「・・・で?なにか言うことは?」
「・・・正直、悪かったと思ってる」
そんな会話をしている俺たち、現在はマグマの上を小舟でどんぶらこしている。
どうしてこんなことになったのかと言えば、簡単に言えばハジメのせいだ。
静因石の採取をしながら攻略していた俺たちは、途中でマグマが不自然な動きをしていることに気づいた。具体的には、岩などがないのに流れが急に変わっていたり、所々マグマの流れが遅くなっていたり。
たいていは攻略の邪魔にならない場所だったことから、本来なら無視して進んでいたのだが、ハジメが“鉱物系探査”を使用すると、その周りに静因石が多く埋まっていることがわかった。
どうやら、マグマに含まれている魔力を静因石が沈静化することで、このような不可思議な流れになっていたようだ。
これを知ったハジメは、マグマの流れが阻害されているところに静因石が大量にあるに違いないと推測し、たしかに大量に静因石が埋まっているのを確認した。
だが、静因石がマグマの流れを阻害しているのなら、当然、静因石を取り除かれた場所のマグマは活性化する。
一応そのことをハジメに言ったはずなのだが、暑さによる集中力の低下で聞き流していたらしい。
結果、静因石を採取したところの奥からマグマが噴き出して来て、今の状態になっている。
幸い、“金剛”を付与された小舟はマグマにも問題なく耐えることができたが、小舟を操作する手段はなかったため、流れに任せてどんぶらこすることになり、階段とは異なるルートで深部に向かうことになった。
ちなみに、空中のマグマロードは俺とシアの重力魔法の“付与効果”によって重さを調整して事なきを得ている。
その後も、空中マグマロードを進んだり、滝のような急流に流されたり、1羽飛んでいると思ったら30羽は飛んでいるマグマコウモリを総員で駆逐したり、さりげなくハジメとユエがいちゃついたり、俺とティアがいちゃつくことしばらく、今まで下に向かって流れていたマグマが急に上に向かいだした。
勢いよく数十メートルは登ると、流れの先に出口が見えた。問題は、そこでマグマが途切れていることだ。
「掴まれ!」
俺が号令を出して、小舟にしがみつく。
小舟は激流を下ってきた勢いそのままに、猛烈な勢いで洞窟の外に放り出された。
空中で小舟の体勢を維持しながらすぐに周りを確認すると、そこはライセン大迷宮の最終試練の場所よりも広大な広間だった。ライセン大迷宮のようなドーム状ではないため断定はできないが、おそらく直径3㎞以上はありそうだ。
地面はほとんどマグマで満たされていて、ところどころに飛び出している岩石が足場になっている。ここの空中にもやはりマグマが流れていて、ほとんどは下のマグマへと流れている様だ。
だが、一番気になるのは、ここの中央に浮かんでいる小さな島だ。マグマの上から10mほどの高さでせりでている岩石の島なのだが、その上をマグマのドームが囲っている。明らかに普通ではない。
「とりあえず、あの島に行くぞ。おそらく、最終試練に関わってくるはずだ」
無事マグマに小舟を着水させて、そう提案する。ハジメたちも考えたことは同じようで、頷きながら推測する。
「・・・あそこが住処?」
「階層の深さ的にも、そう考えるのが妥当だろうな・・・だが、そうなると・・・」
「最後のガーディアンがいるはず・・・じゃな?ご主人様よ」
「ショートカットして来たっぽいですし、とっくに通り過ぎたと考えてはダメですか?」
「本当にそうだとしたら、ありがたいわね・・・」
シアの推測にティアが軽く返すが、本気で信じている節はない。
そして、それは正しい。
「それはないぞ」
「どういうこと?」
「何かわかったんですか?」
「いくらマグマの上を小舟で進むなんてことが、普通ありえないこととはいえ、ここは大迷宮だ。そんな楽観視はできない。それに・・・来るぞ」
何が、とは言わない。言う必要がない。
直後、マグマの中から、マグマで形成された弾丸が飛び出してきた。
「任せよ!」
そこにティオが掛け声とともに魔法を発動さえ、マグマの弾丸を相殺した。
だが、今の攻撃はあくまで始まりの狼煙でしかなかったようで、周囲のいたるところから無数の炎塊がマシンガンのように飛び出てきた。
「散開!」
俺は小舟を放棄するように素早く指示を出し、周囲に浮かんでいる岩に飛び乗った。
ハジメたちも同じように小舟から退避すると、炎塊は小舟をハチの巣にし、小舟はマグマの底へと沈んでいった。
「各自、中央の小島に向かえ!」
今はまだ状況がつかめていないことから、まず先に中央の小島の方を調べることにする。先ほどちらっと見えたが、石碑のようなものが見えた。おそらく、試練に関係しているはずだ。
その後も撃ち出される炎塊を避けたり撃ち落としたりながら、俺はマグマが撃ちだされているところを観察する。
俺が見る限りは、魔石らしき魔力の流れは見当たらない。
いや、
このマグマにも魔力が張り巡らされているし、今までの魔物も体に溶岩を纏わせていた。おそらく、それによって熱源感知や気配感知、魔眼に引っかからないだけだ。
そして、このような特性を持ち合わせているなら、この魔物が得意とするところはおそらく奇襲・・・
「ゴォアアアアア!!!」
そう考えた瞬間、俺の背後から重低音の咆哮が聞こえた。
「せぁあ!」
それを認識した瞬間、俺は瞬時に物干し竿を生成し、振り向きざまに襲ってきた魔物を逆袈裟で斬り裂いた。
のだが、
「うおっ!?あぶねぇ!」
俺が斬り裂いたところから、大量のマグマがあふれでてきた。
なんとかその場から飛びのいて他の足場に飛び移るが、俺が元いた足場がジュワ~と蒸気をたてながら溶けるのが見えた。
逃げるのがあと少し遅れていたら・・・想像したくもない。魔法で防げないこともないだろうが・・・さすがにマグマは自信がない。
「ツルギ!」
そこに、ティアが空中を蹴りながら俺のところにやってきた。どうやら、風魔法で足場を作って走ってきたようだ。
「ツルギ、大丈夫?」
「俺は大丈夫だが・・・見ろよ、あれ」
俺が先ほど襲われたところに目を向けると、そこには蛇のような魔物が頭を生やしていた。
あの魔物、マグマを纏っているのかと思ったが、違った。マグマを纏うどころか、マグマで体を構成している。
「どうやら、バチュラムのマグマバージョンってところみたいだな。やっぱ、あの中央の小島がゴールってことか」
「それならいいのだけど・・・どうやって倒せばいいのかしら?」
「バチュラムと同じなら、どこかに魔石があるはずだ。それを破壊すればいいんだろうが・・・マグマにも魔力が流れているせいで、ちょいと見つけずらいな。それに、数が多い」
今、俺たちの真下にいるだけでも2,30体はいるし、ハジメたちのところにも同じくらいの数がいる。つまり、最低でも40体はいるということだ。
それに、下手すればさらに増える可能性もある。
「要するに、『先に進みたければこいつらを倒せ!』ってことでいいのかしら?でも、どうやって倒すの?」
「一応、魔石を破壊すればいいんだろうが・・・」
ドゴオォォォン!!
そう言った矢先、ハジメたちのいる方向からすさまじい爆音が聞こえてきた。
どうやら、ティオがブレスを放ってマグマ蛇を8体ほど片付けたらしい。
ハジメたちはすぐにマグマ蛇の包囲網から抜け出すが、すぐに20体ほどのマグマ蛇が顔を出す。
「あれ?あいつらを倒したのに、数が減ってないなんて・・・」
「いや、そうじゃない。あの小島の石碑を見ろ」
俺がティアにそう促して小島の石碑を見ると、先ほどはなかった光が灯っていた。
その数は、8つ。いまティオが薙ぎ払ったマグマ蛇の数と同じだ。
そして、あの石碑には何かしらの鉱石が埋め込まれており、ざっと見たところ100個ほどある。
つまり、
「あの、マグマ蛇を100体倒すことが、この大迷宮の試練らしいな」
「この環境で100体倒せって言うなら、ティオが言っていたコンセプトにも当てはまるわね」
そうとなれば、話は早い。あのマグマ蛇をひたすら倒せばいいだけのことだ。
ドパパパパパパパパパンッ!!
俺は即座にマスケット銃を生成し、マグマ蛇の魔石を10個ほど撃ちぬいた。
魔石の場所はマグマに含まれている魔力で上手くカモフラージュされているが、よく見ればマグマと魔石では魔力の流れや濃さが違う。少し観察すれば、すぐに見抜ける。
魔石を撃ちぬかれたマグマ蛇は、ただのマグマとなって崩れ落ちた。
「ちょっと、早すぎない?」
「ティアだって、ちょっと考えればすぐに倒し方が思い浮かぶと思うけどな」
「そんなこと言われても・・・あ、思いついたわ」
そう言いながら、ティアは足場から跳躍する。
そこにマグマ蛇が口を開けて襲い掛かるが、ティアはぐっと拳を後ろに引き絞り、素早く撃ちだした。ティアの拳圧をもろに受けたマグマ蛇は、物言わぬマグマになった。
たしかにティアには魔石を感知することはできないが、だったら先ほどのティオのように全身ごと破砕すればいい。
「ティアなら大丈夫だろうが・・・一応、傍にいるか」
今のティアなら、この程度のマグマ蛇なら問題ないだろう。
だが、この魔物は奇襲が取り柄だ。万が一がないとも限らない。
俺は剣製魔法で足場をつくって、ティアの近くに駆け寄る。
「ティア。一応、俺と2人で片付けるぞ」
「私はいいけど、ハジメたちは大丈夫なの?」
「見た感じ、ハジメを賭けて競争するくらいには余裕があるみたいだからな。問題ないだろ」
詳しくはわからないが、どうせハジメとの一晩とかデートを所望しているのだろう。それくらいの余裕があるなら、わざわざ援護をする必要もないし、ハジメも円盤の足場を操ってフォローしている。あれなら、俺たちの援護がなくても大丈夫だろう。
「それじゃあ、やるか」
「えぇ、わかったわ!」
ティアが俺の言葉に頷いたところで、同時に踏み出す。
そこに複数のマグマ蛇が顎を大きく広げて襲い掛かってくるが、ティアが拳圧を放てばマグマが吹き飛び、魔石を露出させる。露出した魔石は、俺がマスケット銃で撃ちぬいて破壊する。そうすると、マグマ蛇はただのマグマになって沈んでいった。
下から飛び出して襲い掛かるマグマ蛇もいるが、ブリーシンガメンで作り出した八咫烏で障壁を展開しつつ、砲撃によってマグマを吹き飛ばす。そこにティアが拳圧を放ち、魔石を粉々にする。
別に、前もって打ち合わせたわけではない。
それでも、お互いにどうすればいいのか、何を考えているのかなんて、手に取るようにわかる。
だからこそ、俺はティアと2人で戦う。
俺とティアが連携してマグマ蛇を倒している間も、ハジメたちのほうでも順調にマグマ蛇を倒していることもあって、もうすぐ100体に到達する。
残っているのは、今ハジメが相手をしている1体と、俺とティアの目の前にいる2体だけだ。
「ティア、一気にいくぞ!」
「わかったわ!」
俺がそう言うと、ティアは即座に拳を撃ちだし、拳圧で襲い掛かってきたマグマ蛇を吹き飛ばす。そこで魔石が露出したところを、俺がマスケット銃で撃ちぬいて破壊する。
あとは、ハジメが引き金を引いて魔石を破壊すれば、それで終わり・・・
「ッ!?」
直後、俺の背筋に言い様のない悪寒が走った。俺はほぼ反射的に、物干し竿を生成して後ろを振り向き、ティアを庇える位置に移動する。
次の瞬間、すさまじい衝撃が俺とティアを襲った。
なんとか防ぐことはできたが、勢いを殺しきれずに中央の小島まで吹き飛ばされてしまう。
視界の端では、ハジメがいた場所に極光の柱が降り注いでいるのが見えたが、ここで
「ふん、今の一撃をしのぐか。大したものだ」
奥から、男の声が聞こえた。
現れたのは、細身ながらも引き締まった肉体をもった、
まさか、ここにきて魔人族とかち合うことになるとは・・・
「・・・そんな、まさか・・・」
ふと、ティアの小さなつぶやきが聞こえた。
ティアの方を見ると、その体は小刻みに震え、火山の暑さによるものではない汗をかいている。
ティアがここまで過剰な反応をするとなると、もしかしてこの男は・・・
「久しぶりだな、我が娘よ」
俺の目の前に現れたのは、まぎれもなく、ティアの父親だった。
「シア。せっかくだから、料理を教えてくれないかしら?ツルギになにか食べさせてあげたくて・・・」
「わかりました。私が教えてあげますよ、ティアさん!」
数十分後
「きゃあ!炎が燃え盛って!?」
「ちょっ、ティアさん!なにやってるんですか!?」
「ちょっと待ってください、ティアさん!今、何を入れたんですか?」
「何って、これって体にいいから・・・」
「だからって、分量を無視していれないでください!」
「・・・ツルギ」
「・・・何も言わないでくれ」
ティアはメシマズ属性持ち。
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今回は、短めです。
今週は、バイトの肉体労働でめっちゃ疲れたので、なかなか夜に書き進めることができなかったので。
数行書いたら、それで力尽きたと言いますか。
そして、ティアに新たな属性を付与しました。
・・・これならありですよね?
それはそうと、とうとうティアの父親を出しました。
詳しいことは、また次回に。