二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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結局、ちょっと長くなってしまいました。
説明回になると、「あとちょっと!あとちょっとだけ!」の精神が働いてしまうのか、詰め込めるだけ詰め込んでしまおうとしてしまいます。
あと、今作の主人公は天之河嫌いですが、自分もこいつは気にくわねぇ、って読みながら思っていました。
ていうか、主人公の天之河評価は、だいたい自分の本音だったり。

*原作とすこし設定の齟齬があったので、少し書き直しました。
 最近、web版の方はアフターストーリーばかり読んでいたので、いろいろと忘れてしまっていました。
 魔法陣なしでの魔法の使用は、これからの伏線くらいに覚えておいてください。


俺の戦い方

トータスに召喚されてからおよそ二週間。一部を除いて戦闘訓練が行われている。主な内容は、戦士職は武器の扱い方、魔法職は魔法の特訓、といったところだ。

現在は、訓練前の自由時間、俺は図書館にきていた。だが、俺一人というわけではない。ハジメも一緒だ。

この世界に来てから、俺とハジメは図書館で調べ物をよくしている。

ハジメは周りからは完全に役立たず扱いされていることから、少しでも多くの情報を学ぶために。俺も、生き残るためには情報が必要であるからハジメと一緒に調べ物をしている。

ここで、現段階の俺のステータスを紹介すると、

 

=============================

 

峯坂ツルギ 男 17歳 レベル:7

天職:弓兵

筋力:70

体力:80

耐性:30

敏捷:70

魔力:150

魔耐:100

技能:天眼・弓術・気配感知・魔力感知・全属性適性・言語理解

 

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といった感じだ。

“天眼”の効果は、簡単に言えば視力の強化だ。だが、それは単純に目がよくなるだけではなく、動体視力、静止視力、深視力(遠近感や立体感を正しく把握する能力のこと)など、目から入る情報すべてが質・量ともに格段によくなっている。そのため、規格外の精密射撃が可能となっており、すでに訓練場にある射撃スペースでは物足りなくなっている。

そのため、俺だけ数名の騎士と一緒に王都の外に出て、狩りをすることもあった。獲物は魔物だが。

ちなみに、なぜか増えていく魔力や魔耐には、俺もメルドさんも首をひねっている。

この世界の魔法とは、体内の魔力を詠唱によって魔法陣に流し込むことで、魔法陣に組み込まれた魔法が発動する、というもので、魔法陣をより大きく複雑にしたり、詠唱を長くする、込める魔力を多くすることでより強力な魔法を使うことができる。

もちろん、何事にも例外があり、人間の場合、それが魔法適正だ。簡単に言えば、体質によって魔法の詠唱や式を省略できる。魔法陣もうんと小さくできるらしい。

ハジメの場合、魔法適正はまったくなく、実戦に使えるものではない。錬成の補助をするアーティファクトもなく、ただ錬成の魔方陣が描かれた手袋をもらっただけだ。

俺の場合は、なぜか全体的に魔法適正が高い。それどころか、だいたいの魔法が魔法陣いらずだ。これには、メルドさんはもちろん、他の魔法師も首をひねっている。本来であれば、これだけの魔法適正があれば魔法系の天職になるはずなのだが、なぜか魔法にはあまり縁がない弓兵の天職。さらに言えば、なぜか魔法陣がなくとも魔法がある程度発動できるというわけのわからない仕様。

結果、魔法師よりも魔法がダントツに上手い弓兵、という立場になってしまい、一部から嫉妬を買ってしまった、というのも俺が図書館にやってきた理由の一つでもある。

 

「相変わらず読みふけってるな。これからどうするつもりだ?」

「うーん、亜人の国には行ってみたいかな。やっぱりケモミミは見たいし」

「お前らしいな。でも、それは望み薄じゃないか?」

「そうなんだよねー・・・」

 

この世界での亜人族は被差別種族であり、奴隷以外はハルツィナ樹海の奥地にひっそりと暮らしている。それに、同族が奴隷にされていることもあり、人間族にはいい印象を持っていないのは間違いないはずだ。

亜人族が差別されている理由の一つとしては、魔法が使えない、否、魔力をほとんど持たないところにある。

この世界における魔法のルーツとしては、まずこの世界は神代にエヒトを初めとした神々が魔法を使って創造されたと記されており、現在使われている魔法は神代魔法の劣化版であると認識されている。そのため、魔法は神からのギフトみたいなものとして認識されている。

まぁ、ほとんどがあの胡散臭い教会の教えなのだが。

そのため、魔力を持たない亜人族は神から見放された悪しき種族という烙印を押されている。

ちなみに、魔力を持っている魔物に関しては自然災害扱いされており、神の恩恵を受けることはないただの害獣扱いになっている。

また、現在戦争をしている魔人族も、エヒトとは違う神を信仰してはいるが、亜人族に対する認識はだいたい同じらしい。

魔人族は数が少ない代わりに個々の実力が非常に高く、全体的に魔法適正が高いため人間族よりもはるかに短い詠唱と小さな魔方陣で魔法を行使できるらしい(俺の場合はいろいろと別だけども)。それは子供も同じであることから、魔人族の国である“ガーランド”はある意味、戦士の国だと言える。

人間族では聖教教会と違う神を信仰する魔人族やガーランドは神敵であるとされ、亜人族と同様に神に見放された種族だとされており、そして魔人族も似たり寄ったりな考えを持っている。。

つまり、亜人族はこの世界でもかなり不憫な種族でもある。

 

「代わりに、西の海もいいかなって思ってるんだけど」

「あぁ、マーメイドとかか?あと、海鮮料理もあるか」

 

西の海にある町、“エリセン”は海人族と言われる亜人族の町で、亜人族としては例外的に王国から公に保護されている。

その理由が、北大陸に出回る海産物のほとんどが、エリセンから出回ってくるものだからだ。そのため、手のひら返しがすぎるが、比較的人間族とも良好な関係を築いている。

ただ、エリセンに行くにあたって一つ問題がある。

 

「でもなぁ、砂漠とか火山とかどうするんだよ」

「それなんだよねぇ・・・」

 

エリセンの町は王国から見て、“グリューエン大砂漠”をこえる必要がある。これがひたすらにめんどくさく、さらにはこの世界での危険地帯とされている七大迷宮の一つ、“グリューエン大火山”が存在している。

この七大迷宮は、亜人族の住処であるハルツィナ樹海や、俺たち勇者パーティーの訓練場所予定地であるオルクス大迷宮もその一つとして数えられている。

なぜ七大なのに三つしかないのかと言われれば、その三つしか確認されていないからだ。中には大体の目星がついているのもあるが、まだ確定ではないらしい。

 

「となると、ケモミミが見たいならやっぱり帝国に行かなきゃいけないのかな・・・」

「いや、お前奴隷とか見て大丈夫なのか?」

「う、大丈夫じゃないかも・・・」

 

ハジメや俺の言う帝国とは“ヘルシャー帝国”のことだ。

この国は、およそ300年ほど前、魔人族との戦争の最中に傭兵集団が興した国のことで、「弱肉強食」の実力至上主義の国だ。

この国では使えるものはなんでも使うため、亜人族の奴隷商が多く存在している。

地球にも奴隷制度がないわけではないとはいえ、そのようなものとは縁のない現代日本人には耐えがたいだろう。

 

「どのみち、逃げてる場合でもないけどな。ほら、もうすぐ訓練の時間だぞ」

「あ!ほんとだ!」

 

あまり意味のない現実逃避から頭をあげさせ、俺たちは訓練に向かう。

 

(ま、例の神様とやらが胡散臭い以上、現状は俺たちにはどうしようもないんだよな)

 

道中の露店や喧騒にあちこち目を向けるハジメを尻目に、俺は心の中でため息をついた。

 

 

* * *

 

訓練場につくと、そこではすでに何人かのクラスメイトが談笑しながら訓練をしていた。どうやら、時間には間に合ったようだ。

俺は武器保管庫に向かい、弓矢と短剣を手に持つ。

なぜ弓兵の俺が短剣を持つのかと言うと、単純に弓矢だけだと接近されたときに不利だからだ。それに、俺はそれなりに武術を習っていたから、武器の扱いは周りよりかは上手い。

前にメルドさんとやったときは経験の差もあって負けたが、「俺もうかうかしていられないな」と声をかけられた。

 

(さて、まだ訓練には時間があるから、ハジメに稽古でもつけるとするか)

 

訓練が始まるまでは暇だから適当に時間をつぶそうと思ってハジメを探すと、近くには見当たらなかった。

まさかと思いつつ、人目のつかないところに行くと、案の定檜山たちがハジメをなぶっていた。

ハジメは腹を押さえてうずくまっている。

どうやら、だいぶ暴力に対する忌避感がなくなっているようだ。思春期の男子が強大な力を持ったのだから、当たり前と言えば当たり前かもしれないが。

 

「なにやってんだよ、お前ら」

「あ、ツルギ・・・」

 

ハジメに近寄ると、「助かった!」と言わんばかりの目をむけられた。

 

「おいおい、別にわりぃようにはしねぇよ」

「そうだよ、俺たちがこの無能に稽古をつけてやろうってんだから、感謝しろよ」

「だからさっさとどっか行けよ」

 

何が面白いのか、ゲラゲラと品なく笑っている。

まぁ、いつものことだ。俺のやることは変わらない。

 

「まったく、弱い奴らの弱い者いじめほど、醜いものはないな」

「あ?」

「ハジメに稽古をつけるんなら俺がやるよ。お前らよりはましだ」

「てめぇ・・・」

 

俺の言葉が腹に据えかねたのか、檜山たちの声がどんどん不機嫌になっていく。

すると、檜山が俺が腰にぶらさげた短剣を見て、これ見よがしの嘲笑を放った。

 

「はん、遠くから撃つしかできないやつがなんで短剣なんて持ってんだよ。ばかじゃねぇの?」

「もしかして、カッコでもつけてんのか?」

「ハハハ!なんだ、お前もだせぇじゃねぇか!」

 

檜山たちは再びゲラゲラと笑い始める。

 

「・・・はぁ。だったら、まとめてかかってこい」

「「「「「あ"?」」」」

 

俺の言葉に、今度こそ檜山たちが血走ったような目で俺を見る。

 

「おいおい、ナメテんのか?」

「てめぇ、さんざん俺たちをコケにしやがって」

「わかったよ。やってやるよ」

「だけどよ、泣いて謝っても知らねぇぞ?」

 

檜山たちの目はもはや正気じゃない。問答無用で、俺を地面に這いつくばらせようとするだろう。

 

「くらいやがれ!ここに焼撃を望む!“火球”!!」

「ツルギ!」

「“問題ねぇよ”、ハジメ」

 

中野が俺に火属性魔法“火球”を放つ。完全な不意打ちで、俺に詠唱をする暇はなかった。檜山の口が吊り上がる。

だが、俺に放たれた火球は俺の手前で不可視の障壁に阻まれた。正確には、逸らされて俺の背後に着弾する。

 

「な!?どういうことだ!!」

「くそっ、ここに風撃を望む!“風球”!!」

「まったく、“めんどくさい”」

 

今度は檜山が風属性魔法“風球”を放つが、同じように俺からそれて背後に着弾する。

 

「くっそ、なんでだよ!なんで詠唱してないのに魔法を使えてるんだよ!?」

 

檜山たちが俺に訳が分からないとばかりにがむしゃらに魔法を放つ。

檜山たちは俺が詠唱をしていないと思い込んでいるが、正確には俺は詠唱をしている。

“詠唱省略”。それは適正持ちや手練れの魔法師ならだれでもできるが、俺は普通とは違う形で省略している。

魔法についての説明を受けた時に、俺はふと「詠唱はあくまでイメージの補完くらいの役割なんじゃないのか?」と思った。そして、「長ったらしい詠唱とか面倒じゃね?」とも思った。もちろん、まったくの詠唱なしでは魔法を行使することはできないが。

ともかく、そう疑問に思った俺はとある検証をして、実証することができた。

そして編み出したのが、俺流の詠唱省略だ。

俺の省略は、普段言っている言葉からイメージをし、魔法を行使するというものだ。これのおかげで、通常よりも早く魔法を発動させることができた。

難点は、よほどイメージが強くないと発動しない点と、この方法を使う場合は魔法陣が必要になるという点、さらに、普通に詠唱するよりも多くの魔力を使ってしまうという点だ。

そのため、実は今、俺は即席の魔法陣を懐に隠し持っている。

次に、しびれを切らした檜山たちが魔法の行使をやめて、入れ替わるようにして近藤が剣を振るってきた。

その剣は鞘に収められておらず、抜き身の状態だ。

 

「くっそぉ!!」

 

近藤の目は、まるで化け物を見るかのような目だったが、接近戦なら自分に分があると思っているようで、わずかだが口元が笑みでニヤついている。

これを見た俺は冷静に短剣を抜刀して剣を受け止め、そのまま受け流すようにして斬撃を逸らす。

近藤がそれを見て驚愕するが、攻撃の手を緩めない。それでも俺はそのすべてを受け止め、受け流す。

曲がりなりにも、近藤の剣は速い。地球にいたころならここまで上手くはいかないだろう。今の段階でもステータスでは筋力は近藤に分がある。

それなのになぜ俺がここまであしらえているのかというと、俺の技能“天眼”のおかげだ。周りは狙撃向きの技能だと思っているみたいだが、これは近接戦闘でも猛威を振るう。模擬戦でメルドさんを感嘆させたのも、この技能があったからだ。

俺には、近藤の剣が()()()()()()()()()見えている。そこまではっきり見えていれば、剣筋の通っていない斬撃をいなすことくらい簡単だ。

 

「お前たち!何をやっているんだ!!」

 

そこに、鋭い怒声が響いてきた。

声のした方をみると、そこには怒りをあらわにしているメルドさんがいた。後ろには、白崎たちもいる。

実は、先ほどの檜山と中野の魔法は、やろうと思えば正面から防ぐこともできた。なぜ手間をかけてわざと逸らしたかといえば、着弾の轟音に気づいた人間が助けを呼ぶだろうと思ったからだ。

こいつらは俺が叩き潰してもいいが、そうなると俺も怒られることになるかもしれないし、それはそれで癪だ。

だからこそ、俺はハジメともども被害者だとアピールできるように立ち回った。

そして、俺の思惑通り、メルドさんは檜山たちを盛大に怒鳴り、どこかへと連れて行った。檜山たちはそれでも言い訳しようとしたが、天之河たちにも批難されて勢いをなくしてしまう。

白崎はと言えば俺を無視してハジメのそばに駆け寄り、回復魔法でハジメの傷を癒す。どこまでいってもぶれない白崎に俺は苦笑するしかない。

ただ天之河は、図書館で調べ物をしているハジメを不真面目だと言い、檜山たちはそれを直そうとしただけかもしれないと言ったことには俺もブチ切れる一歩手前までいくが、八重樫がこっそり謝ったことで抑えることができた。八重樫もどこまで行っても苦労人のようだ。

天之河の性善説ですべてを解釈する悪意なしの心構えにさらにストレスを抱えつつ、今日の訓練は終了した。

 

 

 

 

 

 

 

そして、訓練終了後の夕食時、メルドさんから明日、実践訓練としてオルクス大迷宮に行くことが告げられた。


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