二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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修羅場勃発

俺がつい口を滑らせた後、俺たちは遠藤の提案とメルドさんの頼みで、地上に出るまでの間は俺たちが道中の安全を確保することになった。

道中では、クラスメイトたちは俺たちを様々な表情で見ていた。その原因は、かつて“無能”と言われていたハジメの無双している姿を見たからか、俺の言ったことに気を遣っているのか。

まぁ、檜山がハジメにだいぶ怨嗟のこもった目を向けている時点で、主にハジメの変わりように思うところがある方が割合としては大きいのだろう。

それでも、ユエと白崎が微妙に牽制し合っていたり、途中から心の中におっさんを飼っている谷口がユエやシアにあれこれ話しかけてからは、谷口がシアの胸とウサ耳を狙おうとして八重樫に物理的に止められたり、近藤たちがユエやシア、に下心満載で話しかけて完全に無視されたり、それでもしつこく付き纏った挙句、無断でシアのウサミミに触ろうとしてハジメからゴム弾をしこたま撃ち込まれたり、ヤクザキックを受けて嘔吐したり、マジな殺気を受けて少し漏らしながら今度こそ恐怖を叩き込まれたり・・・まぁ、いろんなことがあった。

ティアに手が伸びなかったのは、助けてくれたとはいえ、ティアが魔人族であることが知られてしまったからだろう。ティアとの距離感を測りかねているようにも見えた。

手を出されるよりかはマシだし、俺が口外しないように強く言っておいたとはいえ、不安がないわけではない。が、メルドさんにも頼んでおいたし、なんとかなるだろう。

だが、俺はある重大なことを忘れていた。

確実に修羅場になる、あの要素を。

 

「パパぁー!!おかえりなのー!!」

 

オルクス大迷宮の入場ゲートがある広場で、そんな幼女の元気な声が俺たちに向けられて響き渡った。

声の主は、もちろんミュウだ。

ステテテテー!と可愛らしい足音を立てながら、ハジメへと一直線に駆け寄ってきたミュウは、そのままの勢いでハジメへと飛びつく。

まるでロケットのような勢いだが、ハジメは衝撃を受け流しつつ、苦も無くミュウを受け止めた。

だが、どうしてミュウがここに1人でいるんだ?

 

「ミュウ、迎えに来たのか?ティオとイズモはどうした?」

「うん。ティオお姉ちゃんとイズモお姉ちゃんが、そろそろパパとツルギお兄ちゃんが帰ってくるかもって。だから迎えに来たの。ティオお姉ちゃんとイズモお姉ちゃんは・・・」

「妾たちは、ここじゃよ」

 

声のした方を振り向くと、ティオとイズモが人ごみをかき分けながら俺たちのところにやってきた。

親バカなハジメは、ミュウから離れていたことを非難する。

 

「おいおい、ティオ、イズモ、こんな場所でミュウから離れるなよ」

「心配せずとも、ちゃんと目の届くところにはおったよ」

「ただ、ちょっと不埒な輩がいたからな。凄惨な光景はミュウには見せられないだろう」

 

一応、ミュウが海人族であることは周りには隠してある。それでも不埒な目を向けてきたということは、そういう類の変態なのだろう。ロリコンは、案外どこにでもいるんだな。

まぁ、単純に身代金目当ての方が可能性が高そうだし、ミュウが海人族だとわかっていれば、そもそも手を出さなかっただろうが。

 

「なるほど。それならしゃあないか・・・で?その自殺志願者は何処だ?」

「いや、ご主人様よ。妾たちがきっちり締めておいたから落ち着くのじゃ」

「・・・チッ、まぁいいだろう」

「・・・本当に子離れできるのかの?」

「いや、無理だろ」

 

少なくとも、今のままでは。

日に日に、ハジメの過保護に磨きがかかっていくのだ。別れの時になったら、ミュウと同じくらいにごねそうな気もする。

まぁ、さすがにハジメもその辺りの現実は弁えているとは思いたいが。

すると、不意に背後から冷たい空気を感じた。

そこには、白崎がゆらゆらとハジメに近づいていた。ただ、顔には笑みが浮かんでいるのに目が全く笑っていないのが怖い。

・・・あー、やばいかな、これ。

そんなことを考えると、白崎はクワッと目を見開いてハジメにつかみかかった。

 

「ハジメくん!どういうことなの!?本当にハジメくんの子なの!?誰に産ませたの!?ユエさん!?シアさん!?ティアさん!?それとも、そっちの黒髪の人か金髪の人!?まさか、他にもいるの!?一体、何人孕ませたの!?答えて!ハジメくん!」

 

あ~、完全にパニックになっている。

ハジメも「落ち着け!誤解だっ」と弁明したり、八重樫が「香織、落ち着きなさい!彼の子なわけないでしょ!」と諫めながら羽交い絞めにしようとするが、まったく聞く耳をもたない。

・・・しゃあないな。

 

「ちょっと落ち着け、白崎」

「きゃう!?」

 

俺はため息をつきながら白崎に近づき、脳天に思い切り拳骨を振り下ろした。

白崎が頭を押さえて涙目になりながら俺をキッ!と睨むが、俺は冷めた目で白崎を諭す。

 

「まず始めに、ティアは俺の恋人だ。それとな、この世界に来てから5才の子供を孕めるわけねぇだろうが」

「え?・・・・・・・・・ッ!?」

 

そこで白崎は自分の勘違いに気づき、顔を真っ赤にしてうつむいた。

とりあえず、白崎は落ち着いてくれたようだ。いろいろと失ったものはあるが。

 

 

* * *

 

 

とりあえず白崎が顔を八重樫の胸に埋めてしばらくしてから、ようやく羞恥から立ち直ることができた。

ただ、その際に八重樫は「大丈夫だからね~、よしよし」と言いながら白崎の頭をよしよしして慰めていたのだが、その姿はどこからどう見てもオカンそのものだった。

ティアもこっそりと「・・・たしかに、あれはオカンね」とデートの時に話した俺の八重樫像に納得していた。

その後、俺たちはロア支部長に依頼達成報告をして、特に買い足すものもないからこのまま出発することにした。

なぜか、その見送りに天之河たちも来たが。厳密に言えば、白崎が俺たちについてきて、芋づる式に天之河たちもついてきたというだけなのだが。

なぜ白崎が来たのかは、なんとなく想像がつく。

おそらく、俺たちについて行こうかどうか迷っているのだろう。だが、変わり果てたハジメを見たことによる動揺もあるから、踏ん切りもつかない、といったところか。

こればっかりは、俺からはなにも言えない。結局、白崎が俺たちについてくかどうかは白崎が決めることだ。

そして、いよいよ出発しようかと言うときに、なにやら妙な雰囲気を感じた。

そちらを見てみると、男たちが10人ほど集まって道を塞いでいた。

ていうか、誰だ、こいつら?見覚えが全くないし、何かされるようなこともしてないはずだが・・・

 

「おいおい、どこ行こうってんだ?俺らの仲間、ボロ雑巾みたいにしておいて、詫びの一つもないってのか?ア゛ァ゛!?」

 

そう思っていると、向こうから答えを言ってくれた。

どうやら、ミュウに手を出そうとした輩の仲間のようだ。パッと見た感じ、傭兵崩れの冒険者といったところか。ただ、報復だけが目的じゃないのも丸わかりだが。その下卑た視線から、容易に想像がつく。

まぁ、俺たちとしては、あまりのテンプレに呆れるしかないのだが、向こうは俺たちが委縮していると感じたらしい。さらに調子に乗り始めた。

 

「ガキィ!わかってんだろ?死にたくなかったら、女置いてさっさと消えろ!なぁ~に、きっちり詫び入れてもらったら返してやるよ!」

「まぁ、そん時には、既に壊れてるだろうけどな~」

 

なにが面白いのか、男たちはギャハハハと笑う。

だが、そのうちの一人がミュウまで性欲の対象と見て怯えさせ、また他の一人が兎人族を人間の性処理道具扱いした時点で、この男たちの末路は決定した。

ハジメが“威圧”を放ち、俺が殺気を男たちに向ける。

男たちは四つん這いになり、慌てて俺たちに謝ろうとしたが、上手くできないでいるようだ。

まぁ、謝ったところで許しはしないのだが。

俺とハジメがわずかにプレッシャーを緩めると、男たちを膝立ちで横一列に並ばせる。

そして、ハジメがドンナーで股間を撃ちぬき、悶絶してのたうち回っているところを俺が骨盤を砕きながら蹴り飛ばして、適当な場所に積み重ねておく。

これでこいつらは、子供も作れなくなり、おそらく今後歩けなくなる。こうなったのはこいつらの自業自得だし、今度どうやって生きていくかはあいつら次第だ。

俺たちのしたことにクラスメイトたちがドン引きしながら後ずさるのが見えたが、気にすることもない。

事を済ませた俺は、ティアのところへと戻る。

 

「なんか、いつもよりも過激だったわね」

「さすがに、ミュウまで性の対象として見るような変態相手に手加減するわけにもいかないしな。もちろん、ティアに手を出そうとした時点で言語道断だが」

「ツルギ殿も、ハジメ殿とあまり変わらないな。お主も過保護ではないのか?」

「・・・否定はしないが、恋人や仲間に手を出されたのに黙ったままでいるほど、俺はお人好しじゃねぇよ」

 

ハジメの方も、ユエやミュウが狙われたから手を出したわけではない。シアやティオたちにも手を出そうとしたことも含めて怒っている。

そういう点では、俺とハジメは同じだと言えるだろう。

そんなことを話していると、白崎が俺たちに近寄ってきた。

なにやら、覚悟を決めたような表情を・・・あ(察し)

 

「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな?・・・ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね?」

「・・・・・・・・・は?」

 

白崎の最初の一言が予想できていなかったのか、ハジメは目を点にしてポカンとする。

まぁ、言ってきたことが前振りでも挨拶でも願望でもなく、ただの決定事項だから、そうなるのも無理はないか。俺はわかってたけど。

ポカンとするハジメに代わって、ユエが前にでてきた。

 

「・・・お前にそんな資格はない」

「資格って何かな? ハジメくんをどれだけ想っているかってこと?だったら、誰にも負けないよ?」

 

そう言って、白崎は真っすぐにハジメを見つめ、その想いを告げた。

 

「貴方が好きです」

「・・・白崎・・・俺には、惚れている女がいる。白崎の想いには応えられない。だから、連れては行かない」

 

ハジメの言葉に、白崎は一瞬泣きそうになるが、それでも瞳に力を宿して言葉を続ける。

 

「・・・うん、わかってる。ユエさんのことだよね?」

「ああ、だから・・・」

「でも、それは傍にいられない理由にはならないと思うんだ」

「なに?」

「だって、シアさんも、少し微妙だけどティオさんもハジメくんのこと好きだよね?特に、シアさんはかなり真剣だと思う。違う?」

「・・・それは・・・」

「ハジメくんに特別な人がいるのに、それでも諦めずにハジメくんの傍にいて、ハジメくんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題ないよね?だって、ハジメくんを想う気持ちは・・・誰にも負けてないから」

 

・・・空気を読んで言わないでおくけど、やはり思わずにはいられない。

ちゃんと、俺がいるってことも認識してるよな?さっきから俺の名前がまったく出てきてないけど、別に俺の存在を忘れているわけじゃないよな?その辺りがどうにも不安で仕方がない。

そんなことを考えていると、今度は白崎がユエの方を真っすぐに見据える。

その視線を受けたユエは・・・ん?なんか、珍しく燃えているな。

 

「・・・なら付いて来るといい。そこで教えてあげる。私とお前の差を」

「お前じゃなくて、香織だよ」

「・・・なら、私はユエでいい。香織の挑戦、受けて立つ」

「ふふ、ユエ。負けても泣かないでね?」

「・・・ふ、ふふふふふ」

「あは、あははははは」

 

結論、白崎も俺たちについて行くことになった。

結局、ハジメ絡みだとハジメの意見は丸っと無視して決まるんだな~。

そして、なにやらユエと白崎が2人の世界を作り始めているのだが、俺の気のせいだろうか、ユエの後ろに雷龍が、白崎の後ろに大太刀を持った般若さんが見える。

 

「ね、ねぇ、ツルギ、なんだか、ユエの後ろに雷龍が見えるのだけど」

「つ、ツルギ殿、なにやら、白崎殿の後ろに般若さんが見えないか?」

「・・・気のせいじゃないだろ。俺にも両方見えているし」

 

どうやら、俺の見間違いじゃなかったようだ。

この2人、いつの間にスタ〇ド使いになったんだよ。

にしても、珍しくユエがはっちゃけているな。俺たちと一緒にいる以外でここまで楽しそうにしているのは初めてかもしれない。

 

「ま、待て!待ってくれ!意味がわからない。香織が南雲を好き?付いていく?えっ?どういう事なんだ?なんで、いきなりそんな話しになる?南雲!お前、いったい香織に何をしたんだ!」

「・・・えぇ」

「・・・なんでやねん」

 

が、そこで再び待ったが入る。言わずもがな、天之河だ。

どうやらこのバカは、白崎が言ったことが理解できなかったらしい。んで、白崎が奇行に走ったように見えて、その原因がハジメにあると考えているようだ。

ていうか、今まで気づかなかったのかよ。ご都合主義もここまでくると大概だな。俺の説教もまったく効果がないみたいだし。

 

「光輝。南雲君が何かするわけないでしょ?冷静に考えなさい。あんたは気がついてなかったみたいだけど、香織は、もうずっと前から彼を想っているのよ。それこそ、日本にいるときからね。どうして香織が、あんなに頻繁に話しかけていたと思うのよ」

「雫・・・何を言っているんだ・・・あれは、香織が優しいから、南雲が1人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ?協調性もやる気もない、オタクな南雲を香織が好きになるわけないじゃないか」

 

そこに八重樫が頭痛をこらえながらも天之河を諫めるが、それでも天之河は納得しようとせず、むしろ言いたい放題にしている。

別に、今言ったことが全部違うと言うつもりはないが、それでもハジメの何を知っているんだと言わざるを得ない。

 

「光輝くん、みんな、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど・・・私、どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」

 

ここで白崎が、けじめをつけるために天之河たちに向き直って頭を下げる。

女性陣はキャーキャー騒ぎながらエールを送り、永山、遠藤、野村の三人も、香織の心情は察していたようで、気にするなと苦笑しながら手を振る。

だが、ここまでやってもこのバカ勇者は止まらなかった。

 

「嘘だろ?だって、おかしいじゃないか。香織は、ずっと俺の傍にいたし・・・これからも同じだろ?香織は、俺の幼馴染で・・・だから、俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織」

 

・・・えぇ、なんなんだよ、こいつの独占欲。まぁ、本人は認めたがらないだろうが。

 

「えっと・・・光輝くん。確かに私達は幼馴染だけど・・・だからってずっと一緒にいるわけじゃないよ?それこそ、当然だと思うのだけど・・・」

「そうよ、光輝。香織は、別にあんたのものじゃないんだから、何をどうしようと決めるのは香織自身よ。いい加減にしなさい」

 

幼馴染の2人からそうたしなめられ、天之河は呆然とする。

次いで、その視線をハジメの方に向け、

 

「香織。行ってはダメだ。これは、香織のために言っているんだ。見てくれ、あの南雲と峯坂を。女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで・・・しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪まで付けさせられている。黒髪の女性もさっき南雲の事を『ご主人様』って呼んでいた。きっと、そう呼ぶように強制されたんだ。南雲と峯坂は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。人だって簡単に殺せるし、強力な武器を持っているのに、仲間である俺たちに協力しようともしない。香織、あいつらに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君のために俺は君を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」

 

・・・うわぁ、なんだこれ。

なんか、今まで以上にご都合解釈をフル稼働させているな。

白崎たちも、あまりに突飛な発言に唖然としているが、天之河はそれに気づく様子もなく、今度はユエたちに視線を向ける。

 

「君たちもだ。これ以上、その男たちの下にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう!君たちほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな?安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放する。ティオも、もうご主人様なんて呼ばなくていいんだ」

 

・・・こいつ、ここまで残念なやつだったっけ?

なんか、この世界に来てから、こいつの残念さに磨きがかかっているような。

いや、どちらかと言えば、子供っぽくなっているのか、これは?

ちなみに、笑顔と共にそんな言葉をかけられたユエたちはと言うと、

 

「「「「・・・」」」」

 

静かに二の腕をさすっていた。よく見れば、鳥肌が立っている。けっこう精神的にきたらしい。あの度し難い変態であるティオでさえ、「これは、ちょっと違うのじゃ・・・」と寒そうに呟いている。

すると、今度はティアが俺に抱きついてきた。

 

「ティア、どうしたんだ?」

「ツルギ、あの人、気持ち悪い・・・」

 

どうやら、ティアにはちょっと刺激が強かったようだ。完全に怯えてしまっている。

 

「気持ち悪いだって?それはいったいどういう・・・」

 

その言葉が聞こえたのか、天之河が近づいてきて、ティアが抱きつく力を強めた。

とりあえず、

 

「こっち来んな」

 

俺は重力魔法を発動させて、天之河を地面に縫い付けた。

 

「なっ、体が・・・!」

 

天之河は突然のことに狼狽しているが、さらに追い打ちをかける。

 

「とりあえず、埋まっとけ」

「ッ!?」

 

俺は土魔法で天之河が這いつくばっている地面の下に空洞をいくつも作り、重力魔法の勢いでそのまま陥没させ、穴に蓋をする。

そして、ハジメから宝物庫をひょいと奪い取り、その中から麻痺手榴弾、催涙手榴弾、衝撃手榴弾、閃光手榴弾を取り出し、穴の中に放り込んだ。次の瞬間、中からくぐもった爆発音が聞こえた。

これで、処置完了。ちゃんと空気穴も作ってあるし、死にはしないだろう。

 

「ティア、もう大丈夫だからな」

「ツルギ・・・」

 

どうやら、そうとう怖かったらしい。いつになく怯えたような声で俺の胸に顔をこすりつけてくる。

一応、ティアが魔人族だから云々という感じはなかったが、それでもあいつは近づけさせない方がいいだろう。

まぁ、それはともかく、

 

「八重樫、悪いけど、そこに埋まっているバカは頼んだ。一応、まだ死んではいねぇから」

「・・・言いたいことは山ほどあるのだけど・・・了解したわ」

 

俺としてはこれからはあまり八重樫に頼らない方がいいとは思っているのだが、天之河に関しては八重樫に任せるしかない。だって、この世界では八重樫が実質、天之河の保護者なのだから。

八重樫も、ため息をつきながらも了承してくれた。

さぁ、これで面倒ごとはなくなった、と思ったら、今度は檜山たちが猛烈に抗議してきた。

こいつらが言うには、白崎が抜ける穴は大きく、また今回のようなことが起こったら今度こそ死人がでるかもしれない、などと言っているが、どう考えても、それがただの方便でしかないのがわかる。

そして、白崎の説得が困難だと判断したのか、今度はハジメを説得しにかかった。

やれ、過去のことは謝るだの、やれ、これからは仲良くしようだの、平気で心にもないことを言ってくる。はっきり言って、目ざわりもいいところだ。

ただ気になるのが、檜山がやけに激しく抗議してくるのだ。

まるで、もうすぐ手に入れられそうだったのに、それが手から零れ落ちるような、そんな・・・。

・・・どうやら、白崎の気持ち関係なく、俺たちのパーティーに入って正解だったようだ。このまま檜山たちと一緒にいたら、どうなっていたかわからなかったな。

そこでハジメが、やたらと皮肉気な笑みを浮かべながら檜山に話しかけた。

 

「なぁ、檜山。火属性魔法の腕は上がったか?」

「・・・え?」

 

どうやら、あの時の真実の確認も兼ねて現状を解決するようだ。

 

「な、なに言ってんだ。俺は前衛だし・・・一番適性あるのは風属性だ」

「へぇ、てっきり火属性だと思っていたよ」

「か、勘違いだろ?いきなり、何言い出して・・・」

「じゃあ、好きなんだな。特に火球とか。思わず使っちゃうくらいになぁ?」

「・・・」

 

檜山の顔が、青を通り越して白くなる。やはり、俺の予想通り黒だったようだ。

檜山の件を他の者が知っているかどうかの確認のために、ちらっとメルドさんを見て確認してみると、首を横に振った。どうやら、檜山は上手く隠し通したらしい。

だが、この件、本当に檜山1人の隠蔽なのか・・・こう言ってはあれだが、檜山は小者らしく普通にバカだ。檜山1人だけで、ここまで隠し通せるとは思えない。おそらく、檜山に協力、あるいは利用している人物がいるかもしれないが・・・心当たりがあるとはいえ、証拠はなにもない。このことに関しては、あまり深く考えても仕方ないだろう。

俺が考え事をしているうちに、ハジメが檜山を利用して説得を諦めさせた。

ようやく、出発を邪魔する奴がいなくなったところで、白崎が荷物を取りに宿に戻った。

すると、天之河が近藤たちに掘り起こされているのを尻目に、八重樫が俺とハジメに話しかけてきた。

 

「何というか・・・いろいろごめんなさい。それと、改めて礼をいうわ。ありがとう。助けてくれたことも、生きて香織に会いに来てくれたことも、約束を守ってくれたことも・・・」

 

・・・まさか、ここでも八重樫が謝ってくるとはな。

どこまでも変わらない八重樫の態度に、俺とハジメは苦笑を浮かべる。

 

「・・・なによ?」

「いや、すまん。何つーか、相変わらずの苦労人なんだと思ったら、ついな。日本にいた時も、こっそり謝罪と礼を言いに来たもんな。異世界でも相変わらずか」

「別に、八重樫が謝る必要なんてどこにもねぇよ。むしろ、そこで埋まっているバカが謝るべきだしな。まぁ、それができれば苦労はしないんだろうが。世話焼きもほどほどにした方がいいぞ?じゃないと、眉間のしわがとれなくなるしな」

「大きなお世話よ・・・それにしても、そっちはずいぶんと変わったわね。南雲君なんて、あんなに女の子侍らせて、おまけに娘まで・・・日本にいたころのあなたからは想像できないわ」

「惚れているのは1人だけなんだがなぁ・・・」

「それでも、モテているのは間違いないな」

「・・・・私が言える義理じゃないし、勝手な言い分だとは分かっているけど・・・出来るだけ香織のことも見てあげて。お願いよ」

 

この八重樫の頼みに、ハジメは何も答えない。

まぁ、ハジメが本気で好いているのはユエだけだし、八重樫の頼みは聞き入れがたいものでもある。

そもそも、白崎の同伴を許可したのはユエであって、ハジメじゃあないんだけどな。

すると、なにも答えないハジメに、なにやら八重樫から不穏な気配を放ち始めた。

 

「・・・ちゃんと見てくれないと・・・大変な事になるわよ」

「? 大変なこと?」

「っ、おい、八重樫、まさかお前・・・」

「あら、峯坂君はわかったようね」

 

えぇ、わかりましたとも。ハジメに効率よくダメージを与える方法を。ついでに、俺にも被害が及びかねないことも!

 

「ツルギ、それはどういう・・・」

「“白髪眼帯の処刑人”とか“錬鉄の剣士”なんてどう?」

「・・・なに?」

「それとも“破壊巡回”と書いて“アウトブレイク”って読んだり、“剣舞”と書いて“ソードダンサー”って読んだりね?」

「ちょっと待て、八重樫、いったんそこまでに・・・」

「他にも、“漆黒の暴虐”とか“紅い旋風”なんてものもあるわよ?」

「お、おま、お前、まさか・・・」

 

嫌な予感が見事に的中した。

八重樫の視線は、俺とハジメの格好を上から下まで面白そうに眺めている。

 

「ふふふ、今の私は“神の使徒”で勇者パーティーの一員。私の発言は、それはもうよく広がるのよ。ご近所の主婦ネットワーク並みにね。さぁ、南雲君、あなたはどんな二つ名がお望みかしら・・・随分と、名を付けやすそうな見た目になったことだし、盛大に広めてあげるわよ?」

「待て、ちょっと待て!なぜお前がそんなダメージの与え方を知っている!?」

「ていうか、俺まで巻き添えかよ!?」

「香織の勉強に付き合っていたからよ。あの子、南雲君と話したくて、話題にでた漫画とかアニメ見てオタク文化の勉強をしていたのよ。私も、それに度々付き合ってたから。峯坂君には、なにがなんでも香織のサポートをしてもらうわ」

 

冗談じゃない。まさか俺までハジメと同じ中二病呼ばわりされるなんて御免だ。

だが、ちょっと反論したくらいでは八重樫を止めることはできないだろう。

・・・仕方ない。あまり使いたくなかったが、俺の方もとっておきのカードを切ろう。

 

「ほう、いいのか?八重樫がそんなことを吹聴すると言うなら、俺もお前の恥ずかしいあれこれを暴露するぞ?例えば、自室がかわいいぬいぐるみで埋め尽くされていることとかな」

「っ!?」

 

俺の言葉に、八重樫が顔を真っ赤にする。

そう、巷ではクールな侍ガールとなっているが、実際は無類の可愛いもの好きで、八重樫の自室はカワイイ系のぬいぐるみで埋め尽くされているという。

 

「ちょっと待ちなさい!なんで峯坂君がそんなことを知っているのよ!」

「白崎から聞いた。ハジメの情報の対価としてな」

「香織!?」

「ツルギ!?」

 

俺のカミングアウトに、八重樫とハジメが声を張り上げる。

なぜ俺がこのことを知っているかと言えば、今言った通り、白崎から聞いたからだ。

白崎の中では俺はかなり影が薄い方になっているが、当時ハジメとどうしても仲良くなりたかった白崎だ。当然、ハジメの親友である俺にもハジメのことを教えてほしいと話しかけられた。

だが、当時の俺はなぜ白崎がハジメのことを意識しているのかわからなかったというのと、本人の許可なしにプライベートのことを話すのは気が引けたので、交換条件をだしたのだ。

つまり、「俺の親友のハジメのことを教えてほしいなら、白崎の親友の八重樫のことを教えてもらってもいいよな?」と。

別に、八重樫に気があったわけではない。ただ単に、それだけの覚悟があるのか?という確認というだけだ。

これに八重樫は、顔を赤くして「冗談じゃないわ!」と言って、その場ではうやむやになった。

のだが、その日の夜、白崎からLI〇Eグループから個別で俺に連絡が入り、八重樫に内緒でその取引をしたいと言ってきたのだ。

そして、休日に俺と白崎はそれぞれの親友に内緒で情報交換をしたのだが、その時の白崎が「雫ちゃんってね、雫ちゃんってね!」と、それはもう八重樫のことを楽しそうに語り、最終的に俺が教えたハジメの情報よりも白崎から聞かされた八重樫の情報の方が多くなってしまった。俺が白崎に教えたことといえば、ハジメの好きなゲームとアニメ、あと両親の職業くらいだ。

しかも、1日だけでは飽き足らず、その後も何度か白崎に呼ばれて情報交換という名の白崎の八重樫語りを行うことになった。

おかげで、特に知りたかったわけでもないのに必要以上に八重樫のことについて詳しくなってしまった。それも、八重樫本人からすれば恥ずかしいことにばかり。

別に、このことで八重樫をバカにするつもりはないのだが、まさかここで活用することになるとは思わなかった。

後ろからティアの冷たい視線が突き刺さるが、あられもない二つ名をばらまかれるよりかはマシだ。

だが、八重樫は羞恥で顔を赤くしながらも、それでもなお引き下がらなかった。

 

「いいわよ、そうなったらさらに恥ずかしい名前をばらまくだけだから!“破滅挽歌(ショットガンカオス)”とか、“無法破壊(アウトローブレイク)”とかね!」

「上等だ、そしたら、さらにお前の恥ずかしいあれこれを拡散するぞ?八重樫のスマホの待ち受けが兎の写真ってこととかな!」

「“復活災厄(カラミティリバース)”!“超新災害(ネオディザスター)”!」

「日本で最近買った本のタイトルは“カワイイ・・・」

「やめろーーっ!?」

 

そこまで言って、ハジメが全力で止めに来た。俺と八重樫はゼェーゼェーと荒く息を吐きながらも、いったん言い合いを中断する。

結局、ハジメは白崎のことを邪険にしないと約束した。

また、俺と八重樫の言い合いで出てきた二つ名や恥ずかしい事実に関しては、今後一切他言しないということになった。

 

「あぁ、そうだ。ほれ、八重樫」

 

とりあえず落ち着いてきた俺は、八重樫に腰に差した黒刀を八重樫に手渡す。

 

「これは?」

「八重樫、さっきの戦いで得物が壊れただろ?口止め料と諸々の詫び代、あと、いろいろと世話になった礼だ」

 

八重樫が黒刀を抜くと、その漆黒の刀身に目を奪われた。

そこで俺は、この黒刀“黒鉄”の説明をした。

この“黒鉄”は、ライセン大迷宮と時から“ウロボロス”の練習と調整、俺の錬成の練習として、ハジメとともにあれこれと手を加えた。

この“黒鉄”は魔力を流すことで刀身に風刃を纏わせたり、鞘から針を飛ばす機能はそのまま。鞘に自動手入れの機能も付けているため、鞘に入れるだけで刀身がきれいになる。

また、刀身自体も振りやすくするために重心などを調整した。そのため、抜刀術なども問題なく扱える。

 

「すごいわね、この刀・・・」

「まぁ、土台になった部分は、ハジメ曰く“お遊び”で作ったらしいが」

「・・・これが、お遊びね・・・でも、峯坂君の方は大丈夫なの?」

「大丈夫だ、問題ない。簡単な武器なら、俺の剣製魔法で生成できるからな」

 

そう言いながら、俺は見た目は“黒鉄”そっくりの刀を生成する。

 

「・・・便利ね、その魔法」

「さすがに、今の段階だとオリジナルそのままの性能とはいかないけどな」

「まぁ、それはともかく、ありがとう。ありがたく使わせてもらうわ」

 

それでも、武器に困ることはほとんどない。例外があるとすれば、ライセン大峡谷くらいだ。

とりあえず、俺のプレゼントに八重樫は満足したようで、自然な笑みで俺に礼を言った。

 

「・・・」

 

・・・後ろから、冷たい視線を感じる。

言わずもがな、ティアだろう。さて、どう説明しようか。

そんなこんなで、俺たちはグリューエン大火山に向けて出発した。

 

 

* * *

 

 

ホルアドを出発した俺たちは、夜になったところで野営の準備を始めた。

ちなみに、今俺たちが乗っているブリーゼは、念願の乗車席拡張を施した新しいタイプだ。

中はふかふかのシートとクッションの座席といくつかのテーブル、さらにアーティファクトの冷蔵庫と空調完備という、いたれりつくせりの内容だ。

運転自体も、運転席にいなくてもできるようにしてあるし、武装も追加した。しばらくは、これで旅をすることになるだろう。

そして、夕食を済ませた俺は、いったん離れたところの丘に座って星を眺めることにした。

しばらく眺めていると、足音が聞えた。そちらを振り向くと、ティアが俺のところに近寄ってきて、俺の隣に腰かけた。

それから、どれだけ経っただろうか。ティアが俺に話しかけてきた。

 

「ねぇ、ツルギ」

「なんだ?」

「私、ツルギにいろいろと聞きたいことがあるの」

「・・・そうか。なにを聞きたいんだ?」

「ツルギが今日言ってた、実の母親を殺したってこと」

 

やはり、その話題か。

俺は、今まではこのことを隠してきたが、さすがにここまで来たら誤魔化すことはできないだろう。

 

「私、ツルギに何があったのか、なにも知らない。だから、私に話して。私は、ツルギの恋人だから。私、ツルギのことを知りたいの」

「・・・そうか、なら、話すよ。俺の昔話をな」

 

そうして俺は、自分の過去を打ち明けていった。




「あ、峯坂君、もしかして、この刀で人を斬ったりは・・・」
「安心しろ、それで人は斬ってねぇよ」
「そう、なら・・・」
「肉とか魚とか野菜は斬ったけどな」
「なんてことに使ってるのよ!?」
「性能を試しがてらな。よく斬れるんだよ、これ」
「食べ物あいてにオーバーキル過ぎるわよ!」

料理に“黒鉄”を使ったことに驚愕する雫の図


~~~~~~~~~~~


今回は前回よりもけっこう長くなりました。
何気に、ツルギの分の二つ名を考えるのが大変でしたね。
そして、次回はいよいよ、皆さんが気になっていたツルギの過去話です。

*小話を変更しました。
 もともとこの構想はあったのですが、これを書くときに忘れていたので。
 今になって思い出したのを急遽変更しました。

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