「ツルギ!こっちこっち!」
「あぁ、今行く」
翌日、俺とティアはフューレンの観光区にいた。
もちろん、デートのためだ。
とは言っても、何か予定があるわけではない。どうせここを観光するのは初めてなのだから、面白そうなところを適当に回るのもいいだろうということでノープランで楽しむことにした。
今のところは、適当にぶらつくだけでもいろいろと楽しめている。
観光区に続くメインストリートにある屋台で買い食いしたり、たまに店主から「恋人同士かい?うらやましいねぇ~。ほら、これはサービスだよ」と一個おまけでもらったり、からかわれて赤面しているティアを抱き寄せてみたりと、これだけでも充実した時間を過ごせた。
そして、もうすぐ観光区につくというところで、俺はあるものを取り出した。
「あぁ、そうだ。ティア、これ」
「これって、ペンダント?」
俺が渡したのは、ティアドロップの金属製ペンダントだ。道中の屋台で、赤面したティアを抱き寄せているときにこっそり買った。
そして、これはただのペンダントではない。
そのペンダントには、チェーンが2つ取り付けられている。
「あぁ。これはペアルックになっていてな。こうやって、2つで1つになってるんだ」
そう、これは2つの装飾を合わせてティアドロップの形になっている、いわゆるペアルックなのだ。
ちなみに、なぜティアドロップなのかと言うと、単純に
「俺たち、こういうのは持ってないだろ?初めてのデートの記念だ」
「ツルギ・・・うん、ありがとう!」
そう言って、ティアは目に涙を浮かべながら満面の笑みでお礼を言ってくれた。
(その涙は誰がために、ってな)
その涙は、果たして悲しみの涙か、幸せの涙か。だが、できることならティアには幸せになってほしい。そのためなら、俺はなんだってしてみせよう。
「それじゃあ、つけてあげるよ」
「うん、お願い、ツルギ」
そう言って、俺はティアの後ろに回ってペンダントの片方をつけ、留め金をとめる。
「どう?」
「あぁ、とても似合ってるよ」
「ふふ、ありがとう、ツルギ。そうだ、私もツルギにつけてあげる」
「おう、頼むよ」
ティアはそう言って、今度は俺の後ろに回ってもう片方のペンダントをつける。
すると、ペンダントをつけ終わったティアが後ろから抱きついてきた。背中に柔らかな感触と体温が伝わる。
抱きついたまま、ティアはペンダントを手に持って突き出してきた。
何をしたいのか、俺にもすぐにわかった。俺の方も、片割れのペンダントを持ってティアのものへと近づける。そして、カチンと音が鳴り、二つのペンダントは一つのティアドロップになった。
「好きよ、ツルギ」
「俺もだ、ティア」
今過ごしているこの時間は、間違いなく、俺にとって一番幸せな時間だ。
* * *
「ねぇ、ツルギ」
「ん?なんだ?」
観光区でこちらでも買い食いをしたり、絵の展覧会を覗いたりしてデートを楽しんでいると、ティアがこんなことを聞いてきた。
「ツルギって、向こうの世界だとどうだったの?」
「どうって?」
「だから、他の女の子にちやほやされたりしなかったの?」
・・・デート中に聞くことかな、それは。
なんだか、ぽろっと八重樫との約束のことを話したときから、そういうことを気にしているような感じがする。俺が他の女に取られるのが、やっぱり嫌なんだろうか。
「まぁ、自分で言うのもなんだが、一時期はたしかにモテたな。告白されたことも何度かあった。全部断ったが」
特に多かったのは、中学2,3年くらいのころか。
別に他の男子の嫉妬を買ったりとか、そういうのはなかったが、けっこう人の視線が気になったりした。学校にいる間は、どこにいても人の視線を感じたような気がする。
バレンタインも、多い時は20個近くのチョコをもらった記憶がある。
まぁ、あの頃の俺はまだストイックなところがあったこともあり、告白とかは全部「誰かと付き合うつもりはないから」と粉砕した。
そして、なぜかハジメとのホモ説が噂された。
あれはマジできつかった。いろいろな意味で。
最終的には、そのような噂は俺が全部叩き潰したが。
「でも、高校に上がってからはそういうのはなくなったな」
「なんで?」
「俺以上に目立つ有名人がいたからだ」
そいつは言わずもがな、天之河光輝だ。
天之河の放つ光が、あらゆる女子を魅了した。おかげで、特に自分から目立つようなことをしない俺への関心はなくなった。
その代わり、白崎がハジメへ積極的に話しかけるようになり、ハジメの親友でもある俺はその割をもろにくらった。主に、ハジメのフォローという形で。
・・・そういえば、白崎は平然とストーカーをしてしまうくらいにはハジメのことが好きなんだよな。自覚の有無を別にして。
あの夜、八重樫からショッキングなことを聞いた俺は、あるやばい事実を浮かび上がらせてしまった。
・・・そういえば、王宮の図書館でも似た視線を感じた気がするぞ、と。
あの時は、視線を感じた方を見ても誰もいなかったし、特に悪意も感じなかったから放っておいた。だが、八重樫の言う通り、白崎がストーカー少女なのだとすれば・・・もはや、いつヤンデレの域に入ってもおかしくはない状態だ。いや、まだメンヘラで済むのか?だが、どのみちやばいことに・・・
「ツルギ?」
「はっ!?わ、悪い、悪夢を見ていた」
「昼なのに?」
仕方ないだろう。白崎がジッと物陰からハジメを観察し、ゆくゆくは・・・と思うと、鳥肌が立ってしょうがない。
もし白崎が俺たちの旅についていくことになったら、その時は今度こそ俺の胃が崩壊するかもしれない。
・・・こっちの世界の胃薬も調べておこうかな。それとも、自分の回復魔法で何とかできるようにするか。
「ちなみに、そのツルギよりも目立った人って誰?」
「まぁ、八重樫や白崎もかなり有名人なんだが、男で言えば、こっちの世界の勇者様だ」
「ツルギは、その人のことをどう思ってるの?」
「俺の一番嫌いなタイプだな。モテるとかそういうの関係なく」
あいつのご都合主義の悪癖は、俺にとってのストレス大量生産マシンそのものだった。
この戦争に参加するということも、あの場面でクラスメイトの落ち着きを取り戻すという一点に関しては評価してもいいが、自分たちが殺し合いをすることになるとまったく認識していないのが質が悪い。
ていうか、教皇のいかに魔人族が邪悪な存在かと言うのを真面目に聞いているのだから、本当に救いようがない。
別に俺は、ハジメとは違って積極的にクラスメイトを見捨てるつもりはないが、それでもあいつだけは「さっさと死んでくれないかな?」と本気で思ってしまう。
本当に幼馴染み、特に八重樫の苦労が気の毒に思う。あのオカンみたいな立場の八重樫のことだ。あのバカの家族も含めて、忠告くらいはしただろう。それでもまったく効果がないというのは、本当に同情する。
・・・まじで、一回くらいは顔を見せに行こうかな。それだけで何とかなるとは思ってないが、俺が生きていることくらいは知らせた方が・・・
「ツルギ」
「え?あ、なんだ?」
「私とのデートの最中なのに、他の女の人のことを考えるなんて、いい度胸ね?」
しまった。ティアはそういうのにすごい敏感だったんだ。ウルの町の宿でも、同じ失敗をしただろうが。
「あ~、悪い。無神経だったな」
「・・・ねぇ、ツルギにとって、そのヤエガシって人は何なの?」
まぁ、そうなりますよね~。
この調子だと、いつかは「私と仕事、どっちが大事なの?」的な発言がきてもおかしくない。
それにしても、俺にとっての八重樫か。
「一言で言えば、オカンみたいなやつだな」
「それ、女の子に言っちゃだめな言葉よ」
俺もそう思う。
だが、そう言わざるを得ない。
なぜなら、完全にあのバカ勇者の保護者的立場だから。
「まぁ、あと言えるのは苦労人ってことだな」
「苦労人って?」
「白崎やバカ勇者が起こした問題の謝罪は、基本的にいつも八重樫がしている。あいつのおかげで、俺が一騒動起こすのを防いでもらってるからな」
仮に八重樫がいなかった場合、おそらく俺は二桁以上はあのバカ勇者を殴り倒している。俺に自重を思い出させてくれる八重樫に感謝だ。
まぁ、いいことばかりではないが。
「ただ、八重樫はいつも自分を押し殺してるからな。ちょっとばかし、心配なんだよ。あのままじゃ、いつかは心が潰れるからな」
八重樫にはいろいろと世話になっている。だから、少しくらいはお礼をしておきたいというのが、俺の本心でもある。
そう話すと、ティアはさらにジト目を強化した。ユエよりも、凄みがある気がする。
「えっと、なんだ?」
「・・・べつに、なんでも」
何でもないわけがない。明らかに「私、不機嫌です」とアピールしている。
・・・まぁ、俺のせいでもあるし、ちゃんと責任はとるか。
「わかったよ。余計なことを言ったりした俺が悪かった。だから、今日はティアの言うことは何でも聞いてやるからさ。機嫌を直してくれよ」
「・・・どんなことでも?」
「さすがに、限度はあるけど」
まぁ、駄竜と違ってティアはそんなことはしないだろう。ウルの町では、やっちゃったけど。
「じゃあ・・・」
そう言うと、ティアは自身の腕を俺の腕に絡めてきた。
「今日1日は、これで町をまわって」
「これでいいのか?」
「これでいいの」
そう言いながら、ティアは幸せそうに俺の腕に頬ずりする。
なんだこの生き物、すげぇかわいい。
「それじゃあ、行きましょ?」
「あぁ、そうするか」
まぁ、何はともあれ、今はティアとのデートを楽しもう。
* * *
その後も、俺たちは様々な店や水族館などの娯楽施設を見て回った。
そんなこんなで歩いていると、見知った人物を見かけた。というか、ハジメだ。
だが、ハジメはシアとデートをしているはずなのだが、今はなぜかハジメ一人だ。
「ハジメ、どうしたんだ?」
「ツルギとティアか。実はな・・・」
そこでハジメの話を聞くと、どうやら下水道から海人族の女の子を見つけたらしい。名前をミュウと言い、見つけた時点でかなり衰弱していたのと、衣服がボロボロだったので保護しがてら必要なものを買っていたらしい。
「なら、俺たちも行こうか。一応、子供の相手ならそれなりにできる」
「私も行くわ。さすがに放ってはおけないもの」
「助かる。こっちだ」
そう言って、俺たちはハジメの案内でシアとその女の子のいる宿に向かった。
部屋の中に入ると、シアがエメラルドグリーンの長い髪を持つ、耳がヒレのようになっている少女を抱いていた。おそらく、その子がミュウだろう。
「あっ、ハジメさん。お帰りなさい。って、ツルギさんとティアさんも?」
「あぁ、途中で偶然会ってな。とりあえず、俺が容態を見る」
だいたいの応急処置や健康状態の判断なら、親父や部下からある程度は教わった。シアが素人判断だが大丈夫と言ったが、念を入れるに越したことはないだろう。
ハジメがミュウの身だしなみを整えている間、俺はミュウの診察をした。目の状態や肌の色などを見れば、おおざっぱな健康状態はわかる。
俺が見たところ、特に体調に問題はないだろう。軽い栄養失調と皮膚の炎症があったが、これくらいならすぐに治る。
それにしても、海人族は本来、王国によって厳重に保護されている種族だ。そんな種族の少女が、下水道に流されていた。どう考えても、犯罪臭がする。
おそらく、裏のオークションあたりから逃げ出したのだろう。さすがに詳しいことはわからないが。
「よし、この子の体調に異常はないな。で、今後のことだが・・・」
「ミュウちゃんをどうするか、よね」
俺の言葉に、ティアが同調する。
とりあえず、まずはミュウから事情を聴くことにした。
ミュウがたどたどしく話したことをまとめると、大体は俺の予想通りだった。
ある日、海岸線の近くを母親と泳いでいたらはぐれてしまい、彷徨っているところを人間族の男に捕らえられたらしい。そして、幾日もの辛い道程を経てフューレンに連れて来られたミュウは、薄暗い牢屋のような場所に入れられたのだという。そこには、他にも人間族の幼子たちが多くいたのだとか。そこで幾日か過ごす内、一緒にいた子供達は、毎日数人ずつ連れ出され、戻ってくることはなかったという。少し年齢が上の少年が見世物になって客に値段をつけられて売られるのだと言っていたらしい。
いよいよ、ミュウの番になったところで、その日たまたま下水施設の整備でもしていたのか、地下水路へと続く穴が開いており、懐かしき水音を聞いたミュウは咄嗟にそこへ飛び込んだ。3,4歳の幼女に何か出来るはずがないとタカをくくっていたのか、枷を付けられていなかったのは幸いだった。汚水への不快感を我慢して懸命に泳いだミュウ。幼いとは言え、海人族の子だ。通路をドタドタと走るしかない人間では流れに乗って逃げたミュウに追いつくことは出来なかった。
だが、慣れない長旅に、誘拐されたという過度のストレス、慣れていない不味い食料しか与えられず、下水に長く浸かるという悪環境に、遂にミュウは肉体的にも精神的にも限界を迎え意識を喪失した。そして、身を包む暖かさに意識を薄ら取り戻し、気がつけばハジメの腕の中だったというわけだ。
「客が値段をつける、ね。やっぱオークションか」
「それも、人間族の子や海人族の子を出すってんなら、裏のオークションなんだろうな」
「・・・ハジメさん、ツルギさん、どうしますか?」
シアが辛そうに、ミュウを抱きしめる。その瞳は何とかしたいという光が宿っていた。亜人族は、捕らえて奴隷に落とされるのが常だ。その恐怖や辛さは、シアも家族を奪われていることからも分かるのだろう。
だが、その問いにうなずくことはできない。
「保安署に預けるのがベターだろうな」
「あぁ、そうだな」
「そんなっ・・・この子や他の子達を見捨てるんですか・・・」
俺とハジメの言葉にシアが噛み付く。ミュウをギュッと抱きしめてショックを受けたような目で俺たちを見た。ティアも、非難するような目で俺を見ている。
俺の言った保安署とは、地球で言うところの警察機関のことだ。そこに預けるというのは、ミュウを公的機関に預けるということで、完全に自分達の手を離れるということでもある。なので、見捨てるというわけではなく迷子を見つけた時の正規の手順ではあるのだが、事が事だけにシアとしてはそういう気持ちになってしまうのだろう。
とりあえず、俺は諭すようにシアに説明する。
「あのなぁ、シア、ティア、迷子の子供を保安署に預けるのは、当然のことだろう。それに、ミュウは海人族の子供だ。必ず手厚く保護される。他のオークションにかけられている子供たちも、ミュウがオークションにかけられたってことで正式な捜査が始まるだろうし、それで保護されるだろう。それにな、こういう問題は大都市にはつきものの闇だ。ミュウが捕まっていたところに限らず、公的機関の手が及ばない場所では普通にある事だろう。つまりこれは、フューレンの問題だ。むしろ、このまま俺たちが勝手にミュウを連れていたら、それこそ俺たちが通報されるな。誘拐犯の仲間入りだ」
「そ、それは・・・そうですが・・・でも、せめてこの子だけでも私達が連れて行きませんか?どうせ、西の海には行くんですし・・・」
「あのな、その前に大火山に行かにゃならんだろうが。まさか、迷宮攻略に連れて行く気か?それとも、砂漠地帯に1人で留守番させるか?あんまり無茶なことを言うな」
「・・・うぅ、はいですぅ・・・」
「・・・わかったわ・・・」
俺とハジメの説得に、シアとティアは渋々とうなずく。特に、シアの肩が目に見えて落ちている。
どうやら、シアはこの短い時間で相当ミュウに情が湧いてしまったようだ。自分の事で不穏な空気が流れていることを察したのか、ミュウはシアの体にギュウと抱きついている。ミュウの方もシアにはかなり気を許しているようだ。それがまた、手放すことに抵抗感を覚えさせるのだろう。
「さて、ミュウ。今からお前を守ってくれる人達の所へ連れて行くぞ。時間は掛かるだろうけど、いつか西の海にも帰れる」
「・・・お兄ちゃんたちは?」
ミュウが、俺の言葉に不安そうにしながらたずねてくる。
「悪いけど、そこでお別れだな」
「やっ!」
「やっ、じゃないの」
「お兄ちゃんたちがいいの!お兄ちゃんたちと一緒じゃなきゃやなの!」
思いの外、強い拒絶が返ってきた。どうやら、俺たちにかなり心を許しているようだ。その分、離れたくなくなっているということか。
俺としても悪い気はしないのだが、どっちにしろ公的機関への通報は必要であるし、途中で【大火山】という大迷宮の攻略にも行かなければならない。だから、今回はミュウを連れて行くつもりはない。
なので、「やっーー!!」と全力で不満を表にして、一向に納得しないミュウへの説得を諦めて、抱きかかえると強制的に保安署に連れて行くことにした。
その道中、ミュウはよっぽど俺たちと離れたくないらしく、俺の顔を引っかいたり頬をひっぱたり、顔を近づけて話すハジメの眼帯を引っ張ったり奪ったりと全力の抵抗を試みていた。
近くに愛想笑いを浮かべているティアとシアがいなければ、おそらく俺とハジメが通報されていただろう。俺の髪はボサボサ、ハジメは眼帯は奪われて片目を閉じたままで保安署に到着すると、保安員が眼を丸くしながら俺たちに近寄ってきた。
そこで軽く事情を話すと、保安員は表情を険しくし、今後の捜査やミュウの送還手続きに本人が必要との事で、ミュウを手厚く保護する事を約束しつつ署で預かる旨を申し出た。
俺の予想通り、かなり大きな問題らしく、すぐに本部からも応援が来るそうだ。
だから、俺たちはここで引きさがろうとしたのだが、
「お兄ちゃんは、ミュウが嫌いなの?」
ミュウから、涙目にそんなことを言われてしまう。幼女にウルウルと潤んだ瞳で、しかも上目遣いでそんな事を言われて平常心を保てるヤツはそうはいない。流石のハジメも、「うっ」と唸り声を上げていた。
「ミュウのことは嫌いじゃないよ。でもな、お兄ちゃんたちが行くところは、とても危ないところなんだ。だから、ミュウをそんなところに連れていくわけにはいかないんだよ。それに、ここにいれば、ちゃんとお家に帰れるから。お兄ちゃんたちはちゃんと、ミュウのことを考えているんだよ。だから、そんなに泣かないで」
俺がなるべく優しく、ミュウに話しかける。後ろから「ハジメさん!あの人誰ですか!?」というシアの叫び声が聞こえた。後できつめの仕置きでもしてやろうか。
ただ、俺が根気よく説得しても、ミュウの悲しそうな表情は一向に晴れなかった。
そこで、最終手段としてミュウをなだめながらも半ば強引に引き離し、保安員に預けた。
ミュウの悲しげな声に後ろ髪を引かれつつも、ようやく俺たちは保安所を後にした。
当然、そのままデートを続ける気分ではなくなったので、宿に戻ることにした。
シアは心配そうに眉を八の字にして、何度も保安署を振り返っていた。
やがて保安署も見えなくなり、かなり離れた場所に来た頃、未だに沈んだ表情のシアにハジメが何か声をかけようとした、その瞬間、
ドォガァアアアン!!!!
背後で爆発が起き、黒煙が上がっているのが見えた。
だが、あの場所、俺の勘違いでなければ・・・
「ハジメ、あそこはたしか保安署があったところだぞ!」
「チッ!行くぞ!」
ハジメは舌打ちをし、保安署に駆け戻り、俺たちもそれについて行く。
このタイミングでの襲撃。ほぼほぼミュウを狙ったものだろう。最悪、ミュウごと爆破された可能性もある。
焦る気持ちを抑えながら保安署にたどり着くと、表通りに署の窓ガラスや扉が吹き飛んで散らばっている光景が目に入った。しかし、建物自体はさほどダメージを受けていないようで、倒壊の心配はなさそうだ。俺たちが中に踏み込むと、対応してくれた保安員がうつ伏せに倒れているのを見つけた。
両腕が折れているが、幸い気を失っているだけだった。周りにいる他の職員も、命に関わる怪我をしている者は見た感じではいなさそうだ。
俺とハジメで職員たちを見ていると、ほかの場所を調べに行ったシアとティアが焦った表情で戻ってきた。
「ハジメさん!ツルギさん!中にミュウちゃんはいません!」
「それと、こんなものがあったわ」
ティアが手に持っているのは、一枚の紙だ。
その内容を見てみると、シアとティアの身柄を要求する旨が書かれていた。
「ハジメ」
「あぁ、どうやら、あちらさんは欲をかいたらしいな」
ハジメは、メモ用紙をグシャと握り潰すと凶悪な笑みを浮かべた。おそらく、連中は保安署でのミュウとハジメ達のやり取りを何らかの方法で聞いていたのだろう。そして、ミュウが人質として役に立つと判断し、口封じに殺すよりも、どうせならレアな兎人族も手に入れてしまおうとでも考えたようだ。
そんなハジメの横で、シアは決然とした表情をする。
「ハジメさん!ツルギさん!私!」
「皆までいうな。わーてるよ。こいつ等はもう俺たちの敵だ・・・御託を並べるのは終わりだ。全部ぶちのめして、ミュウを奪い返すぞ。ツルギ」
「とりあえず、まずは指定された場所まで行こう。んで、ミュウの居場所とやつらの拠点の場所を吐かせる。ついでに、見せしめに組織ごとぶっ潰すか」
ハジメの問い掛けに応じて、俺は今後の方針を即座に考える。
正直、危険な旅に同行させる気がない以上、さっさと別れるのがベターだと俺とハジメは考えていた。精神的に追い詰められた幼子に、下手に情を抱かせると逆に辛い思いをさせることになるからだ。
とはいえ、再度拐われたとなれば放っておくわけにはいかない。余裕があって出来るのに、窮地にある幼子を放置するのはきっと“寂しい生き方”になる。実際、自分には関係ないと見捨てる判断をすれば、確実にシアは悲しむだろう。
それに、今回は相手はシアとティアを奪おうとしている。俺の仲間と恋人に手を出そうというのだ。そのつけは払わせてもらう。
俺たちはそれぞれ武器を構え、愚か者たちの指定場所へと一気に駆け出した。
「あの、私、峯坂君のことが好きなんです!ですから、私と付き合ってください!」
「・・・悪いけど、俺は誰かと付き合うつもりはない」
「そう、ですか・・・その、峯坂君が誰とも付き合わないのって、南雲君がいるからですか?」
「別にそれだけってわけではないが、理由の1つではあるな」
「そうなんですか。わかりました。それじゃあ、さようなら」
「おう、じゃあな」
翌日
「ツルギ!」
「ん?どうした?」
「なんか、僕とツルギが付き合ってるって噂が流れてるんだけど!?」
「は!?なんでだよ!?」
「知らないよ!ツルギがなんか変なこと言ったんじゃないの!?」
「俺こそ知らねぇよ!そんな心当たりなんてねえっての!」
「とりあえず、どうするのさ!?」
「なんとしてでも俺が噂を広めた奴をしばく!」
この誤解を解くのに、丸一週間かかった。
~~~~~~~~~~~
前半を書きながら、めっちゃ砂糖吐いてました。
僕は基本的に1人を楽しんでいる者なんですが、やっぱり彼女とか恋人と言うものに憧れはあるんですよね。
まぁ、作る予定は今のところありませんが。
そして、後半でミュウちゃんが出てきましたね。
原作では唯一の癒しキャラです。
こっちでは、子狐イズモとの二大癒しになりますかね。