ。

ちなみに、その少女は裸にひん剥いて俺が亀甲縛りをして、この町で一番高い建物につるし、その横に「次は殺します」と脅しの書置きを添えた。それ以降は、そのような過激な行動はなくなったが、ストーキングは無くらなかった。

ちなみに、なぜ俺が亀甲縛りを知っているのか聞かれたが、「親父の部下から聞かされた」と答えると、それで納得した。

俺の親父の部署は、変人の集まりなのだ。

それはさておき、これらが7割の変態で、後の2割の馬鹿どもが懲りずにユエやティア、シアを手に入れようと俺とハジメに決闘を申し込む輩のことだ。

後に聞いた話で、前にブルックの町に滞在した時にも言い寄らており、その時は一人の男の股間をティアが蹴り飛ばしたことで沈下したのだが、一部の男たちは今度は外堀を埋めようと俺たちに話しかけてきたのだ。

もちろん、俺たちに渡す気はさらさらないので、“決闘”の“け”を発音した時点でハジメは非殺傷弾をぶっぱし、俺は黒刀で男たちの身に付けている服だけを切り裂いて真っ裸にした。

本当は俺も剣製魔法で銃を生成して死なないようにぶっぱしてもいいのだが、教会の面倒ごとを避けるために控えた。

そんなこんなで、ユエとティアも言い寄ってくる男の股間をつぶすことをやめなかったため、ユエとティアで“股間スマッシャーズ”、俺とハジメで“決闘スマッシャーズ”と呼ばれるようになり、ひとくくりで“スマッシュ・ラヴァーズ”、略して“スマ・ラヴ”と呼ばれるようにもなった。

シアが「私の存在感が薄いですぅ・・・」と泣いていたのだが、こんな変な呼び方をされてまで存在感が欲しいのかと少し引いた。

 

「まぁまぁ、何だかんだ活気があったのは事実さね」

「嫌な活気だな」

 

キャサリンは苦笑いしながら言うが、当事者の俺たちからすればいい迷惑だ。

 

「で、どこに行くんだい?」

「フューレンだ」

 

こんな雑談をしながらもテキパキと仕事をこなすキャサリンは、やはり優秀なのだろう。

フューレンとは、中立商業都市のことだ。俺達の次の目的地は“グリューエン大砂漠”にある七大迷宮の一つ“グリューエン大火山”である。そのため、大陸の西に向かわなければならないのだが、その途中に中立商業都市“フューレン”があるので、大陸一の商業都市に一度は寄ってみようという話になったのである。

 

「う~ん、おや。ちょうどいいのがあるよ。商隊の護衛依頼だね。ちょうど空きがあと2人分あるよ・・・どうだい?受けるかい?」

 

キャサリンが差し出した依頼書を俺が確認する。

依頼主は中規模な商隊のようで、十五人程の護衛を求めているらしい。

ユエたちは冒険者登録をしていないので、俺とハジメの分でちょうど埋まるのだが、もしかしたら大所帯になると言われるかもしれないな。

 

「連れは同伴してもいいのか?」

「ああ、問題ないよ。あんまり大人数だと苦情も出るだろうけど、荷物持ちを個人で雇ったり、奴隷を連れている冒険者もいるからね。まして、ユエちゃん、シアちゃん、ティアちゃんも結構な実力者だ。2人分の料金でもう3人優秀な冒険者を雇えるようなもんだ。断る理由もないさね」

「ふーん、どうする?」

 

確認のためにハジメたちに意見を聞いてみると、

 

「いいんじゃないか?」

「・・・急ぐ旅じゃない」

「たまにはゆったりとするのもいいと思うわよ?」

「そうですねぇ~、それに、他の冒険者方と一緒というのもいいかもしれません。ベテラン冒険者のノウハウというのもあるかもしれませんよ?」

「それもそうだな。この依頼を受けさせてもらう」

「あいよ。先方には伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ」

「わかった」

 

俺が依頼書を受け取るのを確認すると、キャサリンが俺の後ろにいるユエたちに目を向けた。

 

「あんた達も体に気をつけて元気でおやりよ?この子たちに泣かされたら何時でも家においで。あたしがぶん殴ってやるからね」

「・・・ん、お世話になった。ありがとう」

「はい、キャサリンさん。よくしてくれて、ありがとうございました!」

「またいつか会いましょう」

 

キャサリンの人情味あふれる言葉にユエたちの頬が、特にシアが緩む。

この町では、シアのことを、少なくとも亜人族だからという理由で差別するものはほとんどいなかった。

もちろん全員が全員ではないが、それでもこの町のそういうところが気に入ったようだ。

 

「あんたらも、こんないい子達泣かせんじゃないよ?精一杯大事にしないと罰が当たるからね?」

「・・・ったく、世話焼きな人だな言われなくても承知してるよ」

「まっ、精進するよ」

 

キャサリンの言葉に、俺とハジメは苦笑しながら返す。とことん人がいいおばちゃんだ。

 

「あぁ、そうそう、これ」

 

すると、キャサリンが俺に一通の封筒を渡した。

 

「これは?」

「あんた達、色々厄介なもの抱えてそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びのようなものだよ。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」

 

・・・このおばちゃん、一体何者なんだろう。

俺たちが秘密を抱えていることを看破していることもさることながら、キャサリンが言ったことが正しければ、おばちゃんはそんじょそこらのギルドのお偉いさんに口が利く、ということになる。

スペックの高さから只者ではないと察してはいたが、ここまでとなると、元中央勤務なのは間違いないだろう。

 

「おっと、詮索はなしだよ?いい女に秘密はつきものさね」

「・・・ったく、わかったよ。これはありがたく貰っとくよ」

「素直でよろしい!色々あるだろうけど、死なないようにね」

 

謎多き田舎の受付嬢、キャサリン。彼女の正体がわかるときが来るのだろうか。

なんとなく腑に落ちない部分はあったが、これ以上は何も聞かずにギルドを出て行った。

その後、嫌がるハジメを引きずってクリスタベルの店にも行ったのだが、そこでクリスタベルが最後のチャンスと言わんばかりに俺とハジメに強襲、俺がこれを黙らせて正座させたというプチ事件があったのだが、詳しく言うことではないだろう。

そして、実は俺とティアがシテいる間も覗きを敢行していたらしいソーナがとうとう風呂場に乱入してきて、ブチ切れた母親に亀甲縛りと三角木馬のセットで店先に一晩放置されるという事件もあった。なぜ母親が亀甲縛りを知っていて、宿に三角木馬があるのかは気になったが、詳しいことは聞かないようにした。

 

 

* * *

 

 

翌日の早朝、俺たちが正門前に向かうと、すでにほかの冒険者たちが集まっていた。

そして、俺たちの姿を確認するとざわめきだす。

 

「お、おい、まさか残りの5人って“スマ・ラヴ”なのか!?」

「マジかよ!嬉しさと恐怖が一緒くたに襲ってくるんですけど!」

「見ろよ、俺の手。さっきから震えが止まらないんだぜ?」

「いや、それはお前がアル中だからだろ?」

 

どうやら、この数日間で俺たちはずいぶんと有名人になったらしい。決して、いい意味ではないだろうが。

複雑な気分になりながら商隊に向かうと、まとめ役らしき人物が声をかけてきた。

 

「君たちが最後の護衛かね?」

「あぁ、これが依頼書だ」

 

俺が依頼書を見せると、それを確認したまとめ役の男が納得したように頷く。

 

「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」

「あぁ、期待してもらっても構わないさ」

 

・・・もっとユンケル・・・商隊のまとめ役も大変なのか?

 

「それと、俺はツルギで、あとは右からハジメ、ユエ、シア、ティアだ」

「それは頼もしいな・・・ところで、この兎人族・・・売るつもりはないかね?それなりの値段を付けさせてもらうが」

 

そこでモットーの目が値踏みをするようなものに変わった。その視線の先にいるのはシアだ。

まぁ、首輪をつけた亜人族なんて基本的には奴隷なのだから、こういう態度も当然といえば当然か。

シアも思わず「うっ」と怯んでハジメの後ろに隠れ、ユエのモットーを見る目も厳しいが、批難はしない辺り、そのことをわかっているのだろう。

 

「ほぉ、随分と懐かれていますな・・・中々、大事にされているようだ。ならば、私の方もそれなりに勉強させてもらいますが、いかがです?」

「ま、あんたはそこそこ優秀な商人のようだし・・・答えはわかるだろ?」

 

シアの態度から主はハジメだと判断したのか、ハジメに商談を持ち掛けるが、ハジメは揺るぎない意志を込めた言葉をモットーに告げる。

 

「例え、どこぞの神が欲しても手放す気はない・・・理解してもらえたか?」

「・・・えぇ、それはもう。仕方ありませんな。ここは引き下がりましょう。ですが、その気になったときは是非、我がユンケル商会をご贔屓に願いますよ。それと、もう間も無く出発です。護衛の詳細は、そちらのリーダーとお願いします」

 

モットーは何でもないように引き下がるが、よく見てみれば冷や汗をかいている。

実際、ハジメの言ったことは相当危険なものだ。下手をすれば、教会に神敵と判断されかねないくらいには。

だからこそ、モットーもハジメの意志の固さを察して引き下がったのだろう。

まぁ、その後に自分の商会を売ってくる辺りは、なかなか図太い神経を持っていると言えるが。

 

「すげぇ・・・女1人のために、あそこまで言うか・・・痺れるぜ!」

「流石、決闘スマッシャーと言ったところか。自分の女に手を出すやつには容赦しない・・・ふっ、漢だぜ」

「いいわねぇ~、私も一度くらい言われてみたいわ」

「いや、お前、男だろ?誰が、そんなことッあ、すまん、謝るからっやめっアッーー!!」

「・・・いいか? 特別な意味はないからな?勘違いするなよ?」

「うふふふ、わかってますよぉ~、うふふふ~」

「・・・ハジメ」

「何だ、ユエ?」

「・・・カッコよかったから大丈夫」

「・・・慰めありがとよ」

 

・・・俺のすぐ後ろでは、冒険者たちの愉快な会話と、ハジメたちのさりげないいちゃつきが繰り広げられている。

一応、モットーに応対したのは基本的に俺のはずなのだが。

 

「・・・やべぇ、俺の胃、フューレンまで保つかな」

「・・・大丈夫よ、ツルギ。私がいるわ」

 

こういう時に、ティアがそばにいるのがありがたい。




う~ん、ちょいちょいツルギとティアの影が薄くなる。
特に、ティアはハジメ主体の流れだと忘れそうになってしまう。

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