二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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どう帰ろうか

「・・・自爆はロマンだ」

「お前はなにを言ってるんだ」

 

灰竜のブレスを防ぎながらハジメが最初に放った一言がそれだった。

まぁ、言っていることはわかるんだが。

あの時、ティオを一人で脱出させたが、本当にティオだけというわけではない。

ハジメがクロスビットを取り出して、ティオの護衛として周囲に飛ばせた。

そこで、最終的にフリードとリヒトの近くでクロスビットを自爆させたんだろう。

ただ、俺としては完全遠隔操作でそんなことを言っても説得力がないと思う。

爆発する直前で退避するか、乗ったまま自爆するからこそロマンがあると思うんだ。

遠隔操作で自爆特攻したところで、ただの魚雷とかミサイルとあまり変わらないだろうに。

そんなことを言いながらも、なんとか小島の石板のところまでたどり着いた。

見たところは扉らしきものは見当たらないが、七大迷宮を示す紋様がある石板の前に立つと、スッと音もなく壁がスライドし、中にはいることができた。

俺たちが急いで中に入るのと、マグマが俺たちのいる小島に流れ込んだのは同時だった。

壁は再びスライドして閉まるが、これでここから出ることは難しくなった。

だが、それはその時に考えよう。

今は、この中のことだ。

 

「ひとまず、安心だな・・・」

「にしても、すげぇな、この部屋。振動まで遮断しているぞ」

「ん・・・ツルギ、ハジメ、あれ」

「魔法陣ですね」

 

外部の振動を遮断しているこの部屋に驚きつつもユエが指さした方を見ると、そこにはライセン大迷宮にあるのと同じような魔法陣があった。

おそらく、あれがこの大迷宮の神代魔法を得る魔法陣だろう。

今回は、ミレディのように誰かが操作するわけでもなく、俺たちが魔法陣の上に乗るだけで起動した。

そして、得られた神代魔法は、

 

「これは、空間操作の魔法か」

「・・・ん、瞬間移動のタネ」

「それに、この部屋にもかけられているな。外部との空間を遮断しているのか」

 

ハジメたちの方の戦いは見ていなかったからわからないが、どうやら瞬間移動を使用したらしい。

となると、最初の奇襲もおそらく、空間魔法を使用して俺たちの死角に入りこんだに違いない。

そして、この部屋が不自然なほどに振動を遮断しているのも、この魔法によるものだ。

それ以外にめぼしいものはなく、攻略の証であるペンダントと創設者であるナイズ・グリューエンの簡単なメッセージがあるのを確認して、まずは怪我をある程度癒すことにした。さすがに、満足に動かない体のままでマグマの海を乗り切るのは厳しい。

とりあえず、この中では一番まともに回復魔法を使えるティアが俺に回復魔法をかけるが、先ほどから一言も発していない。ずっと俯きっぱなしだ。

 

「ティア、どうしたんだ?」

「・・・ツルギ、ごめんなさい、私のせいで・・・」

「あぁ、そのことか」

 

どうやら、自分のせいで俺が重傷を負ったと思い込んでいるらしい。

だが、このことでティアが気に病むことはない。

 

「だったら気にするな。むしろ、感情的になった俺の方が謝るべきだ。ティアの気持ちも考えずに、先走っちまったからな」

「でも・・・」

「でもじゃねえよ。家族のつながりは、何があっても切れない。それは、俺だってよく理解している」

 

俺だって、母さんに殺されそうになるまでは、きっと元に戻ると信じていた。

そのことを、感情的になって忘れてしまうとは、俺もまだまだ未熟だ。

 

「だから、今回のことで自分を責めるな」

「ツルギ・・・ぐすっ、ごめん、ありがとう・・・」

 

そう言ってティアは、俺の胸に顔をうずめて静かに泣き始めた。俺は、あの時俺がティアにされたように、ティアを抱きしめて頭を優しくなでる。それで、ティアが泣き止んでくれるように。

 

「・・・俺ら、いない方がいいのか?」

「・・・でも、他に部屋もないですよ?」

「・・・魔法で、なんとか隠れる?」

「・・・それしかないか」

「・・・お願いします、ユエさん」

「・・・ん、任せて」

 

・・・あ~、すっかり忘れてた。こそこそ話しているけど俺には丸聞こえだし、その変な気遣いが、逆に申し訳ないというか、恥ずかしくなる。

 

「あー、うん、悪かった。悪かったから、変に気を遣わないでくれ。いや、ほんと、お前らのことを忘れてた俺が悪かったから」

「いやいや、俺たちが邪魔するわけにもいかないからな」

「ん、お二人で、ゆっくりと」

「私たちのことは気にしないでくださいですぅ」

 

殴りたい、そのニマニマ顔。

たしかにハジメたちを意識から外していちゃついた俺たちも悪いと言えば悪いが、仕方ないじゃないか。あんなティアは放っておけなかったんだから。

まぁ、俺は甘やかすだけで終わるわけではないが。

いったん、俺はティアを引きはがして目を見て話す。

 

「ティア、大丈夫か?」

「うん、ありがとう、ツルギ」

「これくらいはいい。ただ、1つだけ約束してくれないか?」

「約束?」

「今すぐとは言わないが、次にリヒトに会うまでに、自分で答えを見つけてくれ。リヒトをどうしたいか」

 

おそらく、リヒトやフリードは次会ったときは今度こそ本格的に牙をむいてくるだろう。その時に殺すことをためらってしまっては、俺たちが殺されかねない。

そうされないためにも、できるだけ早い段階で覚悟を決めた方がいいだろう。

リヒトを、何とかして元に戻すか、殺すか。

 

「わ、私は・・・」

「今言っただろ、今すぐとは言わないって。ゆっくり考えろ。必要なら、俺も相談に乗ってやる」

「・・・うん、わかったわ。ありがとう、ツルギ」

 

そう言って、ティアは再び俺の胸に顔をうずめた。今度は、純粋に甘えているだけのようだ。

 

「・・・で?話し合いは終わったか?」

「とりあえず、終わったぞ。ていうか、なに呆れた目をしているんだよ」

「友人の前でよくいちゃつけるもんだと感心してたんだよ」

「公衆の前で平然とユエとキスしたお前に言われたくはない」

 

俺たちだって、そこまでの度胸はない。度胸の有無と言うよりかは、節操の問題だろうが。

 

「んで?こっからどうする?」

「いや、お前はわかってるだろ?だから、あらかじめ()()を出しておいたんだろうが」

「まぁ、そりゃあそうだが」

「お2人とも、どういうことですか?ここから出る算段がついているんですか?」

 

俺とハジメの会話の内容がわからなかったようで、シアが問いかけてくる。ユエとティアも、言葉には出していないものの思っていることは同じなようで、うんうんとうなずいている。

俺とハジメは顔を見合わせ、至極まっとうに話す。

 

「そりゃあ、もちろん」

「マグマの中を泳いで進む」

「・・・ん?」

「・・・はい?」

「・・・え?」

 

さすがに言葉が足りなさ過ぎたのか、ティアたちが「頭、大丈夫?」みたいな視線を向けてくる。

言葉足らずだったのが悪いとはいえ、そんな視線を向けられたら、ちょっと傷つく。

別に、生身のまま泳ぐわけではない。

フリードが要石を破壊したと告げた時点で、ハジメはあらかじめメルジーネ海底遺跡で使う予定だった潜水艦を外に出していた。もちろん、“金剛”が付与された、折り紙付きの耐久力だ。

さすがにマグマに耐えるかは心配だったが、小舟でも大丈夫だったのだ。いけるだろうとは踏んでいた。

まぁ、仮に潜水艦がダメだったとしても、そのときはティオと共に強行突破するつもりだったし、どのみち問題はない。

ティオを先に行かせたのも、確実にタイムリミットを迎えないための保険だ。

ただ、1つ心配なのが、今、グリューエン大火山はまさに大噴火を起こそうとしている。当然、マグマの流れもより激しく、複雑になっているはずだ。果たして、まともに制御できるのか。できないとすれば、どこに出るのか。

まぁ、どのみちすぐに出なければ死ぬわけだから、そんなことを考える暇はないが。

 

「まぁ、そういうわけだ。だから、まずはマグマを避けて潜水艦に向かおう。潜水艦に向かうまでの結界は、俺とユエで張る。大丈夫か?」

「・・・ん、任せて」

 

俺の言葉にユエが頷く。

とりあえず、ユエが“聖絶”を3重に展開し、俺が魔力操作で“聖絶”の強度を上げつつ、なるべくマグマの流れが衝突しないように細工をした。

そこで俺たちは頷きあい、外界への扉を開けた。

次の瞬間、扉を開けた傍から大量のマグマが流れ込んできた。俺たちは“聖絶”のおかげで問題ないが、目の前がマグマ一色に染まる。

ある程度は覚悟していたが、さすがに言葉がでない。こんな体験をしたのは、世界広しといえども俺たちくらいだろう。

 

「ハジメ、潜水艦はどこだ」

「すぐ外だ。行くぞ!」

「んっ」

「は、はいですぅ!」

「わかったわ!」

 

ハジメの号令で、俺たちはゆっくりと外に出た。視界はマグマでシャットアウトされて何も見えないが、本当にすぐ近くにあったらしい。コツンと“聖絶”に何かが当たる音がした。

ユエが障壁を調節しながらハッチまで行き、なんとか中に入ることができた。

 

「ふぅ、なんとかなったな」

「安心するのはまだ早いぞ。本番はこっから・・・」

 

ハジメが一息つき、俺が気を引き締めようとした次の瞬間、今までにないくらいの振動が俺たちを襲った。

この潜水艦は、さっきの部屋と違って振動を遮断してはくれない。

結果、

 

「ぐわっ!?」

「んにゃ!?」

「はぅ!? 痛いですぅ!」

「っぶね!?」

「きゃう!?」

 

それぞれが船体のあちこちに体をぶつけることになり、悲鳴をあげた。

だが、このままシェイクされる俺たちじゃない。

俺はティアを片腕で抱えながらなんとか重力魔法を使って、船体を安定させた。

 

「た、助かった。ありがとうな、ツルギ」

「ん、さすが」

「ありがとうございますぅ、ツルギさん」

「気にするな。だが、このまま火山の外に出れれば万々歳だったんだが・・・」

「・・・どういうこと?」

 

俺の不穏な言葉に、ティアが首を傾げながら問いかけてくる。

 

「・・・ハジメ、クロスビットの特定石で、今の場所を特定することはできるか?」

「今やったところだ・・・ツルギの言う通り、こりゃあ出口から遠ざかっているな」

「えっ?それって地下に潜ってるってことですか?」

「ああ、真下ってわけじゃなくて、斜め下って感じだが・・・さて、どこに繋がっているのやら・・・」

「・・・こりゃあ、しばらくは戻れそうにないな」

 

俺は若干落胆しながらため息をつくと、ティアが俺に寄り添ってきた。

 

「・・・大丈夫よ、ツルギ。私たちは、ずっと一緒だから」

「・・・あぁ、そうだな」

 

やっぱり、ティアがいると心強い。

ハジメの方も、同じようにユエとシアが寄り添っている。

あぁ、そうだ。戻るのが遅くなる程度で絶望する俺たちじゃないし、あいつらも信じて待っているだろう。

ここまできたら、行きつくところまで行くだけだ。




「香織殿、そんなに働きっぱなしで大丈夫なのかの?」
「大丈夫、私は治療師だから。でも、ちょっと外れてもいいかな?1,2分くらいでいいから」
「1,2分と言わず、もっと休んでもよいと思うが・・・わかった」
「うん、ちょっと待ってね」(ばたん)

すーはーすーはー!!くんかくんかくんか!!

「・・・香織殿・・・」

やっぱり病んでいる香織に、目の前が真っ暗になりそうになるイズモ

~~~~~~~~~~~

今回は短めです。
ありふれ零の3巻、さっそく買って読みました。
そこで思ったのが、熱出して寝込んだヒロインって例外なく可愛くなるか、可愛さに拍車がかかりますよね。
告らせたいのかぐや様然り、ニセコイの小野寺姉妹然り。
この調子で、あの2人にはもっとラブコメさせて、最終的には・・・うん、いいっすね。

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