二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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*「思わぬ再会」でツルギが園部優花に「お礼は自分で言っとけ」みたいな発言をしたのに、そのシーンを書いていなかったので書き加えました。


さぁ、蹂躙を始めようか

「!・・・来たか」

 

ハジメのつぶやきを聞いた俺は、眼鏡型アーティファクト:シュテルグラス(ハジメ命名)をかけ、ハジメが飛ばしているオルニスの映像をリンクさせた。

そこに映っているのは、ブルタールのような人型の魔物の他に、体長3,4mはありそうな黒い狼型の魔物、足が6本生えているトカゲ型の魔物、背中に剣山を生やしたパイソン型の魔物、4本の鎌をもったカマキリ型の魔物、体のいたるところから無数の触手を生やした巨大な蜘蛛型の魔物、二本角を生やした真っ白な大蛇など実にバリエーション豊かな魔物が、大地を埋め尽くすほどの大群で進軍している様子だ。

どうやら、さらに数を増やしたらしく、その数は5,6万に届こうかというくらいだ。

更に、大群の上空には飛行型の魔物もいる。敢えて例えるならプテラノドンだろうか。何十体というプテラノドンモドキの中に一際大きな個体がいる。その個体の上には薄らと人影のようなものも見えた。

それをシュテルグラスと俺の“天眼”を併用して確認してみれば、それは例の黒ローブの男だ。愛ちゃん先生は信じたくないようだが、俺が見た限り、うっすら見える黒髪から十中八九清水幸利だろう。

 

「さてと、思っていたより早いし、数も多いな」

「あぁ、到達まで30分ってところだな。数は5万強、複数の魔物の混成みたいだ」

 

愛ちゃん先生たちは、魔物の数を聞き、更に増加していることに顔を青ざめさせる。

不安そうに顔を見合わせる彼女達に、ハジメは壁の上に飛び上がりながら肩越しに不敵な笑みを見せた。

 

「そんな顔するなよ、先生。たかだか数万増えたくらい何の問題もない。予定通り、万一に備えて戦える者は“壁際”で待機させてくれ」

「ま、どうせ出番はないだろうけどな」

 

俺もハジメの言葉に同調しながら、壁の上に跳び乗る。

そんな俺たちに、愛ちゃん先生は少し眩しいものを見るように目を細めた。

 

「わかりました・・・君たちをここに立たせた先生が言う事ではないかもしれませんが・・・どうか無事で・・・」

 

 愛ちゃん先生はそう言うと、護衛騎士達が「この者たちに任せていいのか」「今からでもやはり避難すべきだ」という言葉に応対しながら、町中に知らせを運ぶべく駆け戻っていった。クラスメイトたちも、一度俺たちを複雑そうな目で見ると、愛ちゃん先生を追いかけて走っていった。

だが、数歩進んだところで、園部が立ち止まった。なにやら難しい表情をしながら立ち止まっている。

他のクラスメイトは怪訝そうにしながら園部の名前を呼んでいるが、園部はそれにも応じない。

だが、次の瞬間には何かを振り切るようにぐっと表情に力を込め、俺たちの方に駆け出した。正確には、ハジメの方へだ。

なるほど、俺がこの前言ったことか。ティアの方も、あの場にいたこともあって、どこか優し気な表情だ。

 

「あ、あのさ、南雲!」

 

ハジメの方は、何も言わずに無言で用を問う。その態度に園部はわずかにたじろぐが、直後にキリッとまなじりを上げて、

 

「あ、ありがとね!あのとき、助けてくれて!」

 

・・・俺が焚きつけといておきながら、こんなことを考えるのもあれだけどさ、もうちょっと表情と言葉を一致させようぜ。見ようによっては、ケンカを売ってる風にも見えるからな。

ハジメの方はと言えば、本気で首をかしげている。おそらく、ティオのブレスを防いだことだと思っていそうだな、この感じだと。

だが、それは園部も同じように察したようで、訂正を入れてくる。

 

「その、さっきのこともそうだけど、それだけじゃなくて・・・あの日、迷宮で、トラウムソルジャーから助けてくれたでしょ。その後も、ベヒモスの足止めをしてくれたし」

「・・・あぁ、あの時、頭をかち割られそうにそうになっていた・・・そう言えば、園部だったか」

「うっ、かち割られ・・・あんまり生々しい表現しないでよ。割とトラウマなんだから」

 

今のハジメにそんな配慮はできないと思うけどな。ハジメの線引きは完全に身内とそれ以外なわけだし。

そんなハジメだからか、特に感情の見えない眼差しで首をかしげる。

 

「で?」

「あ、えっと、その・・・それで・・・」

 

園部は再び声を詰まらせるが、一つ大きく深呼吸をして叫んだ。

 

「無駄にしないから!南雲にとってはどうでもいいことかもしれないけどさ!それでも、無駄にしないから!」

 

どうやら、俺の言ったことをきちんと考え、園部なりに答えを出したらしい。後ろを見れば、他のクラスメイトも大きくうなずいている。

そして、それを聞いたハジメは、

 

「そうか」

 

それだけ言って、視線を魔物の群れに固定した。

・・・いや、それだけ?もっと言うことあるだろ、他にもさ?園部も、ちょっとへこんでんじゃん。

そんな気持ちを込めて、俺はハジメにジト目を向ける。

だが、ユエとシアの方は、どこか綻んだ眼差しを向けていた。どうやら、どんな形であれ、ハジメの取り巻く環境に温かさがあることが、純粋にうれしいようだ。

そんな俺たちの視線を受けて、ハジメはガリガリと頭を掻きながら、肩越しに振り返って声をかける。

 

「おい、園部」

「っ、な、なに?」

 

声をかけられた園部は小さく跳ねて驚きを表しながら振り返る。そんなにハジメに声をかけられることが驚きだったか、園部よ。まぁ、他のクラスメイトも似たような反応だが。

 

「あの時も思ったが、お前は根性のあるやつだ」

「え、ええっと・・・」

「お前みたいなやつはな、死なねぇよ・・・まぁ、多分だけどな」

「・・・」

 

最後の一言で若干台無しになった感じはするが、それでも、園部たちの心に響いたらしい。まるで、ヘドロのようにこびりついたものが落ちたような感じだ。

 

「・・・ありがと」

 

それは、風にさらわれてしまうような小さなつぶやきだったが、それでも、たしかにハジメへの感謝の言葉だった。

そして、苦笑いに似た表情を浮かべた園部は、踵を返して駆け出した。迎えるクラスメイトは若干複雑そうな表情を浮かべているが、園部の「行くわよ!」という掛け声に「おう!」と強く応え、一緒にかけていった。

その応えには、今までよりも少し力強く聞こえた。おそらく、もう心配はいらないだろう。

そんなことを考えながらハジメを見ると、なにやらハジメの方が俺にジト目を向けていた。

 

「なんだ?」

「お前だろ、園部を焚きつけたの」

 

どうやら、俺がいろいろと吹き込んだと思っているらしい。まぁ、あながち間違いではないが。

 

「お前が威圧をばらまいたせいで、いやに怯えちまったからな。園部が俺にお礼を言わせようとしたから、『意味がないなんてことはないから、自分で言っとけ』って返したんだよ」

「ったく、余計なことをしやがって」

「そんな風に言うなよ。見てみろ、ユエとシアもだいぶ嬉しそうだぞ?」

 

ハジメも、ユエとシアに向けられた眼差しを思い出して、そっぽを向いた。

一応、ハジメにとっても悪いことにはなっていないはずだろう。

これで残ったのは、俺たち以外には、ウィルとティオ、イズモだけだ。

ウィルは、ティオとイズモに何かを語りかけると、俺たちに頭を下げて愛ちゃん先生たちを追いかけていった。

いったい、なにを話していたのだろうか。

その疑問が顔に出ていたらしく、2人は苦笑しながら答えた。

 

「今回の出来事を妾たちが力を尽くして見事乗り切ったのなら、冒険者達の事、少なくともウィル坊は許すという話じゃ」

「そういうわけで、私たちも助太刀させてもらう。なに、魔力なら大分回復しているし、変化や竜化を使わなくても、十分戦力になるはずだ」

 

竜人族と妖狐族は、亜人族でありながら魔物と同様に魔力を直接操ることができる。

そのため、俺やユエみたいに全属性無詠唱無魔法陣とまではいかないが、適正属性なら俺たちと同じように無詠唱で使えるらしい。

ちなみに、ティオは火と風、イズモは火と闇に適性があるらしい。

自己主張の激しい胸を殊更強調しながら胸を張るティオに、ハジメは無言で魔晶石の指輪を投げてよこした。疑問顔のティオだったが、それが神結晶を加工した魔力タンクと理解すると大きく目を見開き、ハジメに震える声と潤む瞳を向けた。

 

「ご主人様・・・戦いの前にプロポーズとは・・・妾、もちろん、返事は・・・」

「ちげぇよ。貸してやるから、せいぜい砲台の役目を果たせって意味だ。あとで絶対に返せよ。ってか今の、どっかの誰かさんとボケが被ってなかったか?」

「・・・なるほど、これが黒歴史」

 

理解していなかった。

どうやら、かつてのユエも駄竜と同じ返答をしたらしい。結局のところ、思考回路は似たり寄ったり、ということか。

ちなみに、イズモには俺が説明付きで手渡した。

そんなことをしているうちに、ついに肉眼でも十分に見えるところまで魔物の大群が近づいてきた。

“壁際”に続々と弓や魔法陣を携えた者達が集まってくる。大地が地響きを伝え始め、遠くに砂埃と魔物の咆哮が聞こえ始めると、そこかしこで神に祈りを捧げる者や、今にも死にそうな顔で生唾を飲み込む者が増え始めた。

 

「んじゃ、ハジメ、頼んだぞ」

「あいよ、任せとけ」

 

俺の言葉に、ハジメは頷きながら前に出て、錬成で地面を盛り上げながら即席の演説台を作成しる。

即席の演説台を作ったのは、単にフレンドリーファイアを避けるためだ。

俺の方も、ハジメの作った演説台に上り、右手の魔法陣に込める魔力を増大させる。

ハジメは、全員の視線が自分に集またことを確認すると、すぅと息を吸い、天まで届けと言わんばかりに声を張り上げた。

 

「聞け!ウルの町の勇敢なる者達よ!私達の勝利は既に確定している!」

 

いきなり何を言い出すのだと、住人たちは隣合う者同士で顔を見合わせる。ハジメは、彼等の混乱を尻目に言葉を続ける。

 

「なぜなら、私達には女神が付いているからだ!そう、皆も知っている“豊穣の女神”愛子様だ!」

 

その言葉に、皆が口々に愛子様?豊穣の女神様?とざわつき始めた。護衛騎士達を従え、後方で人々の誘導を手伝っていた愛ちゃん先生が、ギョッとしたようにハジメを見た。

 

「我らの傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない!愛子様こそ!我ら人類の味方にして“豊穣”と“勝利”をもたらす、天が遣わした現人神である!私たちは、愛子様の剣にして盾、彼女の皆を守りたいという思いに応えやって来た!見よ!これが、愛子様により教え導かれた私たちの力である!」

 

ハジメの合図に合わせて、右手の魔法陣を展開し、俺が作り出した広域殲滅魔法を発動させる!

 

「焼き尽くせ、“ラグナロク”!!」

 

俺が高らかに魔法名を唱えると、右手の魔法陣が半径がおよそ5mまで伸長し、そこから特大の火球が5発、撃ち出される。

撃ち出された火球は、魔物の大群の真上あたりまで打ちあがると、そこから破裂してそれぞれ約20発の火球が拡散し、さらにそこから無数の火球が拡散し、地上の魔物や空に飛ぶプテラノドンもどきを次々と焼き尽くしていく。おそらく、これで1万近くは仕留めたはずだ。

これが、俺が生みだした広域殲滅用火・重力複合魔法“終焉の戦火(ラグナロク)”だ。

仕組みとしては、まずは重力魔法によっておよそ50発の火球を圧縮し、それをさらに20発ほど圧縮させて作り出した特大の火球を5発打ち出す、要は魔法版バンカークラスターだ。

発動に必要な時間と魔力はそれなりにかかるが、一発でもそこいらの魔物なら消し炭にする火球が5000発、一気に襲い掛かる。

これの発動によって、魔晶石の魔力もごっそり持っていかれたが、俺自身の魔力はまだ十分に残っている。これくらいなら、ペースを考えればほぼ永続的に戦えるだろう。

ちなみに、今の魔法で黒ローブの男は墜落したが、たぶん死んではいないだろう。その程度には、爆破位置を調整した。まぁ、愛ちゃん先生が知ったら怒りそうな気はするが、一応、離れているうちに落としたから、バレてはいないはずだ。

戦果を確認した俺は、悠然と振り返る。

そこには、唖然として口を開きっぱなしにしている人々の姿があった。

そして、俺とハジメで最後の一押しを加える。

 

「「愛子様、万歳!」」

 

俺とハジメで最後の締めを放った、次の瞬間、

 

「「「「「「愛子様、万歳!愛子様、万歳!愛子様、万歳!愛子様、万歳!」」」」」」

 

「「「「「「女神様、万歳!女神様、万歳!女神様、万歳!女神様、万歳!」」」」」」

 

ウルの町に、今までの様な二つ名としてではない、本当の女神が誕生した。どうやら、不安や恐怖も吹き飛んだようで、町の人々は皆一様に、希望に目を輝かせ愛子を女神として讃える雄叫びを上げた。

遠くで、愛ちゃん先生が顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。その瞳はまっすぐに俺たちに向けられており、小さな口が「ど・う・い・う・こ・と・で・す・か!」と動いている。

俺とハジメはさくっとそれを無視して、魔物の大群に向き直る。

ちなみに、ここまで愛ちゃん先生を全面に押し出したのには、いくつか理由がある。

1つ目は、俺たちの保険だ。

この事件を愛ちゃん先生の力で乗り切ったとすれば、教会での愛ちゃん先生の発言力も強くなるだろう。例えば、教会が俺とハジメのことを気に入らないとなれば、そのときはほぼ確実に愛ちゃん先生とぶつかることになるだろう。このときに、市井の人々が「町の危機を愛子様の力で乗り切った」と噂すれば、“豊穣の女神”の人気はうなぎ上りになり、人々の心をつかむだろう。そうすれば、教会も愛ちゃん先生とはむやみに敵対しなくなるだろうし、愛ちゃん先生の発言を無視できないはずだ。まぁ、教会の連中が意固地にならないとは限らないが。

2つ目は、俺たちの、特にティアの印象をなるべくよくするためだ。

俺たちの力は、あまりに強大だ。ともすれば、行使するだけで畏怖の対象になるほどに。さらに、ティアは魔人族だ。今は正体を隠せているとはいえ、どこかでバレるだろう。

だが、ここで俺たちの力を“女神様の力”ということにすれば、この場で俺たちを恐れることはないだろうし、ティアの正体がばれても、幾分かは風当たりも弱くなるはずだ。こちらも、できればの範疇だが。

3つ目は、早い話、「愛ちゃん先生もちょっとは自分の発言に責任を持っとけ」ということだ。

愛ちゃん先生だって、“教師”であり“大人”だ。だったら、ここで俺たちだけに責任を持たせるのではなく、“教師”であるなら自分もそれなりの責任を持てや、ということにしたのだ。もちろん、後で文句を言われるだろうが、そのときはこの正論で黙らせればいい。

後ろから町の人々の魔物の咆哮にも負けない愛ちゃん先生コールと、愛ちゃん先生自身の突き刺さるような視線と、「何だよ、あいつら、結構分かっているじゃないか」と笑みを浮かべているだろう護衛騎士達の視線をヒシヒシと感じながら、前に進み出る。

ハジメの右にはいつも通りユエが、左にはハジメが貸与えたオルカンを担ぐシアが、更にその隣には、魔晶石の指輪をうっとり見つめるティオが並び立ち、俺の右隣にティア、左隣にイズモが並ぶ。

地平線には、プテラノドンモドキが落とされたことなどまるで関係ないと言うように、一心不乱に突っ込んでくる魔物達が視界を埋め尽くしている。

俺がティアの方を向くと、ティアは力強くうなずき、イズモの方を見ると、任せてくれと視線に乗せてくる。ハジメの方も、同じようにユエとシアを見る。ティオは・・・放置でいいか。

そして、視線を魔物の大群に戻す。

 

「さてと、それじゃあ」

「あぁ、やるか」

 

これから始まるのは、魔物ではなく、俺たちの蹂躙劇だ。

 

 

* * *

 

 

ドゥルルルルルルルルル!!!

ドゥルルルルルルルルル!!!

 

魔物の大群が押し寄せてくる戦場に、独特な音を響かせながら無数の閃光が殺意をたっぷりと乗せて空を疾駆する。瞬く暇もなく目標へと到達した閃光は、大地を鳴動させ雄叫びを上げながら突進する魔物達の種族、強さに関係なく、僅かな抵抗も許さずに一瞬で唯の肉塊に変えた。

ハジメの電磁式ガトリング・メツェライだ。ドンナー・シュラークと同等の威力を持つ弾が、毎分1万2000発放たれ、無慈悲な“壁”となって目標を貫通し、背後の数十匹をまとめて貫いていく。

穿たれた魔物たちは、慣性の法則も無視してその場で肉体の大半を爆散させながら崩れ落ちた。

魔物たちは咄嗟に左右に散開して死の射線から逃れようとするが、撃ち手のハジメが当然逃がす訳もなく、二門のメツェライを扇状になぎ払う。解き放たれた“弾幕”は、まるでそこに難攻不落の城壁でもあるかのように魔物達を一切寄せ付けず、瞬く間に屍山血河を築き上げた。

 

ドォォォン!ドォォォン!

 

俺は、先ほどとは形の違う魔法陣を展開し、そこから次々と特大の火球を放っていく。

放っているのは、“ラグナロク”の最初の段階である、火球20発を重力魔法で圧縮したもので、目算でざっと1発あたり4,50体の魔物たちを屠っていく。それを、毎秒1発ずつ放つ。これであれば、“高速魔力回復”と合わさって俺の魔力分だけでも1日中放ち続けることができる。

強力な遠距離攻撃の手段をもたないティアとシアは、ハジメから貸し与えられたミサイルランチャー・オルカンを担ぎ、「好きに飛んでいけ~」とばかりに引き金を引きまくり、パシューという気の抜ける音と共に連続してぶっ放す。

その間抜けな音とは裏腹に、火花の尾を引いて大群のど真ん中に突き刺さった弾頭は、大爆発を引き起こし周囲数十mの魔物達をまとめて吹き飛ばした。爆心地に近い場所にいた魔物達は、その肉体を粉微塵にされ、離れていた魔物も衝撃波で骨や内臓を激しく損傷しのたうち回る。そして、立ち上がれないまま後続の魔物達に踏み潰されて息絶えていった。

全弾撃ち尽くしても、2人はハジメから配備され傍らに積み上げた弾頭を入れ替えて連射する。

今度は燃焼性のあるフラム鉱石を利用した焼夷手榴弾が放たれ、摂氏3000度の燃え続けるタール状の液体が魔物達に豪雨の如く降り注ぎ、その肉体を焼き滅ぼしていく。悲鳴を上げ暴れれば暴れるほど、周囲の魔物を巻き込んで灼滅の炎が広がる。

2人の担当する魔物が迎える末路は、爆散するか灰燼に帰すか、二つに一つだ。

ティオはその両手を突き出し、周囲の空気すら焦がしながら黒い極光を放つ。あの竜化状態で放たれたブレスだ。どうやら人間形態でも放てるらしい。ハジメをして全力の防御を強いた殲滅の黒き炎は、射線上の一切を刹那の間に消滅させ大群の後方にまで貫通した。ティオはそのまま腕を水平に薙ぎ払っていき、それに合わせて真横へ移動する黒い砲撃は触れるものの一切を消滅させていく。その他にも、ティオの適性属性である火・風魔法も駆使し、存分に戦場を蹂躙する。

イズモは、火の槍を放つ火魔法“緋槍”を放ち続け、着弾した後に黒い霧を発生させる。その霧の中にいる魔物は、苦しむように動きを鈍らせ、やがて絶命していく。どうやら、“緋槍”を起点にして闇魔法で毒素を生み出しているらしい。さらに、黒い霧には可燃性も持たせているらしく、たとえ魔物が黒い霧を避けても、イズモが霧に“緋槍”を放てば、そばにいる魔物を巻き込むほどの爆発が引きおこる。

ユエの殲滅力は、俺に負けず劣らず飛び抜けていた。

俺たちが攻撃を始めても、ユエは瞑目したまま静かに佇んでいた。ユエからの攻撃が薄いと悟った魔物たちが、そこから攻め込もうと流れ込み、既に進軍にすら影響が出そうなほど密集して突進して来る。

そして、ユエとの距離が500mを切ったその瞬間、ユエはスっと目を開きおもむろに右手を掲げ、一言、囁くように、されど世界へ宣言するように力強く魔法名を唱えた。

 

「“壊劫(えこう)”」

 

次の瞬間、魔物の頭上に渦巻く闇色の球体が出現し、さらにその形を四方500mの立方体に形作り、一気に魔物たちめがけて落下させた。

魔物たちはこれを防ぐことができず、なすすべもなく押しつぶされ、大地の染みとなった。この一撃で、およそ2000近い魔物が圧殺され、さらに、これによって四方500m深さ10mのクレーターが形成され、そこに数千の魔物が落ちていく。そこからユエは魔晶石から取り出した魔力を使って再び重力に干渉し、魔物の死体の上に更に魔物の死体を積み上げていく。

大地に吹く風が、戦場から蹂躙された魔物の血の匂いを町へと運ぶ。強烈な匂いに、吐き気を抑えられない人々が続出するが、それでも人々は、現実とは思えない“圧倒的な力”と“蹂躙劇”に湧き上がった。町の至るところからワァアアアーーーと歓声が上がる。

後ろからは、複雑そうなクラスメイトたちの視線を感じる。おそらく、俺はともかく、“無能”だと見下していたハジメが自分たちに替わって魔物を殲滅しているという光景が、にわかに受け入れがたいのだろう。

しばらく殲滅を続けると、目に見えて魔物の数が減り、密集した大群のせいで隠れていた北の地平が見え始めた頃、ついにティオとイズモが倒れた。渡された魔晶石の魔力も使い切り、魔力枯渇で動けなくなったのだ。一応、イズモの方は妖狐族であることを隠すために“変化”で尻尾と狐耳を見えないようにしているので、まったく魔力がないわけではないのだろうが。

 

「むぅ、すまぬ、妾はここまでのようじゃ・・・」

「私も、もう、火球一つ出せん・・・」

 

うつ伏せに倒れながら、顔だけをハジメの方に向けて申し訳なさそうに謝罪するティオの顔色は、青を通り越して白くなっていた。文字通り、死力を尽くす意気込みで魔力を消費したのだろう。

イズモの方は“変化”の魔力を残している分、ティオより顔色はいいが、それでも青くなっている。

 

「いや、これで十分だ。変態にしてはやるじゃねぇの」

「後は、俺たちに任せとけ」

「・・・ご主人様とツルギ殿が優しい・・・罵ってくれるかと思ったのじゃが・・・いや、でもアメの後にはムチが・・・期待しても?」

「「そのまま死ね、変態が」」

「ティオ様・・・」

 

血の気の引いた死人のような顔色で、ハジメの言葉にゾクゾクと身を震わせるティオは、とても満足げな表情をしている。反対にイズモの方はとても悲しそうな表情だ。

とりあえず、汚物からは視線を逸らして、魔物の群れに戻す。

その数はすでに、8000から9000といったところか。最初の大群を思えば、壊滅状態と言っていいほどの被害のはずだ。しかし、魔物達は依然、猪突猛進を繰り返している。正確には、一部の魔物がそう命令を出しているようだ。大抵の魔物は完全に及び腰になっており、命令を出している各種族のリーダー格の魔物に従って、戸惑ったように突進して来ている。

どうやら、ティオやイズモが言っていた通り、リーダー格の魔物を洗脳することで効率よく魔物を従えていたようだ。

これくらいなら、あとはリーダー格の魔物を倒すだけで十分だろう。そうすれば、他の魔物は逃げていくはずだ。

 

「さてと、ユエは魔力残量はどんなもんだ?」

「・・・ん、残り魔晶石2個分くらい・・・重力魔法の消費が予想以上。要練習」

「いやいや、一人で2万くらいやっただろ?十分だ。それを言えば、余裕を持っているツルギの方がおかしいんだよ」

「褒めてるのかディスってるのかどっちなんだよ。まぁ、それよりもだ。残りはピンポイントでやるぞ。ユエは援護を頼む。ハジメ、シア、ティアはリーダー格の魔物をやるぞ」

「んっ」

「あいよ」

「はいです!」

「わかったわ!」

 

俺の指示に、それぞれ威勢よく答える。ただ、ちょっと一つだけ心配なことがある。

シアが、リーダー格の魔物を区別できるかだ。

 

「シア、魔物の違いわかるか?」

「はい。操られていた時のティオさんみたいな魔物とへっぴり腰の魔物ですよね?」

「へっぴり・・うん、まぁ、そうだ。おそらく、ティオモドキの魔物が洗脳されている群れのリーダーだな。それだけやれば、他は逃げるだろう」

「なるほど、私の方も残弾が心許ないですし、直接殺るんですね!」

「あ、ああ。そうだ」

「何ていうか、お前、逞しくなったなぁ・・・」

「当然です。ハジメさんとユエさんの傍にいるためですから」

 

ハジメの感嘆もなんのその、元気よく答えるシアは、本当にたくましくなった。本当に、兎人族の定義を忘れそうだ。

だが、次の瞬間には、ハジメはドンナー・シュラークを抜き、シアもドリュッケンを手にかける。

ティアもフェンリルをはめ、俺は剣製魔法で双剣を生成すると同時に、淡紅色の結晶を4つ上に放り投げ、魔力を流す。

すると、結晶が輝き、そこに淡紅色の光でできた3本足の鳥が4羽現れた。

これが、ハジメに依頼して作ってもらったアーティファクト・ブリーシンガメンだ。このアーティファクトに特定のパターンの魔力を流して剣製魔法を発動することで、魔力でできた分身を作ることができ、この魔力人形を起点に魔法を発動させることができる。今はヤタガラスをモチーフにしている。

さらに、この魔力人形は魔力を通して知覚をある程度共有できるため、斥候として使うこともできる。

難点は、有効距離が比較的短いことだ。有効距離は俺を中心に半径100mと、ハジメの作ったオルニスなどに比べればだいぶ心もとない。

その分、様々な魔法を使うことができ、ハジメのアーティファクトを使うよりも精密に操作できる。

ちなみに、素材は神結晶で、なぜ本来の水色ではなく淡紅色になっているのかと言えば、俺が魔力で着色したからだ。実は、ハジメは余っている神結晶の半分を俺に譲ってくれることになったのだが、神結晶なんて貴重なものをカバンに入れて持ち歩くのも安心できないから、だったら着色して俺の分とハジメの分をわかりやすくしようとなったのだ。一応、魔力を抜けば元の水色に戻るが。

それはさておき、リーダー格の魔物はあと100体ほど。おそらく、突撃させて即行で殺されては配下の魔物の統率を失うと思い、大半を後方に下げておいたのだろう。

メツェライとオルカン、そしてティオとイズモの魔法による攻撃が無くなってチャンスと思ったのか、魔物達が息を吹き返すように突進を始める。

だが、それはこちらも望むところだ。

 

「“雷龍”」

 

後ろから、ユエが俺たちを援護するために“雷龍”を放つ。

即座に立ち込めた天の暗雲から激しくスパークする雷の龍が落雷の咆哮を上げながら出現し、前線を右から左へと蹂躙する。大口を開けた黄金色の龍に、自ら飛び込むように滅却されていく魔物の群れを見て、後続の魔物が再び二の足を踏んだ。

その隙に、俺たちはそれぞれ魔物にむかって突撃する。

 

チュチュチュン!

ザシュザシュザシュザシュ!

 

俺はブリーシンガメンから光線を放ってリーダー格の魔物をハチの巣にしながら、立ちふさがる魔物を双剣で斬り裂いていく。

だが、10体ほどリーダー格を仕留めたところで、左からなにやら周りとは違う魔物が出てき始めた。

見た目はただの黒い四目狼なのだが、俺のブリーシンガメンの光線の尽くを避けるのだ。そして、徐々にだが距離を詰めている。

しかも、ブリーシンガメンの映像を見れば、右からも四目狼が同じようにして俺に近づいてくる。

その動きは、明らかに挟撃を狙っている。

 

(指揮系統が変わったのか?いや、あの動きは間違いなく“先読”の技能だ。だが、そんな魔物がいるなんて話は聞いていない・・・ふむ、やっぱり、そういうことか)

 

頭の中で四目狼の魔物の考察をしている間にも、四目狼との距離は縮まっている。

だが、これくらいなら問題ないだろう。

俺はあえて、ブリーシンガメンの射撃をやめる。

次の瞬間、四目狼はそれを狙っていたかのようにして俺に飛び掛かってくる。

だが、

 

ザシュザシュ!!

「ギャウ!?」「ガウ!?」

 

ギリギリまで四目狼をひきつけた俺は、噛みつかれる直前に体をのけぞらせて回避し、双剣をひらめかせて首を斬り落とした。

おそらく、さっきの四目狼が清水の切り札だったのかもしれないが、ハジメやシア、ティアの方も問題なく倒したのをブリーシンガメンで確認したから、あとはもう流れ作業だろう。

 

「カァアアアアアアアアアアア!!!」

 

洗脳された魔物をあらかた殺したところで、戦場を特大の咆哮と魔力が波動となって駆け巡った。ハジメの魔力放射と威圧だ。

その圧倒的な威圧は魔物たちの精神に衝撃となって襲いかかり多大な本能的恐怖を感じさせ、自分達の群れのリーダーが既に存在していないことに気がつくと、しばらくの硬直の後、一体、また一体と後退りし、遂には踵を返して俺たちを迂回しながら北を目指して必死の逃亡を図り始めた。

その中に、最後だと思われる四目狼にまたがって逃亡を計る清水の姿を発見した。

それを見た俺は、即座に剣製魔法で弓矢を生成し、矢をつがえて引き絞る。

もう俺の天職は弓兵ではないが、“天眼”の技能はまだ存在するし、足りない部分は魔力操作で補う。

狙いを定めた俺は、スッと息を吸い込み、矢を放った。

不穏な気配を感じたのか、チラリと振り返った黒い四目狼の“先読”により回避されるものの、すぐ真横で矢を起点に光線を放ち、大腿部を貫き、地面に倒れさせた。

その衝撃で、清水も吹き飛ぶ。やはり身体スペックは高いようで、体を思い切り打ち付けつつもすぐさま起き上がり、黒い四目狼に駆け寄って何か喚きながら、その頭部を蹴りつけ始めた。おそらく、さっさと立てとか何とかそんな感じのことを喚いているのだろう。見るからにヒステリックな感じである。しまいには、暗示か何かで無理やり動かそうというのか、横たわる黒い四目狼の頭部に手をかざしながら詠唱を始めた。

だが、そこにハジメがドンナーを放ち、黒い四目狼に止めを刺す。

余波で再び吹き飛んだ清水は、わたわたと手足を動かしながら、今度は自力で逃げようというのか魔物達と同じく北に向けて走り始めた。

一応、俺も清水に向かって走っているが、ハジメがシュタイフを取り出し、一気に加速し瞬く間に清水に追いつく。後ろからキィイイイ!という聞き慣れない音に振り返った清水が、異世界に存在しないはずのバイクを見てギョッとした表情をしつつ、必死に手足を動かして逃げる。

 

「何だよ!何なんだよ!ありえないだろ!本当なら、俺が勇者グペッ!?」

 

悪態を付きながら必死に走る清水の後頭部を、ハジメは二輪の勢いそのままに義手で殴りつける。

清水は、顔面から地面にダイブし、シャチホコのような姿勢で数メートルほど地を滑って停止した。

とりあえず、愛ちゃん先生との約束通り、黒ローブの男、もとい清水を生きたまま捕えることには成功したか。

 

「さてと、先生はこいつのことをどうするのかね・・・場合によっては俺たちも・・・」

 

俺はそんなことをつぶやきながら、ハジメにヴィントも出してもらい、清水をワイヤーでぐるぐる巻きにしたあと、シュタイフに括り付けて町へと戻った。

その道中、清水は顔とかいろいろなところを打ち付けていたが、自業自得だ。




「おら、さんざん俺らに迷惑かけやがったんだ。詫びとして死ね」
(ぐりぐりと頭を踏みつける)
「グ、ギュウッ!?」
「ちょ、待て、ハジメ!殺すな!」

(ティオとイズモが人型に戻る)

「はぁ、はぁ、まさか、誰かに踏まれるということが、ここまで気持ちのいいことだったとは・・・」
「イズモ、お主、なにか不穏なことを言っておらんか?」
「・・・気のせいだろ」

(ウルの町にて)

「どうか、私の頭を踏んでくれ!それだけで、私は・・・!」
「イズモよ!とんでもないことを口走りながら土下座するでない!いつもの凛々しいイズモはどこにいってしまったのじゃ!?」
「おい。ハジメ、なにしでかしてるんだよ」
「俺だって、こんなことになるなんて思わなかったよ!」

ifルート イズモがハジメに踏みつけられて変態になったの図


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思い立ったが吉ということで、kou様からリクエストがあった、「もしハジメと戦うのがイズモだったら」のifルートを書いてみました。
ティオがけつを掘られて目覚めるなら、イズモは踏まれて目覚めさせようという、もう一つの変態らしいごほうびにしました。
ちょっとベタすぎましたかね?
それと報告ですが、来週から大学の定期テストがあるので、テスト期間は投稿を休みます。
自分は「別に勉強しなくてもいいやー」な主義だったんてすが、やはりそうは言ってられなくなってきたので。


ここで、オリジナルアーティファクトの紹介をしていきます。

シュテルグラス:
シュテルがドイツ語で「星」ということから、「星見→すべてを見通すことができる」みたいなイメージにしました。

ブリーシンガメン:
元ネタは北欧神話、というか禁書目録に出てくるフレイヤの魔術の設定を剣風にアレンジしたみたいな感じになったので、この名前にしました。一応言うと、そっちのものとは別物です。

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