二人の魔王の異世界無双記   作:リョウ77

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*大幅に書き直し、というかツルギと雫の絡みを書き加えました。
 ほかのありふれ作品を読んで、唐突にネタが沸き上がったので形にしました。


いざ、オルクス大迷宮へ

オルクス大迷宮。

前にも話した通り、この世界に存在する七大迷宮の一つだ。

全100階層で構成されており、階下に進めば進むほど手強い魔物が待ち構えている。

危険な場所だが冒険者や傭兵、新兵の訓練場所として人気がある。

理由は、階層ごとで魔物の強さが違うため自分の実力を測りやすいという点がある。

基準としては、最高到達階層は100年以上前の65階層が最高で、今では40階層で超一流、20階層で一流扱いらしい。

他の理由としては、地上の魔物と比べて良質な魔石が取れるからだ。

魔石とは魔物の力の核で、強力な魔物ほど良質なものが取れる。

この魔石というのが非常に需要があり、顔料に溶かすことで魔法陣の効果を上げたり、日常生活用の魔法具にも原動力として使われている。

ちなみに、この魔石が魔物の魔法の原動力にもなっており、良質な魔力を持っているほど強力な魔法を使える。

この魔物の使う魔法は人間のものと異なっており、固有魔法と呼ばれている。これは詠唱ができない魔物の力で、一つしか魔法を持たない代わりに詠唱も魔法陣もなしで魔法を使える。これこそが、魔物が危険な一番の理由だ。

そんなオルクス大迷宮に訓練をしに行くことになった俺たちは、オルクス大迷宮近くにある宿場町、“ホルアド”に着いた。新兵訓練によく使われるため、王国直営の宿もある。俺たちもそこで泊まる。

部屋割りは二人一部屋で、俺とハジメが同室だ。

移動中はとくに問題もなく、そのまま明日に備えて、各自身体を休めることになったのだが・・・

 

「ね、眠いんだけど・・・」

「ほれ、あと少しだ。復習復習」

 

俺とハジメは夜遅くまで情報をまとめていた。

今回行くのは20階層までで、足手まといになるハジメがいてもカバーができるらしい。と、メルドさんが直々に言ってきた。

気を遣われたハジメは、ひたすら申し訳ないと言っていたが。

それでも、準備はできるだけした方がいい。だから一緒に勉強をしていたわけだが、たしかに夜もだいぶ遅い。これ以上は本番に集中力を欠く可能性もあるから切り上げた方がいいか・・・。

 

 

コンコン

 

 

「ん?」

 

不意に、ドアをノックする音が聞こえてきた。普通ならみんな寝ているはずなんだが・・・。

 

『南雲君、起きてる?白崎です。ちょっと、いいかな?』

「あー、わかった。ちょっと待ってくれ」

 

まさか、というほどではないのかもしれないが、白崎がやってきた。

深夜に女の子が男の部屋にやってくるのはどうかとは思うが、追い返す理由もない。

硬直しているハジメに代わって、俺がドアを開けると・・・

 

「あれ?峯坂君?」

「おう、峯坂だ。だから、『なんでいるの?』みたいな顔はやめてくれ」

 

どうやら、俺が同室だということを忘れていたらしい。

・・・やばい、泣けてきた・・・。

ちなみに、今の白崎の服装は純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけだ。

 

「えっと、ハジメと話か?」

「うん、そうなんだけど・・・」

「じゃあ、俺はちょっと外の空気を吸ってくる。だから思う存分話しな」

「うん、ありがとう」

 

そう言って、俺は部屋から出る。

俺は空気の読める男だ。これくらいの気づかいはする。

・・・毎回、俺の存在を忘れられるのはつらいけど。

とりあえず、俺は二人で話をさせるために外に出た。

 

 

 

 

「さてと、どうするかね・・・」

 

空気を読んで外に出たとはいえ、特にやることもない。

散歩でもしようかと思ったが、この辺りの地形はあまりわからないし、暗くて迷うかもしれないから、遠出もできない。

近くの林の中でも歩いて時間をつぶすか・・・

 

「はっ、ふっ」

 

そんなことを考えていると、なにやら掛け声のような声が聞こえた。

それに、この声には聞き覚えがある。

まさかと思いつつ声のした方に向かうと、広場のような場所で剣を振っている八重樫の姿があった。

特にやることもないし、様子でも見てるか。

それにしても、今までの鍛錬の時間でもちょいちょい見たが、八重樫の剣はきれいだな。ひたすらに磨き上げられた技が、一つの美しさを作り出している。

俺も武術は習ったことがあるが、あくまで基礎だけであとは我流だ。だから、俺にはここまできれいな剣は振るえないだろうな。

そんなことを考えながらしばらく眺めていると、八重樫が剣を下ろした。どうやら、休憩のようだ。

キリがいいし、暇つぶしに話しかけるとするか。

 

「ずいぶんと鍛錬に精が出てるな」

「峯坂君。いつからいたの?」

「ついさっきだ。話しかけようと思っていたが、邪魔をするのも悪かったからな。気配を消して待ってたんだ」

 

ちなみに、この気配操作も武術を習ったときの賜物だ。日本で需要があるかと言われれば微妙だが。

 

「それにしても、明日から大迷宮攻略なのに大丈夫なのか?あまり根を詰めすぎるのもよくないぞ」

「心配してくれてありがとう。でも、その心配はいらないわよ。これでも自己管理はちゃんとしてるから」

 

ぶっちゃけ、日本にいた時から周りに気を遣ってばかりだから、その言葉に信用性はあまりないが、ここで言うことでもないだろう。

 

「それよりも、峯坂君の方こそどうしたのよ。わざわざこんな時間帯に」

「大したことじゃない。白崎が俺とハジメの部屋に突入しにきたからな。空気を読んで外に出ただけだ」

「まぁ、そんなことだろうと思ってたわ」

 

八重樫も、自分の友人の突撃思考に苦笑している。

・・・せっかくだし、聞いてみるか。

 

「なぁ、八重樫、聞きたいことがあるんだが」

「なに?」

「どうして白崎は、ハジメのことが好きになったんだ?自覚の有無は別にして、あの二人に接点なんてなかったはずだし、俺も少なくとも中学の時には会ってないはずだが」

「う~ん、そうね、峯坂君には言ってもいいか。とは言っても、峯坂君の言ってることは正しいわよ。直接会ったわけじゃなくて、一方的に知ってるだけだから」

「どういうことだ?」

「なんかね、最初に南雲君を見たのは、中学の時に往来で土下座をしたときですって」

「・・・あぁ、あれか。たしかに、そんなこともあったな」

 

たしかあれは中学2年のときだったか。ハジメと2人で遊びに行ったときに、偶然男の子が不良連中に持っていたたこ焼きをぶちまけてしまっていちゃもんをつけられていたのだ。そして、その矛先は男の子と一緒にいたおばあさんに向けられ、クリーニング代を請求しはじめた。

それだけなら俺が後で親父に報告しておこうくらいの気持ちだったのだが、その不良がおばあさんが出したお札だけでなく財布まで巻き上げようとしたところで、ハジメがその不良に立ち向かったのだ。

俺もハジメの後をついていき、むしろ俺の方が不良たちと一触即発の空気になったところで、ハジメが突然、土下座をして大声で許しを請う、という暴挙に出たのだ。

これには俺も唖然、不良たちもあの手この手で土下座をやめさせようとして(俺も途中から参加した。不良がつばを吐いたりみたいなことを防ぐためにも)、しかしハジメは土下座をやめなかったため、不良たちは羞恥からお金も取らずに去っていった。

ハジメの方も、おばあさんから礼を言われたところで走り去っていった。最終的に、俺が通報されてきた警察官に事情説明とかをして、結局外でのお遊びもなしになってしまった。

そうか、あれを見られていたのか。ていうか、そのときから俺に少しも気づいていないんですかそうですか・・・。

 

「それで、それ以降から南雲君を探すようになって、中学に行っても見つからずじまいで、高校生になってようやく会えたらしいのよ」

 

・・・そういえば、その後から誰かを探しているような同じ気配を放課後に常に感じるようになったのだが、もしかして、あれは白崎だったのか?

なんか、いろいろと衝撃的な事実がポンポンとでてきたな。

・・・ん?待てよ?

 

「そういえば、どうして白崎は俺とハジメの中学を知ってたんだ?」

「・・・調べたそうよ。制服とか、あの場所から徒歩で行ける中学をリストアップしたりして。私も聞いたのだけど、香織から『そんなの簡単だよ』って言われたわ」

「・・・そうか」

 

まさか自分の近くにヤンデレ候補、というか本物のストーカーがいるとは思わなかった。

最近は俺も白崎を応援してみようと思っていたのだが、素直に応援する気がなくなってきた。

 

「・・・まぁ、その、なんだ、ハジメも自己評価がすこぶる低いし『白崎さんみたいな素敵な人が僕なんかを好きになるわけない』って思ってるだろうし、どうしたもんかな」

「・・・成り行きに任せるしかないと思うわ」

 

・・・これ以上、この話を続けたら俺の精神がもたない。強引だが話題を変えよう、そうしよう。

 

「それはそうとだ。八重樫もそろそろ寝たらどうだ?八重樫は強いんだろうが、さすがに女の子が夜遅くまで一人でいるのも危ないだろう」

 

ここは日本とは違って、盗賊や魔物がはびこっている。八重樫も、客観的に見ても白崎に負けず劣らず美人だ。狙われないとは限らない。

 

「心配ありがとう。でもね、それを言ったら、明日向かうオルクス大迷宮も十分に危険な場所じゃない?だから、落ち着かなくて」

「それで、こんな時間に一人鍛錬してたのか」

 

見てみれば、八重樫の手はわずかにだが震えている。やはり、傷つき傷つけるというのは怖いんだろう。

 

「そういう峯坂君は、平気そうね?」

「まぁな、覚悟はできてるしな」

 

・・・人を殺すのも含めて。

だが、それは今言うことではない。気分転換のために話しているのだ。自分から空気を重くするわけにはいかない。

 

「・・・そう。強いのね」

「まぁ、俺だって男だしな」

 

まぁ、あのバカ勇者と同じにされたくはないが。

・・・せっかくだし、ここで時間をつぶすとするか。

 

「そうだ、明日がどうしても不安だって言うなら、俺も稽古に付き合ってやるよ」

「いいの?」

「あぁ、どうせ暇つぶしで外に出ただけだし、護身用に短剣は持ってきてるからな」

 

そう言って、俺は懐から短剣を取り出す。

 

「1人で鍛錬するのもいいが、2人で手合わせするのも悪くないと思うぞ?」

「・・・そうね。なら、お言葉に甘えて付き合ってもらうわ」

 

そうして、俺と八重樫は遅い時間まで手合わせを続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このときの俺は、気づくべきだったのだ。

俺たちの部屋を、ひどく歪んだ表情で見ている者がいたことを。

その視線が、ハジメと白崎に向いていたことを・・・。

 

 

* * *

 

 

翌日、予定通り俺たちはオルクス大迷宮に向かった。

オルクス大迷宮の正面入り口は思ったよりもしっかりしたものになっており、受付窓口なんてものもあった。ここでステータスプレートを確認することで、死傷者を正確に把握するらしい。戦争の最中なのだから、ある意味当たり前ではあるか。

ちなみに、広場には所狭しと露店が並んでおり、そこら中にいい匂いが漂っていた。

そんな中、俺たちはかなり目立っていた。

若い青年たちが大勢いるのだから、これも当たり前ではあるか。

そうして、俺たちはオルクス大迷宮に足を踏み入れた。

足を踏み入れると、そこは外の喧騒からはかけ離れており、松明もないのにぼんやりと光っていた。

メルドさんが言うには、この壁には“緑光石”という特殊な鉱物が多く埋まっており、それらがのおかげで松明がなくても視認が可能になっているということだ。

そして、このオルクス大迷宮は緑光石の鉱脈に沿って掘られているらしい。

きょろきょろしながら先へと進んでいくと、広場にでたところでちょろちょろと灰色の毛玉が多数でてきた。

・・・その正体は、二足歩行で上半身がムキムキのネズミだったのだが。

あれはラットマンという魔物で、地上でもたまに見かけた魔物だ。すばしっこいが大した強さではないため、初心者向けの魔物とも言える。

ラットマンを相手に、まずは天之河たちいつものメンバーと、白崎と特に仲がいい中村恵里(なかむらえり)谷口鈴(たにぐちすず)が最初に出てきた。

全員、とくに八重樫が顔を引きつらせていたが、訓練通り動き問題なく魔物を屠っていった。

ここで、俺たちにはそれぞれ全員にアーティファクトが支給されている。

天之河が持っているのは“聖剣”と呼ばれるバスターソードのような剣で、光属性が付与されている。聖剣が光を放つと、光源の範囲に入った敵を弱体化させ、同時に自身を強化させる。

坂上は空手を習っていたことからか天職も“拳士”で、衝撃波を出すことができ、壊れることもない籠手と脛当てを装備している。

八重樫は侍少女そのままに“剣士”の天職持ちで、刀っぽい剣を振るっている。この世界に日本刀は存在しないから、あくまでそれっぽい曲剣だ。

その背後では後衛が詠唱を唱え、魔法を放つ。

すると、直撃した魔物は粉々になってしまった。これでは魔石の回収はできそうにもないな。

結局、俺も含めた他の生徒の出番なしに終わってしまった。

どうやら、一階層目では俺たちの実力では簡単すぎたらしい。

メルドさんもわずかに苦笑している。

ということで、メルドさんが気を引き締めるように注意を呼びかけ、それでも初めての魔物討伐にテンション高めな生徒たちに「しょうがねぇな」と肩をすくめている。

そんなこんなで、俺たち全員がチート持ちのため特に苦戦することもなく、20階層に到達した。

その間も、付き添いの騎士たちがトラップの有無を確認している。

騎士たちが持っている“フェアスコープ”は、多少使い勝手は悪いものの、魔力の流れを探知してトラップの有無を確認できるという代物で、この迷宮の8割ほどはこれで確認できるらしい。

 

「よし、お前たち。ここから先は一種類の魔物だけでなく、複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今まで楽勝だったからといってくれぐれも油断するなよ!今日はこの20階層で訓練して終了だ!気合入れろ!」

 

メルドさんがよく響く声で掛け声をかけると、俺やクラスメイトたちも気を引き締める。

とは言うものの、俺の出る幕はとくになかった。

なぜなら、とくに後ろから撃たなくても問題がなかったからだ。チート性能と今までの訓練のおかげでよく戦えている。

それに、この中では俺だけ魔物との交戦経験があったから、あまり出しゃばらないようにしておいた。

ハジメの方は、後方で騎士たちに囲まれながらも、騎士が弱った魔物をハジメの方にけしかけたのを倒していた。

その時に、錬成で地面を変化させて魔物を動けなくさせていたのだが、それを見ていた騎士たちはそこそこ驚いていた。どうやら、ハジメには特に期待はしていなかったが、思っていたよりも戦えていて驚いていたようだ。

そして、ハジメはと言うと、ときおり白崎と見つめあっている。

昨晩に何を話したのかは聞いていないが、考えるに一緒に生き残ろうみたいな感じなんだろうか。

あと、ハジメに対してだいぶ根暗な視線を向けている者もいる。

檜山だ。少々、危ない気配がする。

いざというときは、多少痛い目に合わせてでも止めよう。

 

 

 

 

 

 

 

探索を続けると、メルドさんがいきなり立ち止まり、戦闘態勢にはいる。

 

「擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!」

 

どうやら、近くに魔物が潜んでいるようだ。

メルドさんが忠告をした直後、突然せり出していた壁が突如変色して起き上がった。壁と同化していた体色は、今は褐色になっており、見た目はカメレオンの体表にゴリラの体格のようだ。

 

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!剛腕だぞ!」

 

メルドさんの声が響く。

相手は天之河たちが相手をするようだ。

だけど、いい加減俺も参戦したいから弓を構えておく。

そうしていると、飛び掛かってきたロックマウントを坂上が拳ではじき返す。

天之河と八重樫が囲もうとするが、鍾乳洞のような地形のせいで取り逃してしまう。

ロックマウントはそこでいったん距離をとり、息を大きく吸う。

次の瞬間、

 

「グゥガガガァァァァァーーーー!!」

 

部屋全体を振動させるような強烈な咆哮が発せられた。これに天之河たちはダメージはないものの硬直してしまう。

“威圧の咆哮”。ロックマウントの固有魔法だ。魔力を乗せた咆哮で相手を麻痺させる。

天之河たちが動けないうちに、距離を取り、傍らにある岩をつかんで放り投げてきた。それを白崎たちが魔法で迎撃しようとする。

ここで、予想外の事態が起きる。

放り投げられた岩は、実はもう一体のロックマウントで、投げられた勢いのまま白崎たちに飛び込んできた。予想外の出来事に、白崎たちは「ひい!」と思わず詠唱を中断させてしまう。

このままではダメージを負ってしまうだろう。

だが、

 

「グギャア!?」

「え・・・?」

 

投げられたロックマウントは絶命し、白崎の手前で墜落する。その頭には一本の矢が刺さっていた。

 

「おいおい、白崎たち。詠唱を中断させるなよ。訓練通りやれば問題ないだろう」

 

矢を放ったのは、もちろん俺だ。

俺がもらったアーティファクトの弓は、風属性の魔法を付与させて矢を強化させることができる。そのため、ただの矢でもかなりの威力を持っていた。

 

「貴様・・・よくも香織たちを・・・」

 

横を見ると、天之河がキレていて、魔力も高まっているように見えた。どうやら、白崎たちが死の恐怖でおびえたように見えたのだろう。

実際は気持ち悪かっただけなのだろうが。

俺はいったん、白崎たちからもう片方のロックマウントに目をむける。

ロックマウントは俺を警戒し、鍾乳洞の天井を立体機動のように移動していた。おそらく、狙いをつけさせないためだろう。

だが、俺には関係ない。

 

「すぅ・・・」

 

俺は矢をつがえて、軽く息を吸い込む。

そして、

 

「ギャアッ!?」

 

不規則に移動するロックマウントに、氷柱状の鍾乳石の間を通して一発で矢を眉間に命中させた。風をまとう性質を利用して、軌道をねじ曲げた一矢だ。矢を強めに強化したため、矢は貫通して後ろの壁の一部を崩れさせる。

絶命したロックマウントは、そのまま落下して俺のそばに転がり落ちてくる。

周りのクラスメイトは、一瞬の出来事に呆然としていた。

 

「いやー、やっぱりすごいな。お前の弓の腕は!」

 

そこに、メルドさんが話しかけてくる。

 

「それにしても、助かったぞ。お前が早々に片付けてくれてな」

「これくらいは別にいいですよ。こんな狭い場所で、どこかの誰かが感情任せに砲撃をぶっ放すよりはマシですからね」

「あぁ、少しは見習ってほしいものだな」

「う・・・」

 

俺とメルドさんの言葉と視線に、天之河が縮こまる。それなりに自覚はあったらしい。

メルドさんも同じことを考えていたみたいで、未遂ということもあり軽めに注意する。

 

「・・・あれ、なにかな?キラキラしてる・・・」

 

不意に白崎の声が聞こえ、俺の矢で崩れた壁を見ると、言っていた通りキラキラした青白く発光する鉱石が露出していた。さっきの一撃で表面にでたらしい。

メルドさんが言うには、あれはグランツ鉱石という宝石の原石のようなもので、特殊な効果はないものの、その見た目と希少性から貴族の御用達になっており、プロポーズの指輪にもよく使われるらしい。

そのきれいな輝きに、白崎を始めとして多くの女子が見とれていた。

 

「素敵・・・」

 

白崎が頬をほんのり赤く染めながら、ハジメの方を見ていた。何を考えているかは丸わかりだ。

もっとも、そのことに気づいているのは俺や八重樫くらいだろうけど。

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

すると、檜山が唐突に動き出し、壁をひょいひょいと登っていった。

 

「こら!勝手に行動するな!安全確認もまだなんだぞ!」

 

メルドさんはあわてて注意するが、檜山は聞こえないふりをして登り続け、鉱石の場所までたどり着いてしまった。

メルドさんがあわてて檜山に近づこうとすると、フェアスコープで鉱石の周りを確認していた騎士が一気に青ざめた。

 

「団長!トラップです!!」

「っ、檜山、それに触るな!!」

 

だが、メルドさんも、俺と騎士の警告も、一足遅かった。

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、グランツ鉱石を中心に魔法陣が広がり、部屋全体を覆いつくした。

この魔法陣に似たものを見た記憶がある。おそらく、転移系の魔法だろう。

 

「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

メルドさんの言葉にクラスメイトたちは慌てて部屋から出ようとするが、遅かった。

部屋の中が光で満たされ、同時に浮遊感を覚える。

空気が変わったのを感じると、次には地面の上に立つ。

クラスメイトのほとんどは尻もちをついていたが、メルドさんたち騎士団と天之河たち一部の前衛職、俺はすでに立ち上がって周囲を警戒している。

俺たちが落ちたのは巨大な石橋の上で、全長100m、幅10m、高さ20mほどだった。橋の下に川はなく、奈落しかない。まともに落ちればまず助からないだろう。

俺たちは石橋の中央におり、それぞれ両側には奥へ続く階段と上に昇る階段が見えた。

 

「お前たち、すぐに立ち上がってあの階段の場所まで行け!急げ!」

 

今までで一番響いた号令に、クラスメイトたちはわたわたと立ち上がって動き出す。

だが、このトラップはまだ終わりではなかった。登り階段の橋の入り口に魔法陣が現れ、骸骨のモンスターが大量に湧き出した。

さらに、反対側からも魔法陣が出現し、そちらからは巨大な一体の魔物がでてきた。

 

「まさか・・・ベヒモス、なのか・・・」

 

そのメルドさんのつぶやきが、やけに明瞭に聞こえた。




次は4000文字に戻すと言ったな?
あれは嘘だ。
たぶん、しばらくはこんな感じですね。
とはいっても、6000弱なのでそこまで劇的に変わったわけではないと思いますが。

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