「なるほど、話はだいたい聞かせてもらいました。証人も大勢いる事ですし嘘はないのでしょうね」
先ほどのブタと一悶着あった後、ハジメが余計に話をこじらせたせいでフューレン支部の秘書長さんがでてくる事態にまでなったが、とりあえず納得してもらうことができた。
ハジメさぁ、いくら面倒ごとが嫌だからって「外に拉致って殺すか」はさすがにないだろ。いったい俺の胃にいくつ穴をあけるつもりなんだよ。もちろん、ちゃんとお話しして、今では反省してもらってるが。
「まぁ、やりすぎな気もしますが・・・死んでいませんし、許容範囲としましょう。取り敢えず、彼らが目を覚まし、一応の話を聞くまでは、フューレンに滞在はしてもらうとして、身元証明と連絡先を伺っておきたいのですが・・・それまで拒否されたりはしないでしょうね?」
「さすがにそこまでは言わねぇよ。あのブタがまだ文句を言ってくるようなら、こっちからいろいろとお話をしなきゃいけないからな。それに、こっちのバカにもちゃんと言い聞かせておくから、少しは安心してくれ」
「なるほど、わかりました」
俺の念押しにハジメからビクリ!と震える気配がし、秘書長のドットさんも思わず苦笑いする。
「それと、連絡先はまだ決まってないが、そこの案内人の勧めるホテルに泊まるつもりだから、彼女から聞いてくれ」
俺がリシーに視線を向けると、こちらもビクリ!とふるえるが、すぐに諦めの表情になる。世の中、諦めも肝心だ。
そんなことをしながら、俺とハジメはステータスプレートを見せる。
「ふむ、いいでしょう・・・“青”ですか。向こうで伸びている彼は“黒”なんですがね・・・そちらの方達のステータスプレートはどうしました?」
やはり、そのことについて聞いてくるか。
「こっちの彼女たちは、旅の途中で紛失してしまってな・・・再発行しようにも、高いだろ?」
もちろん、これは嘘だ。
もしここで3人のステータスプレートを発行しようものなら、隠すべき固有魔法や神代魔法のあれこれまでギルドの職員に見られてしまう。
どうせ、いつかはバレるとわかってはいるが、今はまだ早い。
「しかし、身元は明確にしてもらわないと。記録をとっておき、君達が頻繁にギルド内で問題を起こすようなら、加害者・被害者のどちらかに関係なくブラックリストに載せることになりますからね。よければギルドで立て替えますが?」
ドットの口ぶりからして、やはり身分証明は必要なようだ。
だが、それでもやはりデメリットの方がでかいわけで・・・だからといって、このままだとフューレンに滞在できない可能性もあるわけだし・・・。
あ、そう言えば。
「ハジメ、あの手紙を出してくれないか?」
「手紙?・・・あぁ、あれか」
俺の言葉にハジメも思い出し、ハジメが懐からキャサリンからの手紙を取り出す。
まだ中身は見ていないのだが、どの程度効果があるものか。
「これ、身分証明の代わりになるかはわからないが。知り合いのギルド職員に、困ったらお偉いさんに渡してくれって言われたんだ」
「? 知り合いのギルド職員ですか?・・・拝見します」
俺たちがかたくなにステータスプレートの発行を拒むことに疑問を覚えていたらしいドットが封を切って手紙を流し読むと、ギョッと目を見開き、目を皿のようにして繰り返し読み込んでいく。おそらく、手紙の真贋を見定めているのか。
やがて、ドットは手紙を折りたたむと丁寧に便箋に入れ直し、俺達に視線を戻した。
「この手紙が本当なら確かな身分証明になりますが・・・この手紙が差出人本人のものか私1人では少々判断が付きかねます。支部長に確認を取りますから少し別室で待っていてもらえますか?そうお時間は取らせません。10分、15分くらいで済みます」
「あぁ、それくらいなら構わない」
「職員に案内させます。では、後ほど」
・・・マジでキャサリンって何者なんだ?スペックの高さから元中央勤務だとは思っていたが、これは予想以上の反応だな。
待っている間、リシーは帰りたそうにしていたが、この後どうなるかわからないため、その場に留まるように言った。
そして、俺たちが応接室に案内されてからきっかり10分後、扉がノックされた。俺の返事の一拍後に扉が開かれると、そこにいたのは金髪をオールバックにした鋭い目付きの30代後半くらいの男性と先ほどのドットだった。
「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。ツルギ君、ハジメ君、ユエ君、シア君、ティア君・・・でいいかな?」
簡潔な自己紹介の後、俺達の名前の確認がてらに握手を求める支部長イルワ。俺も握手を返しながら返事をする。
「あぁ、構わない。名前は手紙に?」
「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている・・・というより、注目されているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」
「トラブル体質ね。それなりに自覚はあるが・・・まぁ、それはともかくとして、身分証明としてはどうなんだ?それで問題ないか?」
「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」
本当に、キャサリンの言う通り、ギルドのお偉いさんに話が通ってしまった。
しかも、この支部長はキャサリンのことを“先生”と呼んでいた。
まさかとは思うが・・・
そこに、シアが思わずといったようにおずおずと尋ねた。
「あの~、キャサリンさんって何者なのでしょう?」
「ん?本人から聞いてないのかい?彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の5,6割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が」
「・・・マジかい」
「す、すごい人だったのね・・・」
「はぁ~、そんなにすごい人だったんですね~」
「・・・キャサリンすごい」
「只者じゃないとは思っていたが・・・思いっきり中枢の人間だったとはな。ていうか、そんなにモテたのに・・・今は・・・いや、止めておこう」
ハジメ、気持ちはわからなくもないが、それはさすがに失礼だと思うな。
だが正直、結果は俺の予想の斜め上を行った。そりゃあ、ギルドのお偉いさんに口添えできるわけだよ。
「まぁ、それはそれとして、これで終わりか?それなら、そろそろ出て行くが」
いろいろと思うところはあるが、後ろのハジメから「はよ終わらせろや」みたいな雰囲気が流れてきたため話を切り上げようとするが、イルワは逃がしてくれなかった。
「少し待ってくれるかい?」
「・・・なんとなく予想がついたが、わかった」
なんとなく嫌な予感がしつつも先を促すと、イルワは一枚の依頼書を俺たちの前に出した。
「実は、君達の腕を見込んで、1つ依頼を受けて欲しいと思っている」
「断る」
イルワが依頼を提案しようとした瞬間、俺ではなく後ろのハジメから被せ気味に断りを入れ、部屋から出ようとする。どうやら、さっさと宿に向かうつもりのようだ。
だが、そうは言っていられない。
「待て、ハジメ」
「おい、ツルギ、そんなめんどくさいことするつもりか?」
「どうせこの人は、俺たちが何も聞かずに出て行ったら、いろいろと手続きやらなんやらをさせるつもりだ。そっちの方がめんどくさい。それに、このまま依頼を受けるつもりはない。話を聞くだけだ」
「君が話のわかる人間で助かったよ」
どうやら俺の予想は当たっていたようで、イルワは満足げに頷く。さすがは、大都市のギルド支部長といったところか。いい性格をしている。
まぁ、同じことを考えついている時点で、俺も似たようなものか。
「さて、今回の依頼内容だが、そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の1人の実家が捜索願を出した、というものだ」
イルワが言うには、最近、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼が出されたらしい。北の山脈地帯は、1つ山を超えるとほとんど未開の地域となっており、大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没するので、高ランクの冒険者がこれを引き受けた。ただ、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになったのだ。
この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物らしい。クデタ伯爵は、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていたそうなのだが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ。
「伯爵は家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど、手数は多い方がいいとギルドにも捜索願を出した。つい、昨日のことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」
「俺たちは“青”ランク、っていうのは今さらか」
「あぁ、さっきだって“黒”のレガニドを瞬殺したばかりだろう?それに・・・ライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」
「・・・おい、ちょっと待て。それも手紙に書いてあったのか?だが、あの人にそんなことを話た覚えは・・・」
口ではこう言いながら、まさかと思いつつユエたちの方を見ると、案の定、3人そろって目を逸らしていた。
「お前ら・・・」
「え~と、つい話が弾みまして・・・てへ?」
「・・・悪いとは思ってる。でも、反省も後悔もしていない」
「えっと、ごめんなさい、ちょうどその時、私はいなかったから・・・」
「お前ら、後でお仕置きな」
ハジメのユエとシアへのお仕置きが確定した中、イルワは苦笑しながら話を続けた。
「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、できる限り早く捜索したいと考えている。どうかな。今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?」
「そう言われてもな、俺達も旅の目的地がある。ここは通り道だったから寄ってみただけなんだ。北の山脈地帯になんて行ってられない。断らせてもらう」
・・・ハジメよ、そんなに依頼を受けたくないのか。さっきから俺を押しのけてまで断ってくる。
ただ、イルワも引かないようで、報酬の提示をする。
「報酬は弾ませてもらうよ?依頼書の金額はもちろんだが、私からも色をつけよう。ギルドランクの昇格もする。君達の実力なら一気に“黒”にしてもいい」
「いや、金は最低限でいいし、ランクもどうでもいいから・・・」
「なら、今後、ギルド関連で揉め事が起きたときは私が直接、君達の後ろ盾になるというのはどうかな?フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ?君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」
「・・・ずいぶんと大盤振る舞いだな。友人の息子とはいえ、さすがに肩入れしすぎじゃないか?」
さすがに、ギルドの依頼としてはずいぶんと報酬が豪華すぎる。
俺の疑問ももっともだったのか、イルワはここで初めて表情を崩して語る。
「彼に・・・ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと、昔から冒険者に憧れていてね・・・だが、その資質はなかった。だから、強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて・・・だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに・・・」
どうやら、イルワはずいぶんと切羽詰まっているようだ。それほど、クデタ伯爵やウィルとのつながりが深いのだろう。
・・・うん、ちょうどいい機会ではあるし、だいたい俺の望んだ展開になったな。
「わかった。その依頼を受けよう」
「おい、ツルギ?」
「いいのかい?」
「あぁ、ただし、条件を付けさせてもらう」
「条件?」
「あぁ、主に2つだ。1つは、ユエとシア、ティアのステータスプレートを発行し、そこに表示された内容を絶対に口外しないこと。もう1つは、必要な時にあんたのコネをフル活用して俺たちの要望に応えて便宜を図ること。この2つだ」
1つ目の条件は、さすがに今後も言い訳をしてユエたちのステータスプレートのことをうやむやにするのには限界があるし、やはり身分証明はあった方がいいからだ。ここで口外しないことを約束すれば、しばらくは目立つこともないだろう。
もう1つは、俺やハジメがそう遠くないうちに教会と戦うことを見越してのことだ。ハジメは基本的に自分で片付けようとしているが、教会とのいざこざに限らず、コネはあった方がいい。ハジメからすれば「ないよりはマシ」ぐらいの認識だろうが。それに、俺からすれば、教会云々関係なく、ハジメが盛大にやらかすことくらいは想像に難くないため、ほぼ必須だ。キャサリンからの手紙も悪くはないが、やはり支部長の肩書の方が頼りになる。
「それはあまりに・・・」
「そう身構える必要はない。そこまで無茶なことを頼むつもりはないさ」
「・・・なにを要求するつもりだい?」
「俺たちは、遠くないうちに確実に教会から目をつけられる・・・いや、俺の場合、もう目をつけられてる可能性は高いか。まぁ、指名手配されたときにちょっと施設とかを貸してもらえたりすれば、それでいいんだ」
「指名手配されるのが確実なのかい?ふむ、個人的にも君達の秘密が気になって来たな。キャサリン先生が気に入っているくらいだから悪い人間ではないと思うが・・・そう言えば、そちらのシア君は怪力、ユエ君は見たこともない魔法を使ったと報告があったな・・・その辺りが君達の秘密か・・・そして、それがいずれ教会に目を付けられる代物だと・・・大して隠していないことからすれば、最初から事を構えるのは覚悟の上ということか・・・そうなれば確かにどの町でも動きにくい・・・故に便宜をと・・・」
さすがと言うべきか、イルワは頭が回るようで、俺の言葉を精査しながら考え込み、意を決したように俺たちを見た。
「犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう・・・これ以上は譲歩できない。どうかな」
「それで十分だ。俺もわざわざ話をしたかいがあったよ」
「・・・まさか、最初からこの状況を?」
「まぁな」
今この場で俺たちに依頼を持ち掛けるのであれば、それなりに緊急度が高く、私的な感情が入っている可能性もある。だから、それにつけこんで俺たちに都合のいいような条件をだすつもりでいた。
思い通りにいってくれてなによりだ。
「まったく、君は年不相応に頭が回るな」
「それほどでもない。あぁ、報酬は依頼が達成されてからでいい。ウィル本人か、死亡している場合は遺品でも持ってくればいいか?」
「あぁ、それで構わない。・・・本当に、君達の秘密が気になってきたが・・・それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。ツルギ君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい・・・ツルギ君、ハジメ君、ユエ君、シア君、ティア君・・・宜しく頼む」
最後に、イルワが俺たちに真剣なまなざしを向けた後、ゆっくりと頭を下げた。
大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる。そうそう出来ることではない。その辺りは、キャサリンの教育の賜物だろうか。
「あいよ」
「・・・ん」
「はいっ」
「任せとけ」
「安心してください」
その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を受け取り、フューレンを後にした。
「そういえば、ツルギさんって頭がいいんですね?」
「まぁ、普通よりはいいぞ」
「こいつと戦略系のゲームで対戦すると、たいていフルボッコにされるんだよなぁ・・・」
「ちなみに、戦績は?」
「何回やったかは覚えてないが、ハジメが勝ったことはないな」
「「え!?」」
「・・・いい機会だ。ちょうどいいボードゲームがある。それで勝負だ!」
「あいよ。受けて立ってやるよ」
数十分後
「よし、俺の3勝目~」
「なぜだ、なぜ勝てない・・・!」
「えぐかったですねぇ・・・」
「・・・ん、途中からハジメがかわいそうになった」
「ツルギ、やりすぎよ・・・」
剣は頭を使うゲームだと基本無双する。
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ある程度落ち着いたので投稿しました。
原作を読んでると、ハジメは最初の方は基本的に考えなしな感じがしたので、剣を頭脳派にして差別化してみました。
まじで多才だな、剣君。