二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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いらん手間をかけさせないでくれ

まず、ティオとイズモと名乗った2人がここにいる理由は、簡単に言えば俺たちが原因だった。

詳細は省かれたが、竜人族の中には魔力感知に優れた者がおり、数ヶ月前に大魔力の放出と何かがこの世界にやって来たことを感知したらしい。

竜人族と妖狐族は表舞台には関わらないという種族の掟があるらしいのだが、流石に、この未知の来訪者の件を何も知らないまま放置するのは自分達にとっても不味いのではないかということで、議論の末に調査の決定がなされたそうだ。

目の前の2人は、その調査の目的で集落から出てきたらしい。本来なら、山脈を越えた後は人型で市井に紛れ込み、自分たちの種族を秘匿して情報収集に励むつもりだったのだが、その前に一度しっかり休息をと思い、この1つ目の山脈と2つ目の山脈の中間辺りで休んでいたらしい。当然、周囲には魔物もいるので、それぞれの代名詞である竜人族の固有魔法“竜化”による黒竜状態と妖狐族の固有魔法“変化”による九尾の狐状態になって。

ちなみに、妖狐族の“変化”はかなりの高性能で、アーティファクトがなくても、かなりの高精度で変身できるらしい。耳や尻尾を隠すのはもちろん、誰かの姿そっくりに似せることもできるほど。そのため、昔は竜人族の側近兼諜報員として側に仕えていたらしい。ティオとイズモは、例外的に友人関係を築いているらしいが。

それはさておき、睡眠状態に入った黒竜の前に1人の黒いローブを頭からすっぽりと被った男が現れた。その男は、眠る黒竜に洗脳や暗示などの闇系魔法を多用して徐々にその思考と精神を蝕んでいった。

当然、そんな事をされれば起きて反撃するのが普通だ。だが、ここで竜人族の悪癖が出る。そう、例のことわざの元にもなったように、竜化して睡眠状態に入った竜人族は、まず起きないのだ。それこそ尻を蹴り飛ばされでもしない限り。

それは妖狐族も似たようなもので、意図的に深い眠りに長時間就くことで、効率的な体力回復を図るらしい。

それでも、竜人族は精神力においても強靭なタフネスを誇るので、そう簡単に操られたりはしない。

では、なぜ、ああも完璧に操られたのか、というと、

 

「恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸1日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった・・・」

 

ティオは一生の不覚!とでも言わんばかりだが、1つツッコみたいことがある。

 

「それはつまり、調査に来ておいて丸1日、魔法が掛けられているのにも気づかないくらい爆睡していたって事じゃないのか?」

 

俺の代わりにハジメが言ったことに、全員の目が、何となくバカを見る目になる。

ティオはさっと視線を逸らす。

 

「ていうか、イズモもなんで気付かなかったんだよ」

「いや、私に魔法がかけられていたのならともかく、ティオ様にかけられているのには気づかなくてな・・・」

 

結果、イズモが起きるころにはティオは洗脳されてしまい、イズモもティオを人質にされて洗脳を受け入れざるを得なかった、ということらしい。

ちなみに、なぜ丸1日かけたと知っているのかというと、洗脳が完了した後も意識自体はあるし記憶も残るところ、本人が「丸1日もかかるなんて・・・」と愚痴を零していたのを聞いていたからだそうだ。

その後、ローブの男に従い、2つ目の山脈以降で魔物の洗脳を手伝わされていたのだという。そして、ある日、1つ目の山脈に移動させていたブルタールの群れが、山に調査依頼で訪れていたウィル達と遭遇し、目撃者は消せという命令を受けていたため、これを追いかけた。うち1匹がローブの男に報告に向かい、万一、自分が魔物を洗脳して数を集めていると知られるのは不味いと万全を期して2人を差し向けたらしい。

で、気が付けば俺たちと遭遇し、ボコボコにされた。そして、イズモは俺が魔法を斬ったおかげで、ティオは尻からの強烈な衝撃で目を覚ました、ということらしい。一応、ハジメが尻に杭を叩き込む前に、シアがドリュッケンを脳天にたたきつけたみたいだが、果たしてどちらの衝撃で正気が戻ったのか・・・。

 

「・・・ふざけるな」

 

だいたいの事情説明が終わると、激情を必死に押し殺したような震える声が発せられた。その声の主は、ウィルだ。

 

「・・・操られていたから・・・ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんを、クルトさんを!殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」

「「・・・」」

 

どうやら、状況的に余裕が出来たせいか冒険者達を殺されたことへの怒りが湧き上がったらしい。激昂して二人へ怒声を上げる。

対する二人は、一切の反論をしなかった。

ただ、静かな瞳でウィルの言葉の全てを受け止めるよう真っ直ぐ見つめている。その態度がまた気に食わないのか、

 

「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう!大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」

「・・・今の話は本当だ」

「あぁ、竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない」

 

それでもウィルはなにかを言いつのろうとするが、その前にユエが止める。

 

「・・・きっと、嘘じゃない」

「っ、一体何の根拠があってそんな事を・・・」

「・・・竜人族は高潔で清廉。それは、竜人族に仕えた妖狐族も同じ。私は皆よりずっと昔を生きた。竜人族と妖狐族の伝説も、より身近なもの。2人は“己の誇りにかけて”と言った。なら、きっと嘘じゃない。それに・・・嘘つきの目がどういうものか、私はよく知っている」

 

そう言ってユエは、どこか遠くを見た。おそらく、昔に聞いた竜人族の話を思い出しているのだろう。決して、先ほどの醜態を思い返して遠い目をしているわけではない、と思いたい。

そして、俺からもウィルに忠告する。

 

「それとだな、お前はわかってないようだから言うが、冒険者ってのはもともとこういう職業だ。危険に飛び込み、時にはあっさりと命を落とす。冒険者ってのは、死と隣合わせの職業なんだ。こういうことも珍しくない。今さら、魔物に襲われて命を落としたくらいで、軽々しく感情的になるな。じゃなきゃ、お前もいつかあっさり死ぬことになるぞ」

 

俺の言葉に、ウィルはもちろん、愛ちゃん先生たちも言葉を失い、呆然としていた。

 

「ふむ、この時代にも竜人族のあり方を知るものが未だいたとは・・・いや、昔と言ったかの?」

 

そこに、ティオの言葉で我に返る。どうやら、先ほどのユエの言葉に興味を抱いたらしい。

 

「・・・ん。私は、吸血鬼族の生き残り。300年前は、よく王族のあり方の見本に竜人族の話を聞かされた」

「何と、吸血鬼族の・・・しかも300年とは・・・なるほど死んだと聞いていたが、主がかつての吸血姫か。確か名は・・・」

 

どうやら、単純に引きこもっていたわけではないらしく、世界情勢にもある程度は精通していたようだ。おそらく、今までと同じように里からでてきた竜人族か妖狐族が正体を隠して調査していたのかもしれない。

そして、ティオやイズモをもってしても吸血姫の生存は驚いたようだ。周囲のウィルや愛子達も、驚愕の目でユエを見ている。

 

「ユエ・・・それが私の名前。大切な人に貰った大切な名前。そう呼んで欲しい」

 

そんなティオの言葉に、ユエは幸せオーラを振りまきながら答える。

突然の惚気に一同は複雑な表情になるが、ウィルの方はやはり冒険者たちの無念を晴らすまでにはいかなかったようだ。

 

「・・・それでも、殺した事に変わりないじゃないですか・・・どうしようもなかったってわかってはいますけど、それでもっ!ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって・・・彼らの無念はどうすれば・・・」

 

・・・これは、あれだな、そんな立派なフラグを建てる方が悪いと思わなくもないな。

そして、結婚するという言葉に、あるものを思い出した。

 

「ウィル、これはそのゲイルってやつの持ち物か?」

 

そう言って、俺は調査中に見つけたロケットペンダントをウィルに差し出す。すると、ウィルはそれを受け取ると、マジマジと見つめ嬉しそうに相好を崩す。

 

「これ、僕のロケットじゃないですか!失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」

「あれ?お前の?」

「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」

「ま、まま?」

 

なんか、予想と違った返答が返ってきた。

写真の女性の写真は20代前半といったところだ。母親と言うにはいくらなんでも若すぎる。

そのことを聞くと、「せっかくのママの写真なのですから若い頃の一番写りのいいものがいいじゃないですか」と、まるで自然の摂理を説くが如く素で答えられた。

あぁ、なんだ、ただのマザコンか。

この事実に、女性陣は完全にドン引きしていた。

ちなみに、ゲイルとやらの相手は“男”らしい。そして、ゲイルのフルネームはゲイル・ホモルカというそうだ。なんというか、名は体を表すとはよく言ったものだ。

とりあえず、ウィルは母親の写真のおかげで落ち着きを取り戻したが、今度は冷静にティオとイズモを殺すべきだと主張した。また、洗脳されたら脅威だというのが理由だが、建前なのは見え透いている。主な理由は復讐だろう。

だが、

 

「ったく、言っておくがな、何を言ってもお前の意見を聞き入れるつもりはないぞ」

「な、なんでですか!」

「殺す意味も理由もないからだ。むしろ、実力者2人を殺す方がよっぽど害悪だな。また洗脳されたら脅威だと言ってるが、そんなの他の実力者だって同じだ」

「で、でも!」

「余計な感情は捨てろ。それは、この場ではいらないものだ」

 

俺は先ほどよりも強く言い、今度こそウィルを黙らせた。

そこに、ティオとイズモも声音に罪悪感を含ませながら己の言葉を紡ぐ。

 

「操られていたとはいえ、妾たちが罪なき人々の尊き命を摘み取ってしまったのは事実。償えというなら、大人しく裁きを受けよう。だが、それには今しばらく猶予をくれまいか。せめて、あの危険な男を止めるまで」

「あの男は、魔物の大群を作ろうとしている。竜人族と妖狐族は大陸の運命に干渉せぬと掟を立てたが、今回は私たちにも責任がある。放置はできん・・・勝手は重々承知している。だが、どうかこの場は見逃してくれんか」

 

2人の言葉を聞き、その場の全員が魔物の大群という言葉に驚愕をあらわにする。

詳しく話を聞くと、黒ローブの男が、魔物を洗脳して大群を作り出し町を襲う気であると語った。その数は、既に3000から4000に届く程の数だという。何でも、2つ目の山脈の向こう側から、魔物の群れの主にのみ洗脳を施すことで、効率よく群れを配下に置いているのだとか。

とりあえず、その黒ローブの男の正体について確認を入れておこう。あの可能性がある。

 

「ティオ、イズモ。その黒ローブの男ってのは、黒髪黒目の少年だったか?あるいは、勇者のことを知っている素振りはなかったか?」

「み、峯坂君?いったい何を。そんなわけが・・・」

「いや、お主の言う通りじゃ。たしかに黒髪黒目の少年で、『これで自分は勇者より上だ』などと口にしておった」

「あぁ、ずいぶんと勇者を妬んでいる様子だった」

 

愛ちゃん先生は俺の言葉を否定しようとしたが、ティオとイズモは俺の言葉にうなずく。

黒髪黒目の少年で、勇者のことを知っていて、なおかつ闇系統魔法に天賦の才がある者。ここまでくれば、愛ちゃん先生たちでも正体がわかる。

愛ちゃん先生から話を聞いて、イルワからの情報をもとに考えたが、やっぱり正解だったか。

愛ちゃん先生たちはと言えば、「そんな、まさか・・・」と呟きながら困惑と疑惑が混ざった複雑な表情をした。限りなく黒に近いが、信じたくないといったところだろう。

 

「おぉ、これはまた・・・」

 

すると、突然ハジメが遠くを見る目をして呟いた。どうやら、俺と同じように、二人が話している間にオルニスを飛ばして魔物の群れを探していたようだ。どうしてこうも、俺とは違う方向で見つかるのか。

 

「ハジメ、数はどんなもんだ?」

「こりゃあ、3,4000ってレベルじゃないぞ?桁が1つ追加されるレベルだ」

 

ハジメの報告に全員が目を見開く。しかも、どうやら既に進軍を開始しているようだ。方角は間違いなくウルの町がある方向。このまま行けば、半日もしない内に山を下り、一日あれば町に到達するだろう。

俺は、すぐにやるべきことを告げる。

 

「とりあえず、さっさと山を下りよう。んで、町に着いたら町民の避難と王都への連絡だな。ぼさっとしてる暇はないぞ」

 

とりあえず、ハジメや愛ちゃん先生たちも異論はないようで、すぐに頷いて山を下りようとする。

そこに、ふとウィルの呟き声が聞こえてきた。

 

「あの、ツルギ殿たちなら何とか出来るのでは・・・」

 

その言葉に、愛ちゃん先生たちが一斉に俺たちの方を振り向く。

その目は、明らかに期待の色に染まっていた。

だが、今回はあいにくとその要望に応えるつもりはない。

 

「言っとくが、やらないぞ。あくまで俺たちの仕事はウィルをフューレンに送ることだ。今回のこれは完全に俺たちの管轄外だからな。だから、さっさと行くぞ」 

 

そう言って、俺はウィルの首根っこをつかんで山を下りようとする。

そこに、ウィルや愛ちゃん先生たちが慌てて異議を唱えてくる。

このまま大群を放置するのか、黒ローブの正体を確かめたい、ハジメなら大群も倒せるのではないか・・・。

・・・どいつもこいつも、現実ってものを理解していない。

 

「さっきも言ったが、俺たちの仕事はあくまでウィルの保護だ。魔物との戦争なんてものは俺たちの管轄外だ。そもそも、殲滅戦ってのはこんな見通しの悪い場所でやるものじゃない。このままやっても、せいぜい1万も殺せずに物量で押されて無駄死にするのが関の山だ」

「それに、仮に大群と戦う、あるいは黒ローブの正体を確かめるって事をするとして、じゃあ誰が町に報告するんだ?万一、俺達が全滅した場合、町は大群の不意打ちを食らうことになるんだぞ?ちなみに、魔力駆動は俺たちしか動かせない構造だから、俺らに戦わせて他の奴等が先に戻るとか無理だからな」

 

俺とハジメの理路整然とした正論にウィルや愛ちゃん先生たちも現実を理解したようで、何も言えなくなりうつむいた。

 

「まぁ、ご主じ・・・コホンッ、彼らの言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」

「・・・ティオ様、今、なんと言いかけました?まさか、ご主人と言おうとしていませんでしたか?」

 

押し黙った一同へ、後押しするようにティオが言葉を投げかける。若干、ハジメに対して変な呼び方をしそうになっていた気がするが・・・気のせいだろう。例え、イズモが同じことを追及していたとしても、さっきの言い間違いは気のせいにちがいない。

愛ちゃん先生も、それが最善だと清水への心配は一時的に押さえ込んで、まずは町への知らせと、今、傍にいる生徒達の安全の確保を優先することにした。

ちなみに、ティオは魔力枯渇で動けないので、ハジメが首根っこを掴みズルズルと引きずって行く。実は、誰がティオを背負っていくかと言うことで男子達が壮絶な火花を散らしたのだが、それは女子生徒達によって却下され、ティオ本人の希望もあり、何故かハジメが運ぶことになった。

だが、そこで背負ったり抱っこしないのがハジメクオリティー。面倒くさそうに顔をしかめると、いきなりティオの足を掴みズルズルと引きずりだしたのだ。

愛ちゃん先生たちの猛抗議により、仕方なく首根っこに持ち替えたが、やはり引きずるのは変わらない。何を言ってもハジメは改めない上、何故かティオが恍惚の表情を浮かべ周囲をドン引きさせた結果、現在のスタイルでの下山となった。

また、その様子を見たイズモの目にキラリと光るものが見えたので、俺とティアで必死に慰めた。

そんなこんなで、俺たちは下山してウルの町へと向かった。




「・・・(ジ~ッ)」
「ん?ティア殿、私に何か用か?」
「・・・いえ、別に何でもないわ」
(・・・こういうティアもかわいいなぁ)

おや?ティアの様子が・・・(再び)


~~~~~~~~~~~


今回のツルギ君はキレ気味に仕上がりました。
それと、実はですね、ここで問題なのが、新オリキャラのイズモなんですが、まだ戦闘ステータスの構想があやふやなんですよ。
一応、ある程度の形はあるんですが、属性適性とかその辺りをどうしようか、まだ考えている最中です。
まぁ、どのみち次回か次々回くらいまでには決めますが、もしリクエストがあるなら、その中から抜擢したり組み合わせるのも悪くないかな?とか考えていたり。(コメ稼ぎじゃないですよ?)

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