二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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ひたすらに胃が痛い・・・

「カッーー、うめぇ!ホント、美味いわぁ~、流石シアちゃん!もう、亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」

「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる!シアちゃんは俺の嫁!」

「はっ、お前みたいな小汚いブ男が何言ってんだ?身の程を弁えろ。ところでティアちゃん、町についたら一緒に食事でもどう? もちろん、俺のおごりで」

「な、なら、俺はユエちゃんだ!ユエちゃん、俺と食事に!」

「ユエちゃんのスプーン・・・ハァハァ」

「・・・・・・」

 

初っ端からこのカオス。どうしてこうなったのか、いったん振り返ってみよう。

まず、俺たちはフューレンに向かう商隊の護衛の依頼を受けて、今は日程の半分を消化したところだ。

フューレンまでは馬車でおよそ6日の長旅となるため、冒険者は各自で野営の準備をすることになる。

他の冒険者は基本的に干し肉や乾パンといった質素な保存食を別々で食べていたのだが、俺たちは宝物庫があるため、野宿でも問答無用で料理ができる。

そこに、俺やシアが作る料理の匂いにつられて冒険者たちが血走った目でよだれを垂らしながら見てきたため、さすがに居心地の悪くなったシアと俺がほかの冒険者たちの料理を作ることになったのだ。

別にハジメやユエからすればこれっぽちも興味も考慮もないのだろうが、今の料理当番は俺とシアが受け持っているため、しぶしぶながらもシアのお裾分けのお願いを了承した。

もちろん、これだけの人数分を作るとなると一人だけではそれなりに大変なため俺も料理をしているのだが、誰もそのことに触れてくれない。

結果、俺は他の冒険者の誰からもお礼を言われず、あげくにティアたちを口説こうとする輩もでてきたのだ。

ギャーギャーと騒ぐ冒険者共に、無言で俺が殺気を、ハジメが“威圧”を放って黙らせる。

そして、しっかりと口の中のものを飲み込んでからポツリと呟く。

 

「で?腹の中のもん、ぶちまけたいヤツは誰だ?」

「それ以上調子に乗るんなら、シチューに毒でも混ぜるが?」

「「「「「調子に乗ってすんませんっしたー」」」」」

 

冒険者共がきれいなシンクロとハモリで土下座する。

一応、こいつらは俺たちよりも年上なのだが、ブルックでやったことがここでも効果を発揮しているからか、基本的に俺たちに対して下手だ。

 

「もう、ツルギ、せっかくの食事の時間なんだから、そんなに怒らなくてもいいじゃない」

 

そこに、ティアが俺の隣に座って咎めるようにメッしてくる。

 

「それはそうなんだが、さすがにシアと一緒に作ってる俺に感謝の1つもないってのはな。それに、そのうえでティアを口説くってのが気に入らなかったんだよ」

「そういうことだったの。だったら大丈夫よ、私はいつもおいしい料理を作ってくれるツルギとシアに感謝してるし、それに・・・」

「それに?」

「私が好きなのは、ツルギだから」

 

そう言って、ティアは俺に寄り添うようにして座りなおす。さりげなく、腕も絡めてくる。

 

「・・・そうか、そうだな。ありがとな、ティア」

「いいわよ。私はツルギの恋人なんだから」

 

なんやかんや言って、いつも俺のことを気にかけてくれるティアに、俺も自然と頬が緩んでいく。

ティアと出会えて、ティアと恋人同士になれて、本当に良かったと思う。

まぁ、冒険者共の嫉妬の視線はなくならないが。ハジメの方も、傍から見ればユエとシアを侍らせてるわけだし。

 

 

* * *

 

 

それからさらに2日後、俺とティア、シアは馬車の上でのんびりしていたが、シアが耳をピコピコと動かして、突然起き上がった。

その表情は、いつもよりも引き締まっている。

 

「敵襲です!数は100以上!森の中から来ます!」

 

シアの警告に、周りの冒険者たちに緊張の糸が走る。冒険者たちから聞いた話だが、大陸一の商業地への街道なのでそれなり以上に安全整備がされている。そのため、魔物が群れで襲うにしても多くて40頭ほどらしい。

俺もシアの言う方向に目を凝らせば、たしかに不自然な木々の揺らぎとわずかな砂ぼこりが見えた。まだ森の中なので姿は見えないが、砂ぼこりと揺らぎから判断するに、だいたいシアの言った通りの数だろう。

本当に100頭の魔物を見逃していたのならば、調査隊はなにをやっているんだという話になるが、今それを気にしたところで意味はない。

 

「ハジメ、どうする?」

「そうだな、俺たちでやっとくか」

「え?今、なんて?」

 

俺とハジメの会話を聞きそびれたのか、護衛隊のリーダーであるガリティマが聞き返す。

 

「迷っているようなら、俺たちで片付けるってことだ」

「い、いや、それは確かに、このままでは商隊を無傷で守るのは難しいのだが・・・えっと、出来るのか?このあたりに出現する魔物はそれほど強いわけではないが、数が・・・」

「たかが数なんて問題じゃない。ユエがすぐ終わらせる。頼めるか?」

「ん・・・」

 

ユエは突然話を振られたにも関わらず、特に気負うこともなくうなずく。

ガリティマも、やはりブルックでの所業を知っているからか、すぐに頷く。

・・・本当に、有名人になったもんだな、俺たち。

 

「わかった。初撃はユエちゃんに任せよう。仮に殲滅できなくても数を相当数減らしてくれるなら問題ない。我々の魔法で更に減らし、最後は直接叩けばいい。みな、わかったな!」

「「「「了解!」」」」

 

どうやら、ユエがすべて殲滅するということは、あまり信じていないらしい。

まぁ、この世界の基準で考えたら、当然ではあるが。

そうこうしているうちに、魔物が森からでてきて、肉眼で確認できるところまで近づいてきた。

 

「ユエ、一応、詠唱しとけ。後々、面倒だしな」

「・・・詠唱・・・詠唱・・・?」

「・・・もしかして知らないとか?」

「・・・大丈夫、問題ない」

「いや、そのネタ・・・何でもない」

「接敵まで、あと10秒~」

 

馬車の屋根の上でハジメが詠唱をするようにユエに言うが、返された返事はどことなく不安になるもの。

一応、悪いことにはならないと思いたいが、任せればいいだろう。

そして、ユエが右手を森に向けて掲げ、詠唱を始める。

 

「彼の者、常闇に紅き光をもたらさん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、最強の片割れたるこの力、彼の者と共にありて、天すら呑み込む光となれ、“雷龍”」

 

詠唱を唱え、魔法のトリガーが引かれると、詠唱の途中から現れていた雷雲から、雷でできた竜が飛び出してきた。

竜と言っても、西洋のドラゴンではなく、どちらかといえば日本のものに近いが。

そんなことを考えている間にも、ユエの放った“雷龍”は魔物の群れを殲滅し、森も焦土と化してしまった。

周りの冒険者たちも、あまりの衝撃に唖然としている。

 

「・・・ん、やりすぎた」

「おいおい、あんな魔法、俺も知らないんだが・・・」

「ユエのオリジナルだと。ハジメから聞いた竜の話をモチーフにして、雷魔法と重力魔法を組み合わせたんだってさ」

「俺がギルドに篭っている間、そんなことしてたのか・・・ていうかユエ、さっきの詠唱って・・・」

「ん・・・出会いと、未来を詠ってみた」

 

ユエにしては珍しく、見るからにどや顔を浮かべていた。

それにしても、さっきの詠唱がハジメとユエの出会いなのか。

 

「ずいぶんとロマンチックな出会いだな」

「お前だって大概だと思うけどな。あと、ユエの場合、ちょっと誇張が入ってるだろ」

「ん、そんなことはない」

 

やはり、出会いを少しでも美化しようとするのは、女の子の性なのだろうか。

いや、でも、ユエの場合は女の“子”ではない・・・

 

「・・・ツルギ?」

「なんでもない」

 

ユエがジト目で俺の方を見てきた。

いや、ユエは普段からジト目なのだが、言葉にできないような感覚が俺の背筋に走ったのだ。

余計なことは考えない方がいいな、うん。

ちなみに、先ほどの“雷龍”は上級雷魔法“雷槌”と重力魔法を“複合魔法”で組み合わせたもので、龍を自在に操れるだけでなく、咢の部分は重力魔法が展開されており、標的を吸い寄せることができるという、凶悪なものだ。さらに、上級魔法の消費魔力で最上級レベルの威力を出せるため、ユエが結構気に入っている魔法でもある。

その後、冒険者たちの正気を(ガリティマが)戻し、フューレンへの移動を再開した。

 

 

* * *

 

 

魔物の襲撃があった日の翌日、俺たちは目的地であるフューレンにたどり着いた。あれ以降は特に大きな問題も起こらず、穏やかに過ごせた。

ただ、小さい問題は出てきたが。

モットーが、俺たちの宝物庫をよこせと言ってきたのだ。

べつに脅されているわけではなく、あくまで「売ってくれないか?」という言葉遣いだが、宝物庫を見る目は「殺してでも手に入れる」とでも言わんばかりだ。

もちろん、商談を持ち掛けられているハジメは渡す気はないのだが、

 

「何度言われようと、何1つ譲る気はない。諦めな」

「しかし、そのアーティファクトは一個人が持つにはあまりに有用過ぎる。その価値を知った者は理性を効かせられないかもしれませんぞ?そうなれば、かなり面倒なことになるでしょなぁ・・・例えば、彼女達の身にッ!?」

 

モットーが放った脅しに、ハジメはドンナーと“威圧”をもって答えた。ハジメたちの様子は馬車の陰で見えないし、“威圧”もモットーのみにピンポイントで向けているため、他の冒険者たちは気づいていない。

 

「それは、宣戦布告と受け取っていいのか?」

「ち、違います。どうか・・・私は、ぐっ・・・あなたが・・・あまり隠そうとしておられない・・・ので、そういうこともある・・・と。ただ、それだけで・・・うっ」

 

ハジメに殺気を向けられながらも気丈に話そうとするモットーは、商人としてはさすがと言うべきなのだろうが、先ほどの脅しはハジメには逆効果だとわからなかったのか、あるいは宝物庫の価値に目が眩んだのか。

ハジメの方は、モットーの弁明に一応納得し、ドンナーと殺気を収めた。

 

「そうか、ならそういうことにしておこうか」

「ったく、ハジメもちょいとやりすぎな気はしなくもないが、まぁ、これに懲りたらこれ以上、俺たちに手を出さないことだ。俺たちに敵意を向けるなら、そのときは容赦なく蹂躙させてもらうからな」

「はぁ、はぁ・・・なるほど。割に合わない取引でしたな・・・」

 

やはり、モットーは優秀な商人のようだ。青ざめた表情ながらも気丈に答えようとしている。

他の商隊員からも慕われていたようだったし、普段は先ほどのような強硬な姿勢はとらないのかもしれない。

 

「まったく、私も耄碌したものだ。欲に目がくらんで竜の尻を蹴り飛ばすとは・・・そう言えば、ユエ殿のあの魔法も竜を模したものでしたな。詫びと言ってはなんですが、あれが竜であるとは、あまり知られぬがいいでしょう。竜人族は、教会からはよく思われていませんからな。まぁ、竜というより蛇という方が近いので大丈夫でしょうが」

「そうなのか?」

「ええ、人にも魔物にも成れる半端者。なのに恐ろしく強い。そして、どの神も信仰していなかった不信心者。これだけあれば、教会の権威主義者には面白くない存在というのも頷けるでしょう」

「言われてみれば、たしかにな。ていうか、ずいぶんな言い様だな。不信心者だと言われるぞ?」

「私が信仰しているのは神であって、権威をかさに着る“人”ではありません。人は“客”ですな」

「・・・なるほど、やっぱあんた、根っからの商人だな。そりゃ、あれ見て暴走するわけだ」

 

俺の素直な評価にハジメも頷き、モットーはバツの悪そうな表情と誇らしげな表情が入り混じり、実に複雑な表情をする。先ほどのような危ない雰囲気は、もはや感じられない。

 

「とんだ失態を晒しましたが、ご入り用の際は、我が商会を是非ご贔屓に。あなた方は普通の冒険者とは違う。特異な人間とは繋がりを持っておきたいので、それなりに勉強させてもらいますよ」

「・・・ほんと、商魂たくましいな。ま、俺としても、それくらいのつながりはあった方がいいと思うしいいけどな」

 

そんな会話をした後、モットーは「では、失礼しました」と言って商隊の列に戻っていった。

いろいろとあったが、少なくとも最後はそれなりにいい結果で終わったか。

 

 

* * *

 

 

さて、一応、俺たちはフューレンに着いたわけだが、フューレンには大きく分けて4つのエリアがある。

この都市における様々な手続関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具類などを生産、直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区だ。

そして、これらの区画を結ぶメインストリートが存在し、このメインストリートと町の中心部に近い店ほど信用があるらしい。逆に、メインストリートからも中央区からも遠い場所は、かなりアコギでブラックな商売、言い換えれば闇市的な店が多い。が、その分、時々とんでもない掘り出し物が出たりするので、冒険者や傭兵のような荒事に慣れている者達が、よく出入りしているようだ。

そんな話を、俺たちは中央区の一角にある冒険者ギルド:フューレン支部内にあるカフェで軽食をつまみながら聞いた。

このフューレンはトップクラスの広さを誇るため、案内人といった職業はそれなりの地位を持つらしい。このことを、証印を受けた依頼書を見せにギルドに行った際、ハジメがガイドブックをもらおうとして知った。そして、リシーと名乗った女性に料金を払い、この街の基本事項を聞いていたところだ。

 

「そういうわけなので、ひとまず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

「なるほど、なら素直に観光区の宿にしとくか。どこがオススメなんだ?」

「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

「それもそうか。なら、飯が美味くて、あと風呂があれば文句はない。立地とかは考慮しなくていい。あと、責任の所在が明確な場所がいいな」

 

俺の要望をにこやかに聞き入れながら頷くと、途中で「ん?」と首を傾げた。途中というか、最後というか。

 

「あの~、責任の所在ですか?」

「あぁ、俺たちはちょいと訳ありだし、なにより連れが目立つからな。いくら治安がしっかりしているとはいえ、バカなことをする奴がいないとは限らない。その時に、俺たちが完全に被害者だった場合、宿内での損害賠償について誰が責任を取るか、っていうのをはっきりさせておきたい。いいところに泊まってもいいんだが、それだと備品が高くなるし、賠償額もたらふく取られそうだしな。まぁ、あくまで“できれば”でいい」

 

俺の説明に、リシーも納得したようにうなずく。ユエもシアも、変装をして魔人族の特徴を隠しているティアも、傍から見ればかなりの美人だし、現に今もかなりの注目を浴びている。

特に、シアは兎人族だ。羽目を外した商人が強硬手段にでないとも限らない。

 

「しかし、それなら警備が厳重な宿でいいのでは? そういうことに気を使う方も多いですし、いい宿をご紹介できますが・・・」

「別にそれでもいいんだが、羽目を外したバカっていうのはときおりとんでもないことをしでかすからな。その警備も絶対でない以上、最初から物理的説得を考慮した方がいいと思ってな。下手をすれば、死人が出てもおかしくないし」

「ぶ、物理的説得ですか・・・なるほど、それで責任の所在なわけですか」

 

死人がでるということはスルーし、“できれば”という要望に案内人魂を燃やしたのか、やる気に満ちた表情で「お任せ下さい」と了承する。

 

「それと、ティアたちもなにか要望があるか?」

「そうね、やっぱりできるだけお風呂があるといいわ」

「・・・ただし混浴、貸切が必須」

「えっと、大きなベッドがいいです」

 

少し考えたあとに出てきた要望は、別になんてことのない普通なものに聞こえるが、ユエが付け足した条件と、シアの要望を組み合わせると、自然とある意図が透けて見える。リシーも察したようで、「承知しましたわ、お任せ下さい」とすまし顔で了承するが、頬が僅かに赤くなっている。そして、チラッチラッと俺とハジメ、そしてユエ達を交互に見ると更に頬を染めた。

いったい、この人の頭の中ではどのような妄想が繰り広げられているのか。さすがに、どこぞの宿の看板娘みたいな暴挙はしないと思いたいが。

そこで、ふと強い視線を感じた。この街に来てから、最もねっとりとした視線だ。矛先は当然、ティアたちか。

視線のした方を向くと、そこにはブタがいた。

ブタの亜人族というわけではなく、体重が軽く100キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪という、身なりだけはいいデブが立っていたのだ。

リシーの方も思わず「げっ!?」と声を漏らしたことから、少なくとも面倒なやつであることに間違いないだろう。

面倒だと思っていると、そのブタ男は逃げる暇も与えないと言わんばかりに近寄ってくる。もともと、俺たちに逃げるつもりはないが。

ブタ男は俺たちのそばまで近づくと、ニヤニヤしながらじろじろとティアたちを見やり、視線がシアの首輪に向いたところで不快そうに眼を細めた。

そして、今まで一度も俺たちに目を向けていない俺たちに、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をしてきた。

 

「お、おい、ガキ。ひゃ、100万ルタやる。この兎を、わ、渡せ。それとそっちの2人はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

これまた見た目通りの不快なきぃきぃ声でそう告げて、ユエに触れようと手を伸ばす。

そこに、ハジメがブタ男に“威圧”を放つ。

周りの客も、ハジメの殺意に腰を抜かし、慌てて俺たちから距離を取ろうとする。

そして、そんなハジメの“威圧”をまともに受けたブタ男は、「ひぃ!?」と情けない悲鳴を上げると尻餅をつき、後退ることも出来ずにその場で股間を濡らし始めた。

一応、本気でぶつければ意識を刈り取ることくらいはできるが、それだと性懲りもなく近づいてくるだろうことは想像に難くないから、ハジメも手加減したのだろう。

 

「さてと、場所を変えるか」

 

地面に這いつくばっているブタは無視して、俺たちは席を立ちあがってギルドを出ようとする。

が、このブタはどこまでも面倒だった。

 

「そ、そうだ、レガニド!そのクソガキを殺せ!わ、私を殺そうとしたのだ!嬲り殺せぇ!」

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

「やれぇ!い、いいからやれぇ!お、女は、傷つけるな!私のだぁ!」

「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

「い、いくらでもやる!さっさとやれぇ!」

 

先ほどから後ろで待機していた大柄の男が、俺たちの進路をふさぐようにして立ちはだかったのだ。

その視線は、珍しくティアたちではなく、俺たちに向けられている。どうやら、女ではなく報酬目当てのようだ。

 

「おう、坊主。わりぃな。俺の金のためにちょっと半殺しになってくれや。なに、殺しはしねぇよ。まぁ、嬢ちゃん達の方は・・・諦めてくれ」

 

レガニドと呼ばれた男はそう言うと拳を構えた。腰に長剣をぶら下げているのだが、どうやら場所を考えて使わないようだ。

まぁ、彼我の実力差を悟れない時点で俺たちからすれば三流なのだが。

 

「お、おい、レガニドって“黒”のレガニドか?」

「“暴風”のレガニド!? 何で、あんなヤツの護衛なんて・・・」

「金払じゃないか?“金好き”のレガニドだろ?」

 

周りのざわめきを聞き取るに、どうやらそれなりの実力を持つようだ。

冒険者ランク“黒”。要するに、上から三番目の実力を持つということか。ただ、基本的に金目当てで動いており、素行はそれほどよくはない、と。

まぁ、これなら俺たちが被害者になるのだろうし、半殺しくらいにしても問題はないだろう。

俺とハジメが前に出ようとすると、意外なところから声がかかった。

 

「・・・ハジメ、待って」

「ツルギ、ちょっと待って」

「どうした、ユエ?」

「なんだ、ティア?」

 

ユエとティアが俺たちをひきとどめると、シアを両サイドから掴んで引きすりだしてきた。

あぁ、なんとなくわかった。

 

「・・・私達が相手をする」

「えっ?ユエさん、ティアさん、私もですか?」

「当たり前じゃない」

「ガッハハハハ!!」

 

すると、俺とハジメが返答する前にレガニドが爆笑した。

どうやら、完全にティアたちをなめているらしい。

 

「嬢ちゃん達が相手をするだって? 中々笑わせてくれるじゃねぇの。何だ? 夜の相手でもして許してもらおうって・・・」

「・・・黙れ、ごみくず」

「ッ!?」

 

下品な言葉を口走ろうとしたレガニドに、辛辣な言葉と共に、神速の風刃が襲い掛かりその頬を切り裂いた。プシュと小さな音を立てて、血がだらだらと滴り落ちる。かなり深く切れたようだ。

詠唱もなしに魔法を放ったユエに、レガニドが冷や汗をかいて困惑しながらも分析している。

そんなレガニドを尻目に、俺がハジメとシアに説明を入れる。

 

「要は、ティアたちが守られるだけの人間じゃないってわからせる、ってことだろ?」

「・・・ん、そういうこと」

「さすが、ツルギね」

「ああ、なるほど。私達自身が手痛いしっぺ返し出来ることを示すんですね」

「せっかくだし、この男を利用させてもらいましょう」

 

そう言って、ティアは先ほどと違って厳しい視線を向けているレガニドの方を見た。

 

「まぁ、言いたいことはわかった。確かに、お姫様を手に入れたと思ったら実は猛獣でしたなんて洒落にならんしな。幸い、目撃者も多いし・・・うん、いいんじゃないか?」

「・・・猛獣はひどい」

「まぁ、あながち間違ってないとは思うけどな」

 

俺たちの説明にハジメも納得したようで、苦笑しながら後ろに下がり、代わりにティアとシアが前に出る。

シアは背中に取り付けていたドリュッケンに手を伸ばすと、まるで重さを感じさせずに一回転さて、その手に収め、ティアも腰にぶら下げていたフェンリルを両手に付けた。(ちなみに、脛当ての方は基本的に常時身に付けている)

 

「おいおい、兎人族の嬢ちゃんに何が出来るってんだ?雇い主の意向もあるんでね。大人しくしていて欲しいんだが?」

 

どうやら、ティアはともかく、兎人族であるシアは最初から戦力として見ていないようだ。

普通なら持てそうにない大槌を手に持っている時点で、それは間違いだとわかりそうなものだが。

 

「腰の長剣。抜かなくていいんですか?手加減はしますけど、素手だと危ないですよ?」

「ハッ、兎ちゃんが大きく出たな。坊ちゃん!わりぃけど、傷の一つや二つは勘弁ですぜ!」

 

レガニドはユエ相手だと無傷で抑えるのは難しいと判断したのか、ブタに一言断りを入れる。

まぁ、どっちにしろ結果は変わらないのだが。

 

「やぁ!!」

「ッ!?」

 

シアが踏み込んだ直後にはレガニドの眼前に迫っており、ドリュッケンをレガニドの胸部へと振りぬく。

レガニドはさすがは黒ランクと言うべきか、かろうじて胸に腕をクロスさせて防御の姿勢をとったが、踏ん張ることができずに壁へとたたきつけられる。

シアとしては手加減したつもりだったのか拍子抜けな顔をしていたが、レガニドの方はと言えば片腕がつぶされてぼろぼろになっていた。

それでも、冒険者としての意地があるのか立ち上がったが、どのみち無駄なことだ。

 

「ふっ!!」

「がふっ!?」

 

ティアが拳を素早く打ち出したかと思えば、レガニドがさらに壁にたたきつけられた。

今度こそレガニドは何が起こったのかわからなかったようで、訳の分からないような顔のまま床に崩れ落ちた。

ちなみに、ティアがしたのは簡単なことで、拳を素早く打ち出すことで拳圧を飛ばしただけだ。

その威力は、身体強化なしでも風魔法“風球”を超える。

そして、最後のとどめにユエが気を失ったレガニドの股間にめがけて風魔法を放ち、男の象徴をつぶした。

ぶっちゃけ、ユエの最後の一撃は必要なかったのだが、最初の下品な言葉が気に触れたのか。

今やギルド内には何とも言えない静寂が満ちていたのだが、ハジメがブタにツカツカと近づくことでそれが破られた。

 

「ひぃ!く、来るなぁ!わ、私を誰だと思っている!プーム・ミンだぞ!ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

「・・・地球の全ゆるキャラファンに謝れ、ブタが」

「プギャ!?」

 

・・・このブタの名前がどっかのゆるキャラを連想させたせいで、ハジメの機嫌がさらに下降する。

そして、ハジメはブタの顔を踏みつける。もちろん、殺してはいない。

結果、ブタは最初は悲鳴をあげたが、次第に大人しくなって悲鳴もあげなくなった。

 

「おい、ブタ。二度と視界に入るな。直接・間接問わず関わるな・・・次はない」

 

ハジメの忠告に、ブタは小刻みに震えながら頷く。

最後に、ハジメは靴裏に錬成でスパイクを出し、思い切りブタの顔を踏みつけた。

 

「ぎゃぁああああああ!!」

 

スパイクがブタの顔面に突き刺さり、無数の穴を開ける。更に、片目にも突き刺ささったようで大量の血を流し始めた。ブタは痛みで直ぐに気を失う。ハジメが足をどけると見るも無残な・・・いや、元々無残な顔だったのだが、取り敢えず血まみれのブタの顔が晒された。

一仕事終えたハジメの顔はとてもさわやかだった。

 

「さてと、案内人さん。場所を変えて続きをお願いしたいんだが・・・」

「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

 

だが、やはり騒ぎ過ぎたようで、ギルドの職員が俺たちに事情聴取を求めてきた。

・・・これの対応、また俺がするのかな。




「ツルギさん、こういうのはどうですか?」
「へぇ、なかなかだな。シアも、これはどうだ?俺たちの世界の味付けなんだが」
「あ、これいいですね!後でレシピ教えてください」
「おう、いいぞ」
「「「・・・」」」

ツルギとシアは、料理の時はかなり仲がいい

~~~~~~~~~~~

詰め込むだけ詰め込みました。
んでもって、今回から後書きに日常小話を載せます。
それと、来週は大学のレポート作成に時間をかけるので、投稿が難しくなります。
レポートが終われば普段通りに投稿するので、それまでお待ちください。
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