二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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思わぬ再会

フューレンでイルワから依頼を受けた俺たちは、それぞれシュタイフとヴィントに乗って目的地を目指していた。

先行しているヴィントには俺とティアが、後ろから追いかけるシュタイフにはハジメ、ユエ、シアがそれぞれ乗っている。

んでもって、今、俺はティアと2人乗りをしているわけで、そのティアは後ろから俺に抱きついて乗っているわけで。

・・・うん、いいな、これ。

今走っている場所も、平原のど真ん中にある街道ということで、風も気持ちいいし景色もいいな。

まぁ、今の速度は80㎞/hくらいなんだが。魔法で風圧調整しなきゃ、正直きついレベルだし。

そんなことを考えていると、後ろから抱きついているティアが話しかけてきた。

 

「ねぇ、ツルギ」

「なんだ?」

「なんだか、やけに積極的ね?フューレンを出てからだいぶとばしてるじゃない」

 

今俺たちがいるのは、目的の町まであと1日くらいのところだ。このままノンストップで行けば、日が沈むまでには到着するだろう。

だが、ティアからすれば、ここまで積極的になるのは珍しく感じたようだ。

 

「まぁ、依頼の達成にウィルとやらの生死は関係ないが、やっぱり生きてる方が返ってくる恩はでかいだろうしな。やっぱり、後ろ盾はできるだけ多い方がいい」

 

今回の依頼はクデタ伯爵家からの依頼ということになっているが、イルワの私的な感情なども入っている。それならただ依頼をこなすだけでなく、生きた状態の方が売れる恩はでかいはずだ。

 

「それに向こうで調べたんだが、今、俺たちが向かっている湖畔の町・ウルは水源が豊富で稲作が盛んなんだとさ」

「稲作?」

「おう、ようは米だ、米。俺たちの故郷、日本の主食だ。トータスに来てからはずっとパンばっかりだったしな。別にパンが嫌いってわけではないんだが、そろそろ米が恋しくなってきたし、聞いた限り、俺たちの知っているのと近い料理もあるみたいだし。だったら早く行って食べたいし、レシピも聞いておきたい」

「ふ~ん、それなら、私も食べてみたいかも」

 

ティアは見かけによらずけっこうグルメだ。俺やシアの出す料理は結構気に入って食べてくれるが、町の店で食べるときはたまに辛辣なコメントを出したりする。

 

「このままノンストップで行くとはいえ、さすがに腹も減ってきたしな。早く行って、ご飯にありつくとするか」

 

そう言って、俺はさらにヴィントを加速させた。

 

 

* * *

 

 

「すみませんが、香辛料を使った料理は今日限りとさせていただいております」

「・・・マジかい」

 

ウルについた俺たちは、さっそく“水妖精の宿”で部屋をとって、夕食を頼もうとしたのだが、店員さんからそんなことを言われた。

どうやら、イルワが言っていた魔物の群れのせいで材料を取りに行く人がいなくなってしまい、ろくに在庫を確保できない状態になっているらしい。

あわよくばレシピと一緒に香辛料ももらおうと思っていたのだが、それはできそうにないようだ。

 

「う~む、まさかイルワの言っていた魔物の群れの影響がここまででかかったとは・・・」

「どうするの?」

「まぁ、今日のところはここで食べるだけにしておこうか。たしかに魔物の問題を解決すれば話は早いんだろうが、情報も少なすぎるし、俺たちもそこまで積極的に関わるつもりもないからな。それより、他は注文は決まったか?」

「あぁ、俺はニルシッシルにさせてもらう。今日限りなら、食べるに越したことはないしな」

「・・・ん、私もそれにする」

「私も同じですぅ」

「私もそうするわ」

 

ちなみに、ニルシッシルとはトータス版のカレーのことで、俺たち的に言えばホワイトカレーのようなものだ。

 

「じゃあ、ニルシッシルを5人前で・・・」

「南雲君!峯坂君!」

 

俺が注文しようとすると、不意に大きな声で俺とハジメの名前が叫ばれた。

声のした方を向くと、そこにいたのは、

 

「ありゃ?」

「あぁ?・・・・・・・・・・・・先生?」

 

俺たちの担任である、愛ちゃん先生だった。

そして、先生も今の返しで俺たちが誰かはっきりとわかったようで、さらに詰め寄ろうとする。

 

「南雲君・・・やっぱり南雲君なんですね?生きて・・・本当に生きて・・・」

「いえ、人違いです。では」

「へ?」

 

愛ちゃん先生としては、死んだと思っていた生徒と奇跡の再会を果たしたということで、感動して涙を流したのだろうが、そんな愛ちゃん先生に返されたのはハジメの予想外の言葉だった。

ハジメの方は、そんなことも気にせずさっさと席を立って宿を出ようとするが、愛ちゃん先生はすぐに我に返ったようで、慌てて追いかけてハジメの服の袖をつかんだ。

 

「ちょっと待って下さい!南雲君ですよね?先生のこと先生と呼びましたよね?なぜ、人違いだなんて」

「いや、聞き間違いだ。あれは・・・そう、方言で“チッコイ”て意味だ。うん」

「ぶふっ」

「それはそれで、物凄く失礼ですよ!峯坂君も笑わないでください!ていうか、そんな方言あるわけないでしょう。どうして誤魔化すんですか?それにその格好・・・何があったんですか?こんなところで何をしているんですか?何故、直ぐに皆のところへ戻らなかったんですか?南雲君!答えなさい!先生は誤魔化されませんよ!」

 

愛ちゃん先生がちっこいのは今さらだが、どうやら完全に“先生”モードに入ってしまっているようだ。

まぁ、かなり興奮しているせいで、本当に俺たちの話を聞けるのかは疑問だが。

 

「まぁ、愛ちゃん先生もそのくらいにして、少し落ち着いたらどうだ?」

「峯坂君も、先生をちゃん付けで呼ばない!それに、峯坂君も今までいったい何を・・・」

「話を聞く気があるのなら、なおさら落ち着いてくれ。このままじゃ、どのみち話し合いなんてできねぇよ」

 

わざと俺は冷めた目で先生を諭し、落ち着かせるようにした。そのおかげで、先生も頭を冷やしたようで、一度深呼吸をして平静を取り戻した。

教師を諭す生徒・・・どっちが教師なんだ、これ?

威厳のある先生を目指しているのか背筋を正して俺たちを見るが・・・正直、背伸びをしている子供にしか見えない。

 

「すいません、取り乱しました。改めて、南雲君と峯坂君ですよね?」

 

だが、今度は静かな、しかし確信をもった声音で、真っ直ぐに視線を合わせながら俺たちに問い直してくるあたり、大人は大人なのか。

 

「あぁ、そうだ」

「久しぶりだな、先生」

「やっぱり、やっぱり南雲君と峯坂君なんですね・・・生きていたんですね・・・」

 

愛ちゃん先生は再び涙目になっているが、ハジメの方はと言えばドライなままだ。

言葉がでないままの愛ちゃん先生を一瞥しただけで、さっさと席に座りなおす。

ユエとシアも、それにならってハジメの両隣りに腰を下ろす。シアの方は若干困惑気味だったが。

俺とティアも、特に何かを言うこともなくハジメたちと反対側に座る。

 

「ええと、ハジメさん。いいんですか?お知り合いですよね?多分ですけど・・・元の世界の・・・」

「別に関係ないだろ。流石にいきなり現れた時は驚いたが、まぁ、それだけだ」

「・・・まぁ、それより、さっさと注文しよう。あ、ニルシッシルを5つ頼む」

 

一応、愛ちゃん先生の気持ちもわからないわけではないが、腹が減っている俺たちとしては早く夕飯を食べたい。

だから店員さんを再び呼んで注文をするが、愛ちゃん先生が俺たちのテーブルに近寄り、「先生、怒ってます!」と言いたげな表情でテーブルをピシッとたたく。

・・・まじで怖くない、っていうかむしろユエより小動物だな。

 

「南雲君、峯坂君、まだ話は終わっていませんよ。なに、物凄く自然に注文しているんですか。大体、こちらの女性達はどちら様ですか?」

 

ユエたちをちらちらと見ながら質問に、後ろにいる他クラスメイトや教会の神殿騎士の面々も頷く。

ただ、騎士たちの俺を見る目が、どこか警戒しているというか、敵愾心のようなものを感じる。まぁ、教会に喧嘩を売ったから当たり前か。

ハジメがちらっと俺の方に視線を向ける。こいつ、面倒なことばかり丸投げしやがって。

 

「悪いけど、こっちは依頼のせいで丸一日ノンストップでここに来たんだ。ご飯くらいゆっくり食べさせてくれ。それと、彼女たちは・・・」

「・・・ユエ」

「シアです」

「ティアよ」

「ハジメの女」「ハジメさんの女ですぅ!」「ツルギの恋人よ」

「お、女?」

 

・・・話を振った俺が言うのもなんだが、ティアしかまともな回答をしてねぇ。ていうか、この状況で2人とも「ハジメの女」はないだろ。絶対に面倒な予感しかしないんだが。

 

「おい、ユエはともかく、シア。お前は違うだろう?」

「そんなっ!酷いですよハジメさん。私のファーストキスを奪っておいて!」

「いや、いつまで引っ張るんだよ。あれはきゅ・・・」

「南雲君?」

「・・・なんだ、先生?」

 

そこに、シアの「ファーストキスを奪った」という言葉に愛ちゃん先生が反応し、その顔が「非行に走る生徒を何としても正道に戻してみせる!」という決意に満ちていた。

 

「女の子のファーストキスを奪った挙句、ふ、二股なんて!すぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか!もしそうなら・・・許しません!ええ、先生は絶対許しませんよ!お説教です!そこに直りなさい、南雲君!」

 

愛ちゃん先生がきゃんきゃんと吠え、ハジメが面倒くさそうな表情で俺を見る。

・・・はぁ、結局こうなったか。

 

 

* * *

 

 

その後、俺が愛ちゃん先生の誤解を解いて逆に説教し、他の人の目もあるからということでVIP席に場所を移した。

ちなみに、俺の正論で武装した説教に、愛ちゃん先生は頭が冷えたようで少しの間シュンとうなだれていた。

まぁ、今回は人の話を聞こうとせずに自分の中で勝手に結論を出した愛ちゃん先生が悪かったわけだし、きっちり反省してもらおう。本当、傍から見たらどっちが教師なんだか。

まぁ、愛ちゃん先生もすぐに落ち着いたので、他のクラスメイトも一緒になってハジメへ怒涛の質問を投げかけるが、

 

Q、橋から落ちた後、どうしたのか

A、超頑張った

 

Q、なぜ白髪なのか

A、超頑張った結果

 

Q、その目はどうしたのか

A、超超頑張った結果

 

Q、なぜ、すぐに戻らなかったのか

A、戻る理由がない

 

完全に適当な返しをしているハジメに愛ちゃん先生が「真面目に答えなさい!」と頬を膨らませて怒るが、やはり迫力は皆無だ。ハジメも、柳に風といった様子で受けながす。

一応、俺にも説明を求められたが、

 

Q、死んだのではなかったのか

A、死亡“扱い”されただけ

 

Q、なぜ、教会に喧嘩を売ったのか

A、そもそも俺は教会に属したつもりはない

 

Q、なぜ、すぐに戻らなかったのか

A、もともと戻るつもりもなかった

 

俺も似たりよったりで適当だが、部分的には正論ではあるのでハジメほど追及はされなかった。

そんなことをしながらも、俺たちはニルシッシルを口にして舌鼓を打つ。思っていたよりもおいしいな、これ。

 

「おい、お前!愛子が質問しているのだぞ!真面目に答えろ!」

 

そこに、神殿騎士のデビッドが声を荒げて怒鳴りつけてくる。

ちなみに、今ここにいる神殿騎士は“愛子専属護衛隊”と呼ばれる集団で、デビッドはその隊長らしい。ハニトラ要員としての機能も持たせようとしたのか、その面子はイケメン揃いだが、見た限りは逆に落とされているように思える。これ、半分くらいは職務放棄じゃないか?

まぁ、それはともかくとして、めんどくさいが俺が対応する。適当なのには変わりないが。

 

「今は食事中だぞ?教会の騎士なら、行儀よくしろよ」

 

俺たちがまったく相手をする気がないのが分かったのか、デビッドは興奮から顔を赤くして、その視線をシアに向ける。

 

「ふん、行儀だと?その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ?少しは人間らしくなるだろう」

 

たっぷりと侮蔑の含まれた目で見られたシアは、ビクリッと体を震わせる。

シアは兎人族だが、ブルックでは良くも悪くもシアに対して友好的な人物がほとんどだったし、フューレンでもあくまで奴隷として認識されていたから直接的な言葉が投げかけられることはなかった。

だから、シアが直接的な暴言を投げかけられたのは、これが初めてだ。

よく見れば、他の神殿騎士たちも同じような視線をシアに向けている。

愛ちゃん先生もそのことを注意しようとするが、その前にユエがシアの手を取り、絶対零度の視線をデビッドに向ける。ティアの方も、ありったけの軽蔑の視線をデビッドに向ける。

傍から見れば、ユエはビスクドールのような美少女だし、魔人族の特徴を隠しているティアも凛とした美少女だ。そんな2人から絶対零度と軽蔑の視線を浴びせられて、デビッドは一瞬たじろぐ。

そして、たじろいだことに逆上して、さらに暴言を吐いてくる。

 

「何だ、その眼は?無礼だぞ!神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」

 

さすがにこの態度に見かねたのか、チェイスという副隊長の男がデビッドを諫めようとするが、その前にユエとティアの言葉が響き渡った。

 

「・・・小さな男」

「本当にね」

「それな」

 

さりげなく、俺もユエの言葉に便乗する。

それは、たかが種族の違い如きで喚き立て、少女の視線一つに逆上する器の小ささを嗤う言葉だ。

これに、ただでさえ怒りで冷静さを失っていたデビッドは、よりによって愛ちゃん先生の前で男としての器の小ささを嗤われて完全にキレたようで、一周回って表情を消す。

 

「・・・異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」

 

デビッドは無表情で静かに呟き、傍らの剣に手をかける。

突如現れた修羅場に、生徒達はオロオロし、愛ちゃん先生やチェイス達は止めようとするが、デビッドは周りの声も聞こえない様子で、遂に鞘から剣を僅かに引き抜いた。

次の瞬間、

 

ドパンッ!!

 

乾いた破裂音が“水妖精の宿”全体に響きわたり、同時に、今にも飛び出しそうだったデビッドの頭部が弾かれたように後方へ吹き飛んだ。デビッドは、そのまま背後の壁に凄まじい音を立てながら後頭部を強打し、白目を向いてズルズルと崩れ落ちる。手から放り出されたデビッドの剣がカシャン! と派手な音を立てて床に転がった。

 

「はぁ、やっぱりこうなるか」

 

ハジメの方を見れば、その手にはドンナーが握られている。一応、撃ったのは非致死性のゴム弾のようで、デビッドには息がある。

詳細は分からないが攻撃したのがハジメであると察した騎士達が、一斉に剣に手をかけて殺気を放つ。しかし、直後、騎士達の殺気などとは比べ物にならない凄絶な殺気が、まるで天から鉄槌となって襲ってきたかのように降り注ぎ、立ち上がりかけた騎士達を強制的に座席に座らせた。

直接、殺気を浴びているわけではないだろうが、ハジメから放たれる桁違いの威圧感に、愛ちゃん先生やクラスメイトたちも顔を青ざめさせてガクガクと震えている。

そんな中、ハジメはドンナーをゴトッとわざとらしく音を立てながらテーブルの上に置き、自分の立場を明確に宣言する。

 

「俺は、あんたらに興味がない。関わりたいとも、関わって欲しいとも思わない。いちいち、今までの事とかこれからの事を報告するつもりもない。ここには仕事に来ただけで、終わればまた旅に出る。そこでお別れだ。あとは互いに不干渉でいこう。あんたらが、どこで何をしようと勝手だが、俺の邪魔だけはしないでくれ。今みたいに、敵意をもたれちゃ・・・つい殺っちまいそうになる」

 

そう宣言したハジメに、誰も何も言えなかった。直接、視線を向けられた騎士たちは、かかるプレッシャーに必死に耐えながら、僅かに頷くので精一杯のようだ。

続いて、ハジメは愛ちゃん先生達にも視線を転じる。愛ちゃん先生は、何も言わない。いや、おそらく言えないのだろう。

細かいことはわからないが、すぐに頷かないあたり、やはり教師としての矜持があるのか。

そんな様子に、俺はため息をつきながら付け加える。

 

「まぁ、だいたいはハジメの言った通りだ。それに、俺たちには俺たちの目的がある。だから、あまりしつこいことは言わないでくれ。あまり付きまとうようなら、俺も排除に移させてもらうからな」

 

それだけ言って、俺は視線をシアに移した。ハジメの方も、食事を再開してシアに話しかける。

 

「おい、シア。これが“外”での普通なんだ。気にしていたらキリがないぞ?」

「はぃ、そうですよね・・・わかってはいるのですけど・・・やっぱり、人間の方には、この耳は気持ち悪いのでしょうね」

 

シアは自嘲気味に笑いながら、自分のウサミミを手で撫でる。どうやら、相当参っているようだな。

そんなシアに、ユエとティアが真っ直ぐな瞳で慰めるように呟く。

 

「・・・シアのウサミミは可愛い」

「そうよ、自信をもって」

「ユエさん、ティアさん・・・そうでしょうか」

「あのな、こいつらは教会やら国の上層に洗脳じみた教育されてるから、忌避感が半端ないだけだ」

「ハジメの言う通りだ。それに、こう言っちゃなんだが、兎人族は愛玩奴隷としての需要は一番なんだから、一般には気持ち悪いとまでは思われてねぇよ」

 

俺とハジメもフォローにまわり、なんとかシアの機嫌が治ってきた。

そして、ハジメの励ましを聞いて顔を赤くしたシアが、上目遣いでハジメに尋ねる。

 

「そう、でしょうか・・・あ、あの、ちなみにハジメさんは・・・その・・・どう思いますか・・・私のウサミミ」

「・・・別にどうも・・・」

 

ここでハジメは、誤魔化すように顔を逸らす。

・・・ふむ、これは後押しをするべきか。

 

「安心しろ、シア。ハジメは向こうにいた頃からウサ耳が好きだからな。気に入ってるはずだ」

「ちょっ、ツルギ!?」

「・・・ん、シアが寝てる時にモフモフしてる」

「ユエッ!?それは言わない約束だろ!?」

「ハ、ハジメさん・・・私のウサミミお好きだったんですね・・・えへへ」

 

俺とユエの告白にハジメが思い切り動揺し、シアは全身で喜びを表現する。完全に調子を取り戻したようだ。

別の問題として、クラスメイト、主に男子勢から嫉妬やらなんやらの目を向けられるが、些細なことだ。

そこに、場の雰囲気が落ち着くのを待っていたらしいチェイスが、警戒心を押し殺すようにして俺たちに問いかけてきた。

 

「南雲君と峯坂君でいいでしょうか?先程は、隊長が失礼しました。何分、我々は愛子さんの護衛を務めておりますから、愛子さんに関することになると少々神経が過敏になってしまうのです。どうか、お許し願いたい」

「神経過敏になっていきなり人殺しか。まぁ、特に問題もなければ実害もなかったし、別にいいけどな」

 

俺の適当な言葉にチェイスはピクリと眉を動かすが、微笑を崩さないまま話しかける。

その視線は、ハジメのドンナーに向けられている。

 

「そのアーティファクト・・・でしょうか。寡聞にして存じないのですが、相当強力な物とお見受けします。弓より早く強力にもかかわらず、魔法のように詠唱も陣も必要ない。一体、何処で手に入れたのでしょう?」

 

よく見れば、チェイスの顔は微笑んでいるが、目はちっとも笑っていない。

どうやら、ドンナーの価値を狂いなく見抜いているようだ。

そこに、クラスメイトの男子の一人である玉井が興奮した声で遮ってきた。

 

「そ、そうだよ、南雲。それ銃だろ!?何で、そんなもん持ってんだよ!」

「銃?玉井は、あれが何か知っているのですか?」

「え?ああ、そりゃあ、知ってるよ。俺達の世界の武器だからな」

 

玉井の言葉にチェイスは納得がいったようで、ゆっくりとハジメを見据える。

 

「ほぅ、つまり、この世界に元々あったアーティファクトではないと・・・とすると、異世界人によって作成されたもの・・・作成者は当然・・・」

「俺だな」

 

ハジメがあっさり白状したのを見て、チェイスは意外感をあらわにした。また誤魔化されると思っていたのか。

 

「あっさり認めるのですね。南雲君、その武器が持つ意味を理解していますか?それは・・・」

「この世界の戦争事情を一変させる・・・だろ?量産できればな。大方、言いたいことはやはり戻ってこいとか、せめて作成方法を教えろとか、そんな感じだろ?当然、全部却下だ。諦めろ」

 

取り付く島もないハジメの返答に、それでもチェイスは食い下がる。やはり、銃の持つ価値を正確に理解しているようだ。

 

「ですが、それを量産できればレベルの低い兵達も高い攻撃力を得ることができます。そうすれば、いずれ来る戦争でも多くの者を生かし、勝率も大幅に上がることでしょう。あなたが協力する事で、お友達や先生の助けにもなるのですよ?ならば・・・」

「なんと言われようと、協力するつもりはない。奪おうというなら敵とみなす。その時は・・・戦争前に滅ぶ覚悟をしろ」

 

ハジメの静かな言葉に、チェイスは全身を悪寒に襲われ口をつぐむ。

俺がまた付け加えようと口を開きかけるが、その前に愛ちゃん先生が取りなすように口を挟んだ。

 

「チェイスさん。南雲君には南雲君の考えがあります。私の生徒に無理強いはしないで下さい。南雲君も、あまり過激な事は言わないで下さい。もっと穏便に・・・南雲君と峯坂君は、本当に戻ってこないつもり何ですか?」

「ああ、戻るつもりはない」

「明朝、仕事に出て依頼を果たしたら、そのままここを出る」

「どうして・・・」

 

俺とハジメの返答に愛ちゃん先生は悲しそうに俺たちを見やり、理由を聞こうとするが、その前にハジメは立ち上がる。見れば、すでに食事を終えていた。

だが、俺は立ち上がらずにそのまま席に座ったままだ。ティアも、俺が立ち上がらないのを見て、そのまま座っている。

 

「ツルギ?」

「ハジメは先に戻っててくれ。俺はもう一品食べてから戻る」

「そうか、わかった」

 

そう言って、ハジメはユエとシアを連れて部屋に戻っていった。

俺は、店員にチャーハンモドキを注文し、愛ちゃん先生たちに視線を戻した。

 

「んで?なにか聞きたいことでもあるんじゃないのか?」

 

俺の言葉に、主にクラスメイトたちがハッと息を飲む。

俺が残ったのも、ある程度ここで話をしておくためだ。

ハジメからすれば余計なことだと思うかもしれないが、このまま放置するのも問題だから俺が残ることにした。

微妙な空気が流れる中、愛ちゃん先生が遠慮がちに俺に問いかけてきた。

 

「あの、どうして南雲君は戻ってこないのでしょうか?」

「さっきも言ったけどな、俺たちには俺たちの目的がある。そいつは、この世界がどうなったところでどうでもいいことだ」

「その目的とは?」

「ハジメの目的は、日本に帰る手段を得ることだ」

「どうして、わざわざ自力で?」

「ぶっちゃけるが、俺もハジメもエヒトとやらを信用していない。戦争を終わらせたところで、本当に帰れるとは思ってない」

 

実際は、信用していないどころか、この戦争の黒幕だとわかっているが、さすがにここでこの世界の真実まで話すわけにはいかない。

神殿騎士たちは俺に殺気を向けるが、愛ちゃん先生が落ち着かせ、俺たちだけで話がしたいと外にだしてくれた。

ちょうどその後に俺の頼んだチャーハンモドキが運ばれ、次に玉井がおずおずと問いかけてきた。

 

「な、なぁ、南雲って、やっぱり、俺たちのことをよく思ってないのか?」

「あむ、ちょっと違うな。ハジメの言っていた通り、単に興味がないだけだ。好悪は関係ない」

「・・・なぁ、峯坂は、どう思ってるんだ?」

「んっく、どうって?」

「だから、南雲があんな風に変わったことだよ」

 

たしかに、いくら親友とはいえ、人殺しのような視線を向けられれば、そう思うのも当然だろう。

一応、本心は「何があっても南雲の味方でいる」と決めたからなのだが、さすがにそこまでは話せないので違う理由を話す。

 

「俺としては、変わって当然だと思うが?()()()()()()()()クラスメイトに攻撃されて奈落に落とされ、たった一人で這い上がってきたわけだからな。むしろ、誰彼に構わず殺さない時点で、前のハジメは残ってるだろうよ。恋人だっているわけだしな」

「あぁ・・・」

 

ハジメを慕っているユエとシアの姿を思い出したのか、わずかに納得する。まぁ、周囲から見たハジメ像なんて「不真面目なオタク」なんだから、どこまで納得できているかはわからないが。

 

「ね、ねぇ、峯坂君」

「ん?」

 

そんなことを考えていると、女子生徒である園部が遠慮がちに声をかけてきた。

なにやら、質問とは別の目的があるようだ。

 

「できれば、その、南雲にお礼を言ってもらえない?」

「お礼って、なんの・・・あぁ、そういえば、あの時ハジメが助けたのって園部だったか」

 

思い返してみれば、ハジメが落とされたあの時、トラウムソルジャーに殺されそうになった女子生徒をハジメが助けていたが、あれは園部だったか。

どうやら、お礼を言うことに意味があるのか、疑問に思っているようだ。

 

「それなら、園部が直接言っとけ。お礼ってのは、人に頼んでやってもらうものでもないからな」

「でも・・・」

「んな心配しなくても、意味がないなんてことはない。言うだけ言えばいいだろ」

「・・・うん、わかったわ」

 

俺の言葉に、園部もある程度もやもやが晴れたようで、なにやら決意を決めたような表情になった。

そのタイミングで、俺のチャーハンモドキもなくなった。

 

「っと、もう終わりか。んじゃ、俺は部屋に戻るからな。行くぞ、ティア」

「わかったわ」

 

俺は席を立ちあがってティアに呼びかけ、俺たちの部屋に戻った。

 

 

* * *

 

 

「ねぇ、ツルギ」

「ん?なんだ?」

 

部屋に戻った後、いきなりティアが俺に尋ねてきた。

 

「ツルギって、さっきのあの先生をどう思ってるの?なんか、呆れてることが多かったけど」

「・・・よく見てるな」

 

どうやら、ティアは俺の思っている以上に俺のことを見ているらしい。

これは、隠し事はできそうにないな。

 

「別に気に入らないとかそういうのはないんだが、いやにちぐはぐだからな。俺としても、ちょいと複雑なんだよ」

「ちぐはぐって、なにが?」

「愛ちゃん先生って、一応は立派な大人なんだが、なにやら本人は『威厳のある教師』を目指しているようでな。それを考えて、現実を見ているのか見ていないのかわからなくなるんだよ。まぁ、夢見がちってのは言えてるが」

「あぁ、たしかにそうね」

 

ティアの方も、納得したようだ。

愛ちゃん先生は生徒に対して真摯に接するが、どこか無条件に生徒を信用しているようにも見える。

新任教師だからこそともいえるが、この世界では、たとえどのような事情があっても、無条件で人を信じるというのは危険なことだ。

デビッドたち護衛騎士に関しては幸い、特に問題は起こらなかったが、もし生徒の中に人殺しをしようとした人物がいると知った時、あるいは、目の前に現れた時、果たしてどのような行動をとるのか。

その辺りが、俺の不安要素でもある。

いざというときは、俺やハジメで何とかするしかないか。

・・・そういえば、クラスメイトと言えば、白崎や八重樫は今頃どうしているのだろうか。

あのバカ勇者は死んでてもいい、むしろ死んだ方がいろいろと面倒が減っていいのだが、そうはいかないだろう。

だが、八重樫との約束も、いつかは守らなければ。

そんなことを考えていると、ふと強烈な視線を感じた。

見てみれば、ティアがユエばりのジト目を俺に向けて・・・

 

「・・・ツルギ、その女の人、だれ?」

 

なぜわかったし。

ここまでばれてるなら、隠しても意味はないか。

 

「別に、やましいことはなにもない。ただ、王国を出る前に、八重樫・・・ハジメが落とされる原因になった女の子の友達なんだが、そいつと必ず生きて戻ってくるって約束したからな。そいつを思い出しただけだ」

「ふ~ん・・・」

 

一応、ちゃんと説明したのだが、ティアのジト目は戻らない。

・・・覚悟を決めるしかないか。

 

「・・・わかったから、今夜は好きなだけ甘えろ」

「いいの?」

「男に二言はねぇよ」

「じゃあ、遠慮なく・・・」

 

その後、俺たちは夜遅くまで愛し合った。

・・・ユエの影響か、ティアもエロくなっちゃったなぁ・・・。




「せっかくだし、他のメニューも制覇したいんだがなぁ・・・」
「すみませんが、在庫に限りがありますので・・・」
「・・・ツルギ」
「どうしたんだ、ティア?」
「やっちまいましょう」
「なにを!?」

ティアの食に対する執念は、意外と深い。


~~~~~~~~~~~


だいぶ長くなりました。
一応、半分くらいでもいいかなと思ったのですが、それだと中途半端な感じになっちゃいそうだったので。
そして、ツルギの愛ちゃん先生評価は、あんがい辛辣でしたね。
自分もたまに思うのですが、どうしても新任教師の放つ夢にあふれたキラキラオーラってのが、どうにも苦手で。
他の年季の入った教師を見ていると、「いずれは現実を見ることになるんだぜ?」と思ってしまいます。
教師ってのは、半分以上はお役所仕事みたいなものですし。

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