二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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遠慮容赦は一切なしだ

その頃、ユエとティオとイズモは商業区に買い出しに来ていた。

とは言っても、宝物庫の収容力のおかげで旅に必要なもので買い足すものはほとんどない。

そのため、今は商業区をぶらぶらしながら各種のショップを冷やかしていた。

そんなこんなで歩いていると、ティオがユエに話しかけてきた。

 

「それにしても、ユエよ。本当に良かったのか?」

「?・・・シアのこと?」

「うむ。もしかすると今頃、色々進展しているかもしれんぞ?ユエが思う以上にの」

 

その声音には、少し面白がるような響きが含まれていた。イズモもティオの質問にわずかにため息をつきながら、それでも特に諫めはしなかった。イズモとしても、気になるところではあるのだ。

それに対して、ユエは動揺の欠片もなく2人をチラリと見ると肩を竦めた。本当になんの危機感も持っていないようだ。

 

「・・・それなら嬉しい」

「嬉しいじゃと?惚れた男が他の女と親密になるというのに?」

「・・・他の女じゃない。シアだから」

 

ユエが言うには、最初はシアのことをあまりよくは思っていなかったものの、良くも悪くも一生懸命で真っすぐなところと、ハジメだけでなくユエのことも同じくらいの想いを持っているからこそ、シアならいいと思っているらしい。

それになにより、

 

「・・・ハジメには“大切”を増やして欲しいと思う。でも・・・“特別”は私だけ・・・奪えると思うなら、やってみればいい。何時でも何処でも誰でも・・・受けて立つ」

 

つまりは、そういうことだ。自分の“特別”という立場が揺らがないことに、絶対の自信を持っているからこその余裕でもあるのだ。

“貴女に出来る?”と、そう言外に言い放ち微笑むユエに、ティオは普段の無表情とのギャップも相まって言い知れぬ迫力を感じ一歩後退り、イズモも思わず息を呑んだ。互いに無意識の行動だったようで、そんな自分に驚いた表情をすると、ティオは苦笑いしながら両手を上げて降参の意を示し、イズモも思わずほう、と息をついた。

 

「まぁ・・・喧嘩を売る気はない。妾は、ご主人様に罵ってもらえれば十分じゃしの」

「・・・変態」

「・・・本当に、どうすればいいんだ」

 

呆れた表情でティオを見るユエに、本人はカラカラと快活に笑うだけだった。だが、イズモは先ほどよりも盛大にため息をついた。

里に戻るまでにはティオを元のまともな状態に戻そうと決意しているが、その糸口がまったく掴めない。イズモから出る思わずといったような罵倒も、ティオは快楽に変えてしまう。

本当に、どうしようもなかった。

まぁ、先ほどの質問はユエたちのことを知る意図があったことも理解してはいるので、まだ希望はあるとイズモはなんとか立ち直った。

 

「それでは、ツルギ殿の方はどうなのじゃ?意味合いは違うが、あの男もご主人様にとってはそれなり以上に大切な存在であろう?」

 

それは暗にハジメとツルギのホモ説を提唱しているようなものだが、イズモはスルーした。というより、イズモも同じようなことを少しは考えていたりする。

このティオの問いにも、ユエは余裕の態度を崩さなかった。

 

「・・・大丈夫。ツルギはノーマルだから」

「そういう意味ではないだろう」

 

たしかに、問題の趣旨が違う。別にツルギの性癖の話をしていたわけではないのだ。

もし、この場にツルギがいたら頭を抱えていただろう。

 

「・・・ツルギも、ある意味ハジメとシアと同じくらいに大事。ツルギは、まず一番にハジメのことを考えて、私たちのことも考えてくれる。だから、信用できる」

「たしかに、言われてみればそうだな」

 

イズモも、自分の親友や恋人に心を砕くツルギの姿を見ているので、ユエの言葉に納得する。

 

「・・・それに、ツルギもなんだか昔に大変なことがあったように見える」

「それもそうじゃの。ただの平和な世界で、あのような決意の持ち主にはなるまい」

 

このことも、イズモとティオもある意味歪と言えるツルギの心の在り方に気づいていた。

同時に、そのような決意を持たせるに足る出来事があっただろうことも。

とは言うものの、ツルギは自分の過去を一切話そうとしない。それは、親友であるハジメも同じだ。

それに、ツルギの恋人であるティアも、今までに過酷な生活を送っていた。

だから、

 

「・・・せめて、こっちにいる間は、2人には羽を伸ばしてほしい」

 

要するに、これはユエからのささやかなプレゼントということだ。

そんなユエの想いに、ティオとイズモがほっこりしながらブティックを出ると、

 

ドガシャン!!

 

「ぐへっ!!」

「ぷぎゃあ!!」

 

すぐ近くの建物の壁が破壊され、そこから2人の男が顔面で地面を削りながら悲鳴を上げて転がり出てきた。更に、同じ建物の窓を割りながら数人の男が同じように悲鳴を上げながらピンボールのように吹き飛ばされてくる。その建物の中からは壮絶な破壊音が響き渡っており、その度に建物が激震し外壁がひび割れ砕け落ちていく。

そして十数人の男が手足を奇怪な方向に曲げたままビクンビクンと痙攣して表通りに屍のよ・・・屍になって並ぶ頃、ついに建物自体が度重なるダメージに耐えられなくなったようで、轟音と共に崩壊した。

野次馬が悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように距離を取る中、ユエとティオとイズモは聞き慣れた声と気配に、その場に留まり呆れた表情を粉塵の中へと向けた。

 

「ああ、やっぱり3人の気配だったか」

「あれ?ユエさんとティオさんとイズモさん?どうしてこんな所に?」

「・・・それはこっちのセリフ・・・デートにしては過激すぎ」

「全くだな。いったい、何をどうすればこうなるのか」

「で?ご主人様よ。今度は、どんなトラブルに巻き込まれたのじゃ?」

「実はな・・・」

 

そこで、3人に事情を説明した。

具体的には、ミュウのことと、シアとティアが狙われたことだ。

 

「で、だ。指定された場所に行ってみれば、そこには武装したチンピラがうじゃうじゃいて、ミュウ自身はいなかったんだよ。たぶん、最初から俺とツルギを殺して、シアとティアだけいただく気だったんだろうな。取り敢えず数人残して皆殺しにした後、ミュウがどこか聞いてみたんだが・・・知らないらしくてな。今はツルギたちと別れて拷問して他のアジトを聞き出して、それを繰り返しているところだ」

「どうも、私たちだけじゃなくて、ユエさんとティオさんとイズモさんにも誘拐計画があったみたいですよ。それで、ツルギさんがいっそのこと見せしめに、今回関わった組織とその関連組織の全てを潰してしまおうと言ったので・・・」

 

移動しながらハジメとシアの説明を聞いた3人は、ただのデートに行って何故大都市の裏組織と事を構えることになるのかと、そのトラブル体質に呆れた表情を向けた。

 

「・・・それで、ミュウっていう子を探せばいいの?」

「ああ。聞き出したところによると、結構大きな組織みたいでな・・・関連施設の数も半端ないんだ。手伝ってくれるか?」

「ん・・・任せて」

「ふむ。ご主人様の頼みとあらば是非もないの」

「しょうがない。私も手伝うとしよう」

 

3人ともためらいもなくうなずく。

それを確認してから、ハジメはツルギに念話石で連絡を入れた。

 

『ツルギ、ユエたちと合流した』

『そうか、なら、ハジメとユエ、シアとティオに分かれて、イズモは俺たちのところに来てくれ。目印を出す。それとな、その近くにも拠点が2か所あるらしい。頼んだぞ』

『分かった』

 

ハジメからの連絡にツルギは手早く指示を出し、それぞれ拠点をつぶしに動き出した。

 

 

* * *

 

 

「おい!報告どうなっている!」

「そ、それが!どこもかしこも混乱していて!」

「ふざけるな!これはいったいどういうことなんだ!」

 

商業区の中でも、観光区からも職人区からも離れた場所の一角では、まさに阿鼻叫喚の様相を呈していた。

ここは、表向きは人材派遣の商いを行い、裏では人身売買の総元締をしている裏組織“フリートホーフ”の拠点の一つだ。

ここは奴隷売買で奴隷を運送する際のチェックポイントや情報の保管場所の一つとして使われており、普段は人通りも少なく薄暗い雰囲気なのだが、今は普段の数十倍ほどの激しい喧騒に包まれている。

その原因は、先ほどから入ってくる報告だ。

曰く、フリートホーフの拠点が次々と何者かに襲撃され、落とされている。

曰く、人数は2人組が2つと3人組が1つの計7人である。

この報せが飛び交っては、構成員の表情が困惑と焦燥、そして恐怖に歪んでしまうのも仕方ないだろう。

それほど、今起こっている事態はありえないことなのだ。

 

「支部長!お頭から連絡が!」

「なんだ!」

「何としてでも、そのクソ共を生きて俺の前に連れて来い。生きてさえいれば状態は問わない。そいつらに生きたまま地獄を見せて、見せしめにする必要がある。連れてきたヤツには、報酬に1人につき500万ルタを即金で出してやる。以上です!」

 

それは言い換えれば、もししくじろうものなら絶対に殺すということだ。そもそも、それ以前に襲撃者に殺されるだろうが。

そして、フリートホーフのトップが提示した金額に、ここの支部長と呼ばれた男の目の色が変わる。

 

「それなら、なんとしてでも見つけるんだ!もし見つけたら、俺からも報酬を出してやる!わかったらさっさと・・・」

「あぁ、その必要はない。ここにいるからな」

 

不意に、声が聞こえた。その声に聞き覚えはないし、そもそもその声は支部長の()()()()()聞こえた。

 

「うわぁ!?」

 

支部長が思わず飛びずさると、そこには赤い外套を纏った黒髪黒目の男、峯坂ツルギが物干し竿を肩に乗せて立っていた。

 

「な、き、貴様、報告にあった男か!いったいいつの間に!」

「そんなもん、お前らが俺に気付かない間抜けだったってだけの話だ。さて、こっちの要件は1つ。お前たちがさらった海人族の少女はどこにいる?」

 

どこまでも上から目線の物言いに、支部長は顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「ふ、ふざけるな!のこのこと1人で現れおって!お前ら、すぐにやつを殺せ!」

「う、うわぁーー!!」

「がっ!?」

「ぎゃああぁぁーー!!」

 

だが、部下から返ってきたのは悲鳴だった。支部長が後ろを振り向くと、そこにはティアとイズモ、そして彼の部下の死骸が転がっていた。

彼らはそれぞれ違う死に方をしており、ある者は首から上が欠損し、ある者は体の一部、あるいは全身が黒焦げになっていた。

これらは、ティアがその拳で顔面を殴り飛ばし、イズモが燃やすと同時に腐食させる火・闇複合魔法“黒炎”を放った結果だ。

ここにいるのは、支部長1人だけとなった。

 

「さて、あとはお前だけだが、どうする?それとも、さっさと俺の質問に答えるか?」

「わ、私は知らない!だが、本部の場所なら知っている!そこならその情報もあるはずだ!」

「そうか、本部の場所は?」

「場所は・・・」

 

支部長は、あっさりと“フリートホーフ”を裏切った。本来なら“フリートホーフ”のトップから抹殺されるが、ここで誤魔化しても死ぬだけだと理解したのだ。

 

「なるほど。たしかに聞いた」

「た、助けてくれるのか・・・?」

「あ?んなわけないだろ」

 

ツルギは「何を言っているんだ?」とでも言わんばかりに目を細める。

それを受けた支部長は、醜いほどの命乞いを始めた。

 

「た、頼む、命だけは助けてくれ!ほかに欲しいものがあるなら、なんでも差し出す!だから・・・!」

「・・・お前はそう言ってきた相手をどうしてきた?大方、げすい笑みを浮かべて殺すなり人身売買に放り込んだんだろう?それで自分だけ生き残るっていうのは都合がよすぎると思わないか?」

「ひっ!!」

「それにな、今回は見せしめも兼ねてるんだよ。俺たちに手を出したらこうなるってな。だから、ここでおとなしく殺されとけ」

「まっ・・・」

 

それだけ言ったツルギは、それでもなにかを言いつのろうとする支部長を無視して物干し竿を3閃した。支部長の男は、音も声もなく肉塊となって崩れ落ちた。

それを一瞥もせずに、念話石でシアとティオに指示を飛ばす。

 

『シア、ティオ、組織の本拠地の場所がわかった。位置的にそっちが近い。そこをつぶしつつミュウの情報を引き出してくれ』

『わかりました。すぐに向かいます!』

 

シアから力強い返事が返され、念話石の通信は切れた。

 

「さて、ティアとイズモはこのまま他の拠点をつぶして回ってくれ」

「ツルギはどうするの?」

「一応、ミュウがいるかもしれない場所に向かう。まだ状況証拠程度だが、だいたいの場所の予想はついたからな。ここからもらえるものもらったら、すぐにでる」

「わかったわ、気を付けてね」

「それなら私たちも、しっかり役割を果たすとしよう」

 

そう言って、ツルギたちは二手に分かれた。

 

 

* * *

 

 

ティアたちと別れた俺は、目星のつけた場所に向かう。

そこは、調べた中では一番大きなオークション会場だ。おそらく、ここにミュウがいる。

根拠としては、ミュウは海人族の女の子だ。それも、とびっきり可愛い。それなら、なるべく人が多く集まるところに連れていかれるだろうと踏んだのだ。

建物の屋上を走って行くと、シアから通信が入った。

 

『皆さん、ミュウちゃんの居場所がわかりました!観光区にあるオークション会場です!そこからだと、ハジメさんとツルギさんが近いのでお願いします!』

『了解した』

『問題ない。今向かってるところだ』

 

どうやら、俺の読みは当たったらしい。シアが言った場所はまさしく俺が予想したところだ。

 

『え?なんでわかってたんですか?』

『拠点にあった資料から、ミュウが送られそうな会場を探しただけだ。まぁ、あくまで予想でしかなかったがな』

『ったく、相変わらず頭がいいな、ツルギは・・・』

『お前は、もうちょっと考えるってことを身に付けような』

 

 

ハジメの考えなしのせいで、俺に苦労が降りかかっていることくらいは認識してほしい。

 

『・・・それで、どうするんだ?』

『逃げたな?』

『それより!これからどうするんだ!』

 

なにやらハジメが開き直っている気がするが、とりあえずは目の前のことだ。

 

『そうだな、ハジメとユエは会場の裏から入って、牢屋の方を調べてくれ。シアとティオ、ティアとイズモは、なるべく拠点を破壊しながら、余裕があればこっちに来てくれ』

『ツルギはどうするんだ?』

『正面から堂々と入る。まぁ、攪乱程度に考えてくれ』

『わかった』

 

そう言って、ハジメは念話を切った。

そして、俺は特に気負うこともなく入り口に近づく。

 

「止まれ。何者だ」

 

入り口に近づくと、警備員らしき男2人が俺を止める。

・・・まぁ、一応聞いておくか。

 

「俺は客だ。それで聞きたいことがあるんだが、海人族の少女を知らないか?」

 

すると、男たちは顔を見合わせて、ニヤニヤしだす。

 

「あぁ、お前が例の襲撃犯か?たしかに、ここにいるな」

「だが、お前が会うことはない。ここで捕まるんだからな!」

 

そう言って、男たちは剣を抜いて振りかぶるが、

 

「そうか」

「がっ!?」

「ぎゃっ!?」

 

その暇を与えすに、俺はさっさと殴り飛ばした。

どうやら、思っていたよりも情報が広がっていたようだ。まぁ、だからと言って問題はないが。

 

「敵襲だ!こっちに来い!」

「あいつを連れてこれば500万ルタだ!」

 

そんなことを考えていると、続々と人が増えてきた。だいたい、11人くらいか。よくもまぁ、ここまで集めることができたもんだ。

だが、雑魚ばかりなら問題はない。

 

「おいおい、俺は客なんだから、少しは丁寧に接客してくれよ。まぁ・・・」

 

俺は白黒の双剣を生成し、宣言する。

 

「客は客でも、剣客だけどな。覚悟しろよ」

 

そして俺は、集団に突っ込んでいった。

 

「来たぞ!」

「お前ら、殺すなよ!」

 

俺のところに来た男たちは、俺が駆け寄ってきたのを見てすぐに武器を構えるが、

 

ズパパパパパパンッ!!

 

それよりも早く、俺が相手の懐に潜り込んで一気に切り刻んだ。

男たちが認識するよりも早く、7人ほど首を斬り飛ばした。

7人の死体が倒れたところで、ようやく俺が斬り倒したことを認識したらしく、慌てて後ろを振り向く。

 

「なっ、いつの間に!?どこだ!」

「ここだよ」

 

狼狽する男たちに、俺は足下から答える。

男がすぐに下を見るが、認識させる暇も与えずに俺が首を斬り落とした。

これで、あと3人。

 

「くっ、この卑怯者め!」

「今までさんざん人を食い物にしておいて、なんて言い草だよ」

 

槍使いの男が俺に悪態をつくが、そんなことは気にせずに首を斬り落とす。

あと2人。

 

「くそっ、なんなんだよ、こいつ!」

「このクソガキがっ!死にやがれ!」

 

生け捕りの指示を忘れているのか、そんなことを叫びながら残りの2人が剣を振りかぶるが、

 

ヒュヒュン!

ザシュ!ザシュ!

 

俺は双剣を振りぬいた状態から体を独楽のように回転させ、双剣を投擲した。投擲した双剣は、それぞれ男たちの額に突き刺さり、男たちは絶命した。

これで全部か。

たぶんオークション会場にもある程度の警備はいるだろうが、ハジメとユエなら問題ないだろう。

さてと、それじゃあ受付から目的のものを取り出して・・・

 

『ツルギ、そこから離れてくれ。最後にでかいのをぶち込む』

『わかった。ハジメは今どこだ?』

『建物のちょうど真上だ。ミュウも一緒にいる』

『わかった。そっちに行く』

 

どうやら、ハジメの方もなんなく目的を達成したらしい。目的の物を見つけて回収した俺は、すぐに外に出て剣製魔法で足場を作りながら上に跳ぶ。

その直後、オークション会場からフューレン全体に轟くほどの轟音と共に周囲のフリートホーフの関連建物をも巻き込んで凄絶な衝撃が走った。裏オークションの会場となっていた美術館も、「歴史的建造物?芸術品?何それ美味しいの?」と言わんばかりに木っ端微塵に粉砕されていく。爆炎が猛烈な勢いで上空に上がり、夕日とは違った赤で周囲の建物と空を染め上げた。

やりすぎな気もしなくもないが、見せしめにするくらいならこれくらい派手でもいいだろう。

すると、今度は追い打ちをかけるように、少し離れた空に突然暗雲が立ち込め始めた。そして、雷鳴の咆吼と共に、4体の“雷龍”が出現した。これは、ユエか。一体の場合と比べると二回りほどサイズが縮小されているが手数は増えるようだ。

ユエが生み出した“雷龍”4体は、それぞれ別方向に雷を迸らせながら赤く燃える空を悠然と突き進む。そして、4体の雷龍は取り残していたフリートホーフの重要拠点四ヶ所に、雷鳴を轟かせながら同時に“落ちた”。稲光で更に周囲と空を染め上げて、轟音と共に建物が崩壊する音がフューレンに響き渡る。爆炎と粉塵が至るところから上がっており、夕日と炎に照らされて赤く染まる今のフューレンは、まるで空爆にでもあった戦時中の町のようだ。

・・・本当にやりすぎな気がしなくもないが、見た限りは無関係の一般人は巻き込まれていないみたいだし、よしとするか。

ハジメの方に行くと、そこではミュウがユエにしがみついて泣いていた。どうやら、上手くミュウを慰めたようだ。

ミュウの方も問題ないなら、もう大丈夫か。

あとは・・・イルワといろいろと話さなきゃな。

いきなりやらかしてしまったが、手土産もあるしいいか。

 

 

* * *

 

 

「倒壊した建物22棟、半壊した建物44棟、消滅した建物5棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員98名、再起不能44名、重傷28名、行方不明者119名・・・で?何か言い訳はあるかい?」

「カッとなったから計画的にやった。反省も後悔もしてない」

「はぁ~~~~~~~~~」

 

冒険者ギルドの応接室で、俺から事情を聴いたイルワは盛大に、それはもう盛大にため息をついて脱力する。その視線は、ハジメの膝の上でもりもりとお菓子を食べているミュウにも向けられている。

 

「まさかと思うけど・・・メアシュタットの水槽やら壁やらを破壊してリーマンが空を飛んで逃げたという話・・・関係ないよね?」

「・・・ハジメ、どういうことだ?」

「・・・ミュウ、これも美味いぞ?食ってみろ」

「あ~ん」

 

ハジメよ、俺の知らないところでなんてことしてくれてるんだよ。余計な手間を増やさないでくれよ、マジで。

イルワの片手が自然と胃の辺りを撫でさすり、傍らの秘書長ドットが、さり気なく胃薬を渡した。

 

「まぁ、やりすぎ感は否めないけど、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね・・・今回の件は正直助かったと言えば助かったとも言える。彼等は明確な証拠を残さず、表向きはまっとうな商売をしているし、仮に違法な現場を検挙してもトカゲの尻尾切りでね・・・はっきりいって彼等の根絶なんて夢物語というのが現状だった・・・ただ、これで裏世界の均衡が大きく崩れたからね・・・はぁ、保安局と連携して冒険者も色々大変になりそうだよ」

「まぁ、その辺りはもともとフューレンのやることだからな。今回は、身内に手を出されたからちょっと叩き潰しただけだし」

「そんな軽いノリで、フューレンにおける裏世界三大組織の1つを半日で殲滅かい?ホント、洒落にならないね」

 

まぁ、これくらいなら別に俺たちじゃなくても、クラスメイト全員でやれば可能ではあるだろうが、そこまで言うことはないか。

 

「一応、そういう犯罪者集団が二度と俺たちに手を出さないように、見せしめを兼ねて盛大にやったんだ。支部長さんも、俺たちの名前使ってくれていいぞ?何なら、支部長お抱えの“金”だってことにすれば、相当抑止力になると思うぞ?」

「おや、いいのかい?それは凄く助かるのだけど・・・そういう利用されるようなのは嫌うタイプだろう?」

 

イルワは俺の言葉に意外そうな表情を見せるが、その瞳は「えっ?マジで?是非!」と雄弁に物語っている。

これにハジメは苦笑しながら、肩をすくめて答える。

 

「まぁ、持ちつ持たれつってな。世話になるんだし、それくらいは構わねぇよ。支部長なら、そのへんの匙加減もわかるだろうし。それに、俺らのせいでフューレンで裏組織の戦争が起きて、一般人が巻き込まれましたってのは気分が悪いしな」

「・・・ふむ。ハジメ君にツルギ君、少し変わったかい?初めて会ったときの君は、仲間の事以外どうでもいいと考えているように見えたのだけど・・・ウルでいい事でもあったのかな?」

「まぁ、悪いことばかりじゃなかったな」

 

流石は大都市のギルド支部長、相手のことをよく見ている。俺たちの微妙な変化も気がついたようだ。その変化はイルワからしても好ましいものだったようで、俺たちからの提案をありがたく受け取った。

これで一時解散になろうとしたところで、俺はあるものを思い出す。

 

「あぁ、そうそう。ほら、手土産だ」

 

そう言って、俺は懐から紙束を取り出してイルワに渡す。

 

「これは?」

「フリートホーフの構成員と関係組織の情報と、裏のオークション会場にいた客の名簿だ。上手く使ってくれ」

 

俺としては、さすがに手ぶらのままイルワに任せるのも気が引けたので、回収できる限りの情報を集めておいた。

俺の手土産に、イルワは目を丸くする。

 

「これは、なかなかすごいものを持ってきたね。機密情報まであるじゃないか」

「一応、手当たり次第にかっさらっただけなんだけどな。気に入ってくれてよかったよ」

 

とりあえず、手土産としては十分だったようだ。

この後、イルワが俺とハジメの名前を使って他の大規模裏組織を牽制したり、関係各所に回って俺たちの処遇について口利きしてくれた。

それと意外だったのが、保安局まで俺たちの行動を正当防衛として扱ってくれた。

どうやら保安局としても、一度預かった子供を保安署を爆破されて奪われたというのが相当頭に来ていたようだ。

また、日頃自分たちを馬鹿にするように違法行為を続ける裏組織は腹に据えかねていたようで、挨拶に来た還暦を超えているであろう局長は実に男臭い笑みを浮かべて俺たちにサムズアップして帰っていった。心なしか、足取りが「ランラン、ルンルン」といった感じに軽かった気がしたのが・・・それだけ気分がよかったのか。

 

「それで、そのミュウ君についてだけど・・・」

 

イルワがそう切り出すと、ミュウはビクッ!と体を震わせた。

どうやら、また俺たちと引き離されるかもしれないと思っているようで、不安そうに俺やハジメ、ユエ、シア、ティアを見上げた。

ティオとイズモに視線がいかなかったのは・・・イズモの子供が有害なものを見ないための配慮からだろう。

イズモはいい仕事をしてくれる。

 

「こちらで預かって正規の手続きでエリセンに送還するか、君達に預けて依頼という形で送還してもらうか・・・2つの方法がある。君たちはどっちがいいかな?」

「海人族の女の子を冒険者に預けても大丈夫なのか?」

「君たちの冒険者ランク“金”の立場と今回の暴れっぷりから考えても、君たちに任せても問題はないよ」

 

どうやら、そっちでも今回の騒動がある程度評価されたらしい。これは予想外だったな。

 

「ハジメさん、ツルギさん・・・私、絶対、この子を守ってみせます。だから、一緒に・・・お願いします」

 

シアが、俺とハジメに頭を下げる。どうやら、どうしてもミュウが家に帰るまで一緒にいたいようだ。ティアたちは、俺たちの判断に任せるようで沈黙したまま俺たちを見つめている。

 

「お兄ちゃん・・・一緒・・・め?」

 

ミュウの最後の一撃で、ハジメは陥落した。自分の膝の上から上目遣いで「め?」とか反則だな。

まぁ、そんなこと言われなくても、俺とハジメの答えは決まっているが。

 

「まぁ、最初からそうするつもりで助けたからな・・・ここまで情を抱かせておいて、はいさよならなんて真似は流石にしねぇよ」

「ハジメさん!」

「お兄ちゃん!」

 

シアとミュウが満面の笑みで喜びを表にする。俺の方も、特に反対せずに頷く。

まぁ、“海上都市エリセン”の前に“大火山”という問題があるのだが・・・まあ、それはその時になんとかしよう。

だが、その前に些細な問題が1つでてきた。

ミュウの俺たちの呼び方だ。

ミュウは俺たちをそれぞれお兄ちゃんとかお姉ちゃんと呼ぶのだが、

 

「ミュウ。そのお兄ちゃんってのは止めてくれないか?普通にハジメでいい。何というかむず痒いんだよ、その呼び方」

 

ハジメだけが、その呼ばれ方にむず痒さが出たようだ。

別に俺としてはそんなに悪い気はしないのだが、ハジメはオタクなだけに“お兄ちゃん”という呼び方は・・・色々とクルものがあるようだ。

 

ハジメの要求に、ミュウは暫く首をかしげると、やがて何かに納得したように頷き、

 

「パパ」

 

・・・ん?

 

「・・・・・・・・・な、何だって?悪い、ミュウ。よく聞こえなかったんだ。もう一度頼む」

「パパ」

 

・・・ん~?

 

「・・・そ、それはあれか?海人族の言葉で“お兄ちゃん”とか“ハジメ”という意味か?」

「ううん。パパはパパなの」

「うん、ちょっと待とうか」

 

・・・どういうことだ?とりあえず、ミュウから理由を聞いてみるか。

 

「えっと、ミュウ、どうしてハジメがパパなんだ?」

「ミュウね、パパいないの・・・ミュウが生まれる前に神様のところにいっちゃったの・・・キーちゃんにもルーちゃんにもミーちゃんにもいるのにミュウにはいないの・・・だからハジメお兄ちゃんがパパなの」

「何となくわかったが、何が“だから”何だとツッコミたい。ミュウ、頼むからパパは勘弁してくれ。俺はまだ17歳なんだぞ?」

「やっ、パパなの!」

「わかった。もうお兄ちゃんでいい!贅沢はいわないからパパは止めてくれ!」

「やっーー!!パパはミュウのパパなのー!」

 

その後、あの手この手でミュウの“パパ”を撤回させようと試みるが、ミュウ的にお兄ちゃんよりしっくり来たようで意外なほどの強情さを見せて、結局、撤回には至らなかった。

・・・近いうちに八重樫に顔を見せに行こうかと考えていたが、これはこれで白崎に会うのが怖いな。どうなるか展開が予想できない。

ちなみに、イルワとの話し合いを終え宿に戻ってからは、ユエ、シア、ティオが「誰がミュウに“ママ”と呼ばせるか」で紛争が勃発し、とりあえず、ハジメはミュウに悪影響が出そうなティオだけは縛り付けて床に転がしておいた。

当然、興奮していたが。その様子を見て、イズモも悲しそうに顔をうつむかせていたが。

結局、“ママ”は本物のママしかダメらしく、ユエもシアも一応ティオも“お姉ちゃん”で落ち着いた。

・・・別にユエとティオとイズモは年齢的には“おばちゃん”で通りそうな気もするが・・・やめておこう。俺も命は惜しい。

 

 

この日、俺の親友がパパになった。

俺はいったい、どうすればいいのだろうか。




「そう言えばツルギは、お兄ちゃん呼びに抵抗がないんだな」
「まぁ、これくらいなら許容できるからな。ていうか、日本だと近所の子供から普通にツルギお兄ちゃんって呼ばれたりしたし」
「・・・いったい、俺の知らないところで何をやっていたんだ?」
「・・・俺の親父の部下の1人がな、いわゆるビッグダディなんだよ。たしか、子供が全部で10人だったか」
「・・・お前の親父さんの部署、本当に大丈夫なのか?」
「・・・大丈夫、なはず」

さらに謎が深まるツルギの父親の部署の図。


~~~~~~~~~~~


さらにツルギの父親の部署にキャラを付け足してしまいました。
一応、いつかは変人部署の面々も出そうと思っているのですが、この調子で増やしたら、全員覚えているかどうかわかりませんね。
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